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81: 少年と魔王とお見舞いの話 28
しおりを挟むいや、むしろ多すぎるとツァイトは思っていたりする。
これ以上なにか欲しいと言えば、強欲だとしか思えない。
レステラーはその逆で、足りなければいくらでもねだってくれていいのにと思っていた。
けれど、レステラーの思いとは裏腹に、ツァイトはあまり欲しがらない。
無欲とも思えるツァイトが、唯一声を大にして欲しがるのは、大好きな甘味系だ。
甘いものを欲しがるのはいつもの事なので、誕生日プレゼントにするには少し味気ない。
だから先に釘をさしておく。
「とりあえずケーキって言うのは却下だぞ」
「えっ!? なんで」
「なんでって、それこそ定番だろうが。誕生日用のケーキあるのに、プレゼントもケーキって、そっちの方がおかしいだろ」
「うーん……」
よほど他の品物よりケーキの方がよかったのか、ツァイトはまたもや悩みだした。
それ以外は特に今は欲しいと思っていないから、余計に難しかった。
レステラーも他に何かないかと考えて、一つ、ツァイトに与えていない物を思いついた。
「ああ、そういえば、あとアンタを着飾るもので用意してないものって……宝石類か」
金銀財宝は魔王城にもうなるほどあるが、それは主に貴族からの献上品や戦争をした時の略奪品などで、特別にツァイト用にと揃えた宝石類はない。
今でこそ女官長が身の回りの世話をやいたこともあってか、人間界にいた時よりは少し興味が出て、色合いや全体的なまとまりを気にするようになった。
とはいえ、ツァイトはもともと着飾ることに興味がなかったので、魔術道具として使用する目的以外の、装飾用の宝石なんて持っていなかった。
「この際だから、頭のてっぺんから足先まで一式そろえてやろうか?」
「一式?」
「冠に髪飾り、耳飾りにネックレス、ブローチ、腕輪、指輪、アンクレット、あと何あったっけ?」
レステラーのいう意味の一式に、ツァイトは吃驚させられる。
確かにそれらをツァイトは、一つも持っていない。
必要だと感じなかったし、装飾品には興味がなかったからだ。
装飾品に高い金をかけるくらいなら、魔術に関する本を買ったり、今は必要なくなったが古代の魔導書を探すための旅費にしたり、なにより甘い物を買ったりする方が、ツァイトにはよっぽど有意義な使い方だった。
ただ、自分では装飾品に重きを置いていなかっただけで、手の込んだ細工や宝石自体はキレイだと思うし、嫌いではない。
贈られればツァイトも素直に嬉しいと喜んだだろう。
ただしそれは、一つくらいの話で、レステラーがいうような一式なんかではない。
どんなものでも宝石がくっついていればそれなりの値段がするし、しかも、レステラーが言う分だけそろえたら一体総額はいくらかかるのか。
考えるだけで恐ろしい。
領土の次にあり得ない贈り物に、またもやツァイトは思いっきり拒否をした。
「い、いらない! 要らないってば! 第一、オレそんなの貰っても、つけないし!」
「そうか? 遠慮することないのに」
「たかが、オレの誕生日プレゼントにそんな高価なものいらないって! お前、ヘンなところで金かけすぎ!」
そう言えば、前に小遣いとして渡された額も、軽く年収を超えていた。
これが王様と庶民の感覚の違いなのかと、ツァイトは頭を悩ませた。
「アンタほんとうに欲しがらないよな。菓子以外は」
「うるさいな。いいだろ、好きなんだから」
分かっているんだったら、もういっそ、誕生日ケーキとプレゼントにケーキもしくは他の種類の菓子でいいやとさえ思う。
それなら自分は確実に喜ぶし、金額も宝石関係に比べたら微々たるものだから、安心できるのに。
フード越しに頭をぐしゃと撫でられて、ツァイトはふてくされた。
「もうさ、オレの誕生日プレゼントはいいからさ、先にお土産を何にするか考えてよ」
「しようがねえなあ」
この話はここで終わりとでも言うようにツァイトは話を変える。
少し先にあるツァイトの誕生日のプレゼントと、今日のお出かけの土産。
どちらをより優先するかと言えば、ツァイトにとっては土産の方だった。
人間だからとひどい対応もせず普通に接してくれて、何かと世話になっている女官長たちに、少しばかりでも何かお礼をしたいのだ。
「あっ、これなんかどう? ラモーネさんに似合いそう」
大通りに並ぶ店の、ガラス窓の向こうに飾られてある小ぶりの花をあしらった髪留めを見つけて、ツァイトが目を輝かせる。
すごくかわいい。
身の回りの世話をしてくれている女官長は、ツァイトが出会った時は厳しそうな初老の女性だったが、ある時レステラーが彼女を若返らせてしまったので、今では可愛らしい容姿の女性になってしまっていた。
けれど感覚はもとのままなのか、長い髪を纏める時に使う髪留めも、他の若い女官のように可愛らしいものではなく落ち着いた雰囲気の物を使っていた。
「ねえ、レスター。これ、見てもいい?」
「いちいち俺に聞かなくても、アンタが欲しけりゃ好きにしていいんだぜ」
「うん、ありがと。でも一応ね」
魔界の通貨をツァイトは持っていないから、代金を払うのは必然的にレステラーなのだ。
好きにしていいと言われても、一応は断りを入れておかなければ気分的に落ち着かない。
カランと鈴がなる扉を開けて、レステラーとともに店内へと足を踏み入れる。
どうやら雑貨の店らしく、髪留め以外にもたくさんの小物が置かれていた。
いくつか見て回り、その中から数点、いつもお世話になっている女官長を含めた女官たちの為に購入して店をでた。
「喜んでくれるかな」
「ああ、多分な」
無邪気な笑顔を見せられて、レステラーもつられて口元に笑みを浮かべる。
「次はヴァイゼさんたちのかー。どうしようかなー」
女官長たちは毎日長い時間顔を合わせるし、レステラーが執務でいないときによくお喋りもするので、なんとなく好みも分かってきている。
けれど男性陣の方はそうもいかない。
他と比較すれば、宰相であるエルヴェクスと、賢者のヴァイゼとは喋る方なのだが、彼らも彼らの仕事が忙しいので、女官長たちほど好みを知っているわけではない。
ムーティヒやファイクハイトに至っては彼らよりも会った回数が少ないので、好き嫌いが分からない。
みんなが喜んでくれるような物はなんだろうと、ツァイトは再び頭を悩ませた。
「何かある?」
「……酒?」
思いつくものと言えばそれくらいだ。
「おさけー? お土産にするにはちょっとどうかと思うんだけど……」
「まあ、でも、嫌がられはしないぜ?」
「うーん……」
そういうものだろうか。
お酒をまったく飲まないツァイトは首をひねる。
「もう少し他を見ながら考えてみるよ」
簡単に決まるかと思っていたが案外難しい土産選びに苦労して、結局はレステラーの提案に乗り、ツァイトはこの時期限定発売の地酒にすることに決めた。
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