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第ニ章・お兄様をさがせ!
第二十四話
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「うん、うん? なんか嫌な予感がするっす」
暗い洞窟の中でアルフレッドは漠然とした何かを感じ取る、ピリッと肌を刺すような感覚が身を襲うのだ。アルフレッドの経験上こういった感覚は十中八九悪い出来事が起こる前触れだった。
そんな予感を口にするアルフレッドの隣にいたシーカーが前方を見据え、静かに指を指した。
「嫌な予感とはアレの事じゃないのか?」
指を指す先には無数の蛇が連なって出来た大蛇が静かに佇んでいた、六つの赤い目は獲物を見つけた狩人のように二人を凝視している。
「いや、こんなのよりもっと大事な何かが起こる気がするんすよ」
アルフレッドの言葉にシーカーはついに堪忍袋の尾が切れたのか大激怒しながら罵声を浴びせる。
「お前は馬鹿なのかアホなのか大馬鹿なのかハッキリしろ、あれのどこがこんなのだ! バジリスクだぞ!? 災害指定生物だ! 地竜と同じで討伐隊を編成して戦うような化け物なんだぞ!?」
石化の魔眼を持つ災厄指定の危険生物バジリスク、石化させた生物を好んで食し、1mgで像すら即死させる程の毒を持つ大変危険な生物。そんなバジリスクの特徴は決して絶滅しないとされる不死性だ。バジリスクは一個体しか確認されていないのにも関わらず倒しても倒しても必ず時が経つと復活するのだ。
それ故にギルドは毎年必ず討伐体を組み、討伐を行うのだが、生憎と今年の討伐はまだ行われていなかったようだ。
バジリスクは石化の魔眼を向けているのにも関わらず全く石化しない二人を不思議そうに観察している。
それは、まるで知能があるような行動だった。
そんな動きのないバジリスクにシーカーは下手に動けずにいるのだが、緊迫した状況に陥っているのにも関わらず、アルフレッドの態度には緊張も恐れもない、むしろ先ほど感じた虫の報せのほうがよっぽど気になっている様子だった。
まるで物のついでのようにアルフレッドはシーカーに忠告をした。
「あ、シーカー、抵抗を切らしたら死ぬっすからね?」
「わかっている! クソ、何故お前と何処かに出掛けると必ずこういう化け物と対峙する羽目になるんだ!」
シーカーは本気でそんな事を嘆くがアルフレッドはケラケラと笑いながらシーカーに言った。
「やっぱり日頃の行いじゃないっすか?」
と、そういうアルフレッドにシーカーは納得したように応える。
「なるほど、それならこの状況になっているのは絶対にお前の行いが悪いせいだな」
ムッとして言い返そうとするがアルフレッドがそう口を開く前に遂にバジリスクが動きを見せた。
シャアァァァァァ、と威嚇をするような唸りを上げたバジリスクは弾丸のような速度でアルフレッドに襲いかかった。
「うおっ、とと」
間一髪バジリスクの顎を回避したアルフレッドはバジリスクの尻尾を掴もうとするが、その尻尾は無数の蛇に覆われていた。
手を出せば噛まれると直感したアルフレッドは、チッ、と舌打ちをして大人しく去りゆく尻尾を見逃した。
「いいかアルフ! バジリスクは体表に数千の蛇を飼っている、一匹一匹の毒がバジリスクの猛毒だと思った方がいい」
そういう事はもっと早く言って欲しいとアルフレッドは内心で思う。
しかし、それならどうしたものか、とアルフレッドは考える。
例によってドラグニカの剣は抜けない、だからと言って素手で蛇の群れに殴り掛かる訳にもいかない、割と八方ふさがりっすね、とため息を吐く。
バジリスクはしつこくアルフレッドを狙い、高速で這い回っている。
シーカーは上手いこと距離を取りつつバジリスクの意識を分散させているがそれはシーカーの剣の腕を持ってしても容易に近づけないという事だった。
「この速度じゃ逃げても簡単に食われそうっすね」
ーー賭けで一発ぶん殴るのも手っすけど、流石に毒は食らったことから怖いっすよね。
数多の攻撃を受けた事のあるアルフレッドだったが毒に耐性があるかどうかは分からなかった、竜の血が流れる自分なら或いは、と思う反面、毒が効いたらどうしよう、という不安も多分にあった。
ガラッと崩れる地面に足を取られ、少しだけバランスを崩すとバジリスクはその隙を突いてアルフレッドの足元に這い寄ってくる。
「ヤバッ」
危険を感じたアルフレッドは全力で地面を蹴り緊急跳躍した。すると、ゴッ、と鈍い音が脳内に響いた。
「イッ~~~」
「何をやっているんだお前は!」
勢い余って洞窟の天井に激突したアルフレッドをシーカーは罵倒する。
「ちょっとコレはヤバイっすよ、あれを殴るとなるも流石に俺も気合を入れないといけないっす、具体的には本気で叫ぶっす」
「止めろバカ、私が死ぬ、ここで竜の咆哮なんて使ってみろ、死んでもお前を殺しに行くからな!」
「じゃあどうしろって言うんすか!」
そう言い合いをしてる間もバジリスクは高速でアルフレッドを狙い襲い掛かってくる。
ーークッソ、もう賭けでも何でもぶん殴ってやるっすよ。
ヤケクソだ、とバジリスクに向かい駆け出そうとするとアルフレッドの頭に石が直撃する、なんだ、と上を見上げると激突した天井の一部が崩れていた。
ーーこれは……これしかないっす!
閃きをそのままアルフレッドは行動に移した。
大岩を持ち上げ、それをそのまま、
「ドっせーい」
と、バジリスクに投げ込んだ。
しかし、音速を超えて飛来する大岩をバジリスク苦もなく避けるとその大岩は壁に激突した。
「あら?」
「この大バカ野郎!」
シーカーの罵声を受け、アルフレッドは自分が大きなミスをした事に気付く。
ーー洞窟が崩れる!?
当たり前だった、 馬鹿力のアルフレッドが壁とほぼ同じ材質の物を壁にぶち当てたなら双方砕けるのが自明の理。
爆発音に近い衝突音が洞窟に響くと壁に大きな亀裂が走る。
これは別の意味でマズイ、とアルフレッドが深々と入った亀裂に気を取られた瞬間、シーカーの叫ぶ声が洞窟内に響き渡る。
「アルフ! 後ろだ!」
叫ぶシーカーの声にアルフレッドはハッと振り返ると、亀裂に気を取られたアルフレッドの隙を見逃さずに迫り来るバジリスクの姿を見た。
対応が間に合わない、そう悟ったアルフレッドは痛みを覚悟し歯を食いしばる、しかし、
「油断が過ぎるぞアルフ」
疾風の如き速さでシーカーがバジリスクの首を両断したお陰でその顎に咬まれる事はなかった。
ホッと一息吐くアルフレッドはシーカーの姿を見て驚いたように尋ねる。
「シーカー、その姿はもしかして精霊剣士のEXスキルっすか?」
シーカーの体は薄く透けていた、しかし存在が希薄になっている訳ではなく、むしろ力が強い力を感じる。
「そういえばまだお前には見せた事は無かったか、精霊化というスキルでな、契約した精霊の力の一部を身に宿す事の出来るスキルだ」
ほぉ、と感心しながらアルフレッドはシーカーに触れようと指を伸ばすといつもと変わらず触れる事が出来た。
「? 触れるっすよ?」
「当たり前だ、私の魔力でファルが現界出来るように私の場合も同じだ」
「なるほど、よく分からないっす」
まあ、分かってもらえるとは思っていなかったがね、とシーカーは呆れるとアルフレッドの所為で入った亀裂が急速に広がって行く。
「シーカー、モタモタしてると生き埋めっすよ?」
「誰のせいだ、誰の!」
と、アルフレッドを一喝するとシーカーは両断したバジリスクに目をやる。
「まだ生きてるのか」
バジリスクの頭部は恨めしげにシーカーを睨みつけ、その身を石化させようとしているが抵抗のスキルの所為で一向に石化する様子がなかった、胴体は頭部を求め少しずつ這いながら距離を縮めている。
「せめて安らかに眠るといい」
シーカーは頭部を縦に両断し、胴体にも何度か太刀を入れ、崩れ掛けの洞窟を後にした。
ーーーーーーーーーー
「もっと考えて行動するだ、アルフ。下手をすれば二人とも生き埋めだったんだぞ?」
学園への帰路でシーカーはそう言ってアルフレッドに反省を促す。
「まあまあ、次からは気をつけるっすよ、そんなに怒らないで欲しいっす」
本当にわかっているのか? とシーカーはジトッとした目でアルフレッドを睨む。
「しっかしバジリスクとエンカウントするとは思わなかったっすね、危うく蛇の餌になるとこだったっすね」
はははは、と何が楽しいのかアルフレッドは笑う。
「一応ギルドには報告をしなくてはいけないな、お前といると命が幾つあっても足りない気がするよ、本当に」
「またまた、シーカーならバジリスクだろうが地竜だろうが一人でも討伐できると思うっすよ? 実際さっきだって一人で討伐したようなもんじゃないっすか」
結果だけ見ればシーカーは一人でバジリスクという厄災を討伐したように見えるが実際のところは違う、アルフレッドがバジリスクの注意を完全に引き付けたお陰でシーカーはバジリスクの意表を突くことが出来たのだ。
それを自分の実力だと驕るような図太い神経をシーカーは持ち合わせていない。
「地竜の時は別身の呪いのお陰だった、今回のバジリスクだって一人では近づく事すら出来なかったよ」
「そうっすかね?」
あれほどの速さと攻撃力があるならバジリスクだろうと地竜だろうとシーカーは一人で屠るくらいの力はあるとアルフレッドは思うのだ。
「まあ、どのみち俺よりは強いっすよ、シーカーは」
それはないだろう、とシーカーが口を開いた瞬間、またアルフレッドは予感を感じ取る。
「なんか、本格的に嫌な予感がするっす」
険しい表情のアルフレッドにシーカーは尋ねる。
「お前は勘が良いからな、もし先に戻るなら一人で行ってくれ、私はギルドにバジリスクの報告をしなくてはいけないからな」
「分かったっす、荷物はシーカーに任せるっすよ」
ちょっと待て! とシーカーはアルフレッドを止めるが少しだけ遅かった、アルフレッドは地面を蹴り飛ばして跳躍するように消えたからだ。
「あ、アイツは~」
シーカーの目の前に置かれた荷物はアルフレッドが集めた山のような食材の数々、それはシーカーの身の丈の三倍はあった。
「アルフゥゥゥゥゥゥゥゥゥ」
置いて行かれた荷物を前に、シーカーは怨嗟の声を上げるのだった。
暗い洞窟の中でアルフレッドは漠然とした何かを感じ取る、ピリッと肌を刺すような感覚が身を襲うのだ。アルフレッドの経験上こういった感覚は十中八九悪い出来事が起こる前触れだった。
そんな予感を口にするアルフレッドの隣にいたシーカーが前方を見据え、静かに指を指した。
「嫌な予感とはアレの事じゃないのか?」
指を指す先には無数の蛇が連なって出来た大蛇が静かに佇んでいた、六つの赤い目は獲物を見つけた狩人のように二人を凝視している。
「いや、こんなのよりもっと大事な何かが起こる気がするんすよ」
アルフレッドの言葉にシーカーはついに堪忍袋の尾が切れたのか大激怒しながら罵声を浴びせる。
「お前は馬鹿なのかアホなのか大馬鹿なのかハッキリしろ、あれのどこがこんなのだ! バジリスクだぞ!? 災害指定生物だ! 地竜と同じで討伐隊を編成して戦うような化け物なんだぞ!?」
石化の魔眼を持つ災厄指定の危険生物バジリスク、石化させた生物を好んで食し、1mgで像すら即死させる程の毒を持つ大変危険な生物。そんなバジリスクの特徴は決して絶滅しないとされる不死性だ。バジリスクは一個体しか確認されていないのにも関わらず倒しても倒しても必ず時が経つと復活するのだ。
それ故にギルドは毎年必ず討伐体を組み、討伐を行うのだが、生憎と今年の討伐はまだ行われていなかったようだ。
バジリスクは石化の魔眼を向けているのにも関わらず全く石化しない二人を不思議そうに観察している。
それは、まるで知能があるような行動だった。
そんな動きのないバジリスクにシーカーは下手に動けずにいるのだが、緊迫した状況に陥っているのにも関わらず、アルフレッドの態度には緊張も恐れもない、むしろ先ほど感じた虫の報せのほうがよっぽど気になっている様子だった。
まるで物のついでのようにアルフレッドはシーカーに忠告をした。
「あ、シーカー、抵抗を切らしたら死ぬっすからね?」
「わかっている! クソ、何故お前と何処かに出掛けると必ずこういう化け物と対峙する羽目になるんだ!」
シーカーは本気でそんな事を嘆くがアルフレッドはケラケラと笑いながらシーカーに言った。
「やっぱり日頃の行いじゃないっすか?」
と、そういうアルフレッドにシーカーは納得したように応える。
「なるほど、それならこの状況になっているのは絶対にお前の行いが悪いせいだな」
ムッとして言い返そうとするがアルフレッドがそう口を開く前に遂にバジリスクが動きを見せた。
シャアァァァァァ、と威嚇をするような唸りを上げたバジリスクは弾丸のような速度でアルフレッドに襲いかかった。
「うおっ、とと」
間一髪バジリスクの顎を回避したアルフレッドはバジリスクの尻尾を掴もうとするが、その尻尾は無数の蛇に覆われていた。
手を出せば噛まれると直感したアルフレッドは、チッ、と舌打ちをして大人しく去りゆく尻尾を見逃した。
「いいかアルフ! バジリスクは体表に数千の蛇を飼っている、一匹一匹の毒がバジリスクの猛毒だと思った方がいい」
そういう事はもっと早く言って欲しいとアルフレッドは内心で思う。
しかし、それならどうしたものか、とアルフレッドは考える。
例によってドラグニカの剣は抜けない、だからと言って素手で蛇の群れに殴り掛かる訳にもいかない、割と八方ふさがりっすね、とため息を吐く。
バジリスクはしつこくアルフレッドを狙い、高速で這い回っている。
シーカーは上手いこと距離を取りつつバジリスクの意識を分散させているがそれはシーカーの剣の腕を持ってしても容易に近づけないという事だった。
「この速度じゃ逃げても簡単に食われそうっすね」
ーー賭けで一発ぶん殴るのも手っすけど、流石に毒は食らったことから怖いっすよね。
数多の攻撃を受けた事のあるアルフレッドだったが毒に耐性があるかどうかは分からなかった、竜の血が流れる自分なら或いは、と思う反面、毒が効いたらどうしよう、という不安も多分にあった。
ガラッと崩れる地面に足を取られ、少しだけバランスを崩すとバジリスクはその隙を突いてアルフレッドの足元に這い寄ってくる。
「ヤバッ」
危険を感じたアルフレッドは全力で地面を蹴り緊急跳躍した。すると、ゴッ、と鈍い音が脳内に響いた。
「イッ~~~」
「何をやっているんだお前は!」
勢い余って洞窟の天井に激突したアルフレッドをシーカーは罵倒する。
「ちょっとコレはヤバイっすよ、あれを殴るとなるも流石に俺も気合を入れないといけないっす、具体的には本気で叫ぶっす」
「止めろバカ、私が死ぬ、ここで竜の咆哮なんて使ってみろ、死んでもお前を殺しに行くからな!」
「じゃあどうしろって言うんすか!」
そう言い合いをしてる間もバジリスクは高速でアルフレッドを狙い襲い掛かってくる。
ーークッソ、もう賭けでも何でもぶん殴ってやるっすよ。
ヤケクソだ、とバジリスクに向かい駆け出そうとするとアルフレッドの頭に石が直撃する、なんだ、と上を見上げると激突した天井の一部が崩れていた。
ーーこれは……これしかないっす!
閃きをそのままアルフレッドは行動に移した。
大岩を持ち上げ、それをそのまま、
「ドっせーい」
と、バジリスクに投げ込んだ。
しかし、音速を超えて飛来する大岩をバジリスク苦もなく避けるとその大岩は壁に激突した。
「あら?」
「この大バカ野郎!」
シーカーの罵声を受け、アルフレッドは自分が大きなミスをした事に気付く。
ーー洞窟が崩れる!?
当たり前だった、 馬鹿力のアルフレッドが壁とほぼ同じ材質の物を壁にぶち当てたなら双方砕けるのが自明の理。
爆発音に近い衝突音が洞窟に響くと壁に大きな亀裂が走る。
これは別の意味でマズイ、とアルフレッドが深々と入った亀裂に気を取られた瞬間、シーカーの叫ぶ声が洞窟内に響き渡る。
「アルフ! 後ろだ!」
叫ぶシーカーの声にアルフレッドはハッと振り返ると、亀裂に気を取られたアルフレッドの隙を見逃さずに迫り来るバジリスクの姿を見た。
対応が間に合わない、そう悟ったアルフレッドは痛みを覚悟し歯を食いしばる、しかし、
「油断が過ぎるぞアルフ」
疾風の如き速さでシーカーがバジリスクの首を両断したお陰でその顎に咬まれる事はなかった。
ホッと一息吐くアルフレッドはシーカーの姿を見て驚いたように尋ねる。
「シーカー、その姿はもしかして精霊剣士のEXスキルっすか?」
シーカーの体は薄く透けていた、しかし存在が希薄になっている訳ではなく、むしろ力が強い力を感じる。
「そういえばまだお前には見せた事は無かったか、精霊化というスキルでな、契約した精霊の力の一部を身に宿す事の出来るスキルだ」
ほぉ、と感心しながらアルフレッドはシーカーに触れようと指を伸ばすといつもと変わらず触れる事が出来た。
「? 触れるっすよ?」
「当たり前だ、私の魔力でファルが現界出来るように私の場合も同じだ」
「なるほど、よく分からないっす」
まあ、分かってもらえるとは思っていなかったがね、とシーカーは呆れるとアルフレッドの所為で入った亀裂が急速に広がって行く。
「シーカー、モタモタしてると生き埋めっすよ?」
「誰のせいだ、誰の!」
と、アルフレッドを一喝するとシーカーは両断したバジリスクに目をやる。
「まだ生きてるのか」
バジリスクの頭部は恨めしげにシーカーを睨みつけ、その身を石化させようとしているが抵抗のスキルの所為で一向に石化する様子がなかった、胴体は頭部を求め少しずつ這いながら距離を縮めている。
「せめて安らかに眠るといい」
シーカーは頭部を縦に両断し、胴体にも何度か太刀を入れ、崩れ掛けの洞窟を後にした。
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「もっと考えて行動するだ、アルフ。下手をすれば二人とも生き埋めだったんだぞ?」
学園への帰路でシーカーはそう言ってアルフレッドに反省を促す。
「まあまあ、次からは気をつけるっすよ、そんなに怒らないで欲しいっす」
本当にわかっているのか? とシーカーはジトッとした目でアルフレッドを睨む。
「しっかしバジリスクとエンカウントするとは思わなかったっすね、危うく蛇の餌になるとこだったっすね」
はははは、と何が楽しいのかアルフレッドは笑う。
「一応ギルドには報告をしなくてはいけないな、お前といると命が幾つあっても足りない気がするよ、本当に」
「またまた、シーカーならバジリスクだろうが地竜だろうが一人でも討伐できると思うっすよ? 実際さっきだって一人で討伐したようなもんじゃないっすか」
結果だけ見ればシーカーは一人でバジリスクという厄災を討伐したように見えるが実際のところは違う、アルフレッドがバジリスクの注意を完全に引き付けたお陰でシーカーはバジリスクの意表を突くことが出来たのだ。
それを自分の実力だと驕るような図太い神経をシーカーは持ち合わせていない。
「地竜の時は別身の呪いのお陰だった、今回のバジリスクだって一人では近づく事すら出来なかったよ」
「そうっすかね?」
あれほどの速さと攻撃力があるならバジリスクだろうと地竜だろうとシーカーは一人で屠るくらいの力はあるとアルフレッドは思うのだ。
「まあ、どのみち俺よりは強いっすよ、シーカーは」
それはないだろう、とシーカーが口を開いた瞬間、またアルフレッドは予感を感じ取る。
「なんか、本格的に嫌な予感がするっす」
険しい表情のアルフレッドにシーカーは尋ねる。
「お前は勘が良いからな、もし先に戻るなら一人で行ってくれ、私はギルドにバジリスクの報告をしなくてはいけないからな」
「分かったっす、荷物はシーカーに任せるっすよ」
ちょっと待て! とシーカーはアルフレッドを止めるが少しだけ遅かった、アルフレッドは地面を蹴り飛ばして跳躍するように消えたからだ。
「あ、アイツは~」
シーカーの目の前に置かれた荷物はアルフレッドが集めた山のような食材の数々、それはシーカーの身の丈の三倍はあった。
「アルフゥゥゥゥゥゥゥゥゥ」
置いて行かれた荷物を前に、シーカーは怨嗟の声を上げるのだった。
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