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第ニ章・お兄様をさがせ!
第二十九話
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「ああ、だるい」
眠たげな目をした少女が高台の上から地上を見下ろしていた。
銀色の髪を風になびかせると、少女は一つため息を吐く。
「誰だよって話、このご時世に災厄指定の蛇を個人で駆逐するとか」
ああほんとに面倒だ、ともう一度口にする。
「そもそも魔女ってやつはこの世にいちゃいけないって話、なのになんでいるのかって話」
かく言う自分もその魔女の一角だという矛盾。
少女は矛盾を抱えて生きる魔女である。
死にたいような生きたいような、殺したいような慈しみたいような、憎みたいような愛したいような、そんな矛盾だらけの感情を抱くのが、少女という存在だった。
「世界が心中してくれるなら死んでもいいけどって話だけど」
ゆっくりと手櫛で髪を梳かすと銀の髪が一本だけ抜ける。
「これでいいっか」
少女がその髪の毛を風に流すと、髪は揺ら揺らと舞いながら岩に付着する。髪は一瞬だけ発光したかと思うと岩と完全に同化した。
「だる、眷属違いの蛇になんで面倒掛けられないといけないんだって話」
気怠げに少女は歩を進める、行き先は奈落の底。
「これで死ねたら、楽って話なんだけど」
少女の歩む先には道はない、それは比喩ではなく本当に切り立つ崖そのものだった。それでも少女は歩を進める、死に向かい、奈落へ向かい、恐れもなく怖れもなく、崖の下を目指すのだ。
「ほんとに、誰か殺してくんないかなって……話」
少女は気怠げに崖から足を踏み外すのだった。
地面に真っ赤な血だまりが出来上がるころ、真っ逆さまに落ちた少女の傍に仮面を付けた人物が立っていた。
特筆すべき特徴も無い仮面の人物は、少女の飛び散った肉片を両手いっぱいに持っている。
「あー、ありがと? いや、よくやった? つかさっさと戻せ、欠片が足りないって話」
半壊した身体を起こし少女は仮面の人物にそう指示をする。と、仮面の人物は少女の肉片をその場に落とした。
「おいって話。なに? 喧嘩売ってんの? 世界と一緒に呪うぞ、色欲」
仮面の下で、フフ、と小さく笑う声が響く。
「矛盾してる、怠惰の癖に怒りを抱くなんて」
「別に矛盾はしてないって話、あくまで魔女ってのは職業の範疇、感情がない訳じゃないって話」
その感情こそ、この世で最も矛盾を含んだものなのですけどね、と仮面は言う。すると、
「くだらねー話をするならさっさと消えろって話、マジで消すぞ、悦の色欲さんよぉ」
本物の怒りを感じた仮面はスカートの裾をつまみ上げ一礼する。
「これは失礼を、矛盾の魔女さま、どうかお怒りを鎮め下さい」
銀の髪を掻き毟り、少女はため息を吐く。
「だる」
怒りが急激に怠惰へと変換すると少女は口癖のように、死にたい、とこぼす。
「ところで怠惰、蛇はどうしたのですか?」
仮面がそう尋ねると少女は気怠げに崖の上を指差した。
「なるほど、あの魂に任せるということですか」
「なんか殺したい奴がいるんだって話、何でも、〝石化が効かない〟人間って話?」
「手練れ、ですね。もしや竜の英雄?」
「近いなにかって話」
本当に面倒だと少女は何度目かのため息を吐く。
「人里はこれで混乱が起きるでしょうね」
「知るか、って話、そもそも魔女って世界の災厄だろって話」
「然り、やっと怠惰も理解出来たのですね、世界と私達は相容れないという事に」
「…………、他の奴らは?」
「憤怒、強欲が未だ候補のみ、まだ盤面は動かない」
「あっそ、後は勝手にしろって話、分かった?」
「仰せのままに、怠惰さま」
「なら、良いって話」
そう言うと、少女は自らの目に指を入れ、右の眼球を取り出した。
目に繋がる神経を無理やり引き抜くと、何とも言えない不気味な音が辺りに響いた。
「ん、復活」
呪いの起動キーを口にすると少女の右目が光を放つ。
すると少女の赤眼から小さな蛇が無数に生まれ出てくる、途轍もない量の、蛇、蛇、蛇。
その勢いは止まることを知らず、遂には少女らの足元が蛇で埋まる程だった。
質量を吐き出し切ったのか、蛇を排出していた眼球は蛇を生み出すことを止め、やがて黒い魔力へと変わり果てる。
少女がその魔力を手から溢すと、少女は呪詛を込めて一言だけ口にした。
「呪え」
その言葉に反応するかのように蛇の海は少女の目の前で一つの塊として在り方を変えた。
「嫉妬も喜ぶでしょうね」
「アレは喜ばない、むしろ嫉妬するだけだって話」
六つの赤い目を光らせると大蛇は静かに唸りを上げた。
『シュロロロロロ』
「待て、お前は洞窟で待機だって話」
少女が大蛇にそう命を下すと身を低くして、少女に懐くような仕草を見せる。
「きもいって話」
「怠惰、私は少し用事があります。後はこの子に任せても?」
仮面がそう言うと、少女は燻噛むような表情を浮かべ気怠げに言った。
「あまりアレに肩入れするなって話、強欲候補だろうがなんだろうが、この世界の者じゃない、だるい」
「あれほど自分勝手で最悪な人間なら候補どころか確定しても良いかと思いますけどね」
仮面は、何にせよ、と言葉を一度切る。
「魔女候補はこれで二人、決まるまで時間が掛かると言うのなら、私からアクションを起こすのも一興かと」
「…………勝手にしろって話」
仮面は小さく笑うと、では、と言い残し姿を消す。
銀髪の少女は虚空を見つめ、一言呟く。
「魔女と世界は相容れない、か…………どうでも、良いって話」
そう呟く少女もまた、闇に溶けるように姿を晦ませるのだった。
眠たげな目をした少女が高台の上から地上を見下ろしていた。
銀色の髪を風になびかせると、少女は一つため息を吐く。
「誰だよって話、このご時世に災厄指定の蛇を個人で駆逐するとか」
ああほんとに面倒だ、ともう一度口にする。
「そもそも魔女ってやつはこの世にいちゃいけないって話、なのになんでいるのかって話」
かく言う自分もその魔女の一角だという矛盾。
少女は矛盾を抱えて生きる魔女である。
死にたいような生きたいような、殺したいような慈しみたいような、憎みたいような愛したいような、そんな矛盾だらけの感情を抱くのが、少女という存在だった。
「世界が心中してくれるなら死んでもいいけどって話だけど」
ゆっくりと手櫛で髪を梳かすと銀の髪が一本だけ抜ける。
「これでいいっか」
少女がその髪の毛を風に流すと、髪は揺ら揺らと舞いながら岩に付着する。髪は一瞬だけ発光したかと思うと岩と完全に同化した。
「だる、眷属違いの蛇になんで面倒掛けられないといけないんだって話」
気怠げに少女は歩を進める、行き先は奈落の底。
「これで死ねたら、楽って話なんだけど」
少女の歩む先には道はない、それは比喩ではなく本当に切り立つ崖そのものだった。それでも少女は歩を進める、死に向かい、奈落へ向かい、恐れもなく怖れもなく、崖の下を目指すのだ。
「ほんとに、誰か殺してくんないかなって……話」
少女は気怠げに崖から足を踏み外すのだった。
地面に真っ赤な血だまりが出来上がるころ、真っ逆さまに落ちた少女の傍に仮面を付けた人物が立っていた。
特筆すべき特徴も無い仮面の人物は、少女の飛び散った肉片を両手いっぱいに持っている。
「あー、ありがと? いや、よくやった? つかさっさと戻せ、欠片が足りないって話」
半壊した身体を起こし少女は仮面の人物にそう指示をする。と、仮面の人物は少女の肉片をその場に落とした。
「おいって話。なに? 喧嘩売ってんの? 世界と一緒に呪うぞ、色欲」
仮面の下で、フフ、と小さく笑う声が響く。
「矛盾してる、怠惰の癖に怒りを抱くなんて」
「別に矛盾はしてないって話、あくまで魔女ってのは職業の範疇、感情がない訳じゃないって話」
その感情こそ、この世で最も矛盾を含んだものなのですけどね、と仮面は言う。すると、
「くだらねー話をするならさっさと消えろって話、マジで消すぞ、悦の色欲さんよぉ」
本物の怒りを感じた仮面はスカートの裾をつまみ上げ一礼する。
「これは失礼を、矛盾の魔女さま、どうかお怒りを鎮め下さい」
銀の髪を掻き毟り、少女はため息を吐く。
「だる」
怒りが急激に怠惰へと変換すると少女は口癖のように、死にたい、とこぼす。
「ところで怠惰、蛇はどうしたのですか?」
仮面がそう尋ねると少女は気怠げに崖の上を指差した。
「なるほど、あの魂に任せるということですか」
「なんか殺したい奴がいるんだって話、何でも、〝石化が効かない〟人間って話?」
「手練れ、ですね。もしや竜の英雄?」
「近いなにかって話」
本当に面倒だと少女は何度目かのため息を吐く。
「人里はこれで混乱が起きるでしょうね」
「知るか、って話、そもそも魔女って世界の災厄だろって話」
「然り、やっと怠惰も理解出来たのですね、世界と私達は相容れないという事に」
「…………、他の奴らは?」
「憤怒、強欲が未だ候補のみ、まだ盤面は動かない」
「あっそ、後は勝手にしろって話、分かった?」
「仰せのままに、怠惰さま」
「なら、良いって話」
そう言うと、少女は自らの目に指を入れ、右の眼球を取り出した。
目に繋がる神経を無理やり引き抜くと、何とも言えない不気味な音が辺りに響いた。
「ん、復活」
呪いの起動キーを口にすると少女の右目が光を放つ。
すると少女の赤眼から小さな蛇が無数に生まれ出てくる、途轍もない量の、蛇、蛇、蛇。
その勢いは止まることを知らず、遂には少女らの足元が蛇で埋まる程だった。
質量を吐き出し切ったのか、蛇を排出していた眼球は蛇を生み出すことを止め、やがて黒い魔力へと変わり果てる。
少女がその魔力を手から溢すと、少女は呪詛を込めて一言だけ口にした。
「呪え」
その言葉に反応するかのように蛇の海は少女の目の前で一つの塊として在り方を変えた。
「嫉妬も喜ぶでしょうね」
「アレは喜ばない、むしろ嫉妬するだけだって話」
六つの赤い目を光らせると大蛇は静かに唸りを上げた。
『シュロロロロロ』
「待て、お前は洞窟で待機だって話」
少女が大蛇にそう命を下すと身を低くして、少女に懐くような仕草を見せる。
「きもいって話」
「怠惰、私は少し用事があります。後はこの子に任せても?」
仮面がそう言うと、少女は燻噛むような表情を浮かべ気怠げに言った。
「あまりアレに肩入れするなって話、強欲候補だろうがなんだろうが、この世界の者じゃない、だるい」
「あれほど自分勝手で最悪な人間なら候補どころか確定しても良いかと思いますけどね」
仮面は、何にせよ、と言葉を一度切る。
「魔女候補はこれで二人、決まるまで時間が掛かると言うのなら、私からアクションを起こすのも一興かと」
「…………勝手にしろって話」
仮面は小さく笑うと、では、と言い残し姿を消す。
銀髪の少女は虚空を見つめ、一言呟く。
「魔女と世界は相容れない、か…………どうでも、良いって話」
そう呟く少女もまた、闇に溶けるように姿を晦ませるのだった。
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