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第一章・最弱の魔法使い
第十六話
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ーー時は数十分前に遡る。
昇級試験の会場は実に閑散とした場所だった。
その施設の主な用途は学生の試験会場の他に決闘場や演武なども執り行われる為、観客席が多く配置されている。
そんな会場を取り囲む観客席が闘技場を連想させる雰囲気を作り出していた。
会場の床は時に水になったり砂になったり、しっかりとした大地にも変える事ができ、用途によって魔法で変質をさせる事ができるという実に便利な構造となっている。
そんな会場へと通じる通路を緊張した面持ちで歩く少女が一人。
学園初の三等級に上がるための試験を受ける者だ。
「大丈夫、大丈夫、ワタシならやれるがんばれがんばれ」
少し青みがかかった顔色からは大丈夫な要素を微塵も感じさせないが、リリィは呪文のように、大丈夫、とそう繰り返し呟いていた。
「大丈夫、ダイジョウブ、だいじょうぶ? あれ? 大丈夫ってなんだっけ?」
もはや大丈夫ではないだろう、というところでリリィが良く知る声が背後から響いた。
「リリィ、大丈夫っすか?」
「キャアァァァァァァァ」
飛び上がって驚くリリィを見て、アルフレッドは困ったように頬を掻く。
「大丈夫そうじゃないっすね」
「あ、アルフ?」
激しく鳴る心臓を宥めるようにリリィは胸に手を置き一息つく。
「もう、驚かさないでよ!」
「いや、驚かせたつもりは、うん、ごめんなさいっす」
珍しく本当に怒っているような気がしたのでアルフレッドは素直に謝る。
「いや、緊張してるから少し励まそうと思ったんすよ」
と、申し訳なさそうな表情のアルフレッドにリリィもまた反省する。
ーー試験前で少しピリピリし過ぎたな。
と。
「ごめんねアルフ、ワタシ緊張しちゃって」
「気にしないで欲しいっす、誰でもそうなると思うっすから」
リリィは穏やかなアルフレッドの声を聞いて少し安堵すると同時に緊張の糸が緩んだのかポツリと弱音を溢す。
「アルフ、ワタシ怖いんだ。今まで自分の限界まで頑張って来たつもりだったけどね? まだ頑張れたんじゃないかなって思ったり、こんな方法で大丈夫なのかなって思ったりしちゃうの」
と、突然に不安に震えるリリィの手をアルフレッドは両手でしっかりと握る。
「あ、あ、あ、アルフさん!?」
突然の行動に顔を真っ赤に上気させるリリィを見てアルフレッドは小さく笑みをこぼした。
「ほら、もう大丈夫っすよ」
クスクスといたずらっ子のように笑うアルフレッドに釣られてリリィもついつい笑みを浮かべる。
「もう、ひどいよアルフ」
「これも友なればってヤツっすよ」
落ち着いたリリィは静かにアルフレッドの目を見る。
「アルフ、頑張るね」
その言葉にアルフレッドもまた頷き告げる。
「頑張って下さいっす!」
アルフレッドが念を込めるようにリリィの手をギュッ力を込めるとそれに応えるようリリィも力を込めた。
「行ってきます!」
アルフレッドに送り出されるようにリリィは試験会場へと向かうのだった。
*
「意外と人が多いな」
試験会場の観客席でシーカーはそう呟いた。
ーーリリィは人の目を惹く才能があるのかもしれないな。
と.シーカーはそう思った。
シーカーの他にも観客席には疎らに人がいた、ある人は面白半分、ある人は馬鹿にする為と暇を窺わせる内容の者が多い。
現状ではシーカーとアルフレッド、加えて姿を見せない一人を除いては単なる暇つぶしでしか無かった。
シーカーはそのもう一人に向かい虚空に向かって話しかける。
「しかし、意外と言えば君がこの場に来ることが一番の意外だったよ、ベルベット」
シーカーが放った言葉に反応するかのように虚空から褐色の少女が現れる。
「あら、相変わらず勘の鋭いヤツね」
そんなベルベットに驚く事なくシーカーは疑問を問う。
「君はリリィと知り合いなのか?」
と、いうシーカーの問いにベルベットは、別に、と不機嫌そうに返す。
大方アルフレッドの関する何かだと察するシーカーだったが、その予想は外れていた。
ベルベットはおもむろにシーカーと一つ離れた位置に座った。
「君が私の近くに座る事が珍しいと感じるのは気のせいだろうか?」
「いいえ、珍しいわよ。アンタは周りのゴミ共と比べるとまだ不快な感じがしないってだけ」
ゴミ共、と聞き少しだけ考える。
ーー恐らくはリリィに対しての感情に付いての話だと思うが、面白半分が気に入らないということか?
答えが出ずに黙って試験会場の中央に目をやる、そこに佇むのは若くして魔法使いの特級になった天才、レオナルド・オスローがいた。
レオナルドを見たシーカーはそういえば、とベルベットに尋ねる。
「君はレオナルドと競っていなかったか?」
と、シーカーは何気なく雑談を始めようと声をかけるがベルベットに不機嫌そうに対応される。
「シーカー、あーしに話しかけるならもっと有意義な話題をくれないかしら? さもないとアンタも周りのゴミ共と同じ評価になるわよ」
おや、手厳しいと肩を竦め、シーカーは新たな話題を提供する。
「君がリリィの知り合いと仮定して話をするが、実際のところリリィは合格できそうなのか?」
シーカーがそう聞くとベルベットは憂いを帯びたようなため息を吐いて答える。
「あーしの知ってるあの子じゃ無理、だけどそれは一週間も前の話、今は手札が分からない」
やはりリリィと知り合いだったのか、とシーカーは思う。と、なればアルフレッドの紹介だと思い至るがその思考を遮るようにベルベットが言葉を続けた。
「アンタ、別にアルフの付き添いって話じゃないんでしょ? アンタこそあの子の知り合いなの?」
これは本当に珍しいとシーカーは思う。
人嫌いで有名な悪声の魔女が人を気にかけるなんて、と。
ーーリリィと関わる者は良い意味で変わるのかな?
と、少し微笑ましく思う。
「少しだけ素材集めを手伝ったからね、私は彼女を友人だと思っているよ」
燻し噛むような表情を浮かべてベルベットが返す。
「素材?」
「ああ、宝石に近い鉱石、というより、元々内包してる魔力が少ない鉱石だったかな? 結果的にそれが宝石のような物ばかりだったんだがーー」
と、シーカーが言い切る前にベルベットは食い気味で聞く。
「あの子、バウクムの陣には気付けなかったのかしら?」
「バウクムの陣?」
説明が面倒だと言わんばかりの不機嫌そうな顔をされるがシーカーは気にする様子もなく、それはどういう物なんだ? と尋ねると嫌々ながらもベルベットは説明をする。
「バウクムの陣は敷いた陣の中だと自分の魔力消費を抑えられる陣のこと、一般的に自分の魔力が足りない時はいかにその魔力の消費を抑えるか、という部分に目を向けられるのよ、他にも方法はあるけど基本的には才能ありきの話になるからあまり現実的じゃないのよ」
それを、と睨むようにシーカーに目をやるベルベット。
「答えなさい、あの子は一体何を思いついたの?」
「私の精霊石を見てそれ似た物がないか聞かれたのでな、あるが往復に採りに行くには四日はかかると答えた」
嫌な予感がする、とベルベットはすでに出ている答えを否定される事を願い、シーカーに問い直す。
「それで?」
「手伝ってくれと言われた、さっき言った鉱石が必要だとね、だから私は一緒にその素材を採りに行ったんだ」
「回りくどいわね、結論だけ言いなさい、あの子は何を思いついたの?」
別に回りくどいつもりは無かったのだが、と思うがやけにムキになっているので率直に答える。
「リリィは精霊石を作ると言っていたよ、私は人の手で出来るのか疑問だったがリリィがやると言ったから素材集めを手伝った」
シーカーの言葉にベルベットは、なんて馬鹿な選択を、と思う。
その表情を見たシーカーは不思議に思い問う。
「そんなにダメな選択なのかな?」
「当たり前よ、二日三日で出来るレベルの魔術じゃないわ、置換と魔力の流転を織り交ぜた賢者の秘奥の一つよ? 一介の学生が出来るレベルじゃないわ」
と、残念そうに言うベルベットにシーカーは言った。
「なるほど、選択肢を誤ったわけではなくて選択肢の難易度が高いという話か、それならば問題はないと思うが」
ヤケに冷静なシーカーをみてベルベットは言う、何でそう思うのよ、と。
「精霊石は無理だったが魔力の代用が出来るくらいの物は出来たと本人が言っていたからだよ」
ーーは? 成功させたっていうの? 北方の大賢者の秘奥の一つ、鉱石魔術を?
「後はワタシの魔法使いとしての技量の問題とも言っていたな」
それが本当なら、凄いという範疇を超えている、とベルベットは思う。
そうこうしてる内にリリィが通路から歩いて来る。
ついに昇級試験が始まるのだ。
ーーシーカーの言う事が本当ならあーしが見るべきなのは……。
食い入るようにベルベットはその試験を見るのだった。
*
「遅いぞ、最弱」
予定の時間まではまだあるんだけど、とリリィは苦笑いを浮かべる。
「さっさと始めろ」
レオナルド・オスローは冷たくそう言い放つ、まるでオレに時間を使わせるなと言わんばかりに。
「はい」
そんなレオナルドの言葉にめげることなくリリィは魔法陣を描き始める。
リリィが描くのは一般的される六芒星ではなく、四角を重ねた八芒星だった。
リリィは己の才覚の無さを理解している、だからこそ出来る事は全てやってやろうと思っていた。
そこで実行に移したのが八芒星の魔法陣、八芒星は特性上四角を重ねるのが最もポピュラーな描き方だ。それを利用したリリィの魔法陣は二つの魔法式が組み込まれている。
一つ目の四角に描かれた魔法式は熱魔法、二つ目の四角に描かれた魔法式は風魔法、五大元素の関係図でいえば相乗効果を得られる相性だ。
ーーこの魔法式なら中級魔法の発動の有無を関係なしに中級魔法に至れるはずだ。
だが、リリィは失念していた。
リリィが以前アルフレッドに魔法の説明をした通り、初級魔法と中級魔法には明確な差がある、それを魔法式に組み込め無かったのはリリィの大きなミスだ。
そのミスに気づく事なく魔法陣を描き終えたリリィはハ芒星の四隅に自分で作った魔力鉱石を置いた。
魔力の代用に用いるため式はすでに鉱石に組み込んでおり、あとはリリィの魔法の発動と同時に自動で処理が行われる。
「リリィ・マクスウェル、行きます」
リリィは大きく息を吸い込み、全力で魔法陣に魔力を込める。
淡く光る魔法陣から炎が立ち上った。その炎を追うように魔力を含む風が火柱をさらに燃え上がらせる。
鉱石からの魔力がしっかりと伝達できているのか炎も風も弱まる事をしらない、強まる炎が球体となりリリィの手元に収まる。
ーー後は、これを!
リリィは手をかざし遠くの壁に狙いを定め、そして、
「やあああああ」
掛け声と共にリリィは炎の球体を飛ばした。
破壊力を帯びた炎球は容易く壁を破壊し、そして燃やした。
ーーあ、あれ?
異変に気付いたのは放った炎球が壁を燃やしたからだった。
ーーそういえばワタシ、魔法式に命令を組み込んでない。
リリィは自分の血の気が引く音が聞こえた気がした。
そして、悟る。
ーーああ、ワタシは失敗したんだ。と
ーーーーーーーーーー
初級魔法と中級魔法の区別はまた後ほど詳しく描写する予定なのでリリィの長ったらしい講釈を読むために戻らなくても大丈夫だと思います。
昇級試験の会場は実に閑散とした場所だった。
その施設の主な用途は学生の試験会場の他に決闘場や演武なども執り行われる為、観客席が多く配置されている。
そんな会場を取り囲む観客席が闘技場を連想させる雰囲気を作り出していた。
会場の床は時に水になったり砂になったり、しっかりとした大地にも変える事ができ、用途によって魔法で変質をさせる事ができるという実に便利な構造となっている。
そんな会場へと通じる通路を緊張した面持ちで歩く少女が一人。
学園初の三等級に上がるための試験を受ける者だ。
「大丈夫、大丈夫、ワタシならやれるがんばれがんばれ」
少し青みがかかった顔色からは大丈夫な要素を微塵も感じさせないが、リリィは呪文のように、大丈夫、とそう繰り返し呟いていた。
「大丈夫、ダイジョウブ、だいじょうぶ? あれ? 大丈夫ってなんだっけ?」
もはや大丈夫ではないだろう、というところでリリィが良く知る声が背後から響いた。
「リリィ、大丈夫っすか?」
「キャアァァァァァァァ」
飛び上がって驚くリリィを見て、アルフレッドは困ったように頬を掻く。
「大丈夫そうじゃないっすね」
「あ、アルフ?」
激しく鳴る心臓を宥めるようにリリィは胸に手を置き一息つく。
「もう、驚かさないでよ!」
「いや、驚かせたつもりは、うん、ごめんなさいっす」
珍しく本当に怒っているような気がしたのでアルフレッドは素直に謝る。
「いや、緊張してるから少し励まそうと思ったんすよ」
と、申し訳なさそうな表情のアルフレッドにリリィもまた反省する。
ーー試験前で少しピリピリし過ぎたな。
と。
「ごめんねアルフ、ワタシ緊張しちゃって」
「気にしないで欲しいっす、誰でもそうなると思うっすから」
リリィは穏やかなアルフレッドの声を聞いて少し安堵すると同時に緊張の糸が緩んだのかポツリと弱音を溢す。
「アルフ、ワタシ怖いんだ。今まで自分の限界まで頑張って来たつもりだったけどね? まだ頑張れたんじゃないかなって思ったり、こんな方法で大丈夫なのかなって思ったりしちゃうの」
と、突然に不安に震えるリリィの手をアルフレッドは両手でしっかりと握る。
「あ、あ、あ、アルフさん!?」
突然の行動に顔を真っ赤に上気させるリリィを見てアルフレッドは小さく笑みをこぼした。
「ほら、もう大丈夫っすよ」
クスクスといたずらっ子のように笑うアルフレッドに釣られてリリィもついつい笑みを浮かべる。
「もう、ひどいよアルフ」
「これも友なればってヤツっすよ」
落ち着いたリリィは静かにアルフレッドの目を見る。
「アルフ、頑張るね」
その言葉にアルフレッドもまた頷き告げる。
「頑張って下さいっす!」
アルフレッドが念を込めるようにリリィの手をギュッ力を込めるとそれに応えるようリリィも力を込めた。
「行ってきます!」
アルフレッドに送り出されるようにリリィは試験会場へと向かうのだった。
*
「意外と人が多いな」
試験会場の観客席でシーカーはそう呟いた。
ーーリリィは人の目を惹く才能があるのかもしれないな。
と.シーカーはそう思った。
シーカーの他にも観客席には疎らに人がいた、ある人は面白半分、ある人は馬鹿にする為と暇を窺わせる内容の者が多い。
現状ではシーカーとアルフレッド、加えて姿を見せない一人を除いては単なる暇つぶしでしか無かった。
シーカーはそのもう一人に向かい虚空に向かって話しかける。
「しかし、意外と言えば君がこの場に来ることが一番の意外だったよ、ベルベット」
シーカーが放った言葉に反応するかのように虚空から褐色の少女が現れる。
「あら、相変わらず勘の鋭いヤツね」
そんなベルベットに驚く事なくシーカーは疑問を問う。
「君はリリィと知り合いなのか?」
と、いうシーカーの問いにベルベットは、別に、と不機嫌そうに返す。
大方アルフレッドの関する何かだと察するシーカーだったが、その予想は外れていた。
ベルベットはおもむろにシーカーと一つ離れた位置に座った。
「君が私の近くに座る事が珍しいと感じるのは気のせいだろうか?」
「いいえ、珍しいわよ。アンタは周りのゴミ共と比べるとまだ不快な感じがしないってだけ」
ゴミ共、と聞き少しだけ考える。
ーー恐らくはリリィに対しての感情に付いての話だと思うが、面白半分が気に入らないということか?
答えが出ずに黙って試験会場の中央に目をやる、そこに佇むのは若くして魔法使いの特級になった天才、レオナルド・オスローがいた。
レオナルドを見たシーカーはそういえば、とベルベットに尋ねる。
「君はレオナルドと競っていなかったか?」
と、シーカーは何気なく雑談を始めようと声をかけるがベルベットに不機嫌そうに対応される。
「シーカー、あーしに話しかけるならもっと有意義な話題をくれないかしら? さもないとアンタも周りのゴミ共と同じ評価になるわよ」
おや、手厳しいと肩を竦め、シーカーは新たな話題を提供する。
「君がリリィの知り合いと仮定して話をするが、実際のところリリィは合格できそうなのか?」
シーカーがそう聞くとベルベットは憂いを帯びたようなため息を吐いて答える。
「あーしの知ってるあの子じゃ無理、だけどそれは一週間も前の話、今は手札が分からない」
やはりリリィと知り合いだったのか、とシーカーは思う。と、なればアルフレッドの紹介だと思い至るがその思考を遮るようにベルベットが言葉を続けた。
「アンタ、別にアルフの付き添いって話じゃないんでしょ? アンタこそあの子の知り合いなの?」
これは本当に珍しいとシーカーは思う。
人嫌いで有名な悪声の魔女が人を気にかけるなんて、と。
ーーリリィと関わる者は良い意味で変わるのかな?
と、少し微笑ましく思う。
「少しだけ素材集めを手伝ったからね、私は彼女を友人だと思っているよ」
燻し噛むような表情を浮かべてベルベットが返す。
「素材?」
「ああ、宝石に近い鉱石、というより、元々内包してる魔力が少ない鉱石だったかな? 結果的にそれが宝石のような物ばかりだったんだがーー」
と、シーカーが言い切る前にベルベットは食い気味で聞く。
「あの子、バウクムの陣には気付けなかったのかしら?」
「バウクムの陣?」
説明が面倒だと言わんばかりの不機嫌そうな顔をされるがシーカーは気にする様子もなく、それはどういう物なんだ? と尋ねると嫌々ながらもベルベットは説明をする。
「バウクムの陣は敷いた陣の中だと自分の魔力消費を抑えられる陣のこと、一般的に自分の魔力が足りない時はいかにその魔力の消費を抑えるか、という部分に目を向けられるのよ、他にも方法はあるけど基本的には才能ありきの話になるからあまり現実的じゃないのよ」
それを、と睨むようにシーカーに目をやるベルベット。
「答えなさい、あの子は一体何を思いついたの?」
「私の精霊石を見てそれ似た物がないか聞かれたのでな、あるが往復に採りに行くには四日はかかると答えた」
嫌な予感がする、とベルベットはすでに出ている答えを否定される事を願い、シーカーに問い直す。
「それで?」
「手伝ってくれと言われた、さっき言った鉱石が必要だとね、だから私は一緒にその素材を採りに行ったんだ」
「回りくどいわね、結論だけ言いなさい、あの子は何を思いついたの?」
別に回りくどいつもりは無かったのだが、と思うがやけにムキになっているので率直に答える。
「リリィは精霊石を作ると言っていたよ、私は人の手で出来るのか疑問だったがリリィがやると言ったから素材集めを手伝った」
シーカーの言葉にベルベットは、なんて馬鹿な選択を、と思う。
その表情を見たシーカーは不思議に思い問う。
「そんなにダメな選択なのかな?」
「当たり前よ、二日三日で出来るレベルの魔術じゃないわ、置換と魔力の流転を織り交ぜた賢者の秘奥の一つよ? 一介の学生が出来るレベルじゃないわ」
と、残念そうに言うベルベットにシーカーは言った。
「なるほど、選択肢を誤ったわけではなくて選択肢の難易度が高いという話か、それならば問題はないと思うが」
ヤケに冷静なシーカーをみてベルベットは言う、何でそう思うのよ、と。
「精霊石は無理だったが魔力の代用が出来るくらいの物は出来たと本人が言っていたからだよ」
ーーは? 成功させたっていうの? 北方の大賢者の秘奥の一つ、鉱石魔術を?
「後はワタシの魔法使いとしての技量の問題とも言っていたな」
それが本当なら、凄いという範疇を超えている、とベルベットは思う。
そうこうしてる内にリリィが通路から歩いて来る。
ついに昇級試験が始まるのだ。
ーーシーカーの言う事が本当ならあーしが見るべきなのは……。
食い入るようにベルベットはその試験を見るのだった。
*
「遅いぞ、最弱」
予定の時間まではまだあるんだけど、とリリィは苦笑いを浮かべる。
「さっさと始めろ」
レオナルド・オスローは冷たくそう言い放つ、まるでオレに時間を使わせるなと言わんばかりに。
「はい」
そんなレオナルドの言葉にめげることなくリリィは魔法陣を描き始める。
リリィが描くのは一般的される六芒星ではなく、四角を重ねた八芒星だった。
リリィは己の才覚の無さを理解している、だからこそ出来る事は全てやってやろうと思っていた。
そこで実行に移したのが八芒星の魔法陣、八芒星は特性上四角を重ねるのが最もポピュラーな描き方だ。それを利用したリリィの魔法陣は二つの魔法式が組み込まれている。
一つ目の四角に描かれた魔法式は熱魔法、二つ目の四角に描かれた魔法式は風魔法、五大元素の関係図でいえば相乗効果を得られる相性だ。
ーーこの魔法式なら中級魔法の発動の有無を関係なしに中級魔法に至れるはずだ。
だが、リリィは失念していた。
リリィが以前アルフレッドに魔法の説明をした通り、初級魔法と中級魔法には明確な差がある、それを魔法式に組み込め無かったのはリリィの大きなミスだ。
そのミスに気づく事なく魔法陣を描き終えたリリィはハ芒星の四隅に自分で作った魔力鉱石を置いた。
魔力の代用に用いるため式はすでに鉱石に組み込んでおり、あとはリリィの魔法の発動と同時に自動で処理が行われる。
「リリィ・マクスウェル、行きます」
リリィは大きく息を吸い込み、全力で魔法陣に魔力を込める。
淡く光る魔法陣から炎が立ち上った。その炎を追うように魔力を含む風が火柱をさらに燃え上がらせる。
鉱石からの魔力がしっかりと伝達できているのか炎も風も弱まる事をしらない、強まる炎が球体となりリリィの手元に収まる。
ーー後は、これを!
リリィは手をかざし遠くの壁に狙いを定め、そして、
「やあああああ」
掛け声と共にリリィは炎の球体を飛ばした。
破壊力を帯びた炎球は容易く壁を破壊し、そして燃やした。
ーーあ、あれ?
異変に気付いたのは放った炎球が壁を燃やしたからだった。
ーーそういえばワタシ、魔法式に命令を組み込んでない。
リリィは自分の血の気が引く音が聞こえた気がした。
そして、悟る。
ーーああ、ワタシは失敗したんだ。と
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