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ロストソードの使い手編
九十一話 ロストソードの力(ホノカ)
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その霊は林原さんだった。まだ彼は僕達に気づいていなくて、そのまま背中を見せている。モモ先輩もコノもクママさんも、少しの間言葉を発せず、その姿を見つめていた。
「そんな……まさか、あのボアホーンを吹き飛ばしたのって」
「ソラくん、でしょうね。それに、異変というのも」
「ど、どうしてそうなるんです……?」
「恐らく、ここら辺はボアホーンの縄張りなんです。そこにハヤシバラさんが来たことで追い出される形になったのかと。それで、居場所を求めるよう色々な場所に出没したり、凶暴化したのかと」
モモ先輩は冷静でいるけれど、コノは混乱した様子で。そんな彼女の疑問にクママさんは、平静を保とうする声音で答える。
「な、なるほど……お家が無くなったら、怒っちゃいますよね」
そう話していれば、気づかれたのか林原さんが振り返る。彼の瞳には光が灯っておらず、顔はこちらを見ているが、焦点はどこに向いているのかはわからなかった。
「……襲ってこないですね」
「ええ。暴走状態だから飛びかかってくると思ったけれど」
アオといた時は、暴れていたギュララさんに襲われた。しかし、林原さんはその場で留まったままで。
「……グっ」
「い、今一歩動きましたっ」
コノはそれだけで怯えたように後ろに後ずさる。林原さんはさらに足を動かそうとはしているが、ぎこちない。それは、勝手に動く身体を押し戻そうとしているように。
「……逃げ……ろ」
「ソラくん! 意思があるのね! 暴走状態なのにそれを止めているなんて、流石ソラくん……!」
「今、何とかなってる……だけだ。すぐに戻る……だから、はや……く」
一瞬目の中に光が浮かんだ。けれどそれはすぐに黒の中に沈んでしまう。そして言葉を紡ぐことはなくなり、それは、完全に亡霊と化したあのウルフェンと同じく、ゾンビのように一歩ずつ近づいてくる。
「も、モモ先輩、どうしますか?」
「……そうだわ。そのマギアって確か、霊も捕まえられるって言っていたわよね」
「……ですね、アヤメさんがついでみたいに言ってました」
このマギアを手渡してくる時の事を思い出すと、確かにその記憶があった。
「あのあの、それじゃあ撃っちゃいますかっ!?」
「待って。流石にボアホーン達みたく弱らせないといけないと思うわ」
「そ、そうですよね。でも、ハヤシバラさんってお強いんですよね?」
それが大きな問題だ。今は抑えられているけど、いつまで持つか分からない。
「……なら僕が変身して彼を止めます」
すっとクママさんが手を上げた。きゅっと口を結んでいて目つきも鋭く覚悟が見て取れた。
「ギュララの事ではお世話になりましたし、それを返したいのです」
「待って。あなたの気持ちはわかるけれど危険よ」
そんなクママさんをモモ先輩は神妙な面持ちで止める。
「今は抑えられているとはいえ、ソラくんは本気を出せばミズちゃんと良い勝負が出来るくらいには強いわ。接近戦をするあなたには危なすぎる」
「それは……」
「ここは、あたしがやるわ。ソラくんやミズちゃんほどじゃないけど、魔法で戦えるもの。正直、どこまでダメージを与えられるかわからないけれどね」
自分の意志は変えないと言わんばかりに、モモ先輩は僕達の前に立った。でも、斜め後ろから垣間見える表情は、どこか不安そうにしていて。
「……僕もやります」
だからモモ先輩の隣に立つ。すると、驚きと困惑、それと少しの嬉しさがあるような表情を見せる。
「でも、ユーポンも――」
「いいえ。僕にはあります」
「へ?」
僕はロストソードを見つめながらホノカの事を想う。あの日々と思い出を頭の中で再生する。そうしていると、彼女がいるのだとそんな感覚が芽生えてきて。
それに同期するようにロストソードの刀身が紅に輝いた。さらに、さっきと同様に剣先が僕に向いて突き刺して入り込んだ。
「……ホノカ」
するとまた大きな力が注入されてくる。ギュララさんの時のように直接的ではないが、全身に輪郭の掴めない不思議な力が流れ出す。そして確かにホノカがこの中にいるのだという温かさがあった。
「ユーポン……耳がエルフみたいになってるわ」
「それにギュララとはまた違う、赤い瞳になってます」
「髪も赤くなって、髪型もそうですし腕の感じもそっくりで。本当にホノみたいです……!」
コノが近くに来て僕をじっくりと眺めるだけでなく、触れてもきた。それは、別れてしまった幼馴染を感じようとしているようで。少し胸が苦しくなった。
「これなら問題ありませんよね?」
「……そうね。一緒にソラくんを止めるわよ!」
「こ、コノも微力ながらお手伝いします!」
コノも僕の隣に立つ。それにモモ先輩も微笑んでから頷いた。
僕はグローブをしっかりと付け直して、林原さんに向き直る。彼はまだゆっくりと一歩ずつに真っ直ぐ迫ってくるだけだった。これなら狙いをつけやすい。僕は右手を突き出して、手のひらを林原さんに。
「シ火スイ球ミ炎熱ノリ焼カ……」
脳内にいつの間にか呪文が記憶されていた。それに、今までホノカやコノと過ごした中で聞いていて、スラスラと口に出来て。詠唱をしていると徐々に手の先に不思議な力が流れて溜まる。放つ前、モモ先輩から教わった事を意識して狙いをつけて。
「フレイム!」
手の平以上に大きな火球が反動と共に放たれる。その直球は、その威力を表すように大きな音を立てて林原さんへと向かい、着弾。
「ぐぅ……」
モロに受けた事で軽く後ろへと仰け反らせる。そしてうめき声を上げて片膝をついた。
「す、凄いパワーです……ホノよりも炎が大きかいかも……」
「あたしも負けないわ! ……フレイム!」
「コノもいきます!」
僕に続いてモモ先輩も同じ魔法で追撃。一回り小さい火球が放たれる。さらにコノも呪文を唱えてからさらに一回り小さいフレイムを。林原さんに何度も容赦なく浴びせられる。
「まだ……だ」
けれど、まだダメージが少ないのか立ち上がり再び動き出す。抑制が弱まったのか、歩くスピードは少し上がっていて。
「き、効いてませんっ」
「流石にこの程度じゃ無理よね」
「やはり……デスベアーの力で……」
「大丈夫です、まだあります」
僕は再び手で狙いをつけて記憶にあるホノカを思い出しながら呪文を唱える。さっきのよりも少し強い力が集まってきた。
「バーニング!」
火炎の玉が連続で射出する。一点集中に林原さんに焼き付くしていく。
「ぐぉぉ……」
「はぁぁぁ!」
彼は両手でクロスしてガードしてダメージを減らそうとする。それに負けず何度も何度も火球をぶつけた。そうしていると徐々に後ろへと下がらせられる。
「これはなら…」
魔法を終えると、さらに疲労が押し寄せてきて思わず膝をついてしまう。
「ユーぽん!」
「ユウワさん、無理しないでください」
顔を上げると林原さんは立ったままで、まだまだ余裕そうでいた。再びこちらに迫ってくる。
「そんな」
「コノハ、水魔法やれる?」
「は、はいっ。でもそんな威力は……」
「いいから。作戦があるの」
モモ先輩は少し焦りの表情を浮かべながら、コノへ急かすように魔法を使うよう促す。それを受けてコノはすぐに呪文を唱え出して。
「ウォーター!」
一転して、さっきまで火を浴びせられ続けた林原さんに水魔法がかけられる。当然、それによって傷は与えられていない。しかし、同時にモモ先輩は黄色い魔法陣を構築していて。
「スパーク!」
黄色の稲妻がほとばしり、水をかぶった林原さんに直撃。通りやすくなった身体に電撃を受けて、痺れたのか動きが止まる。
「ぬぅぅ……」
再び進み出すが動きはぎこちなく、林原さんの抑制も相まって、こちらまでに来るのは時間はかかりそうだ。
「……想像以上に効かないわね」
「でも動きは鈍くなりましたよ」
「けど、決定打にはなりそうにないわね。何か圧倒的なパワーじゃないと」
「やはり……僕がデスベアーの力でやります。今なら、接近戦でも問題ないですから」
そうクママさんが言って、前に出そうな雰囲気があり、僕はそれを遮るように二人よりもさらに一歩踏み出した。
「ここは僕がやります。まだ一つ大技があるので」
「ユウワさん……それって!」
「無理し過ぎないでね、ユーぽん」
「はい!」
二人から期待を受けて、僕はもう一度手を林原さんに向ける。そして、一体化した事で記憶されている長い呪文を口にした。
「炎カ獄ラシ絶レヤガ煉シヨイ熱リ灼ス……」
スラスラと言葉に発せられた。それは何度も何度も唱えているように。やはり、ホノカがいるのだと感じられた。
手のひらにデスクローと同じような力が流れ込んでくる。体内だけでなく魔力は周囲に影響を及ぼし、木々をざわつかせる。
「くっ……」
強すぎるがあまりに手が震え出してしまう。何とか左手で手首を抑えて固定して、林原さんへと向ける。そして、呪文を全て唱え終わり。
「イン……フェルノォォォォ!」
その瞬間、デスベアーすら飲み込みそうな程の巨大な真紅の火球を放つ。凄まじい反動があり、さらに撃った負担で強烈な疲労と心臓に痛みが発生して、思わず尻もちをついてしまう。だけど、最後まで狙いは一点に抑えられて、真っ直ぐ直進していく。
「っ!」
林原さんは回避しようとするも、痺れからかその場にとどまってしまい、直撃。瞬間、着弾と共に爆発。大きな熱気をまとった爆風が吹き荒れこちらにも向かってきた。
「皆さんっ!」
振り向くとクママさんはデスベアーに変身してて、爆風から背を向けて僕達三人を抱え込んでくれる。
「大丈夫でしたか?」
風が収まると僕達を解放して変身を解く。どうやら傷がなさそうで安心する。
「はい、問題なしですっ」
「クママさん、ありがとうございます」
「助かったわ」
「良かったです。それよりも、ハヤシバラさんは……」
土埃がなくなり、彼の方を見ると地面に仰向けで倒れていた。立ち上がる気配もなくて、ただ息はちゃんとしているし、消えそうな気配もない。
「コノ、今の内に」
「はいっ!」
コノは手慣れたようにマギアを構えてマジックロープを射出。ヒットして林原さんをがっしりと捕らえた。
「や、やりましたっ!」
「ええ。何とかなったわね」
「良かっです、皆さんが無事で」
コノはぴょんぴょんと跳ねて喜び、モモ先輩は達成感を含んだ微笑みを滲ませ、クママさんは安堵の表情を浮かべている。
「はぁ……はぁ……疲れた……」
そしてホノカの力を解除した僕は、ポジティブな気持ちよりも、あまりの疲れに休みたくて地面に横になった。上に広がる雲が存在しない青空は、眩しく一色に澄み渡っていた。
「そんな……まさか、あのボアホーンを吹き飛ばしたのって」
「ソラくん、でしょうね。それに、異変というのも」
「ど、どうしてそうなるんです……?」
「恐らく、ここら辺はボアホーンの縄張りなんです。そこにハヤシバラさんが来たことで追い出される形になったのかと。それで、居場所を求めるよう色々な場所に出没したり、凶暴化したのかと」
モモ先輩は冷静でいるけれど、コノは混乱した様子で。そんな彼女の疑問にクママさんは、平静を保とうする声音で答える。
「な、なるほど……お家が無くなったら、怒っちゃいますよね」
そう話していれば、気づかれたのか林原さんが振り返る。彼の瞳には光が灯っておらず、顔はこちらを見ているが、焦点はどこに向いているのかはわからなかった。
「……襲ってこないですね」
「ええ。暴走状態だから飛びかかってくると思ったけれど」
アオといた時は、暴れていたギュララさんに襲われた。しかし、林原さんはその場で留まったままで。
「……グっ」
「い、今一歩動きましたっ」
コノはそれだけで怯えたように後ろに後ずさる。林原さんはさらに足を動かそうとはしているが、ぎこちない。それは、勝手に動く身体を押し戻そうとしているように。
「……逃げ……ろ」
「ソラくん! 意思があるのね! 暴走状態なのにそれを止めているなんて、流石ソラくん……!」
「今、何とかなってる……だけだ。すぐに戻る……だから、はや……く」
一瞬目の中に光が浮かんだ。けれどそれはすぐに黒の中に沈んでしまう。そして言葉を紡ぐことはなくなり、それは、完全に亡霊と化したあのウルフェンと同じく、ゾンビのように一歩ずつ近づいてくる。
「も、モモ先輩、どうしますか?」
「……そうだわ。そのマギアって確か、霊も捕まえられるって言っていたわよね」
「……ですね、アヤメさんがついでみたいに言ってました」
このマギアを手渡してくる時の事を思い出すと、確かにその記憶があった。
「あのあの、それじゃあ撃っちゃいますかっ!?」
「待って。流石にボアホーン達みたく弱らせないといけないと思うわ」
「そ、そうですよね。でも、ハヤシバラさんってお強いんですよね?」
それが大きな問題だ。今は抑えられているけど、いつまで持つか分からない。
「……なら僕が変身して彼を止めます」
すっとクママさんが手を上げた。きゅっと口を結んでいて目つきも鋭く覚悟が見て取れた。
「ギュララの事ではお世話になりましたし、それを返したいのです」
「待って。あなたの気持ちはわかるけれど危険よ」
そんなクママさんをモモ先輩は神妙な面持ちで止める。
「今は抑えられているとはいえ、ソラくんは本気を出せばミズちゃんと良い勝負が出来るくらいには強いわ。接近戦をするあなたには危なすぎる」
「それは……」
「ここは、あたしがやるわ。ソラくんやミズちゃんほどじゃないけど、魔法で戦えるもの。正直、どこまでダメージを与えられるかわからないけれどね」
自分の意志は変えないと言わんばかりに、モモ先輩は僕達の前に立った。でも、斜め後ろから垣間見える表情は、どこか不安そうにしていて。
「……僕もやります」
だからモモ先輩の隣に立つ。すると、驚きと困惑、それと少しの嬉しさがあるような表情を見せる。
「でも、ユーポンも――」
「いいえ。僕にはあります」
「へ?」
僕はロストソードを見つめながらホノカの事を想う。あの日々と思い出を頭の中で再生する。そうしていると、彼女がいるのだとそんな感覚が芽生えてきて。
それに同期するようにロストソードの刀身が紅に輝いた。さらに、さっきと同様に剣先が僕に向いて突き刺して入り込んだ。
「……ホノカ」
するとまた大きな力が注入されてくる。ギュララさんの時のように直接的ではないが、全身に輪郭の掴めない不思議な力が流れ出す。そして確かにホノカがこの中にいるのだという温かさがあった。
「ユーポン……耳がエルフみたいになってるわ」
「それにギュララとはまた違う、赤い瞳になってます」
「髪も赤くなって、髪型もそうですし腕の感じもそっくりで。本当にホノみたいです……!」
コノが近くに来て僕をじっくりと眺めるだけでなく、触れてもきた。それは、別れてしまった幼馴染を感じようとしているようで。少し胸が苦しくなった。
「これなら問題ありませんよね?」
「……そうね。一緒にソラくんを止めるわよ!」
「こ、コノも微力ながらお手伝いします!」
コノも僕の隣に立つ。それにモモ先輩も微笑んでから頷いた。
僕はグローブをしっかりと付け直して、林原さんに向き直る。彼はまだゆっくりと一歩ずつに真っ直ぐ迫ってくるだけだった。これなら狙いをつけやすい。僕は右手を突き出して、手のひらを林原さんに。
「シ火スイ球ミ炎熱ノリ焼カ……」
脳内にいつの間にか呪文が記憶されていた。それに、今までホノカやコノと過ごした中で聞いていて、スラスラと口に出来て。詠唱をしていると徐々に手の先に不思議な力が流れて溜まる。放つ前、モモ先輩から教わった事を意識して狙いをつけて。
「フレイム!」
手の平以上に大きな火球が反動と共に放たれる。その直球は、その威力を表すように大きな音を立てて林原さんへと向かい、着弾。
「ぐぅ……」
モロに受けた事で軽く後ろへと仰け反らせる。そしてうめき声を上げて片膝をついた。
「す、凄いパワーです……ホノよりも炎が大きかいかも……」
「あたしも負けないわ! ……フレイム!」
「コノもいきます!」
僕に続いてモモ先輩も同じ魔法で追撃。一回り小さい火球が放たれる。さらにコノも呪文を唱えてからさらに一回り小さいフレイムを。林原さんに何度も容赦なく浴びせられる。
「まだ……だ」
けれど、まだダメージが少ないのか立ち上がり再び動き出す。抑制が弱まったのか、歩くスピードは少し上がっていて。
「き、効いてませんっ」
「流石にこの程度じゃ無理よね」
「やはり……デスベアーの力で……」
「大丈夫です、まだあります」
僕は再び手で狙いをつけて記憶にあるホノカを思い出しながら呪文を唱える。さっきのよりも少し強い力が集まってきた。
「バーニング!」
火炎の玉が連続で射出する。一点集中に林原さんに焼き付くしていく。
「ぐぉぉ……」
「はぁぁぁ!」
彼は両手でクロスしてガードしてダメージを減らそうとする。それに負けず何度も何度も火球をぶつけた。そうしていると徐々に後ろへと下がらせられる。
「これはなら…」
魔法を終えると、さらに疲労が押し寄せてきて思わず膝をついてしまう。
「ユーぽん!」
「ユウワさん、無理しないでください」
顔を上げると林原さんは立ったままで、まだまだ余裕そうでいた。再びこちらに迫ってくる。
「そんな」
「コノハ、水魔法やれる?」
「は、はいっ。でもそんな威力は……」
「いいから。作戦があるの」
モモ先輩は少し焦りの表情を浮かべながら、コノへ急かすように魔法を使うよう促す。それを受けてコノはすぐに呪文を唱え出して。
「ウォーター!」
一転して、さっきまで火を浴びせられ続けた林原さんに水魔法がかけられる。当然、それによって傷は与えられていない。しかし、同時にモモ先輩は黄色い魔法陣を構築していて。
「スパーク!」
黄色の稲妻がほとばしり、水をかぶった林原さんに直撃。通りやすくなった身体に電撃を受けて、痺れたのか動きが止まる。
「ぬぅぅ……」
再び進み出すが動きはぎこちなく、林原さんの抑制も相まって、こちらまでに来るのは時間はかかりそうだ。
「……想像以上に効かないわね」
「でも動きは鈍くなりましたよ」
「けど、決定打にはなりそうにないわね。何か圧倒的なパワーじゃないと」
「やはり……僕がデスベアーの力でやります。今なら、接近戦でも問題ないですから」
そうクママさんが言って、前に出そうな雰囲気があり、僕はそれを遮るように二人よりもさらに一歩踏み出した。
「ここは僕がやります。まだ一つ大技があるので」
「ユウワさん……それって!」
「無理し過ぎないでね、ユーぽん」
「はい!」
二人から期待を受けて、僕はもう一度手を林原さんに向ける。そして、一体化した事で記憶されている長い呪文を口にした。
「炎カ獄ラシ絶レヤガ煉シヨイ熱リ灼ス……」
スラスラと言葉に発せられた。それは何度も何度も唱えているように。やはり、ホノカがいるのだと感じられた。
手のひらにデスクローと同じような力が流れ込んでくる。体内だけでなく魔力は周囲に影響を及ぼし、木々をざわつかせる。
「くっ……」
強すぎるがあまりに手が震え出してしまう。何とか左手で手首を抑えて固定して、林原さんへと向ける。そして、呪文を全て唱え終わり。
「イン……フェルノォォォォ!」
その瞬間、デスベアーすら飲み込みそうな程の巨大な真紅の火球を放つ。凄まじい反動があり、さらに撃った負担で強烈な疲労と心臓に痛みが発生して、思わず尻もちをついてしまう。だけど、最後まで狙いは一点に抑えられて、真っ直ぐ直進していく。
「っ!」
林原さんは回避しようとするも、痺れからかその場にとどまってしまい、直撃。瞬間、着弾と共に爆発。大きな熱気をまとった爆風が吹き荒れこちらにも向かってきた。
「皆さんっ!」
振り向くとクママさんはデスベアーに変身してて、爆風から背を向けて僕達三人を抱え込んでくれる。
「大丈夫でしたか?」
風が収まると僕達を解放して変身を解く。どうやら傷がなさそうで安心する。
「はい、問題なしですっ」
「クママさん、ありがとうございます」
「助かったわ」
「良かったです。それよりも、ハヤシバラさんは……」
土埃がなくなり、彼の方を見ると地面に仰向けで倒れていた。立ち上がる気配もなくて、ただ息はちゃんとしているし、消えそうな気配もない。
「コノ、今の内に」
「はいっ!」
コノは手慣れたようにマギアを構えてマジックロープを射出。ヒットして林原さんをがっしりと捕らえた。
「や、やりましたっ!」
「ええ。何とかなったわね」
「良かっです、皆さんが無事で」
コノはぴょんぴょんと跳ねて喜び、モモ先輩は達成感を含んだ微笑みを滲ませ、クママさんは安堵の表情を浮かべている。
「はぁ……はぁ……疲れた……」
そしてホノカの力を解除した僕は、ポジティブな気持ちよりも、あまりの疲れに休みたくて地面に横になった。上に広がる雲が存在しない青空は、眩しく一色に澄み渡っていた。
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