コチョウノユメに無愛想のっぽの怒りん坊

藤瀬すすぐ

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【9.砂と森の世界】

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 ふと、目が覚めた。
 携帯のアラームか母親の奇天烈なモーニングコールを耳にするまでは起きられない自分。そんな自分がボンヤリと目覚めたこの瞬間の記憶を、最近、確かに自分は体験した───

「―――ッ!」

 跳ね起き、とたん木々の間を抜けて広がる赤茶けた景色にミチルはうめき声をあげた。

「うー、またここだよ」

 頭の中で霧が晴れるかのように、ここでの記憶が呼び覚まされていく。
 ササクレだった樹皮と生木特有の湿気。木の繊維が皮膚に触れるささやかな痛み。先と違うのは今自分の存在するこの空間はとてもリアルでいて「リアル」ではない、夢だ、という認識があることだった。

 確かに今自分が夢を見ているのだという実感があった。それは決して不安定な思いではなく、確実に自分の心にある。だだ何故その確信があるのかという理由は残念ながらミチルの中の深い霧の向こう側にあるようで、どうにも引っ張り出すことができない。それでも、これが夢なのだという確信がゆらぐことはなかった。

 自分の体に視線を向けると、前回はセーラー服だったが今回はグレーのスエットの上下で足は裸足だった。触れた髪は三つ編みには結っておらず、おろしたままの髪の毛のそこかしこに、小さな木クズのようなものがひっついていた。
 手櫛で髪をすくようにしてクズをはらいながら周囲に視線を向ける。

 どうしたらいいんだろ?
 夢がさめるまでここでじっとしてればいいのかな? 

 途方にくれ、木のウロに腰掛けたまま裸足の足をブラブラさせる。

 あー、この森なんかおかしいと思ったら、鳥の声がしないんだ……。まあ、でも夢だしな。そこまで手が回らないんだ、私も。演出家じゃないしな……。

「…………」

 小・中学校を通して通信簿に書かれていたこと。表現方法こそ各々工夫はあれども、ようは「もう少し落ち着きをもちましょう」という内容だった。
 そんなミチルが無為な時間を座ったまま過ごせるはずもない。ただ座っていることに、すぐに飽いてしまった。

 夢だしなー。

 とりあえず、よっこいしょと木のウロから足をおろした。

「痛ッ!」

 いきなりの痛みが足の裏に走る。慌ててもう一度木のウロに座り足の裏を見ると、細く小さな枝が刺さっていた。
 そろりと抜くと、そこからうっすらと血がにじんでくる。

 いやいや、夢……、だよね。

 痛みと鮮血を伴うリアルな夢に思わず自問する。

 最近の映画もCGとか凄いしなぁ……。

 映像と痛感とは全く別物なのだが、その辺りはあえて気にしないようにしつつ、スエットのズボンの裾をひっぱって爪先まで被い、足下の落ち葉や枯れ葉に注意しながらゆっくりと歩き出した。

 森の切れ間から広がる景色は前回同様見渡す限りの赤い土と岩の世界。赤い大地の上に見える太陽は妙に人工的に見える力のない光を放っていた。
 夢で同じ景色を再現できる自分に感心しながらも、ひょっとすると夢の続きと思っているだけで、夢の続きを見ている夢を見ているのかもという考えが頭をもたげた。

 夢と思ってる夢? いや、夢と思ってる夢と思ってる夢? で、とりあえず夢?

 下手な考え休むに似たりで、どんなに考えたところで答えは出そうにもない。結局は夢なのだからと深く考えるのはやめにした。

 森の端ギリギリで足を止めて砂地の様子をうかがう。森の端は唐突に切れていて、一歩足を踏み出せば赤い砂に触れることになるのだ。

 羽根の生えたトカゲの化け物とイソギンチャクモドキに遭遇した前回のことをふまえ、ミチルは進むことを躊躇した。
 実際は砂地と化け物に因果関係なんてないのかもしれない。化け物の種類だって2種類とも思えないし、この森に居たところで化け物と遭遇する可能性はあるのだ。それでも最悪、空から現れる羽根トカゲと、砂から現れるイソギンチャクモドキの急襲には備えられる。

 夢だとわかっていても、小枝が刺さった足の痛みを思うと化け物に喰われる経験などしたくなかった。あの時は妙な二人組に助けてもらったが、今回はどうだかわからない。

 ミチルが目覚めた巨樹の向こう。光は高い木々に阻まれ、奥に行くほど黒く深い奥行きのしれない森。鳥の鳴き声も木の葉の揺れる音も、生き物の気配が何も感じられない。それはそれでかなり不気味だった。
 仕方なしに砂と森の縁を辿るようにして歩き始める。こうするうちに誰かと会えるだろうか? 少しの期待を胸に歩を進める。
 例えばこの間の二人組。トキオとタケルだったか。タケルはムカツク奴ではあったが、あの二人組といれば化け物の脅威からは逃れられそうな気がする。

 いや、そもそも、私の夢なんだから私が生み出した存在なわけよ! なんであんなムカツク奴登場させちゃったかなあ、もう!

 前回目一杯無視された挙げ句、無遠慮に肩をつかまれた事を思い出してまた腹が立った。
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