上 下
20 / 22

第十八話 ミゴレットの失踪事件とフューゲルの謎

しおりを挟む
 ハーネイトたちはミスティルトシティに向かうため日之国を離れてそこへ向かっていた。道中にある貿易の街ミゴレットで彼らが待ち受けていたものは一体……?


 日之国から離れ早数時間、森林地帯をシャムロックの操るベイリックスは豪快に突破しつつあった。巨大なトレーラーが森の中にある道を100km近くのスピードで飛ばしているため猛獣や魔獣が近づくことすら敵わず、安全に目的地まで進んでいた。リシェルやエレクトリールが話す中、ミカエルとルシエルは爆睡していた。

「本当に、シャムロックの作る道具は恐ろしい。」
「騎士国にもこんな車両はなかった。あの運転手のおっさん、シャムロックか。とんでもないお方だ。」
「いろんな意味でそうですね。見た目も性格のギャップもです。」

 ハーネイトはトレーラー部分の中にある部屋で紅茶を飲みながら乗っているトレーラーの感想を述べた。それにリシェルとエレクトリールも加わる。

「鉄の馬に鉄の馬車か。面白い。てか早すぎだこれ!」
「もう、南雲ったら。」

 南雲は初めて乗った乗り物のスピードと走る仕組みに驚きながら車内から窓を介して景色を見ていた。

「機士国の連中には引き続きエージェントたちからの情報収集を頼んでいるが、別視点でいうとどうしてもアリスの力が頼りになるな。しかしなぜここに?」
「え、いやあ兄貴。私は私でハーネイトの兄貴の取材もしたいですし、それにバイザーカーニアの連絡係として私がいないといくつかの道具の手配ができませんからね?」
「そうだったな。仕方ない。あの連中にXZIRの1を12本、8を6本頼むとするか。」
 
 そういいながらハーネイトはコートの中に備えているペン型投げナイフの種類と本数を確認していた。彼の使うペン型投げナイフはバイザーカーニアという魔法秘密結社で作られている代物であり、応用力の高さからサブウェポンとして利用している。なぜ銃などの飛び道具を使わないかというと、投げナイフは投擲時に音がほとんどしないのと、銃を使うことに対する抵抗感が彼にまだ若干残っていたからである。
 
 かつて魔法使いの派閥の中でも異端児として、銃に魔力を込めて放つ魔銃士という集団が存在した。彼らは魔法を戦いで多く使うことこそを至高とし、多くの戦争に介入し力を奮ってきた。しかし彼の師匠、ジルバッドはそれを良しとせず嫌っていた。魔法は人を含めたすべてを幸せにするためのものであるという師匠の教えを死別するまでずっと聞かされていたハーネイトには、銃という道具をどこかで嫌っていたのである。
 
 しかしリシェルやアルといった現代にわずかに残る魔銃士を見て、心の中で考えが変わりつつあった。元々魔銃士が編み出した魔閃を独自に習得したハーネイトだがより効率よく使用するには道具を介して魔力収束率を上げる必要があった。そしてそれを刀で行っていたのだが、リシェルの戦い方を見てやはり銃が一番効率よく魔閃を放てることを理解した。
 
 だが一つ問題があった。彼に適する銃が彼自身でよく分からず、しばらくは多様な使い方のできる投げナイフを使おうとアリスに必要なナイフの注文を頼んだのだ。しかし彼にとっては今後もナイフと銃の両方を使っていく必要があった。ペン型投げナイフは物理が中心の遠距離攻撃であり、彼の放つ一撃は例えると戦艦の大口径砲の一撃と同格である。またイジェネートの弱点である放出による体内金属の減少を防ぎつつはるか遠くを攻撃できる点でも、ユニークな副兵装は頼もしいものであった。

「シュペルディンとカラミティイグニスですね?了解しました。連絡して手配しておきます。」
「ああ。シャムロック、あとどのくらいでミゴレットにつくか?」
「あと30分ほどです。魔獣たちの魔力反応もなし。しかしなさ過ぎて不気味ですな。」
「そうだな。シャムロックの言うとおりだ。いなさすぎる、というのも不自然だ。」
「丸ごとどこかに移動した感じだな。」

 シャムロックに到着の時間を確認し、それと同時にシャムロックは運転席に備えているレーダーを確認し魔力反応を探る。しかしあまりに反応がなさすぎることを既に肌で感じていたハーネイトや伯爵は不思議に感じていた。

「いないならいないでいいんじゃないんですかね、師匠?」
「そうとは言えなくてな、まるで生き物の気配が全くない、死の森だって言いたいのだ。」
「確かに、マスターの言う通りですな。何も感じない。不吉な予感がするでござる。」
「ええ。ハーネイト様。この先はさらに警戒しましょう。
「ああ。そうだな。」

 リシェルの質問にそう答え、目を閉じて周囲の気を探るハーネイト。南雲と風魔もそれを感じて警戒していた。
 それから約30分後、貿易の町ミゴレットに到着した一行は町の入り口で車から降りた。ミゴレッドは小規模の貿易街であり、細々と周囲の街と織物や周辺で採掘される鉱石といったものを取引していたという。しかし町の現状を見たハーネイトたちは起きていた異常事態を雰囲気で感じた。

「ふああ、よく寝たわね。しかし誰もいないじゃない。」
「そうですね。何も気配が感じられない。」

 若干寝ぼけながらも車内から降りたミカエルとルシエルは、すぐに街の中に人の気配がないことに気づいた。
「うむ、あれだけ活気のある街がこうなるとはな。ただ事でないぞ。」
「そうですわね。しかし調べれば何か見つかるでしょう。ハーネイト様、八紋堀様からの依頼の件はお忘れではなくて?」
「ああ。全員で調査する。30分後に再度ここに集まってくれ。ではっ!」

 ミロクとミレイシアの言葉を聞き、ハーネイトは全員に調査指示を出した。

「わーかったよ。酒場のあたりに相当物が落ちているな。調べる。」
「わかったわ伯爵。とぅ!」
「行きましょう。まずはあの建物から。」

 伯爵は早速菌探知(バクテリアサーチ)で何か異変を感じリリーと共に真っ先に町の中に飛んで行った。ミカエルたちも続いて入り、ハーネイトも駆け足で入っていった。

 伯爵が町の中央からやや離れた場所にある大きな酒場に入り、物が散乱した床をくまなく確認する。彼はすでにここから邪悪な気を感じていた。そしてハーネイトと風魔、南雲が続いて入る。
  
「おい相棒、これを見てくれ。」

 伯爵は机の下にあったまがまがしい一枚の札を手に取った。

「これは、あのカードか。デモライズ、そうなるとDGがここにきて何かをした可能性がある。あの報告書にあった兵士魔獣化計画か。」
「わずかに薬品の臭い。頭がくらくらしそうだぜ」
「これはジグドの臭いだわ。催眠作用のある薬剤ね。私たちは効かないけどね。」

 ハーネイトは伯爵の持つデモライズカードを確認し、南雲と風魔の言葉から日之国で起きた技術者誘拐事件の時と同じ手口でDGが住民をさらったのではないかと推測した。

 同じころ、リシェルとエレクトリール、ミカエルとルシエルは町の北側にある大きな建物の中にいた。そしてリシェルが暗い屋内の中で何か光るものを見つけ手に取った。

「これは、きれいなバッジだ。」
「屋内はほとんど荒らされていない。ただの盗賊たちの仕業ではなさそう。」
「誘拐のプロが住民をさらったようだ。しかしなぜだ。」

 リシェルはバッジをよく見ながら周囲を確認し、ミカエルとルシエルは魔法で周囲を灯して何か異変がないか確認をしていた。伯爵が確認した酒場と違い、ここは物を探すために荒らしたような痕跡はなく、4人は不思議に感じていた。そして30分が経ち町の入り口に再度全員が集まった。

「こんなバッジが落ちていたっすよ師匠。これって。」
「DGのマークだ。それにこの酒場で拾ったカード、これらのことから犯人はDGである物証はそろった。さて、ワニム!」

 ハーネイトはそう叫び、その場で手紙を素早く書いた。

「お呼びか、主よ。」
「八紋堀のところまでこれを運んでくれ。」
「了解した。」

 そういい、ワニムはすぐに手紙をくわえ日之国の方角に飛び去って行った。

「そうだとしたら、一体彼らは何をしたいのでしょうか。本当にむかつきますね。」
「そうね、いなくなった住民の行方も分からないし、どうしたら。」

 エレクトリールが表情を険しくする。そしてミカエルは周囲を目で確認しながらいなくなった住民の手掛かりを探ろうとしていた。
   そのとき、ハーネイトに向かって町の中央から一本の矢が飛んできた。それとすかさず指で矢を挟み捕らえるハーネイト。いきなりのことで驚いたが、矢の形状を見てかすかにほほ笑む。

「大丈夫ですか師匠!」
「ああ。問題ない。」

 その時、町のほうから2人の男がこちらに向かって歩いてくるのが見えた。そしてその男がハーネイトに対して声をかけてきた。

「腕は相変わらずですね先輩。」
「あの一撃を指で止めるとは。」

 その声と姿を見て、ハーネイトは確信した。かつての教え子である32人の中にいた解決屋志望のためにバイザーカーニアに入った若い男たちのことを。

「ミフェイル、イザーナク!おまえらか。一体どうしたんだ。」
「騒ぎに巻き込まれて、潜伏していたのですよ先輩。お久しぶりです。」
「私たちが宿にいたとき、外が騒がしいからこっそり除いたら、黒づくめの男らが倒れている住民たちをトラックにのせてどこかに運んでいるのを見た。」

 ハーネイトはミフェイルとイザーナクという男と再会した。ミフェイルは弓を使う魔法使いであり、緑を基調とした狩人衣装に身を包んだ金髪金眼の男である。イザーナクは短髪で青縁の眼鏡をかけたジーパンに緑青色のジャケットを身に包んだ賞金稼ぎの男である。彼らはバイザーカーニアからの独自の指令を受けて調査をしていたのだが、たまたまここで事件を目撃したのである。

「そうか、ご苦労だったな。そういや他に手がかりになりそうなものはあるか?」
「連絡を取っているゴウカイザがミスティルトシティの先にある、今は人のいない白の中に黒づくめの男らが入るのを見たという。」
「そうか、そこはガンダス城だな。ありがとう、おかげで行方が分かった。早急に向かわなければな。」


    そのとき、街の向こう側から叫び声がする

「何いまの!」
「誰かがおそわれたような声がしたわ。」
「早くいくぞ。かなり近いはずだ。」
「ああ、ほらいくぜ!しかし何だこの邪気は。ハーネイトが変身した悪魔のようだ。」

 伯爵とリリー、リシェルが先に声のした方向に走り出す。

「3人とミカエルたち、南雲と風魔はベイリックスのほうを頼んだ。」
「御意。」
「気をつけてくだされ主殿。」
「ああ。お前らもな。」

 ハーネイトはミロクたちに指示を出し、伯爵の後を追う。


    街の外に出て、声のした方向を見ると一人の男が大型の魔獣とつばぜり合いになっている光景を目撃した。

「くっ、なんでこんな奴らに!」
「 ゴアアアアアア!」

   その大きな魔物はジャイアントオーガスと呼ばれる巨大な獣鬼で、その力は一振りで木々が暴風になぎ倒されるほどの贅力を持つ。そのオーガスを、他の魔獣たちが武器を使って止めようとしていた。

「ボブラス!正気にもどれ!」
「ぐっ、俺の力じゃ止められねえよ!」

 鷹と人が混じった魔獣人と小型の竜人が鎖をオーガスに巻き付けていた。しかし力の差に動きを止めることができない。

「逃げなさいそこの人間!」
「 巻き込まれたくなかったらな!」

 オーガスの後ろから狐の顔をした女性型の魔獣人と、小柄だが精悍な顔つきをした小鬼、つまりゴブリンがオーガスの大剣を受け止めている男に呼び掛ける。

 そのとき、木々の中からハーネイトたちが駆けつけた。

「おまえは誰だ!それにガルマザルクだと!」

「貴様はっ!あの男か!」
「いや、あんたの顔知らないんだが。ってそうじゃない。ボブ!どうしたんだ一体!ルクルザイン、レコーン、説明しろ。」

 「ハーネイトさん、まさかここで出会えるとは助かった。ボブが突然暴れだして言うことを聞かない。」
「早く止めないと大変よ!」
「確かに、これは不味い。麻痺矢を使うか。」

 ミフェイルが弓を構えようとする。それをハーネイトは静止し、ボブの首元にあるものを指さしてみせる。

「まて、ボブの首もとをよく見ろ。」
「あれは、何かの装置か?」
「電撃で壊します?」
「エレクトリールのは電圧が強すぎてボブが危ない。」

 装置を壊そうと提案するエレクトリールだが、彼女の一撃はどんなに手加減をしても生物には致命傷を与えかねない代物のため、それはやめろと指示する。

「それなら、この私の力使う?パパっとやって、すぐに終わるわ。」
「その声は魔人第2位、プリヴェンドラー!」
「ようは、あれを取ればいいだけだよね?少し言うこと聞いてほしいけどいい?」
「ああ。」
「私の姿をしっかりとイメージして、地面に手を置いて?」

      ハーネイトはプリヴェンドラーのその指示に従い、ゆっくりと手を地面におく。するとハーネイトの体が一瞬光る。そして目の前には、イメージした通りの女性、プリヴェンドラーがいた。そう、彼女はハーネイトのイジェネート能力を引き出し、金属で仮の肉体を作り出し一時的に顕現した状態になったのだ。

「こういうかたちとはいえ、嬉しいわね。手早く終わらせるよ?」

      そう言うな否やプリヴェンドラーはすかさずボブの体に素早くかけ登り、バク宙をしながら短刀で首にある装置を剥ぎ取り、地面に軽やかに着地した。

「どう?憑依状態でもあなたに力を貸せるからよろしくね。力を磨けば、もっとみんなを呼べるわよ。期待しているわ、未来の王様?」

     そういい、プリヴェンドラーの体が光り姿を消した。

「ふう…。これもイジェネートの力というのか。肉体まで作り出せるとか、フォレガノあたりでも呼んだら大変なことになるな。」
「ほんとに面白い能力ばかり持っているな。」
「はあ、はあ。何?フォレガノだと!!!」

 ハーネイトが自身の力の感想を言うと、つばぜり合いから解放された男がハーネイトの言葉に反応した。

「どういうことだ、なぜフォレガノを知っている。」
「あ、ああ?話すと長いんだけどなこれ。」
「Dカイザー様が言っていた、彼の上司であり大昔に人間界に侵攻した伝説の悪魔、フォレガノ。話には聞いていたが、本当だったとはな。」
「それは、どういうことだ?それにDカイザー、だと?」

 そう、この目の前にいる目つきの悪い男こそフューゲルであった。リンドブルグを機械兵で襲わせた後、北大陸で活動をしていたのだが、大量の機械兵に追われて逃げていたのである。
 
 彼の正体は、この世界によく訪れる侵略魔であり上司であるDカイザーの命により、DGに潜入し彼らの動向を探りながらかつて起きたDG侵略においてジルバッドを殺した犯人を追っていたのである。この時点で彼らとジルバッドたちに一体どういった関係が存在したのか理解しづらいかもしれないが、要はDカイザーという人物はジルバッドたちと仲良くなった別世界の住民であり、またハーネイトをこの世界に連れてきたきっかけを作った男でもある。

 フューゲルはそのDカイザーの実の息子であり、カイザーの命でDGに対して潜入捜査を行う傍ら、ハーネイトの様子を見ていた。リンドブルグでDGの上司に報告した内容は後半部分の大魔法に関しては敢えて説明しておらず、彼はずっとDカイザーと共にハーネイトを見ていた。

「あの、私を一殺夫婦のもとに連れて行ったあの男か。どういうことだ一体!」
「それは後で説明する。しかしこれはDカイザー様も喜ぶ話だ。今のところ敵ではない、どころか見方だ。貴様のな。」

 そういい、フューゲルは地面に座り魔獣たちを見ていた。

「済まなかった、オデ、記憶がっ!」
「落ち着け、ボブ。しかしまた魔獣を操る装置か。ボルナレロは何してるんだもう。」
「ありがとうございました、ハーネイト大先生。」
「以前よりも力が増しましたな。」

 ボブが泣きながらハーネイトたちに謝る。そしてルクルザインとフォルコがハーネイトに礼をした。

 彼らは魔獣兵士隊「ガルマザルク」といい、5人で1組の人語を話せる魔獣人により結成されたほかの魔獣の保護や暴走した魔獣の鎮圧を専門とする集団で、南大陸の北端に拠点がある。ハーネイトは昔何もしていないのに人間から追われる魔獣人たちを助け感謝された。そして彼への恩を返すため、少しでも負担を減らそうと自警団のようなものを作り魔獣被害を抑えようとしてきたのである。

 リーダーのルクルザインはダウルゴブリンという種族で知能が非常に高く、顔も肌色の点を除けば美形の軍師である。ボブはジャイアントオーガスであり突撃や囮、盾などを担当にする。レコーンはフォクシニアという狐の魔獣人でナイフを用いた素早いかく乱や暗殺が得意。イグザルドはリザードの魔獣人で特殊な道具で相手を封じる少々ひねくれた男、鷹人のフォルコは唯一空を飛べ、上空から奇襲を行う偵察兵であった。 

「まあ、な。」
「おかげで本当に助かりましたぜ。しかしハーネイト大先生は本当に変わったお人ですな。」
「皆さん、ご迷惑をおかけして申し訳ありませんでした。」
「それはいいんだが、なぜ人の言葉を話せるんだ?」

 イグザルドとフォルコがハーネイトに改めて礼をすると、リシェルが誰もが思っていた疑問を口に出す。

「私たちは別世界の住民です。しかし突然ここにいたのです。途方にくれていたのを助けてくださったのがハーネイトという人物です。」
「ハーネイトはいろんな人と仲良くなれるよね、不思議だわ。」
「成り行き、だよ。」
「しかし、大先生、は。おでらを襲わずにアドバイス、もらった。ハーネイトほど、優しい者は、本当にいない。おで、また会えて嬉しい!」
「しかし、南大陸にいるはずなのに、ここにいるのはなぜだ?」
「魔獣の群れや高等魔獣が連れ去られていると聞いてな。」
「あいつら、人間たちだけじゃなく、魔獣や私たちの同族まで捕まえてた。」

 ハーネイトの質問にルクルザインとレコーンがそう答えた。これで道中に魔物が極端にいなさすぎる理由の説明がついた。

「同族まで?他にもいるのか。しかし捕まえてなにもしないわけがないからな。」
「はあはあ、ハーネイトの兄貴!友達からまた興味深い話が!」
「話してくれ。」

 ハーネイトのもとにアリスが走ってきた。急ぎの報告らしく話をその場で聞くと、例のガンダス城に人だけでなく魔獣も多く運ばれており、その城の周辺では奇妙な生物がうろつきまわっているという。

「ではいくとしよう。ミフェイルはともかく、ルクルザインたちはどうする?」
「どうしようか。ああ、手紙はきちんと読んでいますよ。機士国主導のもとでいろいろやっていると。私たちも加わりたい。」
「そうだな、確かに実力はある。このあたりのことは任せてくれ。北大陸の西端にあるアクリムリスシティに向かってくれ。追って指示を出す。」
「了解しました。大先生、また会いましょう。」
「ああ。」

 そういうと、ルクルザインたちは南の方角に歩いて去っていった。

「 行ったか、しかしハーネイト師匠、ああいうのも仲間なんですか?」
「昔に少し助けただけだよ。」
「魔物たちさえ心を通わす、不思議な人ね本当に。悪魔の笑顔といい、万物を魅了してしまうのね彼は。」

 リシェルの言葉にそう返すハーネイト。そしてミカエルは心の中でハーネイトのことについてそう感じていた。

「やれやれ、しかしまだ終わっていない。追いつかれたか。くっ。」

 座っていたフューゲルが西の方角を見ていた。すると機械音が森中に響き渡ってきた。フューゲルを追ってきた機械兵たちであった。実はフューゲルは、DGのもとで戦うふりをして機械兵や魔獣を倒してきたのだがそれを目撃され、上司であるボガーノードにスパイ活動がそれでばれてしまい追われていたのである。

「くっ、逃げるのに力を使いすぎた。俺も変身能力があるが長時間は使えない。」
「ったく。こうなったらみんな、ウォーミングアップと行きますか。」

 そういい、ハーネイトは目で捉えた機械兵たちにペン型投げナイフXZIR-02「ガドラクライン」を全力で投擲し、すかさず刀を向け、電撃を纏った黄色の魔閃を素早く数発放つ。すると先にガドラクラインが当たった機械兵に魔閃が直撃し周辺にいた機械兵に誘電、ショートさせ機能を停止させた。

「以前よりも、さらに成長しているか。無駄がなくなっている。」
「んじゃ俺様も。」
「狙い撃つぜ!」

 伯爵は森の中を自在に飛びながら、空中から菌閃(ハーネイトの真似。菌を凝縮した気体ビーム)を指先から放ち、機械兵数体を溶かしたあと両手からサルモネラスパークブレイドできりもみ回転しつつ敵陣に飛び込み瞬時に兵を無数の破片に変えてみせる。

「魔銃士の力を見せてやる。」

 リシェルは片膝をついて、アルティメッターを構え魔閃ではなく魔弾をガトリングで掃射し迫りくる機械兵たちを打ち抜き続ける。

「一気に片付けるか。魔本の力よ、私に力を。」
「相手は機械系、私の力を使うとよい。アカツキ・ライデンだ。魔人第21位、雷を操る。」
「面白い、ではやるか。魂の憑依共鳴、はああああああ!」

 ハーネイトは魔人、アカツキ・ライデンの力を借り、イジェネート能力で一時的に体の表面をライデンそのものに変化させた。全身に雷を纏い、南雲や風魔のようなシノビ衣装に変身すると敵陣を稲妻が走ったかのように駆け回りつつ、すれ違う機械兵たちをバラバラに電撃で砕きまわる。そしてとどめに空中に高く飛び、わずかに残った機械兵たちを狙う。

「行くぞ、雷電鳴神!」

 そう叫び、ハーネイトは指先から瞬時に直撃する、エレクトリールの電撃に匹敵する一撃を放ち残りの兵を消滅させた。」

「はあ、凄まじい力だ。」
「気が向いたら、今度は肉体を作ってもらいたい。そうすればもっとやれる。面白い男だ、まったく。」

 そういい、ライデンは異空間の中に帰っていき、変身も解除された。

「一時的とはいえ、私の力に匹敵していた。ハーネイトさん、本当にあなたなら理想の王様になれそうですね」

 ハーネイトの能力を見て、エレクトリールは心の中でそう思っていた。

「はは、ははは。本当に恐ろしい力だ。……借りができたな。ハーネイトよ。」
「いろいろ話を聞かせてほしいところだがそうはいかない、あまり時間がないかもしれない。」
「今回のことはDカイザーに伝えておく。カイザー様も久しぶりにハーネイトに会いたがっていた。そして昔何が起きたかについて話をしたいとな。だがこっちはこの調子だ。一旦カイザー様のもとに帰らさせてほしい。」

 フューゲルは礼を言いつつDカイザーのことについて話した。

「しかし、私という存在は相当いわくつきみたいだな。謎は深まる、ばかりか。」
「しかし、それももうすぐ解ける。この戦いの果てにハーネイト、お前は真実を得られる。今回は本当に助かった、情けない話だが。この借りは近いうちに必ず返す。侵略魔のことについていい気分はしないだろうが、俺やカイザー様のように世界を守る意味を知り行動している者もいることは、忘れないでくれ。ではまたな。」

 そういい、フューゲルはその場から姿をすっと消した。

「一体何だったんだあれは。」
「また妙な連中が増えたな。相棒。」
「そうだな。しかしDカイザーか。」

 ハーネイトはそういうとしばらく黙り込んでしまった。

「あれが噂に聞く新しい力、変身か。師匠すげえ。」
「どこまでこの人は強くなれるのでしょうか。私はあの人のようにならなければならない。そして友を奪ったあいつらに勝つために。」

 エレクトリールは歯を食いしばりながら、昔の事件を思い出し無力さを悔やんでいた。そして雷の技を使ったハーネイトに少し複雑な感情を抱いていた。

「彼も雷を使える、そうなると私のいる意味は……。」

 しかしエレクトリールのその考えは実際は違っていた。ハーネイトは変身でこそ雷を一時的に扱えるのであり、常時発動し電気を生き物のように操れるエレクトリールに代わる人材はいないのであった。だが彼女は自分のことが見えていなかった。今までの複雑な過程が頭を巡り彼女を苦しめていた。

「ふう、とにかくフューゲルは近いうちに会えるだろう。さあ、素材回収してからシティに向かうぞ!」
「おうよ相棒!」
「手伝いますよ師匠。」
「そ、そうですね。私もです。」

 こうして機械兵の金属を集め、イジェネート能力で吸収後異空間に転送しハーネイトたちはシャムロックたちのいるところに戻った。

「お疲れ様です、主殿。」
「ああ。何もなかったか?ミロク爺さん」
「何もありませんでしたぞ。」
「ハーネイト、戦ってたでしょ?」
「ちょっとあってな。後で車内で話す。急ぐぞ、敵さん住民たちに何する気かわからない。」

 そういいハーネイトは真っ先にトレーラーの内部に乗り込んだ。そして全員が乗り込み、彼らを乗せたベイリックスは今度こそミスティルトシティに向かうのであった。
しおりを挟む
1 / 5

この作品を読んでいる人はこんな作品も読んでいます!

絶体絶命ルビー・クールの逆襲<孤立無援編>

ミステリー / 完結 24h.ポイント:0pt お気に入り:14

その日、王子の顔が壊れた

恋愛 / 完結 24h.ポイント:0pt お気に入り:528

ショートショート「おばあちゃんの秘密」

現代文学 / 完結 24h.ポイント:0pt お気に入り:0

テンプレファイト

恋愛 / 完結 24h.ポイント:0pt お気に入り:2

儚き君へ永久の愛を

恋愛 / 完結 24h.ポイント:0pt お気に入り:12

不撓不屈

現代文学 / 連載中 24h.ポイント:2,585pt お気に入り:1

【BL】ポケットの中の秘密

BL / 完結 24h.ポイント:7pt お気に入り:22

二番煎じな俺を殴りたいんだが、手を貸してくれ

恋愛 / 連載中 24h.ポイント:631pt お気に入り:0

処理中です...