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3 へルマン視点
しおりを挟むその日は運悪く討伐帰りに食料が尽きちまった。あと少しで街だというのに目眩がして動けねぇ。
「やっちまった……」
自分の準備不足と不運を嘆いていると、1人の可愛らしい異国の女が近づいてきた。俺は駄目もとで食料を求めると、女はあっさり水ととても甘くて旨いパンを俺にくれた。
しかも腹が減ってる俺に遠慮させないため試食をして欲しいと嘘までついて食料をくれる優しい女だ。不味いパンでも文句は言えないのに女は最高級の甘いパンやおかずの入った珍しいパンを俺に惜しみなく分けてくれる。
(天使か? こんな高級品を見ず知らずの俺に宛がうなんて……)
だがその理由はすぐに判明した。女はどうやら俺のファンらしい。なるほど。
俺は冒険家業をしているがレベルの高い高給取りだし、昔からこの顔で結構モテた。女が俺に惹かれたのもそれらの要因だろう。
「おい、へルマン。また彼女お前のこと見てるぞ」
パーティー仲間が何時ものようにからかってくる。あの女はギルドが経営する飲食店へ頻繁にやってきては俺を熱い眼差しでいつも見つめていた。ファンだと言ってたからな納得だけど。
「それにしてもあんな可愛いストーカーに好かれるとは相変わらずモテるな!」
「ストーカーって……そこまで追いかけ回されてねぇよ。精々この店で見られる程度だ。実害なんてない」
そう、あの女はこの店で俺を観察する以外、本当に何もしてこない。たまに目が合うと真っ赤になって俯くくらいだ。
纏わり付いたり追いかけ回したりなど絶対にしない。ある意味ファンとして正しい位置にいるのだろう。
「でも昨日市場で彼女に絡まれてたじゃん!」
「あれは荷物が重そうだったから手伝ってやろうとしたんだよ!」
「本当かぁ?」
「お前は荷物を重そうに運んでいるファンの女を無視するのか……そりゃモテねぇわな!」
「なっ、手伝うさ!!」
「ならおかしくないだろ?」
からかうつもりが反撃されて男は不貞腐れている。だが、お前は可愛くないからその顔やめろ。全く似合わないし気持ち悪りぃ。
そんな折、ギルドホールに兵士が雪崩れ込んできた。何事かと見ていたら急に貴族殺しの汚名を俺にかけられた。
身に覚えがないのに兵士は犯人だと決めつけてくる。きっと適当に犯人をでっち上げて貴族に報告したいのだろう。冗談じゃねぇ!!
「待ってください!!」
するとあの女が兵士に向かって抗議してきた。嘘だろう?! 平民が兵士に楯突くなんて見たことねぇ。しかも丸腰だ。
唖然としている俺を他所に女は兵士を追い詰める。なんて弁論だ。スゴいの一言につきる。
女は自分の風貌を盾に俺の無実を実証してくれた。たまたま昨日市場で助けたことが、まさか俺の命を図らずも救うことになるとは思わなかったが……。
それから俺は仲間に隠れて女をそっと逆に観察してみた。すると、女は俺が討伐から帰ってくるとホッとした顔をし、俺が護衛や討伐依頼を受けると小さく口パクで「いってらっしゃい」と呟いていた。
(何で直接言いに来ないんだよ! 俺のファンだって一定の距離を保つなよ! 真面目か!!)
女は本当に必要以上は近付いて来なかった。目立つ風貌をしているので女がいないとなんとなく寂しい。
ある日商店街の一角で女を見かけた。声をかけようと近付くと衣料品店に入って行く。
服でも買うのと暫く様子を見ていると女は何も手に持たず店を後にしたので気になって中に入り女の事を店主に聞くと「恋人に頼まれたのかい?」と的外れなことを言ってくる。
「まぁ、リナちゃんのリボンやコサージュは直ぐに売りきれるからねぇ。入荷日を聞きたいのは分かるよ」
どうやら女はこの店に商品を卸しに来ていたようだ。しかも人気商品らしい。
「私もねぇ、リナちゃんにもう少し増やせるか聞いたんだよ。そしたらもう少し頑張ってみるって笑顔で答えてくれたから安心しな!」
「そ、そうか……」
「リナちゃんは異国の子だけど良い子だよ。だからあんまり無理を言わないでおくれ」
「分かっている」
それから女、リナのことを調べた。すると彼女はその風貌の為、とても有名人になっていた。しかも嫁候補に欲しいとか言う輩もチラホラいて無性にムカついた。
「よう! あんたにはこの前世話になったから、食事をご馳走させてくれよ!」
「えっ?」
「命の恩人だ! 頼むよ!」
「はっ、はい!」
俺に声をかけられて恥ずかしがる姿がなんとも愛らしくてこっちまで嬉しくなる。
だがそれも一瞬で終わる。飯の時間帯が過ぎていて何処の店も空いてない。カッコ悪すぎる……。
「あ、あの良ければ私が料理しましょうか?」
「へっ?」
「市場で買い出ししましょう」
「でもお礼なのに……」
「ふふ。私はへルマンさんに私の手料理を食べて貰えるご褒美ですよ!」
その笑顔と台詞に俺の心は一瞬で持っていかれた。
(か、可愛い……)
その日は俺の家でリナが手料理を披露してくれた。味も見た目も完璧な料理。感動しながら食べ終わるとリナは嬉しそうに微笑んでいた。
(あっ、ヤバい。立つ……メチャクチャ可愛い……)
「良かった。お口に合って。初めてへルマンさんに料理を披露するから緊張しちゃいました」
「…………」
「今日は誘ってくれて嬉しかったです。ありがとうございます!」
これで終わりにしたくない。この料理を他の男に食べさせるのか? あの笑顔を俺以外に向けるのか?
そんなの許せねぇ……
俺はその日以来、リナに難癖を付けては家に呼び料理を振る舞って貰っていた。リナは嬉しそうに毎回お菓子や料理を披露しては一緒に食べる。
(もう夫婦みたいだな……。夫婦か、リナと結婚したら毎日あの笑顔で迎えてくれるのか。それはいいな)
何気ない風景にリナが居るだけで心が踊った。しかもリナがいなければそこは歪に見えて虚しさが募るほど今の俺は彼女を追っている。
「そうか。俺、リナに恋してるんだな……」
言葉にしてみればそれはすっぽり当てはまり、この部屋にリナがいない空虚感が心を締め付けて痛い。
「会いてぇなぁ……」
もう限界かもしれない。俺はリナを嫁にすることを決めた。
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