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第一章・最弱の魔法使い
第十一話
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リリィがテストを始めてから一時間、答案を受け取ったベルベットは驚愕していた。
「嘘でしょ?」
リリィが行った三枚のテストの点数はオール100点、花マルがつく見事な満点だった。
これがただの魔法基礎学のテストだったのならベルベットは驚きもせずに、出来て当たり前、と鼻で笑う事だろう。
しかし、今回ベルベットが出したテストは三枚。
一枚が魔法基礎学、二枚目が魔法基礎学の応用、三枚目が魔法高学、三枚目の魔法高学は一級魔法使いが半年かけて習うようなレベルのもので到底、最下級の人間が解けるような問題ではないはずなのだ。
「ベルベット、点数はどう? すこーしだけ自身あるんだけど」
不安気にベルベットを見つめるリリィを横目にベルベットは考える。
ーーコイツ、本当に魔法使いの職業適性がGなのかしら?
しかし、現実に最下級としてのリリィがいる訳だから疑いようのない事実ではあったが、にわかには信じ難いとベルベットはリリィに尋ねる。
「マクスウェル、アンタどうやって魔法高学なんて学んだの?」
どうやって、と聞かれてもリリィは、普通に、としか答えようがなかった。
図書室から参考書や文献を借りて、内容を理解するまで読み込む、理解が出来たら出来る範囲で実際に試す、これだけの事だった。だからリリィは、普通に、と答える。
「そんなことはありえないわ、最下級の人間が普通に学ぶ程度で魔法高学まで納めているなんて……異常よ」
「そんな事いわれても、他にすることが無かったし、あと必死だったから異常って言われても困るよ」
必死になる程度で納められるほど甘いものでない事はそれを学んだベルベットが良く理解していた。
「それにね? 分からない事をそのままにしない、分かるまでやる、出来る範囲で頑張る、これをしたら誰でも知識は得られると思わない?」
不思議そうにリリィはそういうが、言うが易しとはこの事だ。
それを妥協せずに毎日のように繰り返せる人間がどれ程いるのか、という話だ。
ベルベットは半ば呆れて物も言えなくなった。
当のリリィはと言うと、そんなに変な事を言ったかな? と疑問符を浮かべている。
ーー納得、するべきかしら?
リリィが嘘をつくようにも思えないし、何より嘘を吐く必要性が皆無だとベルベットは考える。
解せない点と不可解な点は幾つかあるが、リリィが自覚すらしていないならこの場で問いただしても無駄だろう。
ならば予想より依頼が楽になった程度に考えるのが妥当だと思い、ベルベットは話を打ち切った。
「マクスウェル、アンタの得意な魔法はなに?」
「たぶん熱魔法、のはずなんだけど」
「歯切れが悪いわね、曖昧な理由は?」
「色々試した結果なの、唯一スムーズに使えた魔法が熱魔法だったから、なんだけど、」
「けど?」
「発動がスムーズだっただけで他の魔法と大差無かったから、得意か? って聞かれるとね」
ズーンと落ち込むリリィ、ベルベットは嘆息して指を鳴らした。すると、リリィのテーブルに半透明の水晶が現れる。
その水晶が目に入った瞬間にリリィのテンションは一気に跳ね上がる。
「これって自分の得意な系統の魔法が分かる虹彩水晶ですよね!? 実物を見るのは初めてです!!」
鼻息を荒く興奮するリリィに若干引きながらベルベットは聞く。
「アンタ、それだけの知識を持っていてこんな物も使って無かったの?」
「当たり前だよ! 虹彩水晶が幾らするか知ってる? 市場の相場で三十八万エギルだよ、簡単に買える値段じゃないし滅多に市場に出回る物じゃないから、見るのも今日が初めてだよ!」
「いやそういう事じゃなくて、普通に学園の物を使えば良かったんじゃないの?」
と、至極真っ当な事を言うベルベットにリリィは興奮したまま答える。
「下等級の人間が学園で使えるのは図書室と別棟の教室だけなの、だから実習とかで使う機材とかは私が自分で調達しないと行けなくて、これは買えなかったからもうすっごいね!! ねえねえ使ってもいい? いいよね?」
不幸自慢をするわけでもなく、ただただ早くこの水晶を使いたいといった具合のリリィを見て思う。
ーーこの子はバカなんだろうか?
と。
ベルベットは下等級の人間がどういう扱いを受けているかは知らないが、使わせてもらえないというだけで自分で調達しようとするだろうか?
答えは否だ。
普通なら抜け道や多少のルール違反をしてでも学園にある物を使おうとする筈だ、それは権利がない人間なら誰でも考えてしまう事だし、誰でも行ってしまう事だと思う。
しかし、リリィはそれをしなかった、あろう事か相場を調べ、あわよくば購入しようとしているのだから馬鹿正直にも程があるというものだ。
完全に毒気を抜かれた、とベルベットは思う。
こんなクソがつくほど大真面目な人間にアルフレッドを騙すような事は思いつかないだろう。
敵意を持って接していたのが馬鹿みたいだと呆れ返ってしまう。
それに、ベルベットは弱者は嫌いだが、弱者と自覚しながら上を目指す人間の事は嫌いではなかった。
「で、使い方は?」
「虹彩水晶が発行する魔力を流し込んで、光った色でその人の得意な系統の魔法が分かる、でしょ?」
「じゃ、やってみて」
「はい!」
リリィが水晶に魔力を込めると、水晶が淡く発光を始める。
ゆらゆら、ゆらゆらと少しづつ色を変える水晶の光は、青、緑、茶、黒、白、と変わり最後に赤色になったところで止まった。
「アンタの感覚は正しかったみたいね、熱魔法がアンタに一番相性の良い魔法よ」
「熱魔法」
やっと少しだけ前に進めた、とリリィは嬉しく思う。
感動のあまり泣いてしまいそうになるくらい。
「なんで涙目になってんのよ」
「えっ? あれ? どうしたのかな?」
ははは、と泣きそうになりながら笑うリリィの気持ちは分からないが、少なくとも悲しいからとか、悔しいからではないのはベルベットにも分かった。
小さく息を吐き、ベルベットは言う。
「めんど~な女ね、アンタ」
「だよね、ごめんね?」
「まあ、いいわ」
あーしには関係ないし、と言ってベルベットは指を鳴らすと、その手には一冊の本が現れる。
「これは大図書館のAランクの蔵書、中には記載されているのは、とある魔法使いの秘奥よ」
「でも私が読めるのは図書室のBランクまでだよ?」
大図書館と図書室には大きな違いがある。
大図書館には一級魔法使い、もしくはEX職業の者しか入れないし持ち出せない、基本的に抵抗のスキル持ちじゃないと読めない本が多いからだ。
対して図書室は一般向けの優しい本が置いてある場所だと思えばいいだろう、置いてある本のランクもAまで、それも読んでも発狂したり、死んだりしない安全な物ばかりだ。
大図書館は危ない、図書室は安全、というのが学園内での認識だ。
「別にアンタに読ませる為に出したわけじゃないし、これからあーしがアンタの為にほぼ唯一と言っていいくらいの可能性を提示してあげるから、あとは勝手にやって」
「えっ、魔法おしえてくれないの?」
さっきとは別の意味で泣きそうになるリリィにベルベットは言う。
「アンタ、自分が思ってるほど才能がないわけじゃない、ただやり方が馬鹿正直すぎるだけよ」
あとは環境にも恵まれなかったわね、とは口には出さなかったが内心でそう付け加える。
「私に才能がある?」
「これはあーしの自論、魔道とは知識、そう思うのよ、その自論に従うならアンタはそれなりに素質はあるんじゃないかしら?」
何も言わずに呆然とするリリィの視線に耐えられなくなったのか、ベルベットは頬を染めてソッポを向く。
ーーこんなのあーしの柄じゃなかったわ。
熱くなってしまったと後悔していると、リリィがふふふ、と笑う声が聞こえる。
「なによ」
馬鹿にされたと思い睨みつけるように振り返るベルベット。
しかし、リリィが嘲笑をしている訳ではない事が雰囲気で分かってしまう。
ーー調子狂うわね。
敵意も害意も嫉妬も媚びへつらうような卑屈さも感じさせないリリィの笑みはベルベットには少し珍しいものだった。
「ねえベルベット、私ね?」
突然、嬉しそうに話し始めるリリィ。
何かしら? とベルベットが返すと、
「貴女と友達になりたい」
思い掛けない一言に、ベルベットの頬は更に赤く染まった。
「な、馴れ合いなんてゴメンだってさっき言ったでしょうが」
「馴れ合いじゃなくて、私はベルベットの友達に成りたいの、だめ?」
「友達が馴れ合いじゃないって言うならなんなのよ、寄り掛かられるだけならあーしの行く道の邪魔だわ」
強く拒絶の意を告げるベルベットだが、リリィはそれでも諦めない。
「大丈夫だよ、私はベルベットに寄りかかったりしないもん、頑張って自分で歩いて、いつかベルベットと本当の意味で対等な友達になるから」
どこからそんな自信が来るのか分からないとベルベットは頭を掻き毟る。
「いやよ、あーしは一人が好きなの! 友達なんかいらない、アンタとは昇級試験までの付き合い、それだけ!!」
「いや! そんなの寂しいよ、ベルベット……いや、ベルの友達になりたい、絶対に!」
「べ、ベル? あ、あーしに愛称を付けたわね? 小さいからって馬鹿にしてるの!?」
「違うよ、ベルベットなんて他人行儀だなって思って」
「他人じゃない!」
「もう友達だもん!」
ゼーゼーとお互いに肩で息をする程に白熱した言い合いに制したのはベルベットだった。
「もう、怒った」
「えっ?」
「あーし、アンタに教えるの止める、アンタがあーしに寄りかからないって言うならあーし抜きで昇級試験に受かってみなさい、そうしたらアンタの事を認めてあげるわ」
ぐっ、と言葉に詰まるリリィだったが、ベルベットの言うことも最もだと思ったのか、決意を新たにベルベットに向き直る。
「分かった、私やるよ。絶対に受かってみせる」
折れないリリィに顔を真っ赤にしながらベルベットは揺さぶりを掛ける。
「いま謝るなら許してあげるけど?」
しかし、リリィ首を振って即座にそれを断った。
「なし崩しでベルと仲良くなっても私は嬉しくない、ベルが友達としての条件を出すなら、私はそれを乗り越えてみせるよ」
何も言えず、っーーと悶えるベルベットを背にリリィは踵を返して歩き出す。
そんなリリィの背中に向かってベルベットは一つだけヒントを出す。
「フェアじゃないからヒントを出すわ」
「?」
「あーしたち魔法使いは全員が上級魔法を使える魔力を持ってる訳じゃない、でも魔力が足りなくても上級魔法を使える人たちは確かにいる、ヒントは終わり、これでフェアよ」
後は勝手にして、と言うベルベットはリリィに背を向ける。
その姿は見た目通りの反応っぼいな、とリリィは思った。
「ありがとう、ベル。絶対に合格してみせるから」
そう言って、リリィは工房を後にした。
ーーーーーーーーーー
「なんであーしなのよ」
寂しげな声が工房の中で小さく響く。
「別に、あーしは……」
ーー孤独だってかまわないのに。
「嘘でしょ?」
リリィが行った三枚のテストの点数はオール100点、花マルがつく見事な満点だった。
これがただの魔法基礎学のテストだったのならベルベットは驚きもせずに、出来て当たり前、と鼻で笑う事だろう。
しかし、今回ベルベットが出したテストは三枚。
一枚が魔法基礎学、二枚目が魔法基礎学の応用、三枚目が魔法高学、三枚目の魔法高学は一級魔法使いが半年かけて習うようなレベルのもので到底、最下級の人間が解けるような問題ではないはずなのだ。
「ベルベット、点数はどう? すこーしだけ自身あるんだけど」
不安気にベルベットを見つめるリリィを横目にベルベットは考える。
ーーコイツ、本当に魔法使いの職業適性がGなのかしら?
しかし、現実に最下級としてのリリィがいる訳だから疑いようのない事実ではあったが、にわかには信じ難いとベルベットはリリィに尋ねる。
「マクスウェル、アンタどうやって魔法高学なんて学んだの?」
どうやって、と聞かれてもリリィは、普通に、としか答えようがなかった。
図書室から参考書や文献を借りて、内容を理解するまで読み込む、理解が出来たら出来る範囲で実際に試す、これだけの事だった。だからリリィは、普通に、と答える。
「そんなことはありえないわ、最下級の人間が普通に学ぶ程度で魔法高学まで納めているなんて……異常よ」
「そんな事いわれても、他にすることが無かったし、あと必死だったから異常って言われても困るよ」
必死になる程度で納められるほど甘いものでない事はそれを学んだベルベットが良く理解していた。
「それにね? 分からない事をそのままにしない、分かるまでやる、出来る範囲で頑張る、これをしたら誰でも知識は得られると思わない?」
不思議そうにリリィはそういうが、言うが易しとはこの事だ。
それを妥協せずに毎日のように繰り返せる人間がどれ程いるのか、という話だ。
ベルベットは半ば呆れて物も言えなくなった。
当のリリィはと言うと、そんなに変な事を言ったかな? と疑問符を浮かべている。
ーー納得、するべきかしら?
リリィが嘘をつくようにも思えないし、何より嘘を吐く必要性が皆無だとベルベットは考える。
解せない点と不可解な点は幾つかあるが、リリィが自覚すらしていないならこの場で問いただしても無駄だろう。
ならば予想より依頼が楽になった程度に考えるのが妥当だと思い、ベルベットは話を打ち切った。
「マクスウェル、アンタの得意な魔法はなに?」
「たぶん熱魔法、のはずなんだけど」
「歯切れが悪いわね、曖昧な理由は?」
「色々試した結果なの、唯一スムーズに使えた魔法が熱魔法だったから、なんだけど、」
「けど?」
「発動がスムーズだっただけで他の魔法と大差無かったから、得意か? って聞かれるとね」
ズーンと落ち込むリリィ、ベルベットは嘆息して指を鳴らした。すると、リリィのテーブルに半透明の水晶が現れる。
その水晶が目に入った瞬間にリリィのテンションは一気に跳ね上がる。
「これって自分の得意な系統の魔法が分かる虹彩水晶ですよね!? 実物を見るのは初めてです!!」
鼻息を荒く興奮するリリィに若干引きながらベルベットは聞く。
「アンタ、それだけの知識を持っていてこんな物も使って無かったの?」
「当たり前だよ! 虹彩水晶が幾らするか知ってる? 市場の相場で三十八万エギルだよ、簡単に買える値段じゃないし滅多に市場に出回る物じゃないから、見るのも今日が初めてだよ!」
「いやそういう事じゃなくて、普通に学園の物を使えば良かったんじゃないの?」
と、至極真っ当な事を言うベルベットにリリィは興奮したまま答える。
「下等級の人間が学園で使えるのは図書室と別棟の教室だけなの、だから実習とかで使う機材とかは私が自分で調達しないと行けなくて、これは買えなかったからもうすっごいね!! ねえねえ使ってもいい? いいよね?」
不幸自慢をするわけでもなく、ただただ早くこの水晶を使いたいといった具合のリリィを見て思う。
ーーこの子はバカなんだろうか?
と。
ベルベットは下等級の人間がどういう扱いを受けているかは知らないが、使わせてもらえないというだけで自分で調達しようとするだろうか?
答えは否だ。
普通なら抜け道や多少のルール違反をしてでも学園にある物を使おうとする筈だ、それは権利がない人間なら誰でも考えてしまう事だし、誰でも行ってしまう事だと思う。
しかし、リリィはそれをしなかった、あろう事か相場を調べ、あわよくば購入しようとしているのだから馬鹿正直にも程があるというものだ。
完全に毒気を抜かれた、とベルベットは思う。
こんなクソがつくほど大真面目な人間にアルフレッドを騙すような事は思いつかないだろう。
敵意を持って接していたのが馬鹿みたいだと呆れ返ってしまう。
それに、ベルベットは弱者は嫌いだが、弱者と自覚しながら上を目指す人間の事は嫌いではなかった。
「で、使い方は?」
「虹彩水晶が発行する魔力を流し込んで、光った色でその人の得意な系統の魔法が分かる、でしょ?」
「じゃ、やってみて」
「はい!」
リリィが水晶に魔力を込めると、水晶が淡く発光を始める。
ゆらゆら、ゆらゆらと少しづつ色を変える水晶の光は、青、緑、茶、黒、白、と変わり最後に赤色になったところで止まった。
「アンタの感覚は正しかったみたいね、熱魔法がアンタに一番相性の良い魔法よ」
「熱魔法」
やっと少しだけ前に進めた、とリリィは嬉しく思う。
感動のあまり泣いてしまいそうになるくらい。
「なんで涙目になってんのよ」
「えっ? あれ? どうしたのかな?」
ははは、と泣きそうになりながら笑うリリィの気持ちは分からないが、少なくとも悲しいからとか、悔しいからではないのはベルベットにも分かった。
小さく息を吐き、ベルベットは言う。
「めんど~な女ね、アンタ」
「だよね、ごめんね?」
「まあ、いいわ」
あーしには関係ないし、と言ってベルベットは指を鳴らすと、その手には一冊の本が現れる。
「これは大図書館のAランクの蔵書、中には記載されているのは、とある魔法使いの秘奥よ」
「でも私が読めるのは図書室のBランクまでだよ?」
大図書館と図書室には大きな違いがある。
大図書館には一級魔法使い、もしくはEX職業の者しか入れないし持ち出せない、基本的に抵抗のスキル持ちじゃないと読めない本が多いからだ。
対して図書室は一般向けの優しい本が置いてある場所だと思えばいいだろう、置いてある本のランクもAまで、それも読んでも発狂したり、死んだりしない安全な物ばかりだ。
大図書館は危ない、図書室は安全、というのが学園内での認識だ。
「別にアンタに読ませる為に出したわけじゃないし、これからあーしがアンタの為にほぼ唯一と言っていいくらいの可能性を提示してあげるから、あとは勝手にやって」
「えっ、魔法おしえてくれないの?」
さっきとは別の意味で泣きそうになるリリィにベルベットは言う。
「アンタ、自分が思ってるほど才能がないわけじゃない、ただやり方が馬鹿正直すぎるだけよ」
あとは環境にも恵まれなかったわね、とは口には出さなかったが内心でそう付け加える。
「私に才能がある?」
「これはあーしの自論、魔道とは知識、そう思うのよ、その自論に従うならアンタはそれなりに素質はあるんじゃないかしら?」
何も言わずに呆然とするリリィの視線に耐えられなくなったのか、ベルベットは頬を染めてソッポを向く。
ーーこんなのあーしの柄じゃなかったわ。
熱くなってしまったと後悔していると、リリィがふふふ、と笑う声が聞こえる。
「なによ」
馬鹿にされたと思い睨みつけるように振り返るベルベット。
しかし、リリィが嘲笑をしている訳ではない事が雰囲気で分かってしまう。
ーー調子狂うわね。
敵意も害意も嫉妬も媚びへつらうような卑屈さも感じさせないリリィの笑みはベルベットには少し珍しいものだった。
「ねえベルベット、私ね?」
突然、嬉しそうに話し始めるリリィ。
何かしら? とベルベットが返すと、
「貴女と友達になりたい」
思い掛けない一言に、ベルベットの頬は更に赤く染まった。
「な、馴れ合いなんてゴメンだってさっき言ったでしょうが」
「馴れ合いじゃなくて、私はベルベットの友達に成りたいの、だめ?」
「友達が馴れ合いじゃないって言うならなんなのよ、寄り掛かられるだけならあーしの行く道の邪魔だわ」
強く拒絶の意を告げるベルベットだが、リリィはそれでも諦めない。
「大丈夫だよ、私はベルベットに寄りかかったりしないもん、頑張って自分で歩いて、いつかベルベットと本当の意味で対等な友達になるから」
どこからそんな自信が来るのか分からないとベルベットは頭を掻き毟る。
「いやよ、あーしは一人が好きなの! 友達なんかいらない、アンタとは昇級試験までの付き合い、それだけ!!」
「いや! そんなの寂しいよ、ベルベット……いや、ベルの友達になりたい、絶対に!」
「べ、ベル? あ、あーしに愛称を付けたわね? 小さいからって馬鹿にしてるの!?」
「違うよ、ベルベットなんて他人行儀だなって思って」
「他人じゃない!」
「もう友達だもん!」
ゼーゼーとお互いに肩で息をする程に白熱した言い合いに制したのはベルベットだった。
「もう、怒った」
「えっ?」
「あーし、アンタに教えるの止める、アンタがあーしに寄りかからないって言うならあーし抜きで昇級試験に受かってみなさい、そうしたらアンタの事を認めてあげるわ」
ぐっ、と言葉に詰まるリリィだったが、ベルベットの言うことも最もだと思ったのか、決意を新たにベルベットに向き直る。
「分かった、私やるよ。絶対に受かってみせる」
折れないリリィに顔を真っ赤にしながらベルベットは揺さぶりを掛ける。
「いま謝るなら許してあげるけど?」
しかし、リリィ首を振って即座にそれを断った。
「なし崩しでベルと仲良くなっても私は嬉しくない、ベルが友達としての条件を出すなら、私はそれを乗り越えてみせるよ」
何も言えず、っーーと悶えるベルベットを背にリリィは踵を返して歩き出す。
そんなリリィの背中に向かってベルベットは一つだけヒントを出す。
「フェアじゃないからヒントを出すわ」
「?」
「あーしたち魔法使いは全員が上級魔法を使える魔力を持ってる訳じゃない、でも魔力が足りなくても上級魔法を使える人たちは確かにいる、ヒントは終わり、これでフェアよ」
後は勝手にして、と言うベルベットはリリィに背を向ける。
その姿は見た目通りの反応っぼいな、とリリィは思った。
「ありがとう、ベル。絶対に合格してみせるから」
そう言って、リリィは工房を後にした。
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