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第二十話 魔法怪盗VSハーネイト 後編
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ホテルに案内し、作戦説明をするハーネイト。そしてホテルの外に出る。予告状で指定された博物館に向かい事前に罠を張ろうとする。しかし怪盗たちは鮮やかに彼の目を盗み宝石を盗み出した。それでも鎖でとらえる。そして事情を尋問する。
ハーネイトはエレベーターで一階に降り、ミランダにフロントで話しかけると外に出た。
時間は夜の7時過ぎで、幾つものビルから明かりが地面や人を照らしていた。この街は古代人のほかに異世界から来た人も多く住んでおり、元にいた世界の癖が治らない影響か、よく働く人がこの街には多いようだ。
「やれやれ、こんな時に怪盗に付き合わされるとか悪夢か?ふざけた真似を。」
そうぼやきながらズボンのポケットに手を突っ込みながら歩くハーネイト。情報から推測しても、あの怪盗一味であることは間違いない。となると彼にとっては非常に都合の悪い話であった。
「まずは館長と話をしないと。元気にしているかな、ポプルさんは。」
そう考えながら10分ほど歩いて予告状に名前が書いてあった博物館に入る。そして受付で待たされると、奥の方から中年のおじさんが歩いてきた。
「おやおや、ハーネイト殿。お久しぶりですな。」
「久しぶりです。」
ハーネイトの目の前に来た中年の男性はポプル・マッカーマン・リージアスと言う。何度も遺跡発掘の際に彼に協力した優秀な考古学者であり今はこのミスティルト大博物館の館長として働いている。
「ここを訪れるということは調べものか?」
「いえ、これをみてください。」
ポプルに手紙を見せるハーネイト。なぜか予告状が2枚手紙の中にあったため、1枚は部屋に置いてきていたという。
「ほっほ、面白いのう。ここに盗みに入ろうとはな。」
ポプルがそう言いながら笑うと、さらにもう一人の男がやってきた。
「なんだ、盗みの予告か?」
「ウェコムか。あれから結構雰囲気、変わったな。」
「それはお前さんもだ。ここに来るとは珍しいな。あれからまた活躍していると聞いたが。」
「まあそれなりにだよ。」
この男はウェコム・ドラード・カルぺリスという。機士国出身の男で元警備隊に所属していたが、ある事件の責任を取り今はこの博物館で警備主任を任されているという。ウェコムはハーネイトが手にしていた予告状を見せてほしいと言い、ハーネイトがそれをいったん彼に渡した。
「予告状とはな。しかしこれは、げっ!」
「どうした?」
「七色に輝く希少な宝石、ミストラルカラトを盗むだと?あかんな、あれは数十億の価値がある。しかし他の警備員は既に帰宅している。どうするか。」
ウェコムは焦っていた。ただでさえ悪名高い怪盗団に加え、既に他の警備員は帰宅しているため警備に人が割けない状況。こうなると頼みの綱は目の前に入るハーネイトしかいない。そう彼は考えた。
「申し込まれた挑戦には、受けて立つ。私が警備をする。ウェコムも手伝ってほしい。」
「勿論だ。わかった。」
「ミストラルカラトは三階の中央の部屋に展示している。ハーネイトはどうするのだ?」
ポプルの質問にハーネイトはイジェネートと次元力を利用した拘束術を構築し利用することを考えていた。
「こちらで罠を張ります。あの部屋の防衛システムはオフでいい。とっておきの罠を仕掛けてやる。」
「そうか、策はあるのだな?」
「あります、ポプルさん。」
「頼もしいなハーネイトは。夜10時丁度に来るらしいから、それまで待機しておったほうがよいな。」
そうしてハーネイトとウェコムはミストラルカラトのある部屋に待機していた。既にハーネイトは反応式の天鎖陣をミストラルカラトの入ったケースを中心に設置した。
「これでよい。やれやれ、遊びに付き合わされる身を考えろよ全く。」
「その言い方、以前やつらと何かありましたか?」
「ああ、少しね。」
実は前に一度、別の街でハーネイトはアルシャイーン怪盗3兄妹と勝負したことがあった。今回と同じように予告状が届き、古代人が建設したビルの最上階に保管されていた、幾多の宝石が散りばめられた古代人の装飾品を盗もうとしていた。幸い未遂に終わるも、彼らの特殊魔法により3人を逃してしまったのである。3人とも盗みに特化した魔法を高度なレベルで習得し、一部の魔法は大魔法に匹敵するほどの能力を秘めていた。そして何よりも彼の胃を苦しめていたのが、バイザーカーニアの一員であり、32人の教え子のうちの3人であったことである。
時刻は夜10時に差し迫ろうとしていた。その頃既にアルシャイーン怪盗3兄妹が一人、エフェリーネは二人の男と共に博物館の屋上に立っていた。
「さあ、いくわよ。大先生にもう一度目にもの見せてあげる。」
「やれやれ、妹のわがままに付き合わされる兄の気持ちを考えろよ。」
「本当の目的を忘れるな。ホミルド爺さんの救出のためにも大先生の協力を仰ぎたい。あの解決屋に取り入れてもらうには力を示さなければならない。
「しかし、普通に会えばいいんじゃないんですかね。なぜわざわざ。」
手に特殊な形状の銃を持つはねはねの金長髪でピンク色の衣装を耳に包んだ少女はアルシャイーン・アルメキアス・エフィリーネという。魔法をカードに込めて発射したり、透明になる魔法を独自で開発し利用する天然で底抜けにポジティブな3兄妹の一番下である。
エフィリーネの作戦に対し反論する目つきの悪い短髪の若者はルシフェスといい、魔力探知にかからなくなる分類外の魔法を利用する見た目に反して優秀な魔法使いである。
「本当はそうしたいところではあるが、あのお方の性格ではな。それにどうしても、もう一度勝負したい。」
そして長男であり、一番老けてる30代前後の男、彼がアーディンと言う。彼は魔法戦よりも物理戦向きであるが、強化魔法と解除魔法のエキスパートであり、また機械に非常に強く電子ロックの解除などそういった面で大活躍する男であった。
「わかりましたよ。では、やりますか。」
ルシフェルはゆっくりと魔法を唱え、3人に魔法をかけて探知されづらくなるようにしてから短距離転移魔法を使い屋上からワープし5階に降り立つ。
「どれ、前よりもセキュリティは厳重だな。だが。」
アーディンはサングラスを取り出し目につけると、センサーの場所を把握し、浮遊形の小型妨害欺瞞装置を取り出す。
「魔法使いが機械が苦手などと思うな。バイザーカーニアの誇りだ。」
「次は。」
ルシフェスが移動音を消す魔法をかける。3人は属性魔法は使用できない代わりに、このような無属性、補助系の魔法だけはハーネイト以上の腕前を持っていた。
「あとは、こうよ!」
監視カメラが動き出したのを確認しエフェリーネはカードガンからカードを投擲、カメラに張り付ける。
「よしよし、ではいくわ。」
更に3人はワープし気づかれないように慎重に下の階に降り、ミストラルカラトのある三階に到着した。
「大先生の魔力結界か。しかし、あれから私たちも腕を上げた。電子装置式の鍵など……。」
アーディンは扉にある電子装置の鍵を調べ、小型の入力装置をケーブルでつなぎ何かを入力する。するとロックが解除され扉が開いた。
「開いたな。さあ、慎重にな。」
三人はゆっくりと扉を開ける。そして目的のミストラルカラトを目にする。
「しかし余裕だな。」
「ハーネイト大先生の姿は見えない。」
「あれ、どこにいるのかな?このままだと大切な宝を盗まれて信用とかダダ下がりよ?」
そう言いながらエフィリーネが忍び寄り、ケースの鍵を鮮やかに解除、残りの二人もケースの方に向かってきた。
「やれやれ、来たか。今だ。」
そうして三人がミストラルカラトを持ち出そうとした瞬間、地面から鎖が数本現れ、エフィリーネたちを素早く捕らえる。
「なぬ!」
「 しまった!」
「まさか!」
「あのときよりも、私も成長しているのでな。二度とあのような真似はしない。バイザーカーニアのバカ生徒!」
壁際にあった銅像から声がし、その中からハーネイトが現れた。彼はイジェネートで体を金属で覆い、適当な美術品に変装していたのである。
「やったか!流石ですなハーネイトさん。」
隠れていたウェコムも現れ、三人の姿をみる。
「おとなしく捕まりやがれ。お縄頂戴いたすぜ!」
「 悪いけど、これ以上教え子の悪行を見逃せないのだ。」
「ふぇ?それはどういうこと?」
「隙あり!」
わずかな隙を見計らい、エフィリーネは煙幕を展開し視界を遮る。そして素早く魔法を三人は唱える。
「ミニムライズ!」
「その魔法は!だが。」
三人は小さくなり、鎖をするっと抜ける。それを煙幕のなか魔眼を使いスキャンする。
「このまま逃げる気か、本当に魔法を変に使いやがって!そういうところが嫌いだ。」
ハーネイトは煙幕を軽い風魔法で消し飛ばし、せき込むウェコムと共に3人を追いかける。
「小さくなる魔法まで使うとは。そして3重結界すら意味がないか。最初から大魔法でも使っておくべきだったか。くっ!」
「急ぎましょう。」
ハーネイトたちが2階から1階に下りる階段を駆け下りていたころ、一階まで来ていたアーディンたち。ポプルも監視カメラの異変に既に気づき、一回の玄関前で警棒を片手に構えていた。しかし小さくなった三人に気づかず外に逃してしまう。
「くそっ、師匠また隠し球かよ。魔力反応を消しても引っかかるとは。」
「あれはもしかすると、イジェネートかもしれないな。だがそれにしても空中から鎖が飛んでくるのは理由がつかんな。」
「参ったわね。計算違いも甚だしいわ。」
三人は外に出てすぐに変身を解除する。しかしそれが仇となった。
「お前らか!あの手紙を送ったやつらは。喰らえ、菌壁陣(バクテリアウォール)」
「本当に怪盗がいるなんて面白いわ。ただ私たちの邪魔しないで!結束万布!」
伯爵のバクテリアウォールに阻まれ動きを封じられたところに、事前詠唱した大魔法1号の結束万布により、足を捕らわれた三人は慌てていた。てっきりハーネイトの性格上1人で来るかと思った3人は、ハーネイトの仲間たちのことを知らず策にはまったわけである。
「まだ仲間がいたのか!」
「うごけない、何なのよ!てかこれ結束万布!」
そのとき、博物館から数百メートル離れたビルの屋上にリシェルがいた。実はあのあと彼はみんなに気がつかれないようすぐさま飛び出し、博物館の遠くから麻酔弾でその怪盗たちを捕らえようと考えていた。しかしタイミング悪く、狙撃ポジションに到着したときには三人は屋内に侵入していた。
「はあ……。いとこたち、何をしているんだ本当に。こっちはヤバイやつ相手に戦ってるんだぜ。あっ、伯爵とリリーちゃんナイス!はーっ、!」
リシェルは強風吹くビルの屋上から、素早く高速連射ライフル「シムナグ」の引き金を三回引き、強力な麻酔薬の入ったアンプル弾を三人の腕に的確に打ち込む。
「 ぐっ!」」
「 いて!」
「きゃあ!」
リシェルの麻酔弾を打たれた三人は薬が回り、立てなくなる。そこにハーネイトとウェコムが外に出る。
「伯爵とリリー!」
「もう、私たちいなかったら逃げられてたわよ。本当にハーネイトすら手玉に取るとか怖いわね。」
「すまないリリー。不意を突かれ特殊魔法を使われた。大魔法を事前に張っておくべきだった。私のミスだ。しかし、リシェル。お前まで!」
ハーネイトはリシェルがビルから降りてこちらに来ているのを確認した。
「すみません、あの手紙たまたまみてしまいまして。そいつら俺のいとこたちなんですよ。」
「 は、はああああああ?」
リシェルの言葉に、ハーネイトは思わず高い声で驚きながら叫んだ。
「ちょ、なに驚いているんすか?」
「なありシェル、アルシャイーン3兄妹たちといとこなのは本当か?」
「そうです。小さい頃は一緒に遊んでもらってましたし。全員年上のお兄さんお姉さんたちですが。」
「そういうことか。しかし、バイザーカーニアで学んだことをこういう風に使って、幾つもの強奪事件を引き起こすとは。機士国王も相当憤慨していた。こっちの管轄外で相当被害が出ているのも知っているぞ。この馬鹿弟子が。」
ハーネイトは3人の悪行について深くため息をつきながら3人を見ていた。
「まさか、リシェルまでいたなんて。」
「 なぜその解決屋と今いるんだ?」
「 軍人をやめたんだな、リシェル。」
アーディンはリシェルにそう言葉をかける、
「そうですよ。しかし兄貴たち、今この星では大変なことばかり起きているのわかっています?」
「そうだ、クーデター事件や機士国の侵略を見てこなかったのか?」
二人は今起きていることと、遊撃隊の結成について小一時間話をした。
「道理で連絡がこなかったわけか。ふうむ。」
「 ハーネイトはせわしないほど働いておるな。性格面で変化は起きつつも、まだまだ変わらないところもありますな。」
外野の二人も話を聞いていた。長年調査で行動を共にしていたポプルはハーネイトの変化に気づいていた。
「そうよ、そのホミルドというひとも、やつらに脅されているに違いないわ。」
「めんどくせえが、相棒の頼みならやってやる。全員醸して食ってやる。」
「というわけで、兄貴たち。ワルいけど師匠の邪魔しないでくれ。ホミルドおじさんのことは俺らで助けるから。」
リシェルのその言葉に、3人は目の色を変えて叫ぶように訴える。
「だったらついていくわよ!本当は、本当は!」
エフィリーネが大声で叫んだ。
「私たち、バイザーカーニアの中じゃあまり出来が良くないってか、アーディンお兄さんはともかく私とルシフェスは他の人たちからバカにされていたのよ。属性魔法を使えないってことだけで。それでも大先生はしっかりと面倒を見てくれた。詠唱なしで物を切ったりくっつけたり、治したりしたのを見せてくれた時、魔法って属性に依存しなくても使える方法があるって。先生から教えてもらったわ。確かに、私たち悪いこといっぱいしてきたわ。でも、でも。もっと先生に見てほしかったの、構ってほしかったの!」
彼女たちは、ハーネイトのもとでもっと様々な魔法を教えてもらいたく、関心を引くために魔法で悪事を働いていたのである。生活費を稼ぐという意味もあったが、それ以上に出来の悪かった兄妹たちに熱心に指導をしてくれた先生であるハーネイトに追いついて、そばにいたいという思いが強かったのである。
「はあ、全く。あれは、魔法ではなく、魔眼だ。しかも世界の理すら変えかねない代物だ。仕事で出力を抑えて使ったことはあるが、それも魔法に偽装していたものだ。一般人には見分けがつかないからね。」
「え、ええ?先生そんなすごい力を持っていたの?」
「す、すげえ。比較にならなすぎる。あれ魔法じゃなかったのかよ。」
「道理で、魔力を感じられないと。」
エフィリーネとルシフェスはハーネイトのその言葉にそれ以上言葉が出なかった。そしてハーネイトは3人のもとに来て、3人をまとめて思いっきり抱きしめた。
「っ、この、大バカ者っ。私の真似をするなとあれだけ。一つ言っておくが、私はお前たちを落ちこぼれとは一度も思ったことはない。というか、私を負かした時点で、特殊魔法戦においてお前らは私の技量を上回っていたのだ。もう、あんな真似はやめるのだ。私の見よう見まねで、魔法をそこまで変化させられたお前らこそ、優秀な生徒だ。」
ハーネイトは心の中で感じていたことを優しく、素直に3人に話し諭した。その声は、まるで誰もが母親の腕の中で抱かれたような、不思議で温かくなる優しい声であった。これこそが、ハーネイトが無意識に発動する、万人を魅了し改心させる女神の力であった。
「う、うわああああん!」
「すまねえ、すまねえ先生!」
「今まで、先生には迷惑をかけっぱなしであった。先生が、そう思っていてくれる限り私は力をいつまでも奮えます。
エフィリーネもルシフェルも。そしてアーディンもハーネイトの言葉に心を打たれていた。アーディンはハーネイトよりも7歳も年上であるが、そんなことは二人の間には関係がなかった。魔法使いは実力主義の世界であるため、年上のものが年下から教えを乞うことは珍しくはなかった。そうでもしなければ、それぞれが求める答えに辿り着くことが困難であったからだ。
「これからは、私の下に加わり誇れる仕事をしてくれ。そこにいる南雲と風魔も、お前らと同じようなものだ。魔法は世界のために、人のためにあれ。だ。それを忘れるな、私の教え子たちよ。」
そうしてハーネイトは無自覚に発動した力を解除した。
「私たちまで、不思議な感覚に包まれた感じがするわね。」
「これが、師匠の力。死んだ母さんを思い出す、な。」
「相棒は男なのか女なのかわかんねえなこれ。」
その場にいた人すべてが、ハーネイトの気を感じ優しい感覚に包まれていた。誰もがハーネイトのことを母親と感じるほどに。
「やっぱり、先生には敵わないや。」
「先生、ありがとう。」
「これからも私たちを導いてほしい。DGの件についてはこちらも把握している。しかしホミルドのおじさんがいる城の近くには多くの機械兵や見張り、見たことのない魔物がうろついていた。
「 私たちだけではどうしようもないと思ったそのとき、先生の顔が浮かんだの。」
彼らは力さえあればすでに城に潜入し博士たちを助けていられたのにと、攻撃系の能力が低いことを悔やんでいた。そして大先生ことハーネイトならば確実に博士たちを助けられると考え、手紙を少女経由でハーネイトに渡したのである。
「師匠。先生って、ハーネイトさん、本当に兄貴たちの先生だったのか?」
リシェルはなかなか聞けずじまいであったことをハーネイトに質問した。
「ああ、ルズイークやアンジェルもそうだが、エフィリーネたちはその数年前に魔法学を指導した32人のうちの3人だ。」
「ま、じかよ。こんなところでも繋がっているとは、いるとはよ。」
「どうした?」
「いや、教え方とか手慣れているなと感じていたから、その理由がわかってですね。俺も!習いたかった!」
リシェルは地面に座り明後日の方向を向いて、少しだけプイとふくれっ面になった。
「なに、いやでも魔法の極意を叩きこんであげるよ。少々スパルタではあるが。今は失われた魔銃士の力。セヴァティス以外に、しかも正統な血統の持ち主と分かった以上、互いに教わることはある。ジルバッドの師匠から、魔銃士についていい印象を抱けなかったのだが、今は違う。時代が変われば、考え方も魔法も変わる。リシェル、銃について教えてほしい。」
ハーネイトのその言葉は、リシェルにとって予想外の言葉であった。それは互いに切磋琢磨しようというメッセージであった。
「 え、それは。」
「 銃の扱い方だ。使い方と当て方がよくわからん。」
「隊長もいっていましたね。はい!私でよければ喜んで!」
「よろしく、頼むぞ。」
リシェルの言葉に、ハーネイトはやや威厳のある低い声でそう言った。
「しかし、小さくて口の悪かった従兄弟がここまで立派に育つとは。」
「世界は、思ったより狭いのかもしれないな。」
「そうかもしれませんね。」
ルシフェルと伯爵が、世界は広いようで狭い、そう実感させられる一件であったと互いに話をしていた。
「しかし本当に助かった。皆さんのお陰でどうにか未遂に終わりました。しかし、お前ら!いくら何でもやり方がひどいな!」
「このままつきだしてやろうと思ったが、ハーネイトさん。監視もかねてこいつらを博士の救出につれていくのは?ホミルド博士は有名なお方です。もし何かあれば大変なことになります。」
ポプルが若干お茶目にそう言いながら、ウェコムが捕らわれた博士について心配をしていた。
「そもそもお前さんの生徒なのだろ?責任はもってもらわないとな?ん?」
「は、はあ。胃が痛くなりそう。最初からそのつもりですけどね。」
ハーネイトは胃をさするアクションを取りながら苦笑いをしていた。
「すまんの、ハーネイトよ。しかし博士がその状態だと、他にもとらえられたり勧誘された博士や研究者がいるかもしれん。」
「私の故郷でも不審な人物や魔物の目撃数が急増していると友達から話を聞きました。」
「これは思ったよりめんどくさいぞ。たぶん。あーいつになったら休暇!とれるのだ!もう!」
大分やけになりながら叫ぶハーネイト。段々と素の面が露になっていくのを伯爵は楽しんでいた。それの方が、彼らしくて素敵であると。堅苦しくて冷静な時よりも、素の方が人間に近くて伯爵は、それにどこか安心していたのである。
「ははは、力を持つやつは辛いな?しかし大分いろいろ打ち解けてきたんじゃないのか?」
「素の面のハーネイト、見てて面白いわ。」
「はっ、恥ずかしい…。ごほん、と、とにかく。ポプルさん、ウェコム。迷惑をかけてすみませんでした。」
伯爵とリリーの言葉に顔を赤くしつつも、ポプルとウェコムに深く謝罪をするハーネイト。しかしポプルもウェコムもその表情は笑顔であった。
「仕方ないのう。今回は未遂だし多目に見るが、このようなことは今後ないように、しーっかりそやつらを見張っとれ。最ももう悪さをする気にはなれなさそうだがな。」
「盗むなら、クーデター軍やそのDGとか言うやつらのアイテムや情報を盗めよな?」
「そうですよ兄貴たち。忍たちと組んで諜報や撹乱やってくれよ。」
ポプルとウェコムはそれぞれそう言いながら散らかった物の整理をしていた。そしてリシェルは改めて3兄妹に仲間になってほしいと訴えた。
「ハーネイトを手玉に取るとか、面白い。教え子の方が魔法を使えるとか笑うなこれ。俺の代わりにいろいろやってくれると助かるぜ。」
「そんなこというなら伯爵、単騎で敵陣突っ込め。この菌おばけ!」
「ざけんな、あの力使って蹂躙しろよ。何でも変身できるんだろ?俺は楽して勝ちたいんだ。」
「あれはまだあまり使いたくないのだ!てか楽して勝てる相手じゃないのも多いのだぞ伯爵。」
伯爵の発言に少し傷ついたのかハーネイトは珍しく悪口を言う。それに対し伯爵も同様のことを言う。
「言い争いか。」
「仲がいいのか悪いのかわからないときがあるわ。」
「はあ。しかしそろそろ戻らないとな。つか眠い。」
リリーとアーディンは伯爵とハーネイトのやり取りを見て少しため息をついていた。
「二人とも、明日はやいのだからそのくらいに。」
「わかったよリリー。エフィリーネたちは私が預かる。ポプルさん、今後もよろしくお願いします。また発掘品やアイテムの調査、よろしくお願いします。ウェコムも無理するなよ?」
ハーネイトはもう一度二人に礼をした。礼儀正しさこそ何事にも繋がるきっかけだと、経験の中で認識したハーネイトはいつでも礼儀を欠くことはない。それもまた、多くの人と関わりながら敵を多く作ってこなかった理由でもあった。
「うむ。しっかりやってこいよ。」
「ああ。変なやつらなんかさくっと倒して解決してきなよ。そういや話は変わるが、砂鯨たちの様子がおかしい。気を付けてくれ。」
ウェコムの話を聞き、それの調査についてメモを取った。
「そちらの調査ものちに行います。情報提供に感謝します。」
「ほらほら、ホテルまで同行願うぜ。そこの3人。」
「また先生の下でいろいろできるとはな。」
「まあ目的は達成したし、先生の仲間たちも恐ろしいほど強そうだ。」
「なんとしてでもホミルドおじさんたちや捕らわれたひとたちを助けないとね。」
伯爵がアーディンたちに声をかける。そしてエフィリーネたちは兄妹同士で話をしながら伯爵の後を追う。
「しかしおじさんが、か。あの人の性格だから、脅されたんだろう。生き物の情報を掛け合わせる研究か。ってそれ師匠のメイドたちが出くわしたやつだ。」
「そうなると、既に投入されている可能性は大だな。」
リシェルはホミルド博士と面識があり、博士の性格から断りづらかったと推測しつつ、彼の技術がすでに利用され実践投入されていると考えていた。その意見にハーネイトもそうだと考えていた。
「とにかくホテルに戻りましょ?」
リリーがみんなに声をかけ、エフィリーネらをつれたハーネイトたちはホテルに辿り着いた。時刻はすでに12時を過ぎ翌日になっていた。そして彼らはフロントの左手にあるソファーで一人悩んでいるエレクトリールを見た。
「起きていたのか。エレクトリール。」
「はい。」
「何かあったのか?」
「実は故郷から通信が届きました。」
「そうなのか。通信、できたんだね。」
「はい。DGは故郷にいるみんなと宇宙警察なるDGを追う集団により壊滅し、こちらの勝利と私の部下から連絡が来ました。」
「勝ったのか。あいつらに。あいつの言っていたことは本当だったのか。驚きだな。」
「あいつ? しかし、複雑な気分です。」
「なにか言いたげなことがあるのか?話なら、いくらでも聞くよ。リシェル、アーディンたちを部屋に案内してくれ。」
「了解しました。ではお先に失礼します。兄貴たち、こっちだよ。」
リシェルはアーディンらをハーネイトの拠点の部屋に案内するためエレベーターに乗り込んだ。
「さて、と。伯爵とリリーはなぜここに?」
「別にいいじゃねえか。」
「構いませんよ。」
エレクトリールは優しく、そのままでいいとハーネイトに言った。
「ならいいのだが。」
「ええ。…私は、みんなを守るためにすべてを捨てて、軍人になりました。しかし今回の一件では私だけあれを守るため逃げ出しました。そしてそれでもみんなが戦っていたことや、指揮官がいないのに勝ったことについて、複雑な感情を抱いています。そして戻ってきてほしいと言われてもどんな顔をして戻ればいいのかわからないのです。」
「立場、か。軍人ならではの悩みか。」
「確かに、同じ立場なら帰りづらいな。昔のことを思い出す。」
「昔のこと?」
「ああ。だがあんたの故郷には平和が戻った。それは嬉しいことだし素直に祝ってもバチは当たらないだろう。」
伯爵はエレクトリールの心情を察して祝うこと自体に罪はないと助言をする。
「その通りだな。もし帰りたいなら、私は止めない。シャムロックならばあの船を直せるだろう。あいつの腕は確かだ。エレクトリール、どうした。」
「どうして、どうしてそんなことをいうのですか?」
ハーネイトはいつでも帰れると言うも、エレクトリールの表情は険しく、凍てつくような雰囲気を感じていた。
「えっ、故郷にいる仲間たちや親に会いたくはないのか?」
「私は!既に親からは勘当されているし、仲間も多くない。それに、みんなと、みんなといたい!もう、誰も失いたくない!」
「エレクトリール。そう、か。わかった。だがいつでも準備はできているからな。」
アポロネスから聞いたエレクトリールの話を思い出し、失言をしたなとハーネイトは反省した。
「ぐすっ、私は、貴方のことが大好きで……。少しだけ嫌いです。」
「それは、どういう意味だ。」
「ハーネイトさんは優しいし、色んな人や物を受け入れる器の広さがあります。それが私にとっては嬉しかった。だけど、一つだけ嫌いなところがあります。あれだけの力と人望がありながら、どこか距離をまだとっているような振る舞いをしたり、人を惑わせたりするところです。あなたのことを好きな人は、他にもたくさんいますでしょう。でも、気持ちに気づいてもらえないのは、とても悲しいです。」
「何を、言っているのだ。エレクトリール。」
「私は貴方のことが好き、だから何があっても死んでほしくない。貴方のような強い人なら、私の前から突然いなくなることなんて、ないでしょう?私にはもう、ハーネイトさんしか見えない。これほど誰かを好きになったのは、初めて、なのです。」
エレクトリールの思いが言葉となり、ハーネイトに突き刺さる。しかしハーネイトはエレクトリールをまだ男だと認識していた。しかしエレクトリールは女性である。この認識のずれが、二人を苦しめることになる。
「人としての好き、なのか?」
ハーネイトのその言葉に、エレクトリールは睨み付けるようにハーネイトの顔を見ていた。それは違う、と表情で示したかったからである。
そのころ、ハーネイトたちに助けられたフューゲルは南大陸に南下し、上司であるDカイザーのもとにいた。報告を聞いたDカイザーは、少し肩を落としながらフューゲルに話しかけた。
「やれやれ、やりすぎも困るな。」
「しかし必要な情報は集めましたし、あなたの言っていたフォレガノ総長にはじきに会えると思います。ハーネイトの居場所も再度把握しました。」
「それはそうなのだがなあ。ふむ。ジルバッドを殺したあの魔法使いの居場所を掴んだとしても、あまりに強力な結界のせいで侵略魔ですら侵入できん。」
フューゲルが侵略魔であることは以前説明したが、この見るからに悪の総帥のような、黒マントに身を包み紫色の角を3本はやした悪魔、Dカイザーはその上に立つ存在であった。彼は人にあらず。しかし人の心をジルバッドから得た。そしてかつての上司であり行方不明になっていたフォレガノの行方を追い天神界に彼らを連れて行き、そこで生まれて半年ほどのハーネイトを連れ帰ってきたのである。正確には、もっと複雑な過程があるのだが。
「そう、ですね。彼の内なる力なしにあれの突破はできないでしょう。」
「やれやれ、近いうちにハーネイトに会うしかないな。しかし運命というものは恐ろしい。他の世界を侵略しに来たのに、今では他の世界のために動いているとはな。シルクハインの言葉は嘘には聞こえなかった。そうなれば、女神に対抗できるのはハーネイト、お前だけなんだ。」
アクシミデロ星にいるわずかな侵略魔たちは、未来に高い確率で起こりうる災厄を感じ、それに対抗するため動き出していたのである。
その一方で、白い男ことオーダインはある山の頂から地上を見下ろしていた。
「うーん、いい感じ。しかし物足りない。ハーネイトと一度手合わせしたいな。弟がこの世界で何を見つけ、何を得て、何を力にしたか。全力で感じたい。」
彼はそう考えながら、仰向けに寝転がり空を眺めていた。
「天神界を作り出すきっかけとなった伝承上の女神、それが実在する神だった。それが私たちの最大の不幸。彼女を止めなければ、何もかもが終わる。人間界だけを消すなどと言っていたようだが、そんなことをすれば他の世界もすべて消えてしまい、女神は孤独となる。なぜ私たちが先に気づいたのだろうか。本当に。」
オーダインもまた、侵略魔たちと同じ未来の危機を感じていたのである。そしてそれは、ハーネイト、そして伯爵が長い長い戦いに巻き込まれるという未来を確約しているものであった。
ハーネイトはエレベーターで一階に降り、ミランダにフロントで話しかけると外に出た。
時間は夜の7時過ぎで、幾つものビルから明かりが地面や人を照らしていた。この街は古代人のほかに異世界から来た人も多く住んでおり、元にいた世界の癖が治らない影響か、よく働く人がこの街には多いようだ。
「やれやれ、こんな時に怪盗に付き合わされるとか悪夢か?ふざけた真似を。」
そうぼやきながらズボンのポケットに手を突っ込みながら歩くハーネイト。情報から推測しても、あの怪盗一味であることは間違いない。となると彼にとっては非常に都合の悪い話であった。
「まずは館長と話をしないと。元気にしているかな、ポプルさんは。」
そう考えながら10分ほど歩いて予告状に名前が書いてあった博物館に入る。そして受付で待たされると、奥の方から中年のおじさんが歩いてきた。
「おやおや、ハーネイト殿。お久しぶりですな。」
「久しぶりです。」
ハーネイトの目の前に来た中年の男性はポプル・マッカーマン・リージアスと言う。何度も遺跡発掘の際に彼に協力した優秀な考古学者であり今はこのミスティルト大博物館の館長として働いている。
「ここを訪れるということは調べものか?」
「いえ、これをみてください。」
ポプルに手紙を見せるハーネイト。なぜか予告状が2枚手紙の中にあったため、1枚は部屋に置いてきていたという。
「ほっほ、面白いのう。ここに盗みに入ろうとはな。」
ポプルがそう言いながら笑うと、さらにもう一人の男がやってきた。
「なんだ、盗みの予告か?」
「ウェコムか。あれから結構雰囲気、変わったな。」
「それはお前さんもだ。ここに来るとは珍しいな。あれからまた活躍していると聞いたが。」
「まあそれなりにだよ。」
この男はウェコム・ドラード・カルぺリスという。機士国出身の男で元警備隊に所属していたが、ある事件の責任を取り今はこの博物館で警備主任を任されているという。ウェコムはハーネイトが手にしていた予告状を見せてほしいと言い、ハーネイトがそれをいったん彼に渡した。
「予告状とはな。しかしこれは、げっ!」
「どうした?」
「七色に輝く希少な宝石、ミストラルカラトを盗むだと?あかんな、あれは数十億の価値がある。しかし他の警備員は既に帰宅している。どうするか。」
ウェコムは焦っていた。ただでさえ悪名高い怪盗団に加え、既に他の警備員は帰宅しているため警備に人が割けない状況。こうなると頼みの綱は目の前に入るハーネイトしかいない。そう彼は考えた。
「申し込まれた挑戦には、受けて立つ。私が警備をする。ウェコムも手伝ってほしい。」
「勿論だ。わかった。」
「ミストラルカラトは三階の中央の部屋に展示している。ハーネイトはどうするのだ?」
ポプルの質問にハーネイトはイジェネートと次元力を利用した拘束術を構築し利用することを考えていた。
「こちらで罠を張ります。あの部屋の防衛システムはオフでいい。とっておきの罠を仕掛けてやる。」
「そうか、策はあるのだな?」
「あります、ポプルさん。」
「頼もしいなハーネイトは。夜10時丁度に来るらしいから、それまで待機しておったほうがよいな。」
そうしてハーネイトとウェコムはミストラルカラトのある部屋に待機していた。既にハーネイトは反応式の天鎖陣をミストラルカラトの入ったケースを中心に設置した。
「これでよい。やれやれ、遊びに付き合わされる身を考えろよ全く。」
「その言い方、以前やつらと何かありましたか?」
「ああ、少しね。」
実は前に一度、別の街でハーネイトはアルシャイーン怪盗3兄妹と勝負したことがあった。今回と同じように予告状が届き、古代人が建設したビルの最上階に保管されていた、幾多の宝石が散りばめられた古代人の装飾品を盗もうとしていた。幸い未遂に終わるも、彼らの特殊魔法により3人を逃してしまったのである。3人とも盗みに特化した魔法を高度なレベルで習得し、一部の魔法は大魔法に匹敵するほどの能力を秘めていた。そして何よりも彼の胃を苦しめていたのが、バイザーカーニアの一員であり、32人の教え子のうちの3人であったことである。
時刻は夜10時に差し迫ろうとしていた。その頃既にアルシャイーン怪盗3兄妹が一人、エフェリーネは二人の男と共に博物館の屋上に立っていた。
「さあ、いくわよ。大先生にもう一度目にもの見せてあげる。」
「やれやれ、妹のわがままに付き合わされる兄の気持ちを考えろよ。」
「本当の目的を忘れるな。ホミルド爺さんの救出のためにも大先生の協力を仰ぎたい。あの解決屋に取り入れてもらうには力を示さなければならない。
「しかし、普通に会えばいいんじゃないんですかね。なぜわざわざ。」
手に特殊な形状の銃を持つはねはねの金長髪でピンク色の衣装を耳に包んだ少女はアルシャイーン・アルメキアス・エフィリーネという。魔法をカードに込めて発射したり、透明になる魔法を独自で開発し利用する天然で底抜けにポジティブな3兄妹の一番下である。
エフィリーネの作戦に対し反論する目つきの悪い短髪の若者はルシフェスといい、魔力探知にかからなくなる分類外の魔法を利用する見た目に反して優秀な魔法使いである。
「本当はそうしたいところではあるが、あのお方の性格ではな。それにどうしても、もう一度勝負したい。」
そして長男であり、一番老けてる30代前後の男、彼がアーディンと言う。彼は魔法戦よりも物理戦向きであるが、強化魔法と解除魔法のエキスパートであり、また機械に非常に強く電子ロックの解除などそういった面で大活躍する男であった。
「わかりましたよ。では、やりますか。」
ルシフェルはゆっくりと魔法を唱え、3人に魔法をかけて探知されづらくなるようにしてから短距離転移魔法を使い屋上からワープし5階に降り立つ。
「どれ、前よりもセキュリティは厳重だな。だが。」
アーディンはサングラスを取り出し目につけると、センサーの場所を把握し、浮遊形の小型妨害欺瞞装置を取り出す。
「魔法使いが機械が苦手などと思うな。バイザーカーニアの誇りだ。」
「次は。」
ルシフェスが移動音を消す魔法をかける。3人は属性魔法は使用できない代わりに、このような無属性、補助系の魔法だけはハーネイト以上の腕前を持っていた。
「あとは、こうよ!」
監視カメラが動き出したのを確認しエフェリーネはカードガンからカードを投擲、カメラに張り付ける。
「よしよし、ではいくわ。」
更に3人はワープし気づかれないように慎重に下の階に降り、ミストラルカラトのある三階に到着した。
「大先生の魔力結界か。しかし、あれから私たちも腕を上げた。電子装置式の鍵など……。」
アーディンは扉にある電子装置の鍵を調べ、小型の入力装置をケーブルでつなぎ何かを入力する。するとロックが解除され扉が開いた。
「開いたな。さあ、慎重にな。」
三人はゆっくりと扉を開ける。そして目的のミストラルカラトを目にする。
「しかし余裕だな。」
「ハーネイト大先生の姿は見えない。」
「あれ、どこにいるのかな?このままだと大切な宝を盗まれて信用とかダダ下がりよ?」
そう言いながらエフィリーネが忍び寄り、ケースの鍵を鮮やかに解除、残りの二人もケースの方に向かってきた。
「やれやれ、来たか。今だ。」
そうして三人がミストラルカラトを持ち出そうとした瞬間、地面から鎖が数本現れ、エフィリーネたちを素早く捕らえる。
「なぬ!」
「 しまった!」
「まさか!」
「あのときよりも、私も成長しているのでな。二度とあのような真似はしない。バイザーカーニアのバカ生徒!」
壁際にあった銅像から声がし、その中からハーネイトが現れた。彼はイジェネートで体を金属で覆い、適当な美術品に変装していたのである。
「やったか!流石ですなハーネイトさん。」
隠れていたウェコムも現れ、三人の姿をみる。
「おとなしく捕まりやがれ。お縄頂戴いたすぜ!」
「 悪いけど、これ以上教え子の悪行を見逃せないのだ。」
「ふぇ?それはどういうこと?」
「隙あり!」
わずかな隙を見計らい、エフィリーネは煙幕を展開し視界を遮る。そして素早く魔法を三人は唱える。
「ミニムライズ!」
「その魔法は!だが。」
三人は小さくなり、鎖をするっと抜ける。それを煙幕のなか魔眼を使いスキャンする。
「このまま逃げる気か、本当に魔法を変に使いやがって!そういうところが嫌いだ。」
ハーネイトは煙幕を軽い風魔法で消し飛ばし、せき込むウェコムと共に3人を追いかける。
「小さくなる魔法まで使うとは。そして3重結界すら意味がないか。最初から大魔法でも使っておくべきだったか。くっ!」
「急ぎましょう。」
ハーネイトたちが2階から1階に下りる階段を駆け下りていたころ、一階まで来ていたアーディンたち。ポプルも監視カメラの異変に既に気づき、一回の玄関前で警棒を片手に構えていた。しかし小さくなった三人に気づかず外に逃してしまう。
「くそっ、師匠また隠し球かよ。魔力反応を消しても引っかかるとは。」
「あれはもしかすると、イジェネートかもしれないな。だがそれにしても空中から鎖が飛んでくるのは理由がつかんな。」
「参ったわね。計算違いも甚だしいわ。」
三人は外に出てすぐに変身を解除する。しかしそれが仇となった。
「お前らか!あの手紙を送ったやつらは。喰らえ、菌壁陣(バクテリアウォール)」
「本当に怪盗がいるなんて面白いわ。ただ私たちの邪魔しないで!結束万布!」
伯爵のバクテリアウォールに阻まれ動きを封じられたところに、事前詠唱した大魔法1号の結束万布により、足を捕らわれた三人は慌てていた。てっきりハーネイトの性格上1人で来るかと思った3人は、ハーネイトの仲間たちのことを知らず策にはまったわけである。
「まだ仲間がいたのか!」
「うごけない、何なのよ!てかこれ結束万布!」
そのとき、博物館から数百メートル離れたビルの屋上にリシェルがいた。実はあのあと彼はみんなに気がつかれないようすぐさま飛び出し、博物館の遠くから麻酔弾でその怪盗たちを捕らえようと考えていた。しかしタイミング悪く、狙撃ポジションに到着したときには三人は屋内に侵入していた。
「はあ……。いとこたち、何をしているんだ本当に。こっちはヤバイやつ相手に戦ってるんだぜ。あっ、伯爵とリリーちゃんナイス!はーっ、!」
リシェルは強風吹くビルの屋上から、素早く高速連射ライフル「シムナグ」の引き金を三回引き、強力な麻酔薬の入ったアンプル弾を三人の腕に的確に打ち込む。
「 ぐっ!」」
「 いて!」
「きゃあ!」
リシェルの麻酔弾を打たれた三人は薬が回り、立てなくなる。そこにハーネイトとウェコムが外に出る。
「伯爵とリリー!」
「もう、私たちいなかったら逃げられてたわよ。本当にハーネイトすら手玉に取るとか怖いわね。」
「すまないリリー。不意を突かれ特殊魔法を使われた。大魔法を事前に張っておくべきだった。私のミスだ。しかし、リシェル。お前まで!」
ハーネイトはリシェルがビルから降りてこちらに来ているのを確認した。
「すみません、あの手紙たまたまみてしまいまして。そいつら俺のいとこたちなんですよ。」
「 は、はああああああ?」
リシェルの言葉に、ハーネイトは思わず高い声で驚きながら叫んだ。
「ちょ、なに驚いているんすか?」
「なありシェル、アルシャイーン3兄妹たちといとこなのは本当か?」
「そうです。小さい頃は一緒に遊んでもらってましたし。全員年上のお兄さんお姉さんたちですが。」
「そういうことか。しかし、バイザーカーニアで学んだことをこういう風に使って、幾つもの強奪事件を引き起こすとは。機士国王も相当憤慨していた。こっちの管轄外で相当被害が出ているのも知っているぞ。この馬鹿弟子が。」
ハーネイトは3人の悪行について深くため息をつきながら3人を見ていた。
「まさか、リシェルまでいたなんて。」
「 なぜその解決屋と今いるんだ?」
「 軍人をやめたんだな、リシェル。」
アーディンはリシェルにそう言葉をかける、
「そうですよ。しかし兄貴たち、今この星では大変なことばかり起きているのわかっています?」
「そうだ、クーデター事件や機士国の侵略を見てこなかったのか?」
二人は今起きていることと、遊撃隊の結成について小一時間話をした。
「道理で連絡がこなかったわけか。ふうむ。」
「 ハーネイトはせわしないほど働いておるな。性格面で変化は起きつつも、まだまだ変わらないところもありますな。」
外野の二人も話を聞いていた。長年調査で行動を共にしていたポプルはハーネイトの変化に気づいていた。
「そうよ、そのホミルドというひとも、やつらに脅されているに違いないわ。」
「めんどくせえが、相棒の頼みならやってやる。全員醸して食ってやる。」
「というわけで、兄貴たち。ワルいけど師匠の邪魔しないでくれ。ホミルドおじさんのことは俺らで助けるから。」
リシェルのその言葉に、3人は目の色を変えて叫ぶように訴える。
「だったらついていくわよ!本当は、本当は!」
エフィリーネが大声で叫んだ。
「私たち、バイザーカーニアの中じゃあまり出来が良くないってか、アーディンお兄さんはともかく私とルシフェスは他の人たちからバカにされていたのよ。属性魔法を使えないってことだけで。それでも大先生はしっかりと面倒を見てくれた。詠唱なしで物を切ったりくっつけたり、治したりしたのを見せてくれた時、魔法って属性に依存しなくても使える方法があるって。先生から教えてもらったわ。確かに、私たち悪いこといっぱいしてきたわ。でも、でも。もっと先生に見てほしかったの、構ってほしかったの!」
彼女たちは、ハーネイトのもとでもっと様々な魔法を教えてもらいたく、関心を引くために魔法で悪事を働いていたのである。生活費を稼ぐという意味もあったが、それ以上に出来の悪かった兄妹たちに熱心に指導をしてくれた先生であるハーネイトに追いついて、そばにいたいという思いが強かったのである。
「はあ、全く。あれは、魔法ではなく、魔眼だ。しかも世界の理すら変えかねない代物だ。仕事で出力を抑えて使ったことはあるが、それも魔法に偽装していたものだ。一般人には見分けがつかないからね。」
「え、ええ?先生そんなすごい力を持っていたの?」
「す、すげえ。比較にならなすぎる。あれ魔法じゃなかったのかよ。」
「道理で、魔力を感じられないと。」
エフィリーネとルシフェスはハーネイトのその言葉にそれ以上言葉が出なかった。そしてハーネイトは3人のもとに来て、3人をまとめて思いっきり抱きしめた。
「っ、この、大バカ者っ。私の真似をするなとあれだけ。一つ言っておくが、私はお前たちを落ちこぼれとは一度も思ったことはない。というか、私を負かした時点で、特殊魔法戦においてお前らは私の技量を上回っていたのだ。もう、あんな真似はやめるのだ。私の見よう見まねで、魔法をそこまで変化させられたお前らこそ、優秀な生徒だ。」
ハーネイトは心の中で感じていたことを優しく、素直に3人に話し諭した。その声は、まるで誰もが母親の腕の中で抱かれたような、不思議で温かくなる優しい声であった。これこそが、ハーネイトが無意識に発動する、万人を魅了し改心させる女神の力であった。
「う、うわああああん!」
「すまねえ、すまねえ先生!」
「今まで、先生には迷惑をかけっぱなしであった。先生が、そう思っていてくれる限り私は力をいつまでも奮えます。
エフィリーネもルシフェルも。そしてアーディンもハーネイトの言葉に心を打たれていた。アーディンはハーネイトよりも7歳も年上であるが、そんなことは二人の間には関係がなかった。魔法使いは実力主義の世界であるため、年上のものが年下から教えを乞うことは珍しくはなかった。そうでもしなければ、それぞれが求める答えに辿り着くことが困難であったからだ。
「これからは、私の下に加わり誇れる仕事をしてくれ。そこにいる南雲と風魔も、お前らと同じようなものだ。魔法は世界のために、人のためにあれ。だ。それを忘れるな、私の教え子たちよ。」
そうしてハーネイトは無自覚に発動した力を解除した。
「私たちまで、不思議な感覚に包まれた感じがするわね。」
「これが、師匠の力。死んだ母さんを思い出す、な。」
「相棒は男なのか女なのかわかんねえなこれ。」
その場にいた人すべてが、ハーネイトの気を感じ優しい感覚に包まれていた。誰もがハーネイトのことを母親と感じるほどに。
「やっぱり、先生には敵わないや。」
「先生、ありがとう。」
「これからも私たちを導いてほしい。DGの件についてはこちらも把握している。しかしホミルドのおじさんがいる城の近くには多くの機械兵や見張り、見たことのない魔物がうろついていた。
「 私たちだけではどうしようもないと思ったそのとき、先生の顔が浮かんだの。」
彼らは力さえあればすでに城に潜入し博士たちを助けていられたのにと、攻撃系の能力が低いことを悔やんでいた。そして大先生ことハーネイトならば確実に博士たちを助けられると考え、手紙を少女経由でハーネイトに渡したのである。
「師匠。先生って、ハーネイトさん、本当に兄貴たちの先生だったのか?」
リシェルはなかなか聞けずじまいであったことをハーネイトに質問した。
「ああ、ルズイークやアンジェルもそうだが、エフィリーネたちはその数年前に魔法学を指導した32人のうちの3人だ。」
「ま、じかよ。こんなところでも繋がっているとは、いるとはよ。」
「どうした?」
「いや、教え方とか手慣れているなと感じていたから、その理由がわかってですね。俺も!習いたかった!」
リシェルは地面に座り明後日の方向を向いて、少しだけプイとふくれっ面になった。
「なに、いやでも魔法の極意を叩きこんであげるよ。少々スパルタではあるが。今は失われた魔銃士の力。セヴァティス以外に、しかも正統な血統の持ち主と分かった以上、互いに教わることはある。ジルバッドの師匠から、魔銃士についていい印象を抱けなかったのだが、今は違う。時代が変われば、考え方も魔法も変わる。リシェル、銃について教えてほしい。」
ハーネイトのその言葉は、リシェルにとって予想外の言葉であった。それは互いに切磋琢磨しようというメッセージであった。
「 え、それは。」
「 銃の扱い方だ。使い方と当て方がよくわからん。」
「隊長もいっていましたね。はい!私でよければ喜んで!」
「よろしく、頼むぞ。」
リシェルの言葉に、ハーネイトはやや威厳のある低い声でそう言った。
「しかし、小さくて口の悪かった従兄弟がここまで立派に育つとは。」
「世界は、思ったより狭いのかもしれないな。」
「そうかもしれませんね。」
ルシフェルと伯爵が、世界は広いようで狭い、そう実感させられる一件であったと互いに話をしていた。
「しかし本当に助かった。皆さんのお陰でどうにか未遂に終わりました。しかし、お前ら!いくら何でもやり方がひどいな!」
「このままつきだしてやろうと思ったが、ハーネイトさん。監視もかねてこいつらを博士の救出につれていくのは?ホミルド博士は有名なお方です。もし何かあれば大変なことになります。」
ポプルが若干お茶目にそう言いながら、ウェコムが捕らわれた博士について心配をしていた。
「そもそもお前さんの生徒なのだろ?責任はもってもらわないとな?ん?」
「は、はあ。胃が痛くなりそう。最初からそのつもりですけどね。」
ハーネイトは胃をさするアクションを取りながら苦笑いをしていた。
「すまんの、ハーネイトよ。しかし博士がその状態だと、他にもとらえられたり勧誘された博士や研究者がいるかもしれん。」
「私の故郷でも不審な人物や魔物の目撃数が急増していると友達から話を聞きました。」
「これは思ったよりめんどくさいぞ。たぶん。あーいつになったら休暇!とれるのだ!もう!」
大分やけになりながら叫ぶハーネイト。段々と素の面が露になっていくのを伯爵は楽しんでいた。それの方が、彼らしくて素敵であると。堅苦しくて冷静な時よりも、素の方が人間に近くて伯爵は、それにどこか安心していたのである。
「ははは、力を持つやつは辛いな?しかし大分いろいろ打ち解けてきたんじゃないのか?」
「素の面のハーネイト、見てて面白いわ。」
「はっ、恥ずかしい…。ごほん、と、とにかく。ポプルさん、ウェコム。迷惑をかけてすみませんでした。」
伯爵とリリーの言葉に顔を赤くしつつも、ポプルとウェコムに深く謝罪をするハーネイト。しかしポプルもウェコムもその表情は笑顔であった。
「仕方ないのう。今回は未遂だし多目に見るが、このようなことは今後ないように、しーっかりそやつらを見張っとれ。最ももう悪さをする気にはなれなさそうだがな。」
「盗むなら、クーデター軍やそのDGとか言うやつらのアイテムや情報を盗めよな?」
「そうですよ兄貴たち。忍たちと組んで諜報や撹乱やってくれよ。」
ポプルとウェコムはそれぞれそう言いながら散らかった物の整理をしていた。そしてリシェルは改めて3兄妹に仲間になってほしいと訴えた。
「ハーネイトを手玉に取るとか、面白い。教え子の方が魔法を使えるとか笑うなこれ。俺の代わりにいろいろやってくれると助かるぜ。」
「そんなこというなら伯爵、単騎で敵陣突っ込め。この菌おばけ!」
「ざけんな、あの力使って蹂躙しろよ。何でも変身できるんだろ?俺は楽して勝ちたいんだ。」
「あれはまだあまり使いたくないのだ!てか楽して勝てる相手じゃないのも多いのだぞ伯爵。」
伯爵の発言に少し傷ついたのかハーネイトは珍しく悪口を言う。それに対し伯爵も同様のことを言う。
「言い争いか。」
「仲がいいのか悪いのかわからないときがあるわ。」
「はあ。しかしそろそろ戻らないとな。つか眠い。」
リリーとアーディンは伯爵とハーネイトのやり取りを見て少しため息をついていた。
「二人とも、明日はやいのだからそのくらいに。」
「わかったよリリー。エフィリーネたちは私が預かる。ポプルさん、今後もよろしくお願いします。また発掘品やアイテムの調査、よろしくお願いします。ウェコムも無理するなよ?」
ハーネイトはもう一度二人に礼をした。礼儀正しさこそ何事にも繋がるきっかけだと、経験の中で認識したハーネイトはいつでも礼儀を欠くことはない。それもまた、多くの人と関わりながら敵を多く作ってこなかった理由でもあった。
「うむ。しっかりやってこいよ。」
「ああ。変なやつらなんかさくっと倒して解決してきなよ。そういや話は変わるが、砂鯨たちの様子がおかしい。気を付けてくれ。」
ウェコムの話を聞き、それの調査についてメモを取った。
「そちらの調査ものちに行います。情報提供に感謝します。」
「ほらほら、ホテルまで同行願うぜ。そこの3人。」
「また先生の下でいろいろできるとはな。」
「まあ目的は達成したし、先生の仲間たちも恐ろしいほど強そうだ。」
「なんとしてでもホミルドおじさんたちや捕らわれたひとたちを助けないとね。」
伯爵がアーディンたちに声をかける。そしてエフィリーネたちは兄妹同士で話をしながら伯爵の後を追う。
「しかしおじさんが、か。あの人の性格だから、脅されたんだろう。生き物の情報を掛け合わせる研究か。ってそれ師匠のメイドたちが出くわしたやつだ。」
「そうなると、既に投入されている可能性は大だな。」
リシェルはホミルド博士と面識があり、博士の性格から断りづらかったと推測しつつ、彼の技術がすでに利用され実践投入されていると考えていた。その意見にハーネイトもそうだと考えていた。
「とにかくホテルに戻りましょ?」
リリーがみんなに声をかけ、エフィリーネらをつれたハーネイトたちはホテルに辿り着いた。時刻はすでに12時を過ぎ翌日になっていた。そして彼らはフロントの左手にあるソファーで一人悩んでいるエレクトリールを見た。
「起きていたのか。エレクトリール。」
「はい。」
「何かあったのか?」
「実は故郷から通信が届きました。」
「そうなのか。通信、できたんだね。」
「はい。DGは故郷にいるみんなと宇宙警察なるDGを追う集団により壊滅し、こちらの勝利と私の部下から連絡が来ました。」
「勝ったのか。あいつらに。あいつの言っていたことは本当だったのか。驚きだな。」
「あいつ? しかし、複雑な気分です。」
「なにか言いたげなことがあるのか?話なら、いくらでも聞くよ。リシェル、アーディンたちを部屋に案内してくれ。」
「了解しました。ではお先に失礼します。兄貴たち、こっちだよ。」
リシェルはアーディンらをハーネイトの拠点の部屋に案内するためエレベーターに乗り込んだ。
「さて、と。伯爵とリリーはなぜここに?」
「別にいいじゃねえか。」
「構いませんよ。」
エレクトリールは優しく、そのままでいいとハーネイトに言った。
「ならいいのだが。」
「ええ。…私は、みんなを守るためにすべてを捨てて、軍人になりました。しかし今回の一件では私だけあれを守るため逃げ出しました。そしてそれでもみんなが戦っていたことや、指揮官がいないのに勝ったことについて、複雑な感情を抱いています。そして戻ってきてほしいと言われてもどんな顔をして戻ればいいのかわからないのです。」
「立場、か。軍人ならではの悩みか。」
「確かに、同じ立場なら帰りづらいな。昔のことを思い出す。」
「昔のこと?」
「ああ。だがあんたの故郷には平和が戻った。それは嬉しいことだし素直に祝ってもバチは当たらないだろう。」
伯爵はエレクトリールの心情を察して祝うこと自体に罪はないと助言をする。
「その通りだな。もし帰りたいなら、私は止めない。シャムロックならばあの船を直せるだろう。あいつの腕は確かだ。エレクトリール、どうした。」
「どうして、どうしてそんなことをいうのですか?」
ハーネイトはいつでも帰れると言うも、エレクトリールの表情は険しく、凍てつくような雰囲気を感じていた。
「えっ、故郷にいる仲間たちや親に会いたくはないのか?」
「私は!既に親からは勘当されているし、仲間も多くない。それに、みんなと、みんなといたい!もう、誰も失いたくない!」
「エレクトリール。そう、か。わかった。だがいつでも準備はできているからな。」
アポロネスから聞いたエレクトリールの話を思い出し、失言をしたなとハーネイトは反省した。
「ぐすっ、私は、貴方のことが大好きで……。少しだけ嫌いです。」
「それは、どういう意味だ。」
「ハーネイトさんは優しいし、色んな人や物を受け入れる器の広さがあります。それが私にとっては嬉しかった。だけど、一つだけ嫌いなところがあります。あれだけの力と人望がありながら、どこか距離をまだとっているような振る舞いをしたり、人を惑わせたりするところです。あなたのことを好きな人は、他にもたくさんいますでしょう。でも、気持ちに気づいてもらえないのは、とても悲しいです。」
「何を、言っているのだ。エレクトリール。」
「私は貴方のことが好き、だから何があっても死んでほしくない。貴方のような強い人なら、私の前から突然いなくなることなんて、ないでしょう?私にはもう、ハーネイトさんしか見えない。これほど誰かを好きになったのは、初めて、なのです。」
エレクトリールの思いが言葉となり、ハーネイトに突き刺さる。しかしハーネイトはエレクトリールをまだ男だと認識していた。しかしエレクトリールは女性である。この認識のずれが、二人を苦しめることになる。
「人としての好き、なのか?」
ハーネイトのその言葉に、エレクトリールは睨み付けるようにハーネイトの顔を見ていた。それは違う、と表情で示したかったからである。
そのころ、ハーネイトたちに助けられたフューゲルは南大陸に南下し、上司であるDカイザーのもとにいた。報告を聞いたDカイザーは、少し肩を落としながらフューゲルに話しかけた。
「やれやれ、やりすぎも困るな。」
「しかし必要な情報は集めましたし、あなたの言っていたフォレガノ総長にはじきに会えると思います。ハーネイトの居場所も再度把握しました。」
「それはそうなのだがなあ。ふむ。ジルバッドを殺したあの魔法使いの居場所を掴んだとしても、あまりに強力な結界のせいで侵略魔ですら侵入できん。」
フューゲルが侵略魔であることは以前説明したが、この見るからに悪の総帥のような、黒マントに身を包み紫色の角を3本はやした悪魔、Dカイザーはその上に立つ存在であった。彼は人にあらず。しかし人の心をジルバッドから得た。そしてかつての上司であり行方不明になっていたフォレガノの行方を追い天神界に彼らを連れて行き、そこで生まれて半年ほどのハーネイトを連れ帰ってきたのである。正確には、もっと複雑な過程があるのだが。
「そう、ですね。彼の内なる力なしにあれの突破はできないでしょう。」
「やれやれ、近いうちにハーネイトに会うしかないな。しかし運命というものは恐ろしい。他の世界を侵略しに来たのに、今では他の世界のために動いているとはな。シルクハインの言葉は嘘には聞こえなかった。そうなれば、女神に対抗できるのはハーネイト、お前だけなんだ。」
アクシミデロ星にいるわずかな侵略魔たちは、未来に高い確率で起こりうる災厄を感じ、それに対抗するため動き出していたのである。
その一方で、白い男ことオーダインはある山の頂から地上を見下ろしていた。
「うーん、いい感じ。しかし物足りない。ハーネイトと一度手合わせしたいな。弟がこの世界で何を見つけ、何を得て、何を力にしたか。全力で感じたい。」
彼はそう考えながら、仰向けに寝転がり空を眺めていた。
「天神界を作り出すきっかけとなった伝承上の女神、それが実在する神だった。それが私たちの最大の不幸。彼女を止めなければ、何もかもが終わる。人間界だけを消すなどと言っていたようだが、そんなことをすれば他の世界もすべて消えてしまい、女神は孤独となる。なぜ私たちが先に気づいたのだろうか。本当に。」
オーダインもまた、侵略魔たちと同じ未来の危機を感じていたのである。そしてそれは、ハーネイト、そして伯爵が長い長い戦いに巻き込まれるという未来を確約しているものであった。
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リリーには幼い頃に決められた王子の婚約者がいたが、その婚約者の誕生日パーティーで婚約者はミーネと入場し挨拶して歩きファーストダンスまで踊る始末。国王と王妃に謝られ、贈り物も準備されていると宥められるが、その贈り物のドレスまでミーネが着ていた。リリーは怒ってワインボトルを持ち、美しいドレスをワイン色に染め上げるが、ミーネもリリーのドレスの裾を踏みつけ、ワインボトルからボトボトと頭から濡らされた。相手は子爵令嬢、リリーは伯爵令嬢、位の違いに国王も黙ってはいられない。婚約者はそれでも、リリーの肩を持たず、リリーは国王に婚約破棄をして欲しいと直訴する。それ受け入れられ、リリーは清々した。婚約破棄が完全に決まった後、リリーは深夜に家を飛び出し笛を吹く。会いたかったビエントに会えた。過ごすうちもっと好きになる。必死で練習した飛行魔法とささやかな攻撃魔法を身につけ、リリーは今度は自分からビエントに会いに行こうと家出をして旅を始めた。旅の途中の魔物の森で魔物に襲われ、リリーは自分の未熟さに気付き、国営の騎士団に入り、魔物狩りを始めた。最終目的はダンジョンの攻略。悪役令嬢と魔物退治、ダンジョン攻略等を混ぜてみました。メインはリリーが王妃になるまでのシンデレラストーリーです。
どうやらお前、死んだらしいぞ? ~変わり者令嬢は父親に報復する~
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ファンタジー
「ビクティー・シークランドは、どうやら死んでしまったらしいぞ?」
「はぁ? 殿下、アンタついに頭沸いた?」
私は思わずそう言った。
だって仕方がないじゃない、普通にビックリしたんだから。
***
私、ビクティー・シークランドは少し変わった令嬢だ。
お世辞にも淑女然としているとは言えず、男が好む政治事に興味を持ってる。
だから父からも煙たがられているのは自覚があった。
しかしある日、殺されそうになった事で彼女は決める。
「必ず仕返ししてやろう」って。
そんな令嬢の人望と理性に支えられた大勝負をご覧あれ。
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