ロストソードの使い手

しぐれのりゅうじ

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ロストソードの使い手編

九十二話 愛理と空、解ける未練

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 林原さんを捕まえてしばらく、僕達は彼が正気に戻るまで、動かずに待っていた。その間、ロープが強いからか暴れ出す事はなくて、静かに見守られている。それに林原さんが暴走していたせいか、魔獣が寄ってくることもなかった。

「……ここは」

 ふと、彼の瞳に意思の灯火が光った。表情は薄い人だけど、暴走状態から戻ったのだとすぐに理解出来た。

「ソラくん! 戻ったのね!」
「愛理……」

 モモ先輩はぎゅっと林原さんに抱きつく。それを受け、少し困ったように口元を緩めた。

「……ほっ。良かったです」
「そうだね」

 まずは一安心だ。知り合いと戦うのは、通常よりも精神的に難しいから、もうやりたくない。

「本っ当に戻って良かったわ」
「……そろそろ離してくれ、少し苦しい」
「そ、そうよね。ごめんなさい」

 まだ足らないと言った様子ではあるけど、モモ先輩はすっと離れる。

「皆、すまない。迷惑をかけた」

 林原さんは僕達を見回すと頭を下げる。それに僕達は、謝る必要はないと伝えるが、そのまま言葉を続けていく。

「それとありがとう、助かった。クママも悪いな、巻き込んでしまって」
「いえ、ハヤシバラさんにはお世話になりましたし、困った時はお互い様ですよ」

 礼と謝罪を受けたクママさんは気にしていないよという風に手をひらひらさせて答えた。
 そして次に林原さんは、僕の方へと視線を向けてくる。

「日影くん、随分強くなったんだな」
「お、覚えているんですか?」
「ああ。君が得た成長を身体で感じた。それに、戦う姿も特訓していた時よりも全然違った」

 今までの苦労から得た力を褒められて、救われたような嬉しさがあった。

「ありがとうございます。でも、まだまだですから、もっと頑張ります」
「……いつか、ミズアと肩を並べられるかもな」
「そ、それは流石に」
「ふっ。少なくともそのロストソードの能力込みでそのポテンシャルがありそうだがな」

 アオは街では英雄扱いされてて、強さも桁違いで。それと同等になれるなんて、妄想も出来ない。けど、もしそうなれるなら、なりたいと思う。

「ユーぽんならあり得るかもね。少なくとも死を恐れない心の強さがあるもの」
「確かに、ギュララに相対する勇気は凄いです」
「コノの勇者様には、不可能はありません。きっとなれますよ」

 言われて無理だと蓋をしたけれど、皆に肯定されると、何だか出来そうな気がしてくる。僕だけの力じゃ到底無理だけれど、周りの人と支え合っていけば、いけるんじゃないかって。

「……はい!」

 こんな風に自分を自分で肯定出来るなんて、前の自分を思い出すとありえなかった。皆から、そして自分へと大丈夫という熱が伝わって、凍りついていた心の奥底が少しずつ溶け出す。胸に手を当てて、それを確かに感じた。



「これからもお仕事、頑張って下さいね。陰ながら応援しています。何か力になれる事があれば言って下さいね」
「ありがとうございます、クママさん」
「じゃああたし達はいくわね」
「はい、また会いましょう。さようなら」

 僕達は村の出口の近くで、クママさんと別れてゴンドラへと向かった。しばらくは大丈夫だろうと、林原さんのロープは解除している。ただ、その代わりじゃないけど、モモ先輩が彼の手をぎゅっと握ってはいた。

「皆、帰るまでは油断しちゃ駄目だからね」
「はい」
「はーい」

 モモ先輩にそう言われて達成感お褒められてふわふわしていた気持ちをきゅっと引き締める。コノは、返事はしているものの安心しきった顔つきでいた。

「……愛理も変わったな」
「そ、そうかしら」
「責任感がついたというか、リーダーっぽくなった」
「そ、ソラくんに褒められちゃった……」

 歩きながら身をくねらせて喜ぶ。本当に嬉しそうで、頬が完全にとろけている。

「前の依存していた愛理とは大きく違う。……何かあったのか?」
「そう見えるなら多分、ユーぽんやコノハがいるから、かしら。あたしが一番先輩だし、今はミズちゃんもいない。だからあたしが引っ張らないといけないって、思うようになったの」

 前のモモ先輩は当然知らないけど、確かに最初に会った時とは違う気がする。背を預けられる大きな木のような、頼れる安心感があって。

「そうか……」

 その言葉を受けて林原さんは、僕達を見回しながら少し考え込むと。

「俺がいなくても大丈夫そうだな」
「え……ソラくん、今なんて」
「俺の未練の一つは解消された。安心したよ」

 僕達は森を抜けた。すると、目映い陽射しが差し込んで温かさを全身で浴びる。開放的な平原は、清々しく緑を広げていた。

「……良かった……本当に良かったわ……」

 モモ先輩は立ち止まると、感情によって声を震わせて瞳には涙をたたえていた。

「正直、怖かったの。暴走していたのを見て、もしかしたら戻らないかもって……あたしのせいでソラくんの未練を果たせないかもって」
「モモ先輩……」

 次第に彼女はポツポツと雫をこぼし始める。その一つ一つは陽光に照らされてキラキラと輝いていた。

「でも、やっとソラくんに安心してもらえた。これであたしの未練もようやく解消したわ。本当に……救われた気持ちよ」 

 涙を流しながらも、微笑みを浮かべる。それは、まるで天気雨のようだった。

「けどね……少し寂しい気持ちもあるの。終わりに近づいていて、それから離れたいって。やっぱりまだ依存したい自分がいるのかも……情けないわよね」
「そんな事はない。誰だってそうなる……俺だってそうだ」
「ソラくん……も?」
「ああ。だから自分を卑下する必要はない。それに、その気持を自覚している時点で、もう大丈夫だ」
「……ええ!」

 そんな二人の姿から、とても強い信頼や愛情が垣間見えてとても尊くて素敵だった。それと同時に、二人の想いを無駄にしてはならないという責任もひしひしと感じてきて。アオを何とかしないとと、再び意志を強く持った。

「ユウワさん、とりあえず一件落着で良かったですね」
「だね。それに怪我もなくミッションもクリアしたしね。」
「二人共ー? なーに話しているの? さっさと街に戻るわよー」

 モモ先輩は、またいつもの調子に戻り林原さんを連れて先へずんずん進んでいく。僕とコノは一度顔を見合わせて、微笑を浮かべてから付いていった。
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