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Code 140 不穏な事件
しおりを挟む「さて、海に入ったけど、今度はどこに行こうかなって」
「思いっきり楽しんでまんな」
「ああ、私もたまにはこうして羽目を外すのは悪くないと思うようになった」
「んじゃさ、合コンとか行っちゃいます?」
ハーネイトは事務所でくつろぎながら、海に言った感想を述べる。そして伯爵が調子に乗って楽しそうに遊びに誘おうとする。
「却下、てか伯爵、まさかどさくさにまぎれて、妙な遊びをしていないか?」
「うっ、べ、別にいいだろ。もっと多くの人間と話して、見聞あげてえんだ」
「そう言って伯爵は、遊び惚けてるんでしょ?少しはハーネイトを見習えば?」
そう誘った伯爵の言葉にあきれながら断り、冷たい目線を送るハーネイト。とても冷ややかで、凍てつきそうなその視線が伯爵をまごつかせる。それにどうにか反論するも今度はリリーにも指摘され、ややしょんぼりがっかり丸になっていた彼であった。
「リリーもキッツいなあ、俺はやるべきことはやってるっての」
「例えば何よ」
「情報収集とか、魔獣狩りとかよ」
「へえ、なんからしくないわね」
この一見ちゃらんぽらんとしている男が、見えないところで意外と仕事をしていたことにリリーは少し驚いていた。一応報告書は出しており、多忙の中でもハーネイトは目を通し確認していたため仕事ぶりについて特にいうことはなかったが、意外とまめに仕事をし続ける異形の存在に様々な意味で複雑な表情を見せていた。
「こらこら、リリーもそのくらいにして。……どうも、遊んでいる場合じゃなさそうだ。南雲から救援要請が入った。すぐに向かうぞ」
「あいつからか、何があった」
「迷霧の森の南東部で巨大な植物の化け物が暴れまわっているとな」
「ちっ、至急部下を派遣しよう。行くぞ相棒」
ハーネイトが受け取った手紙、それは南雲たち霧の里からのものであった。そして内容を見るな否やすぐに一階まで下り、従業員とたまたまそこにいたシャムロックに話をつけてからホテルを後にする。
そして以前風魔に教えてもらった迷霧の森の最短ルートを3人でとおり1時間かけて里の近くまで足を運んだ。まだ魔法転移石を置いていないため、あの時のように足で移動するしかなかったという。
「ようやくついた。ってこれは一体……」
「見たところ、魔界の植物って感じだよね」
現場まで駆け付けた3人は、その光景に絶句していた。今まで巨大な獣による街の襲撃は日常茶飯事であったし、それならば驚かないが、今回の犯人は無数のつたを広げ暴れまわる植物であったからである。
「マスター!助かった。こいつら切っても切っても生えてくるんだ。炎属性は迂闊にここでは使えないし、そもそも苦手属性なんだ」
「確かに、周囲の木々に燃え移ると厄介だ。使用する際は火力を抑えないといけない。もう霧がない以上、それによる火災抑制は期待できないからね」
霧のあった状態の森ならば、空気中の水分を利用し火の加減を自在にできるが、そうでない以上術者が放つ火炎魔法は、練度と場合によっては別の被害を生み出す可能性があった。
「あっちに風魔がいるんだけど」
「もう、ほんっとしつこいわね。ってハーネイト様!それに伯爵さんとリリーちゃん!」
「おう、元気にしてるか?」
「ええ、だけどこの緑のつるお化けどうにかしてよ……っ! 」
歴戦の忍である風魔も、初めて相手をする植物の怪物に疲れ果てていた。けれどもハーネイトの姿を見て、表情を一変させ引き締まった表情になった。
「はああ!さっさと倒れなさい!」
「風魔、後ろだ!」
「なに!?ってきゃああ!」
しかし風魔は不意を突かれ、南雲の声を聴くと同時に蔦が数本体に巻き付き捕まってしまった。
「ちっ、穿て、赤の魔閃!(シュトラール)」
「きゃああああっ!あ、あぶなかった」
それをすかさず刀先から魔閃を放ち蔦を焼き払うハーネイト。くるっと着地した風魔はすぐに合流し、再度構える。
「ふう、風魔は時折ドジを踏むな全く。それにしても、何で突然」
「さあね、だけど、DG絡みだとしたら?」
そしてリリーがDGの研究とこれが関係あるのではないかとつぶやく。実際彼らの行っていた研究は多岐に渡る。まだすべての拠点を見つけられていないものの、すでに回収した資料の中には巨大生物に関するものが見つかっている。これらもその関連だとしたらと思いリリーは困った顔をしていた。
「まだ証拠が出てない状態で言ってもな。しかし、放っておくと霧の里にまで来るな」
「どうにかして、この再生能力を封じないと」
「けっ、やるか相棒」
「どうした伯爵」
ハーネイトの懸念は、この植物が、霧の里にまでやってこないかということであった。しかし身動きのいまいち取りづらい森林帯、そして驚異的な再生能力が戦闘を困難にしていた。しかも魔獣と違い、弱点を突こうにも情報が足りなさすぎるため、少し攻めあぐねていたのであった。
「以前、切ったところに俺の眷属まぶせば、再生能力が高いだろうと抑え込めるって言ったよな」
「あ、ああ。覚えていたんだな」
伯爵は日之国で戦った巨大猪との戦いを思い出す。人間をはじめとした生物に関して対抗できる微生物はいつでも呼び出せる状態であったが、相手が植物となると少しわけが違う。そのため時間がないと思った伯爵は以前学んだ戦法を用いてみようと考えたのであった。
「今から命令を下すから、全員であの付け根のつた部分を切りまくれ!植物系にダメージを与える眷属の手持ちがないしすぐに呼んでこれねえ!だから物理的に行くぜ」
「ええ、了解! 」
「んでリリーは、炎系のスマートな奴で焼き尽くせ!」
「わかったわ」
そうしてリリーは飛行魔法で上空からタイミングをうかがう。がしかし、それに感づいた敵が反撃を繰り出してくる。
「っ!思ったより抵抗が激しいな」
「迂闊に近づけねえ」
「弧月流・刃月!」
そして南雲と風魔はサイド攻撃を仕掛けようとするも、つたを振るい大暴れする植物に近づくことさえできない状況であった。しかしハーネイトは刃月で衝撃波を飛ばし、いくつか植物の根元を切り裂いた。
「やはり飛び道具しかあれか。イジェネート忍法!武甲怒涛!」
「こっちも行くわよ、白銀舞踏乱刃!」
「ほう、凄まじい連撃だ」
攻撃手段を切り替えてからの連撃は有効打であった。忍の2人はさらにラッシュを仕掛ける。
「やるな風魔、今ので怯んだな。一気に仕掛けるぞ!」
「はい!」
「了解、マスター!変幻巨大手裏剣!」
「弧月流・満月斬!」
風魔の舞踏乱刃が敵の勢いをそいで攻撃する隙を作り出す。そして南雲に合わせハーネイトは連携技を繰り出す。そしてすべてのつたを切り取られた植物に悪夢が襲い掛かる。
「ああ、行くぜ!我が眷属よ、あいつにとりつきすべてを封じろ!」
解析が済まない以上、日和見の反乱劇は使えない。だからこそ、今のうちに解析と再生妨害を行うべく、空気中に無数にいる微生物たちに対し命令し、切断面にとりつくように命じた。そしてそれが功を奏し、その植物は蔦触手を新たに生み出すことが不可能になった。
「ぴしぃいいいいいい!」
「とどめだリリー!」
「24の双翼 猛炎の魂 焼かれ舞い、虚空に消える 幾多の火燕よ狂い踊れ 大魔法34式・火燕掌砲(かえんしょうほう)」
リリーは飛行魔法をかけ空に飛び上がると、両手を重ねそこから、無数の小さい火の鳥をその怪植物に向けてはなった。それは火の雨のように、無慈悲に降り注ぎ、しかし他の木々は燃やさずに、確実に化け物の息の根を止めることに成功した。
「ぐきゃああああああ!ぐじゅるるっるる!、っ!」
森の中に断末魔が響き渡る。そして燃え尽きた巨大植物は灰となり、風になって消えていった。
「ナイスだ、これでお終いだろう」
「ふう、本当に、奇妙な生物だったわ。魔獣はともかく、植物は初めてよ」
「誰かが持ち込んだか、異世界から流れついたか。どちらにせよ、他の地域にもいるかもしれない。情報は密に、共有をしないとな」
ハーネイトはヴァール海岸の件も含め、新たな脅威が迫っていることに危機感を抱いていた。今までこのようなことはなかった。けれど現実に起きている。これもDGの影響によるものなのか、それともほかに原因があるのか。情報が足りない今、ハーネイトは再度部下や仲間たちを用いて諜報活動を行うことを決めたのであった。
そして来るべき時、つまり遺跡での次元融合装置の起動までにある程度事態を収束させたいと思いながらハーネイトは霧の里に立ち寄り、藍之進と今回の一件について話をしたのであった。
この先彼らの身に降りかかる幾つもの事件、試練、脅威。ハーネイトの真の出生に関する秘密を始めとした古代人に関する重要な情報。更にはフューゲルたちが言っていた女神との邂逅。この時まだ誰もが、思いもよらぬ全世界の存続と未来を賭けた戦いの当事者になることを理解してはいなかったのであった。
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