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甘美なマナー講座
しおりを挟む翌朝、私はマルタさんに案内され、朝食会場へと向かった。
扉が開くと、一番最初にお茶会をした、ルイスマン伯爵家の次男、セドリックの姿があった。
「聖女様、おはようございます。今朝はご一緒させていただいてもよろしいでしょうか?」
セドリック様は、以前のように穏やかな笑みを浮かべ、優雅に一礼する。その涼やかな佇まいは、朝の光に映えて、まるで絵画のようだった。
「はい、もちろんです!」
久しぶりの再会に、私の心は高鳴った。昨日のアシュレイ様やユリウス様とはまた違う、落ち着いたセドリック様の雰囲気に、なぜかホッとする自分もいた。
テーブルに着くと、運ばれてきたのは、色とりどりの野菜と、焼きたてのパン、そして甘い香りのするフルーツタルトだった。
この世界の食生活にもだいぶ慣れてきたとはいえ、やはり細かいマナーはまだ自信がない。
そんな私の様子を察したかのように、セドリック様がそっと声をかけてきた。
「聖女様、パンはこうして一口大にちぎってから召し上がると、良いですよ」
そう言いながら、彼は自分の手本を見せてくれる。彼の指先はすらりと長く、その仕草一つ一つが洗練されていた。
「なるほど…」
私が真似してパンをちぎると、セドリック様は優しく微笑んだ。
「お上手です、聖女様。それに、スープをいただく際は、音を立てぬよう、静かに匙をお運びください」
食事中、セドリック様は、まるで家庭教師のように、丁寧にこの世界の食事マナーを教えてくれた。
その声は常に穏やかで、決して押し付けるようなことはない。むしろ、私を気遣う優しさに満ちていた。
そして、甘いフルーツタルトを口に運んだ時、事件は起こった。
「聖女様、少々口元にクリームがついていますよ」
セドリック様がそう言うと、彼は何の躊躇もなく、清潔な白いハンカチを取り出し、そっと私の口元に近づけてきた。
「えっ…!?」
私の心臓は跳ね上がった。予想もしなかった至近距離に、彼の端正な顔がある。
彼の指先が私の唇に触れるか触れないかのところで、優しくクリームを拭い取る。その瞬間、彼の甘い香りがふわりと鼻をくすぐり、深い青の瞳が私を見つめてきた。
「…ありがとうございます」
私は精一杯の平静を装って答えたが、顔が熱くなるのを止められない。
まるで、時が止まったかのような甘美な沈黙が、一瞬だけ流れた。
セドリック様は、拭い取ったハンカチを丁寧に畳みながら、優しく微笑んだ。
「聖女様は、本当に愛らしい方ですね。つい、構いたくなってしまいます。」
その言葉に、私は完全にノックアウトされた。優しくマナーを教えてくれるかと思えば、突然甘い雰囲気を出してくる。この人は、まるで静かに獲物を追い詰める捕食者のようだ。
朝食中、セドリック様は私を翻弄し続けた。
「聖女様は、朝食後、何をなさるご予定ですか?もしよろしければ、書庫にある珍しい書物を一緒にご覧になりませんか? 聖女様のお国の文化に通ずるものがあるかもしれません」
「…はい」
前後の予定の確認もできていないが、
私は誘われるがまま、頷いてしまっていた。
イケメンの流し目を拒否できるわけないよね…。
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