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おまけ:劉蓮のその後。
しおりを挟む「ふえっくしゅん!」
盛大なくしゃみをすると、劉蓮はキョロキョロとあたりを見渡した。
誰かに噂された気がする。しかしそんな気がしただけなのか、周囲には誰もいない。
眠ろうと思っていたのにくしゃみで目が覚めてしまった劉蓮は、諦めて両手をぐっと伸ばした。
今日は全員が出かけているから、シグラ以外は不在である。クガイとレシアは買い出しに、ゼレアスとルジェは仕事、スレイはいつも家に居るのだけど、今日ばかりは国王に呼ばれたからと渋々家を離れていた。
唯一ニートで暇を持て余している劉蓮は、今日も変わらず暇だった。そのため日光浴がてらテラスで浮かび、先日元の世界に戻ったときに洲芭にもらったBL漫画を読んでいた。劉蓮のお気に入りの漫画家”いんらん法師先生”の新作である。なんとなく受けの男の子がシグラに似ている気がするのは気のせいだろう。
――ローシュタイン家の別邸からよく分からないうちに豪邸に引っ越しをして半年。結婚生活ももう2年目を迎えた。シグラは今日ものんびりとした生活を送っている。
「劉蓮、ただいま」
下から伸びてきた手は劉蓮の腹をぐっと掴むと、そのまま強く抱き寄せた。ふわふわと浮かんでいた劉蓮はあっさりと捕まる。一番に帰ってきたのはスレイだった。
「おかえり」
「はー疲れたー」
「何かあったの?」
「ただの行事ごとの打ち合わせ。嫌いなんだよね、堅苦しい式典とか」
「ふーん?」
劉蓮の胸元に顔を埋めたスレイは、そこで深呼吸をしていた。劉蓮の胸の空気を吸い込んでどうなるというのか。劉蓮にはまったく分からなかったが、スレイがそこで「癒しだ」と呟いているから、スレイのためにはなっているのだろう。ひとまず放っておくかと、劉蓮はスレイの頭を抱きしめておいた。
「ちょっと抜けただけだからまた戻らないといけないんだよね」
「そうなの? なんで戻ってきたの?」
「んー……劉蓮の顔見に?」
「なにそれ」
劉蓮に甘えるようにすり寄ったスレイは、浮かぶ体をしっかりと捕まえて唇を重ねる。触れるだけのものは次第に深く変わり、劉蓮の縋る腕も強くなった。
舌が絡む。擦り合って中を探り、劉蓮の体にも熱がめぐる。
「あー、このまま突っ込みたい」
「ん、抜けてきただけなんでしょ」
「そうだけど……」
散々劉蓮の口内を貪ると、スレイはようやく顔を離した。
「……いい子で待っててね」
「ん? うん」
いつも家で大人しくしているじゃないかと、そんなことを思いながらも、劉蓮は名残惜しげに王宮に戻るスレイを見送った。
少しスレイと話をしたらまた眠くなってきた。大きなあくびを漏らし、劉蓮は気を取り直してテラスに浮かぶ。今度こそしっかりと眠れる気がする。
今日は呼び出しもないし、このままゆっくり過ごせるだろう。
そんなことを思いながら、どれほどが経った頃だろうか。劉蓮はまたしても誰かに腹を掴まれて、ぐっと下に引き寄せられた。
強制的に目が覚める。そこには今度ルジェが居た。
「ただいま戻りました」
「おかえりルジェ。仕事終わったの?」
「いえ?」
ではなぜここに? と問いかける間もなく、ルジェは劉蓮をぎゅうと抱きしめて離れなくなった。
胸元に銀の髪が散らばる。動く気配はない。
「疲れた?」
「ええ。あなたに会えない時間はどうにもストレスが溜まります」
「ふぅん……?」
それでなぜ戻ってきたのかは分からなかったが、ルジェはぐりぐりと胸元に埋もれながらも「癒しですね」と言っているから、たぶんルジェのためにはなっているのだろう。劉蓮はひとまずその頭を撫でておいた。
「……劉蓮。今日も愛らしいですね」
ルジェは上目に劉蓮を見ると、眠たそうな目をした劉蓮の頬に触れる。白い肌だ。柔らかくて弾力があって、ルジェはいつもこの感触に魅了される。
顔を近づけると、どちらともなく目を閉じた。
唇が重なる。ついばむようなキスを繰り返していたかと思えば、ルジェの唇が頬に移る。
「はぁ……このまま全身舐めつくしたい……」
「仕事があるんでしょ」
「まったく恐ろしい人ですね。あなたへの欲求は無尽蔵だ」
頬から首筋へと唇を移すと、ルジェはそこを存分に味わっていた。
しかし仕事に戻らなければならないのか、最後にもう一度だけ唇に触れるだけのキスをしてようやく離れる。
「帰りを待っていてくださいね」
「……いつも待ってるよ?」
劉蓮のその言葉には、困ったような笑みしか返らなかった。
ルジェが仕事に戻ると、またしても眠気を思い出す。劉蓮はふわりと体を浮かべて、今度こそ眠ろうかと静かに目を閉じた。
そういえば最近ずっと眠いかもしれない。セックスをしている最中に寝落ちることも多く、寝ている間にも好き勝手されているようだが、劉蓮には記憶がない。
こちらの世界はずっと平和だ。あちらに渡れば緊張感もあるのだが、こちらに居るとどうにも気が抜けてしまう。
そろそろ寝入るという頃に、劉蓮はまた唐突に誰かに抱き寄せられた。眠気が一気に失せる。驚きのままに目を開けた劉蓮は、自身を抱き寄せて離さないゼレアスを見て、ひとまずよしよしと頭を撫でてやった。
「ただいま、劉蓮」
「おかえりゼレアス。抜けてきたの?」
どうせこのパターンだろうと踏んで問いかけてみれば、思ったとおり、ゼレアスは肯定するように頷いた。
「劉蓮に会いたくて」
キスをするのかなと、今度は劉蓮からゼレアスの頬に触れてみると、察したゼレアスはすぐに顔を寄せる。
唇が触れた。舌が絡み、唾液が行き交う。中を余すことなく舐め尽くされる感覚に、劉蓮はぞくりと腰を震わせた。
「……劉蓮、可愛いな。このまま抱いてしまいたい」
「仕事に戻らないと」
「そうだな。分かってる。……愛してるよ」
ゼレアスは離れる寸前までずっとキスを続けていた。まるで前戯のように口腔を犯されてしまえば、劉蓮もふにゃりと表情がとろける。
誘うような顔だ。しかしぐっと堪えると、ゼレアスはなんとか劉蓮から離れた。
「早めに戻るから、待っていてくれ」
「ん。……いつも待ってるけど」
「……そうだな。今日もだ」
「今日も?」
「ああ。それじゃあ行ってくるよ」
ゼレアスは劉蓮をじっと見ていたが、すぐに劉蓮の頬にキスをして部屋から出て行った。
劉蓮はふたたびふわふわと浮かぶ。やはり眠たい。目を閉じると、あっという間に睡魔が襲う。
――普段であれば、この邸にはスレイがいる。クガイとレシアが買い出しに行こうとも、ゼレアスとルジェが仕事に出ようともスレイが常に劉蓮と共にいた。
けれど今日は違った。スレイが突然王宮に呼び出されたのだ。おそらくイレギュラーな出来事だったのだろう。あらかじめ呼び出すと当日になって逃げる可能性があるからと、王宮側は意図的に今日になるまでスレイには伝えなかったのかもしれない。スレイは行事ごとが嫌いだ。堅苦しいことが合わないとかで、極力そういったことには参加しようとしない。
王宮から使者がやってくるという大仰な呼び出しは、クガイたちが買い出しに行ったあとの出来事だった。買い出し組は何も知らないのだろう。しかしゼレアスやルジェはまだその場に居たから、劉蓮が一人になる時間が生まれることを知ってしまった。
クガイとレシアは買い物が長い。こだわりが強く、どこまでも追求する。それも理解していたから、スレイもルジェもゼレアスも、使者が来たときには焦ったような顔をしていた。
(……だからってかわるがわる来なくても……)
劉蓮は知っている。彼らがどんな気持ちなのか。どんな思いでこの邸を建てたのか。
それを知ったのは偶然だった。
劉蓮がまだローシュタイン伯爵家の別邸に暮らしていた頃のことだ。アルファ4人が顔を突き合わせて、夜な夜な真剣に話し合っていた。
「今は”シグラ”の体じゃない。”劉蓮”になったのなら、その気になればどこにでも行ける」
劉蓮は人間とは体のつくりが違うから、基本的には睡眠の必要はない。だからその日も明かりにつられて、誰が起きているのかと確認がてらそちらに近づいただけだった。
なんとなく入りづらい雰囲気に、劉蓮はその一室の外で動きを止めた。
「扉はどうする」
「一人にはしないようにしましょう」
「天井は高いほうがいい」
「すり抜けられない方法はないかな」
「小さなことでも必ず報告をし合おう」
「劉蓮の居場所は常に把握しておけるようにしておきたいです」
「こちらの世界をより魅力的にしておかなければ」
「とにかく孕ませよう」
「全員で劉蓮を捕まえておくんだ」
彼らは怯えている。
劉蓮がまた消えてしまうのではないかと、ある日あっさりと全員を切り捨てるのではないかと疑っている。
(……僕って信用ないなぁ)
まあそれも仕方がない。なにせ劉蓮は自由人だ。行動はいつも突然だし、この間だっていきなり「ちょっと白黎さんおすすめの”サバク”を見てくるから」と言って丸1日姿を消した。帰ってからは全員が劉蓮の側から離れず、そのまま5人に抱き潰されるという限界突破をしたわけだが、それも劉蓮の自業自得である。
ちなみにレシアは執事長として規則正しい生活を送っているため、深夜の話し合いの場には居なかった。レシアが居たならもう少し冷静な場になっていたかもしれない。しかし残念ながらそうはいかず、結局アルファ4人の希望をふんだんに詰め込んだ今の邸が出来上がった。
それにしても、もう2年だ。結婚という契約を嫌っていた劉蓮が2年も一緒に居るというのに、まだ信用ならないとは。
「んー。じゃあそろそろ教えてあげようかなぁ……」
劉蓮は我慢ができなくなり、大きなあくびを漏らす。
――劉蓮に睡眠の必要はない。これまで眠っていたのはシグラの体に宿っていたときの名残があったからだが、それとはまた眠気の種類が違う。
機能がかなり弱まり、劉蓮の体が本格的に休もうとしていた。
その体が休養を求めるのは、限りない体力を持つ劉蓮が唯一、別の場所にその力を分けてより”人”に近づいているときである。
今で言うと腹の中。同じ世界に居る白黎は、同族の気配で気付いているのだろう。
劉蓮が知らせるのが先か、白黎がうっかり漏らすのが先か。スレイが呼び出された王宮には白黎も居るのだろうし、劉蓮からすでに知らされているのだろうと思い込んだ白黎が、喜びのあまりスレイに祝福を送るかもしれない。
もっとも、腹から出てくるまでは誰の血を引いているのかは分からないのだけど。
劉蓮はのんびりと目を閉じて、一人静かに微笑んだ。
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