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忘れ去られた薔薇(3)
しおりを挟む光る切っ先
振り上げられた刃物を避けるため必死に体を捻るが、一度目は運良く避けられたものの、すぐに投じられた二振り目によって鋭い激痛が脇腹を掠める。
それでも満足のいく手応えではなかったのだろう。ちっ、と舌打ちをもらすローズ様を信じられない目で見つめた。
本気で、殺される……。
「───っは、はっ、…ひっ」
息も絶え絶えに、ローズ様の動きを注視しながらズキズキと痛むそこをチラッと見下ろせば、裂かれた服の下から滲む赤が広がっていく───
「まぁまぁラズ様、大人しくしてくださらないと危ないですわよ?無駄に痛いのはお嫌でしょ?わたくしも疲れたくないのでひとおもいに刺されてくださいな?」
血が滴る刃物の切先をクルクル回しながら、まるで演劇を鑑賞しているかのように楽しげな声音で話しかけてくるローズ様。今これが現在進行形で自分に起きている現実味のない現実。
完全に僕とローズ様だけの空間で助けてくれる人は誰もいない。
翡翠としての人生の時から常に守ってきてくれたラルドも、何をするにも超過保護なクオーツもいない。
情けなくも、恐怖で次から次へと溢れる涙が止まらなかった。
怖い、
痛い、
寒い、
怖い、怖い、
死にたくない───
クオーツ、助けてクオーツ……
無意識に呼んでしまう番の名前。
恐怖で支配される体は呼吸の仕方を忘れてしまったかのように上手く息が吸えない。
ズキズキ痛みを訴える右脇腹を抑えた手はみるみるうちに真っ赤に染まっていく。
それでも、今ここで僕が諦めてしまったらその時点でお腹の子まで道連れとなってしまう。
クオーツの子を死なせたくない
この子だけは絶対に、守らなくては───
まだ見ぬ我が子への母性だけがいまこの状況で震える体を動かす原動力となっていた。
「あらあら、まだ無駄な抵抗をなさるおつもり?」
「絶対に、僕は諦めない…っ」
役に立たない足の代わりに肘で地面を押し上げローズ様に背中を向けるよう本能的に体の向きを変えお腹を隠した。
少しでも、守れるように。
「お望み通り滅多刺しにしてさしあげますわっ」
「───っ」
そして───
髪を振り乱し奇声を発しながら容赦なく襲ってくる刃物を持ったローズ様。
僕もできる限りの力を全て振り絞り、無我夢中で応戦した。
その一瞬が全てスローモーションのようだった。
「あ……、ぁっ、かはっ」
「はっ、は……」
シーンと静まり返る空間に、お互いの息遣いだけが、やけに大きく聞こえていた。
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