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SS・IF・パロディー
【SS】慣れない王城での暮らし(8)
クオーツに抱き上げられ嫌という程注目を浴びながらその場を去った晩餐会。
会場から離れしばらくするとその喧騒も聞こえなくなった頃、もういいだろうというタイミングで再度下ろして、と要求すれば今度は素直に下ろされた。
誰ともすれ違わないことをいい事に、ドスドス音を立て廊下を歩く様をはしたないと言われようがそんなの知るか。
後ろから「ラズ」と呼ぶ声も綺麗に無視して自分の脚で黙々と歩き続けた。
広い王城内、やっと辿り着いた私室の扉をバンッと激しく開け放ち、着ていたタキシードを乱暴にソファへ叩きつける。
そのまま部屋の奥まで突き進むと上質なシャツが皺になる事すら気にもせず顔面から飛び込むようにベッドへ突っ伏した。
「ラズ……」
僕の後ろを追いかけ着いてきたクオーツの案ずるような声が余計イライラを助長させる。
「……もうやだ」
「ラズ?」
ポツリと呟いた言葉が最後の防波堤を壊す引き金となり、言葉と涙がみるみる溢れてくる。
今日の出来事だけじゃない、毎日の蓄積により溜まった鬱憤がいつの間にか限界まで到達していた。
「こんな生活もうやだ!窮屈!息苦しい!なんで!?なんで僕なの!?運命とか言われてもわかんないよっ全然わかんない!!」
「ラズ落ち着──」
「触らないで!」
「っ」
伸びてきた手が僕に触れる瞬間、咄嗟に掴んだ近くのクッションを投げつけ、それは見事クオーツの顔面に直撃する。スローモーションのように落ちていくクッション。避けもせず、黙ってそれを受け入れたクオーツの顔を見たら余計自分が惨めに思え、涙は止まらなかった。
「ふ、ふぇ……かえり、たい…お家帰りたいぃっうあぁぁぁぁぁっ」
「っ、ごめん、ごめんね」
「やだっ離して!クオーツなんか嫌い!!!」
「───っ、縛り付けてごめん、それでもキミを手放せない…ラズが私の運命だから、運命が目の前に居るのに、諦める事はできない、ごめん、ごめんね」
「~~~っ」
離してと言っても今度は頑なに緩まないクオーツの腕の中で力の限り泣き喚き、何度も何度もぶつけた拳をクオーツはひとつも避けず胸で受け止めた。
そんな大癇癪も僕の体力ではそう長くは続かない。
「グス……ばか…きらい…」
「……うん」
体力の消耗と共に叩く力は段々と弱くなり、最後はクオーツに抱かれたままその腕の中で意識を手放すように眠りに落ちていた。
涙で濡れた僕の目尻をそっと拭い、いつまでも見つめ続けるクオーツの切なそう目を眠る僕は知る由もない。
「……ラズ、ごめんね。例えキミに嫌われたとしても、それでも、誰にも渡さない…ラズは私のもの」
ポツリと呟かれた悲しいアルファの呟きは誰にも受け止められず、空虚へ消えていった。
現世でも前世でも、突然僕の前に現れ、僕の自由を奪う憎き悪魔クオーツ。
けれどそんなクオーツの腕の中は何故か不思議と安心する、といま思えばこの時から既に心のどこかで感じていたのかもしれない。
この日を境にこれまで以上に思った事をはっきり言えるようになった僕とクオーツの関係は少しずつ変わっていく。
些細な事で何度も何度も衝突した。
その分、仲直りも経験してきた。
そうして築き上げた決して短いとは言えない年月の末、僕とクオーツが正式に番になるのはもう少し先のお話───
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