コチョウノユメに無愛想のっぽの怒りん坊

藤瀬すすぐ

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【11.岩の居住地】

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「いや、でも、これッ!」

 足を動かすことができず男と靴を見比べるミチルに、「まあまあ」と言ってから、ついてこいというように首をしゃくってみせた。
 一瞬の躊躇はあったが、腹をくくると男の進む方に足を向けた。

 少し進んでから一旦立ち止まり後ろを振り返ってみたが、赤い砂と融合してしまった女の姿は欠片も見出すことができなかった。女の消えた瞬間の、重みを失った腕の感覚が蘇る。
 一度大きく頭を振ってから大男の横へ小走りに駆け寄り、並んで歩きながら男を見上げ聞いてみる。

「どこ行くの?」
「まあまあ」
「あの女の人は一体どうなったの?」
「ウンウン」
「私の履いてるこの靴も、あんなふうに消えた人のものなの?」
「まあまあ」

 ずっと見上げる形で歩いていたら首が痛くなってしまった。何を聞いても温和な表情のまま、「まあまあ」「ウンウン」としか応えない男。タケルと違って返答はあるものの、結局は体の良い無視だ。

「タケルっていう人といい、あなたといい、何か知ってるんなら教えてくれればいいじゃない」

 手を頭に当て凝った肩を伸ばすように首を曲げたミチルに、大男は歩き始めてから初めて視線を向けた。

「もしかして、あんたがこないだトキオが言ってたセーラー服のお下げちゃんか。でも、セーラー服でもお下げでもないな」
「あの人のこと知ってるの?」
「うん。タケルも知ってるよ」
「タケルって人、すっごい感じ悪かったわよ。そりゃ助けてもらったけど、それを差し引いてもあまりある嫌な感じだった」
「はは。あの子は口数が少ないからね。でも悪い子じゃないよ」

 この人は性善説論者に違いないな。

 それからは、また何を聞いても「まあまあ」「ウンウン」の繰り返しが続いたが、とりあえず今向かっているところが居住地で、そこにはトキオやタケルがいるということは判明した。



 
 彼らの居住地はクルミ型の大岩が群生する場所の、とりわけ大きな岩をくりぬいたところにあった。遠目に見る分には間口は小さく、明かり取りの為か空気取りの為なのか、岩のそこやかしに穴があいていた。この砂の大地を見てもわかるように雨の心配がないのだろう。

 何やら外国の遺跡のようだったが、すんでのところでその名を思い出すことはできない。

 確か……なんか……生き物か妖怪みたいな名前だった気が……。

 考えあぐねているとき。

「センちゃーんッ!」

 木の柵で囲まれた居住地の内側から子供が数人、こちらに向かって手を振っていた。どうやらこの大男に向けた声らしい。

「おおー」

 男は片手をあげて応えた。
 自分の身の丈よりも高い柵に登ってキャーキャーやっている子供は四人いて、12歳位の女の子が一人と10歳前後の男の子が一人、7歳前後の男の子が二人といった内訳だった。
 セミロングの髪の毛を二つに束ねた女の子がミチルを見ながら聞いてきた。

「お姉さん今日こっちに来たの? 怖くなかった?」

 続いて男の子達が口々に「化け物は見た?」「何か持ってたきた?」「ビッグバッドに遭った?」と言い立てる。センと呼ばれた大男は、シーッと人差し指を自分の口元にあててしかめっ面をしてみせたが、下がり眉なので若干威厳に欠けている。

「来たばっかりの人に色々言っちゃ駄目だって言われてるだろ?」
「えー、だってー」
「ほら、これ、アヤちゃんところに持って行ってくれ。落とすなよ」

 センはぶうぶう文句を言う子供達に大きな袋を掲げると柵越しで女の子に手渡した。

「はーい」
「あー、マリずるいぞッ! オレが持って行く!」
「ああ、ダメッ! 今日はボクだもーんッ!」

 子供達は子犬がじゃれるようにクルミ岩の棟の前を通り過ぎて、右手側の岩陰の奥へ消えていってしまった。

「あっちに作業場があるんだ。水が出るからね」

 言って柵の横を歩き進むと、一部が開閉できるようになっている柵を押し開け、先にミチルに入るように促した。

「こっちだよ」

 柵の向こうからも見えていた入り口は、近くで見ると赤い砂を居住地に入れないようにとの配慮なのか少し高い位置にとってあった。センはその中には入らず前を通り過ぎて、子供達が消えたのとは逆の方へ進んだ。

 開けた空間にはあちらこちらに2m程度の高さのクルミ岩があって、それぞれに小さなドアがつけられている。なんとなく小人の小屋のようだった。小屋周囲のサイズはその岩によってまちまちだったが、ミチルはなかでも幅広で、大きめのドアがついたところへ案内された。

 ドアの中は薄暗かったが、目が慣れると中はちょっとしたリビング上になっていて、机や椅子の形に削りだした岩に色とりどりのカバーが掛けられいることがわかった。可愛い形のクッションがその部屋に柔らかさを与えている。

「ちょっとここで待ってて。トキオ探してくるから」

 センがドアを閉めたとたん部屋の中が一層暗くなる。部屋に取り残されたミチルは、とりあえずと椅子に腰をおろした。

 小屋の上には穴が開けられていて、そこから入ってくる弱い光がボンヤリと部屋の中を照らす。放射線状にのびる光がカバーやクッションの色々な色の部分にあたり、小屋の中に幻想的な雰囲気を醸し出していた。

 カバーもクッションも壁にかかったタペストリーも、それぞれがパッチワークキルトとなっており、色々な材質・色の布がセンス良く配置されている。岩山を削っただけの、ともすれば不気味になりそうな室内をすっかり癒しの空間へと変貌させていた。

 ミチルはキルトカバーの掛かった机につっぷして盛大にため息をついた。

 これ……夢なんだよね。

 女が目の前で砂になったことがあまりにショックだったのと、見るもの触れるもの、それぞれがリアルですっかり失念していたが、これはミチルの夢なのだ。

 そのはずなのに……。
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