14 / 48
第一章・最弱の魔法使い
第十四話
しおりを挟む
「で? 結局どっちがより社交的だと思うっすか?」
と、アルフレッド。
「私と君はついさっき知り合ったばかりだが常識的な判断が下せる人間だと信じているよ」
と、シーカー。
そんな二人に、弱ったなぁ、とリリィは困ったように苦笑いを浮かべる。
しかし、男二人がそれを気にしている様子は全くなかった。
ーーこういう場合、ワタシの心情を察して身を引いてくれる人が社交性があるって言えると思うんだけどなぁ。
そんなリリィの心中を察することもなく、俺を私をという人間に到底社交性があるとは言い難いだろう。
そんな状況を見兼ねたのか、ファルファーレがリリィに助け船を出す。
『リリィ、こういう時は言葉を濁さずにストレートにものをいうのがだいじなんだ、だから代わりにボクが言ってあげるね? アルフレッドもシーカーも空気を読め、リリィの表情をみて察せないなら言うまでもなく二人共社交性がないよ』
ハッとし、二人はリリィの顔を見やる、その表情は困ったように笑っていた。
落ち着きを取り戻した男二人は互いの顔を見合わせて、ため息をついた。
一方はリリィの心情に気付けなかった事に配慮が足りなかったと。
一方は我を忘れて討論してしまった自分に嫌悪して。
『ほんとうにシーカーはまだまだだね、そんなんじゃ本物の紳士にはなれないよ?
まあアルフレッドに関してはノーコメントだ、わかっているならそれでいいからね』
と、ファルファーレはいつものおちゃらけた様子もなく淡々と二人のダメ出しをした。
「でも意外だなぁ」
落ち込む二人にリリィは話しかける。
「何がっすか?」
「アルフはもっと大人っぽいと思ってたし、シーカーさんはもっとお堅い人だと思ってたから」
リリィのそんな感想を聞いてファルファーレは甲高い笑い声をあげて言った。
『ハハハハハははは、そんな訳ないよリリィ、このおばかたちはもっとくだらない事で出会った頃から何度もケンカを繰り返してるんだから』
そんな言葉を聞いたアルフレッドとシーカーは、よもやそこまで掘り下げられるとは思ってもみなかったのか、それを話させまいと青筋を立ててファルファーレを捲くし立てる。
「ファルファーレ、いい加減にしてくれ、そういう話はしなくていいんだ」
「同感っすね、少し黙るっすよ」
「というよりもう戻ったらどうだ? そろそろ私の巻いた魔力が尽きる頃合いだろう? 無理をするものじゃない」
「そうっす、無理するなっす、というか早く帰るっす、リリィに変な話をしないで欲しいっす」
そんな二人をからかうようにファルファーレは戦々恐々としたフリをしてリリィの背中に隠れる。
『あーこわいこわい、男がよってたかって精霊をいじめるなんてねぇ、リリィ?』
「うん、ワタシはその話が少し気になるけどなぁ」
リリィまでそっち側に回ると流石に部が悪いと、二人は勘弁してくれと、頼み込むように謝るのだった。
「ところでシーカーさんに質問なんですけど、いいですか?」
「ああ、昔の事じゃないなら何でも答えるよ、それと私の事はシーカーでいい、気安く接してくれ」
そんなシーカーの言葉に少しだけリリィはキョトンとした顔をする。
反応がないリリィにシーカーもまた不思議そうに尋ねる。
「どうしたのかな? 私は何か変な事を言ったかな?」
EX職業の人には驕りや気位といったものがないのだろうか? とリリィは思う。
でもそれはとてもリリィにとってはありがたく、そして嬉しい事だった。
「ううん、ありがとうシーカー、私の事もリリィって呼んでね」
「心得た、それで質問とは何かな?」
「精霊使いについてなんだけど、精霊使いは一種の魔法使いって言われてるよね?」
「ああ、根本的には召喚術と契約術の併用で成り立っているが魔力の行使でそれらを行っているから魔法使いという括りでも間違いではないな」
やっぱりそうなんだ、とリリィは思う。
以前から興味はあったが精霊使いの才能が一切ないと言われていたのでどうにも手が出しにくかったのだ、興味本意で手を出せるほど今も昔もリリィに余裕はなかったからだ。
「精霊と契約する事によって精霊を使役する、その力を借りて色々な事ができる、だよね?」
「その通り、精霊と契約内容は契約を交わす精霊によって異なるが大体は一日一回の約束事みたいなものになる、私とファルの場合は一日一回ティータイムを設ける事だな」
ふむふむ、とリリィは近場にある用紙にシーカーの言葉を書き写していく。
「さっき言ってた魔力の循環効率が上がったっていうのはどういうこと?」
「それは精霊をこちらの世界に呼ぶ為の準備の話をしないといけない、少し長いが聞くかな?」
はい、とリリィは頷いた。
「まず精霊をこちらの世界に現界させるには精霊が現界できるような環境を整えてあげる必要がある、精霊が魔法生物というジャンルに分類されているのは知っているかな?」
「たしか、生物ではなくて霊体に近い存在を生物と呼んでいいのかって議論があったよね」
「結局のところ精霊たちから言わせたらどうでもいい事だったらしくてね、人類側が尋ねたら何でもいいとアッサリと言われたらしい」
そこのところどうなんですか? とリリィがファルファーレに振ると少し面倒臭いという顔をする。
『いまシーカーが言ったとおりだよ、ボクたち精霊は人間の決めた枠組みにどうあってもハマらないからね、呼ばれ方なんてどうでもいいんだよ』
そもそも価値観も常識も違うからね、と付け加える。
「まあそういう事らしい、話を戻すが、魔法生物というジャンルに分類された理由が精霊を現界させる上で重要なんだ」
シーカーはフワフワと浮いているファルファーレを捕まえて自分の前に持ってくる。
「精霊、魔法生物は実体のない意思を持つ魔力の塊、というのが一般的な判別の方法になるんだが、見ての通り精霊使いが召喚した精霊は触れられる、これは私がファルファーレを現界させる為に作った環境による為だ」
「環境、ですか?」
リリィは教室を見渡しいつもと違う事がないか探ってみるがその差異が分からなかった。
「環境と言ってもそう単純な物でもないんだよ、これは精霊使いの才能を持つ者の体質、魔力の質の話だからリリィが分からなくても無理はない事だ」
そっか、才能かぁ、と少しだけ落胆するリリィの頭にファルファーレが乗っかる。
『きにするひつようはないと思うよ、魔法使いとか戦士と違って精霊使いの才能はレアだからね』
「ファルファーレのいう通り精霊使いの才能はとても珍しいらしい、精霊使いの才能とは魔力を物質化させる事が出来る性質をの事だからね」
へぇ、とすぐさまリリィは考察を始め、数秒ほどで答えに行き着く。
「確かに特異な性質だね、魔法は魔力で引き起こす事象だけど精霊使いはある意味、魔力を物質化させる事象を引き起こせる訳だね」
「その通り」
シーカーは涼しげな顔をしていたが内心ではリリィの理解の早さに驚いていた。
アルフレッドから頭の良い子だと聞いてはいたがこれほど頭の回転が速いとは思っていなかったのだ。
「精霊を呼び出す時、私たち精霊使いは自分の魔力を周囲に散布する、そうする事でやっと精霊はこちらの世界に現界出来るんだ」
「で、シーカーの散布させた魔力の循環効率が上がったからファルファーレは好き勝手に現界出来ていると、そういう事?」
と、頭の上のファルファーレを見ながら問うと、ファルファーレは上機嫌に喋りだす。
『そのとーり、シーカーがふんぱつだいさーびすしてくれたお陰で今日はとても楽しいよ、普段はシーカーの持っている精霊石の、中で外を眺める事しか出来ないからね』
「だからと言って私の言う事を聞かないのは頂けないな、ファル?」
『たまにはいいじゃないか、ボクも今日はまんぞくしたし、次からはちゃーんということ聞くよ』
精霊石? とリリィは首を傾げる。
その様子を見たシーカーが首元から綺麗な宝石を取り出した。
「これが精霊石だ、魔鋼という鉱物で作られた物だ、ファルファーレは普段はこの中で過ごしてもらっている」
「ファルって普段は元の世界に戻ってるんじゃないの?」
と、リリィが聞くと、シーカーより先にファルファーレが答える。
『まっさかぁー、リリィが考えているより異なる世界からの召喚ってらくなものじゃないんだよ、一回一回に莫大な魔力が必要になるし、それにね? ボクの世界よりこっちの世界のほうがたのしいのさ』
ファルファーレは本当に楽しそうにそう言った。
「やっぱり、その魔力の循環効率が上がったのってEX職業になったから?」
おもむろにリリィがそう尋ねるとシーカーは頷き、そうだ、と肯定をする。
「EX職業はやっぱり凄いんだね、ファルもそう思うよね?」
そう言ってリリィはファルファーレの頭を撫でる。
『そうだね、ボクもシーカーが精霊使いだった頃より力を使う事ができるようになったし、シーカーの魔力があればかなり離れても現界できるようになったからね』
ファルファーレの言葉を聞いたリリィはとても不思議そうに尋ねる。
「今までファルはシーカーから離れられなかったの?」
『そりゃあねぇ、ボクはシーカーの魔力がないとただの霊体みたいなものだし、精霊石の中じゃなくて外にいるだけで魔力を消費するからね』
と、いうファルファーレの言葉にリリィは何か引っかかりを感じる。
「ファルは精霊石の中では魔力を使わないの?」
現界するにはシーカーの魔力が必要になり、現界をしなくともその場にいるだけで魔力を消費する、では、精霊石の中では?
絶えず魔力をシーカーが供給しているのであればそれはファルファーレを現界させているのと変わらないのではないか? リリィの脳は高速で思考を始める。
ーーそれならファルをこの世界に繋ぎ止めている魔力は一体どこから来ているのか?
それはリリィが空を舞う直前の思考した事と酷似していた。
『自前の魔力は使わないし、別にシーカーの魔力を使ってる訳じゃないから、たぶん精霊石の魔力なんじゃないのかな?』
と、曖昧な部分を確かめる為か、ファルファーレはシーカーに目を向けた、それを肯定するようにシーカーは頷いた。
「正解だ、普段は精霊石の魔力がファルの存在をこちらの世界に繋ぎ止めている、これは精霊使いの契約術の話になるな、契約した精霊が消えない為の契約、といったところだな」
シーカーの肯定を聞いた瞬間に、リリィは、そうか、その手が合った! と目を見開いた。
「シーカー! 精霊石、いや精霊石じゃなくても良いんだけどそれの原材料とかそれに近しい物ってないかな!?」
突然の剣幕にシーカーはたじろぎながら返答をする。
「近しい物というと、それは精霊石のように魔力を勝手に集めてくれるような性質を持つ鉱物ということかな?」
「そう、そんな感じのやつ!」
「あるか、と聞かれればあるが、その鉱石を取りに行くとなると往復だけで4日は掛かるな」
そうなるともう間に合わない、とリリィは歯噛みする。
リリィは思いついたのだ、中級魔法を使うことが出来ないようなちっぽけな魔力で中級魔法を使う方法を。思いついてみればそれは実に簡単な話だった。
己の魔力が足りないなら外部の魔力を使えば良かったのだ。
つまり、アイテムを使用して足りない魔力を補えば良かったという事に気がついたのだ。
ーー簡単なことだった、魔力を回復させるアイテムがある事は知ってたけど、精霊石みたいな魔力の肩代わりをしてくれるようなアイテムがあるならそれを使えば良かったんだ。
だが、間に合わない。だけどまだ手はあるとリリィはファルファーレとシーカーにお願いをする。
「シーカー、ファル、お願いがあるの」
真剣な眼差しのリリィを見た一人と一体は顔を見合わせて頷いた。
「事情はアルフから聞いているからね、私にできる事があるなら手伝おう」
『ボクも久しぶりにできたともだちのたのみだ、聞いてあげるよ』
ありがとう二人とも、そう言ってリリィは二人に飛びついた。
*
慌ただしく教室から出て行く二人と一体。
残されたアルフレッドはというと、
「ムニャムニャ、ZZZ」
一切喋らなかったアルフレッドは、精霊使いって、という会話の場面ですでに眠っていた。
後に聞いた話だと、リリィもシーカーもファルファーレも誰も彼を起こさなかったのは、いつの間にか頭からすっぽりと抜け落ちていたからからだったとか。
本当にただそれだけだったのかは、教室の影に潜んでいた者だけが知っている。
その影は、まだ喋らない、
「ーーーーーー」
と、アルフレッド。
「私と君はついさっき知り合ったばかりだが常識的な判断が下せる人間だと信じているよ」
と、シーカー。
そんな二人に、弱ったなぁ、とリリィは困ったように苦笑いを浮かべる。
しかし、男二人がそれを気にしている様子は全くなかった。
ーーこういう場合、ワタシの心情を察して身を引いてくれる人が社交性があるって言えると思うんだけどなぁ。
そんなリリィの心中を察することもなく、俺を私をという人間に到底社交性があるとは言い難いだろう。
そんな状況を見兼ねたのか、ファルファーレがリリィに助け船を出す。
『リリィ、こういう時は言葉を濁さずにストレートにものをいうのがだいじなんだ、だから代わりにボクが言ってあげるね? アルフレッドもシーカーも空気を読め、リリィの表情をみて察せないなら言うまでもなく二人共社交性がないよ』
ハッとし、二人はリリィの顔を見やる、その表情は困ったように笑っていた。
落ち着きを取り戻した男二人は互いの顔を見合わせて、ため息をついた。
一方はリリィの心情に気付けなかった事に配慮が足りなかったと。
一方は我を忘れて討論してしまった自分に嫌悪して。
『ほんとうにシーカーはまだまだだね、そんなんじゃ本物の紳士にはなれないよ?
まあアルフレッドに関してはノーコメントだ、わかっているならそれでいいからね』
と、ファルファーレはいつものおちゃらけた様子もなく淡々と二人のダメ出しをした。
「でも意外だなぁ」
落ち込む二人にリリィは話しかける。
「何がっすか?」
「アルフはもっと大人っぽいと思ってたし、シーカーさんはもっとお堅い人だと思ってたから」
リリィのそんな感想を聞いてファルファーレは甲高い笑い声をあげて言った。
『ハハハハハははは、そんな訳ないよリリィ、このおばかたちはもっとくだらない事で出会った頃から何度もケンカを繰り返してるんだから』
そんな言葉を聞いたアルフレッドとシーカーは、よもやそこまで掘り下げられるとは思ってもみなかったのか、それを話させまいと青筋を立ててファルファーレを捲くし立てる。
「ファルファーレ、いい加減にしてくれ、そういう話はしなくていいんだ」
「同感っすね、少し黙るっすよ」
「というよりもう戻ったらどうだ? そろそろ私の巻いた魔力が尽きる頃合いだろう? 無理をするものじゃない」
「そうっす、無理するなっす、というか早く帰るっす、リリィに変な話をしないで欲しいっす」
そんな二人をからかうようにファルファーレは戦々恐々としたフリをしてリリィの背中に隠れる。
『あーこわいこわい、男がよってたかって精霊をいじめるなんてねぇ、リリィ?』
「うん、ワタシはその話が少し気になるけどなぁ」
リリィまでそっち側に回ると流石に部が悪いと、二人は勘弁してくれと、頼み込むように謝るのだった。
「ところでシーカーさんに質問なんですけど、いいですか?」
「ああ、昔の事じゃないなら何でも答えるよ、それと私の事はシーカーでいい、気安く接してくれ」
そんなシーカーの言葉に少しだけリリィはキョトンとした顔をする。
反応がないリリィにシーカーもまた不思議そうに尋ねる。
「どうしたのかな? 私は何か変な事を言ったかな?」
EX職業の人には驕りや気位といったものがないのだろうか? とリリィは思う。
でもそれはとてもリリィにとってはありがたく、そして嬉しい事だった。
「ううん、ありがとうシーカー、私の事もリリィって呼んでね」
「心得た、それで質問とは何かな?」
「精霊使いについてなんだけど、精霊使いは一種の魔法使いって言われてるよね?」
「ああ、根本的には召喚術と契約術の併用で成り立っているが魔力の行使でそれらを行っているから魔法使いという括りでも間違いではないな」
やっぱりそうなんだ、とリリィは思う。
以前から興味はあったが精霊使いの才能が一切ないと言われていたのでどうにも手が出しにくかったのだ、興味本意で手を出せるほど今も昔もリリィに余裕はなかったからだ。
「精霊と契約する事によって精霊を使役する、その力を借りて色々な事ができる、だよね?」
「その通り、精霊と契約内容は契約を交わす精霊によって異なるが大体は一日一回の約束事みたいなものになる、私とファルの場合は一日一回ティータイムを設ける事だな」
ふむふむ、とリリィは近場にある用紙にシーカーの言葉を書き写していく。
「さっき言ってた魔力の循環効率が上がったっていうのはどういうこと?」
「それは精霊をこちらの世界に呼ぶ為の準備の話をしないといけない、少し長いが聞くかな?」
はい、とリリィは頷いた。
「まず精霊をこちらの世界に現界させるには精霊が現界できるような環境を整えてあげる必要がある、精霊が魔法生物というジャンルに分類されているのは知っているかな?」
「たしか、生物ではなくて霊体に近い存在を生物と呼んでいいのかって議論があったよね」
「結局のところ精霊たちから言わせたらどうでもいい事だったらしくてね、人類側が尋ねたら何でもいいとアッサリと言われたらしい」
そこのところどうなんですか? とリリィがファルファーレに振ると少し面倒臭いという顔をする。
『いまシーカーが言ったとおりだよ、ボクたち精霊は人間の決めた枠組みにどうあってもハマらないからね、呼ばれ方なんてどうでもいいんだよ』
そもそも価値観も常識も違うからね、と付け加える。
「まあそういう事らしい、話を戻すが、魔法生物というジャンルに分類された理由が精霊を現界させる上で重要なんだ」
シーカーはフワフワと浮いているファルファーレを捕まえて自分の前に持ってくる。
「精霊、魔法生物は実体のない意思を持つ魔力の塊、というのが一般的な判別の方法になるんだが、見ての通り精霊使いが召喚した精霊は触れられる、これは私がファルファーレを現界させる為に作った環境による為だ」
「環境、ですか?」
リリィは教室を見渡しいつもと違う事がないか探ってみるがその差異が分からなかった。
「環境と言ってもそう単純な物でもないんだよ、これは精霊使いの才能を持つ者の体質、魔力の質の話だからリリィが分からなくても無理はない事だ」
そっか、才能かぁ、と少しだけ落胆するリリィの頭にファルファーレが乗っかる。
『きにするひつようはないと思うよ、魔法使いとか戦士と違って精霊使いの才能はレアだからね』
「ファルファーレのいう通り精霊使いの才能はとても珍しいらしい、精霊使いの才能とは魔力を物質化させる事が出来る性質をの事だからね」
へぇ、とすぐさまリリィは考察を始め、数秒ほどで答えに行き着く。
「確かに特異な性質だね、魔法は魔力で引き起こす事象だけど精霊使いはある意味、魔力を物質化させる事象を引き起こせる訳だね」
「その通り」
シーカーは涼しげな顔をしていたが内心ではリリィの理解の早さに驚いていた。
アルフレッドから頭の良い子だと聞いてはいたがこれほど頭の回転が速いとは思っていなかったのだ。
「精霊を呼び出す時、私たち精霊使いは自分の魔力を周囲に散布する、そうする事でやっと精霊はこちらの世界に現界出来るんだ」
「で、シーカーの散布させた魔力の循環効率が上がったからファルファーレは好き勝手に現界出来ていると、そういう事?」
と、頭の上のファルファーレを見ながら問うと、ファルファーレは上機嫌に喋りだす。
『そのとーり、シーカーがふんぱつだいさーびすしてくれたお陰で今日はとても楽しいよ、普段はシーカーの持っている精霊石の、中で外を眺める事しか出来ないからね』
「だからと言って私の言う事を聞かないのは頂けないな、ファル?」
『たまにはいいじゃないか、ボクも今日はまんぞくしたし、次からはちゃーんということ聞くよ』
精霊石? とリリィは首を傾げる。
その様子を見たシーカーが首元から綺麗な宝石を取り出した。
「これが精霊石だ、魔鋼という鉱物で作られた物だ、ファルファーレは普段はこの中で過ごしてもらっている」
「ファルって普段は元の世界に戻ってるんじゃないの?」
と、リリィが聞くと、シーカーより先にファルファーレが答える。
『まっさかぁー、リリィが考えているより異なる世界からの召喚ってらくなものじゃないんだよ、一回一回に莫大な魔力が必要になるし、それにね? ボクの世界よりこっちの世界のほうがたのしいのさ』
ファルファーレは本当に楽しそうにそう言った。
「やっぱり、その魔力の循環効率が上がったのってEX職業になったから?」
おもむろにリリィがそう尋ねるとシーカーは頷き、そうだ、と肯定をする。
「EX職業はやっぱり凄いんだね、ファルもそう思うよね?」
そう言ってリリィはファルファーレの頭を撫でる。
『そうだね、ボクもシーカーが精霊使いだった頃より力を使う事ができるようになったし、シーカーの魔力があればかなり離れても現界できるようになったからね』
ファルファーレの言葉を聞いたリリィはとても不思議そうに尋ねる。
「今までファルはシーカーから離れられなかったの?」
『そりゃあねぇ、ボクはシーカーの魔力がないとただの霊体みたいなものだし、精霊石の中じゃなくて外にいるだけで魔力を消費するからね』
と、いうファルファーレの言葉にリリィは何か引っかかりを感じる。
「ファルは精霊石の中では魔力を使わないの?」
現界するにはシーカーの魔力が必要になり、現界をしなくともその場にいるだけで魔力を消費する、では、精霊石の中では?
絶えず魔力をシーカーが供給しているのであればそれはファルファーレを現界させているのと変わらないのではないか? リリィの脳は高速で思考を始める。
ーーそれならファルをこの世界に繋ぎ止めている魔力は一体どこから来ているのか?
それはリリィが空を舞う直前の思考した事と酷似していた。
『自前の魔力は使わないし、別にシーカーの魔力を使ってる訳じゃないから、たぶん精霊石の魔力なんじゃないのかな?』
と、曖昧な部分を確かめる為か、ファルファーレはシーカーに目を向けた、それを肯定するようにシーカーは頷いた。
「正解だ、普段は精霊石の魔力がファルの存在をこちらの世界に繋ぎ止めている、これは精霊使いの契約術の話になるな、契約した精霊が消えない為の契約、といったところだな」
シーカーの肯定を聞いた瞬間に、リリィは、そうか、その手が合った! と目を見開いた。
「シーカー! 精霊石、いや精霊石じゃなくても良いんだけどそれの原材料とかそれに近しい物ってないかな!?」
突然の剣幕にシーカーはたじろぎながら返答をする。
「近しい物というと、それは精霊石のように魔力を勝手に集めてくれるような性質を持つ鉱物ということかな?」
「そう、そんな感じのやつ!」
「あるか、と聞かれればあるが、その鉱石を取りに行くとなると往復だけで4日は掛かるな」
そうなるともう間に合わない、とリリィは歯噛みする。
リリィは思いついたのだ、中級魔法を使うことが出来ないようなちっぽけな魔力で中級魔法を使う方法を。思いついてみればそれは実に簡単な話だった。
己の魔力が足りないなら外部の魔力を使えば良かったのだ。
つまり、アイテムを使用して足りない魔力を補えば良かったという事に気がついたのだ。
ーー簡単なことだった、魔力を回復させるアイテムがある事は知ってたけど、精霊石みたいな魔力の肩代わりをしてくれるようなアイテムがあるならそれを使えば良かったんだ。
だが、間に合わない。だけどまだ手はあるとリリィはファルファーレとシーカーにお願いをする。
「シーカー、ファル、お願いがあるの」
真剣な眼差しのリリィを見た一人と一体は顔を見合わせて頷いた。
「事情はアルフから聞いているからね、私にできる事があるなら手伝おう」
『ボクも久しぶりにできたともだちのたのみだ、聞いてあげるよ』
ありがとう二人とも、そう言ってリリィは二人に飛びついた。
*
慌ただしく教室から出て行く二人と一体。
残されたアルフレッドはというと、
「ムニャムニャ、ZZZ」
一切喋らなかったアルフレッドは、精霊使いって、という会話の場面ですでに眠っていた。
後に聞いた話だと、リリィもシーカーもファルファーレも誰も彼を起こさなかったのは、いつの間にか頭からすっぽりと抜け落ちていたからからだったとか。
本当にただそれだけだったのかは、教室の影に潜んでいた者だけが知っている。
その影は、まだ喋らない、
「ーーーーーー」
0
あなたにおすすめの小説
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
私が王子との結婚式の日に、妹に毒を盛られ、公衆の面前で辱められた。でも今、私は時を戻し、運命を変えに来た。
MayonakaTsuki
恋愛
王子との結婚式の日、私は最も信頼していた人物――自分の妹――に裏切られた。毒を盛られ、公開の場で辱められ、未来の王に拒絶され、私の人生は血と侮辱の中でそこで終わったかのように思えた。しかし、死が私を迎えたとき、不可能なことが起きた――私は同じ回廊で、祭壇の前で目を覚まし、あらゆる涙、嘘、そして一撃の記憶をそのまま覚えていた。今、二度目のチャンスを得た私は、ただ一つの使命を持つ――真実を突き止め、奪われたものを取り戻し、私を破滅させた者たちにその代償を払わせる。もはや、何も以前のままではない。何も許されない。
敵に貞操を奪われて癒しの力を失うはずだった聖女ですが、なぜか前より漲っています
藤谷 要
恋愛
サルサン国の聖女たちは、隣国に征服される際に自国の王の命で殺されそうになった。ところが、侵略軍将帥のマトルヘル侯爵に助けられた。それから聖女たちは侵略国に仕えるようになったが、一か月後に筆頭聖女だったルミネラは命の恩人の侯爵へ嫁ぐように国王から命じられる。
結婚披露宴では、陛下に側妃として嫁いだ旧サルサン国王女が出席していたが、彼女は侯爵に腕を絡めて「陛下の手がつかなかったら一年後に妻にしてほしい」と頼んでいた。しかも、侯爵はその手を振り払いもしない。
聖女は愛のない交わりで神の加護を失うとされているので、当然白い結婚だと思っていたが、初夜に侯爵のメイアスから体の関係を迫られる。彼は命の恩人だったので、ルミネラはそのまま彼を受け入れた。
侯爵がかつての恋人に似ていたとはいえ、侯爵と孤児だった彼は全く別人。愛のない交わりだったので、当然力を失うと思っていたが、なぜか以前よりも力が漲っていた。
※全11話 2万字程度の話です。
【完結】捨て去られた王妃は王宮で働く
ここ
ファンタジー
たしかに私は王妃になった。
5歳の頃に婚約が決まり、逃げようがなかった。完全なる政略結婚。
夫である国王陛下は、ハーレムで浮かれている。政務は王妃が行っていいらしい。私は仕事は得意だ。家臣たちが追いつけないほど、理解が早く、正確らしい。家臣たちは、王妃がいないと困るようになった。何とかしなければ…
【完結】辺境に飛ばされた子爵令嬢、前世の経営知識で大商会を作ったら王都がひれ伏したし、隣国のハイスペ王子とも結婚できました
いっぺいちゃん
ファンタジー
婚約破棄、そして辺境送り――。
子爵令嬢マリエールの運命は、結婚式直前に無惨にも断ち切られた。
「辺境の館で余生を送れ。もうお前は必要ない」
冷酷に告げた婚約者により、社交界から追放された彼女。
しかし、マリエールには秘密があった。
――前世の彼女は、一流企業で辣腕を振るった経営コンサルタント。
未開拓の農産物、眠る鉱山資源、誠実で働き者の人々。
「必要ない」と切り捨てられた辺境には、未来を切り拓く力があった。
物流網を整え、作物をブランド化し、やがて「大商会」を設立!
数年で辺境は“商業帝国”と呼ばれるまでに発展していく。
さらに隣国の完璧王子から熱烈な求婚を受け、愛も手に入れるマリエール。
一方で、税収激減に苦しむ王都は彼女に救いを求めて――
「必要ないとおっしゃったのは、そちらでしょう?」
これは、追放令嬢が“経営知識”で国を動かし、
ざまぁと恋と繁栄を手に入れる逆転サクセスストーリー!
※表紙のイラストは画像生成AIによって作られたものです。
復讐のための五つの方法
炭田おと
恋愛
皇后として皇帝カエキリウスのもとに嫁いだイネスは、カエキリウスに愛人ルジェナがいることを知った。皇宮ではルジェナが権威を誇示していて、イネスは肩身が狭い思いをすることになる。
それでも耐えていたイネスだったが、父親に反逆の罪を着せられ、家族も、彼女自身も、処断されることが決まった。
グレゴリウス卿の手を借りて、一人生き残ったイネスは復讐を誓う。
72話で完結です。
戦場帰りの俺が隠居しようとしたら、最強の美少女たちに囲まれて逃げ場がなくなった件
さん
ファンタジー
戦場で命を削り、帝国最強部隊を率いた男――ラル。
数々の激戦を生き抜き、任務を終えた彼は、
今は辺境の地に建てられた静かな屋敷で、
わずかな安寧を求めて暮らしている……はずだった。
彼のそばには、かつて命を懸けて彼を支えた、最強の少女たち。
それぞれの立場で戦い、支え、尽くしてきた――ただ、すべてはラルのために。
今では彼の屋敷に集い、仕え、そして溺愛している。
「ラルさまさえいれば、わたくしは他に何もいりませんわ!」
「ラル様…私だけを見ていてください。誰よりも、ずっとずっと……」
「ねぇラル君、その人の名前……まだ覚えてるの?」
「ラル、そんなに気にしなくていいよ!ミアがいるから大丈夫だよねっ!」
命がけの戦場より、ヒロインたちの“甘くて圧が強い愛情”のほうが数倍キケン!?
順番待ちの寝床争奪戦、過去の恋の追及、圧バトル修羅場――
ラルの平穏な日常は、最強で一途な彼女たちに包囲されて崩壊寸前。
これは――
【過去の傷を背負い静かに生きようとする男】と
【彼を神のように慕う最強少女たち】が織りなす、
“甘くて逃げ場のない生活”の物語。
――戦場よりも生き延びるのが難しいのは、愛されすぎる日常だった。
※表紙のキャラはエリスのイメージ画です。
短編【シークレットベビー】契約結婚の初夜の後でいきなり離縁されたのでお腹の子はひとりで立派に育てます 〜銀の仮面の侯爵と秘密の愛し子〜
美咲アリス
恋愛
レティシアは義母と妹からのいじめから逃げるために契約結婚をする。結婚相手は醜い傷跡を銀の仮面で隠した侯爵のクラウスだ。「どんなに恐ろしいお方かしら⋯⋯」震えながら初夜をむかえるがクラウスは想像以上に甘い初体験を与えてくれた。「私たち、うまくやっていけるかもしれないわ」小さな希望を持つレティシア。だけどなぜかいきなり離縁をされてしまって⋯⋯?
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる