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SS・IF・パロディー
【SS】慣れない王城での暮らし(6)
紛いなりにもこの場にいるのは全員お貴族様達。
僕とクオーツの歩みに合わせ遠巻きに眺めていた人垣が空気を読んでザッと割れていく。
一見、柔らかい笑みを携え心穏やかそうに見えるクオーツだがその実、腹の中はそうでは無いらしい。
昔から僕とラルド様が話しているだけで一々不機嫌そうな表情をしていたクオーツ。今回も例外ではなかった。
その証拠に僕の腰を抱く手に異様な力の入り具合を感じ、内心げっそりしていた。
こんないつ爆発するかも分からない時限爆弾のような状態のクオーツにわざわざ話しかけに来る命知らずは居ないだろう──そう、思っていた。
「クオーツ様っ」
「……」
「御機嫌ようクオーツ様」
僕たちの進む進行方向、開けた空間にサッと躍り出てきた一人のご令嬢。
相当自分に自信がある様子が優雅で堂々としたお辞儀から見て取れるその人は、現国王陛下の実の弟を父に持つ正当な王族の一員かつクオーツの元許嫁、ローズ様だった。
「やぁローズ、今日も華やかだね」
「クオーツ様に見て頂きたくて着飾りましたの。ぜひそんなわたくしと一曲踊ってくださいな、うふふ誘っていただけるのが待ち遠しくてわたくしから声をかけてしまいました、はしたないと思わないでくださいね」
「……うん、折角のお誘いだが申し訳ない、見ての通り私には大切な番がいるんだ。金輪際ラズ以外の誰とも踊る事は無いと思っておくれ」
「っな!?~~っ」
まさかこんな大衆の面前で断られるとは夢にも思っていなかったのだろう。カッと顔色を朱に染め、わなわな羞恥で震えるローズ様の視線がここで初めてクオーツの隣に佇む僕に向く。
その瞬間、反射的にひっと漏れ出た声はどこまで届いただろうか……。
クオーツ以外眼中に無いローズ様の態度をいい事に全力で息を潜め、事が過ぎるのを静かに待ち空気となっていたのだが、いざ向けられた憎悪の感情丸出しの睨みに情けなくも怯えてしまった。
「ラズ───」
過剰な程反応を示す僕にクオーツの案ずる視線までこちらに向く。それに応える余裕すら無いくらい今の僕は蛇に睨まれた蛙状態。
王城に来て初めてローズ様と顔を合わせた瞬間からこうだ。彼女を前にするとわけもわからない恐怖に襲われ体が動かなくなってしまうのだった。
忘れもしない、王城に来て交わした初対面での最悪の挨拶。
出会いの記念として贈られた花に仕掛けられた毒蛇は鋭い牙をむき出しに、勢いよく飛び付いてくる。寸前で叩き落とされ大事に至らなかったとはいえ、その時のトラウマがすっかり見に染み付き、それがラズとしての人生で生まれて初めて誰かに悪意を向けられた出来事だった。
そんな事があったから余計ローズ様に抱く恐怖は膨れ上がっていた。
こんなにも誰かを拒絶する感情を抱くのは初めての事で自分のことなのに戸惑いが隠せないでいるのが正直のところ……とにかく心と体全てをもってローズ様に拒否反応を示していた。
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