花火使い

えんがわ

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風詠み

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 華の都レイシャンは、霧吹きを吹いたような、じとじとした雨に覆われている。
 男は宿屋で球の最終調整をしていた。五日後に、彼はここで大玉花火を放つことになっていた。
「根、詰めとるね。でも、折角帰ってきたんだから、工房でやればいいのに」
 男はふぅっと息をこぼし、目線を女将に向け
「こっちの方が性が合ってるんでね」
 女将はやれやれと台所に向かい、その途中で雨の雫がつつーっと滑り続ける窓を見つめ
「ほんと、雨、止むのかしらね」
 男はぶっきらぼうに
「風詠みが晴れるってんだから、晴れるだろ」
 と答えたが、高まる不安は隠しきれなかった。
「おやまあ、おてんとさんは気まぐれだからねぇ」
 でんでん虫が、葉に逆さまに掴まっていた。

 川辺には、野球帽の少年らが集まっていた。
 その中心には高さも大きさも様々なカザグルマとフウリンが、密集して配置されていた。遥か頭上からカラカラと風車が回ったかと思うと、両隣の短冊のように付けられた風鈴が賑やかな音を立てている。その中心には座禅を組んだ女。裾の長い羽衣を着て、長い髪を腰の辺りで結いている。
 彼女がチンドン屋や物売りではないのは、その真剣な表情から明らかだった。風詠みとは、風を詠むことで、明日の天気から台風の進路まで、未来の風向きや天候を言い当てる人類古代からの生業だ。ただ、今では希少さと非効率さ故に消えゆく生業として、文化遺産に指定すらされようとしている。
 男は「はいはい、お子ちゃんは帰る時間ですよー」などと少年らを捌きながら、風詠みの元へと出向く。
「雨が降り続けて八日目か……」
 まだ目と体型にあどけなさが残る女はぶっきらぼうに応じた。
「正確には七日と十八時間二十三分五十二秒」
「そういうマニア情報はいいから。ほんと止むんだろうな。俺はこれに命賭けてんだ」
 風詠みの女は薄い唇から
「随分ちゃちな命だこと。こんな所でやっすい油売ってて、花火の微調整はどうしたのよ? わたしは風読みに全て賭けてるんだから、邪魔しないでよ」
 男は気圧されながら
「でもなー。あと一週間は長雨が続くって。天気屋も」
 新聞の天気面をひらひらさせて、男は文句を垂れた。
「天気屋がなんだって? あんな新参が! 全てを賭けてるって言ったよね。わたし本気なんだから。絶対晴れる! 太陽は顔を出す! 違ってたら、警察でもヤクザにでも突きつけてやってちょうだい!」
 男はぽりぽりと頭を掻き、あー、押しの強い女にゃ、俺って弱いんだよな、なんて心で呟いていた。
「晴れた頃にまた来る。雨で花火が飛ばせなかった、なんて仲間内じゃ赤っ恥だし、楽しみにしている都の連中に集団でボコられても何も言えねえ。言ったように、命を賭けるのはこちらも同じだ。あんたの風詠み信じてるからな。晴れたら、また来る」

 久しぶりの陽光が眩しい。空のてっぺんからは太陽が、さんさんと光を降らせ、水蒸気の帯びた空気が、むっと辺りを支配している。子供たちはやっと顔を出した太陽にきゃっきゃっと草野球に興じ、大人たちも久方ぶりに何時もの傘いらずの散歩を楽しんでいる。
 男と風読みは、西の空をじぃっと眺めていた。
「なあ、こいつ、詠めたか?」
「いえ……」
「詠めないものもあるのか」
 女はやれやれと肩をとがらせ
「流石に管轄外……」
 男は空を見上げ続け
「あー、ちくしょー。誤算だ」
「嬉しい誤算にしちゃおうよ。空気を暖める前座としては、まずまずでしょ」
「そうしちまおっか」
 幾人かの通行人も男たちと一緒にそれを見上げていた。
 空には大きな虹が弧を描いていた。
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