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SS・IF・パロディー
【SS】雪の日の思い出sideラルド(1)
しおりを挟む灰色の空からふわふわと降ってくる白い結晶。
それを楽しそうに受け止めるその人の笑顔は、いつの時代も変わらず眩しいほどにキラキラ輝いていて、見ているこちらが自然と笑顔になる、とても幻想的な光景だった───
◆◇◆◇◆
騎士団の朝は早い。
団長となりその時間に起きる必要はなくなってからも、長年身に付いた正確な体内時計は決まった時間にきっちりと目覚めさせた。
冬の早朝、カーテンが閉まった室内はまだ薄暗い。上半身を起き上がらせ寝起き特有の気だるさをそこで霧散させる。無意識に出るため息をもらしながらやっとの事でベッドから立ち上がると顔を洗いに洗面所へと向かった。
顔を冷水で濡らし、歯磨きをしながらぼぉっと見つめる鏡。そこに映るのは、間違いなく今の時代を生きているラルドの顔だった。
久々に懐かしい夢を見た。
雪の中楽しそうにはしゃぐ翡翠様を見守る夢───
最近では起きても鮮明に覚えているほどの前世の夢を見ることは稀になっていたが、今朝の夢は今でもはっきり覚えており、そんな久々の感覚に目覚めた瞬間記憶が混乱した。
今の自分はラルドなのか、蒼唯なのか…
翡翠様と見た雪の光景は現実だったのか、夢だったのか…
そして、瞬時に夢だと理解した途端やるせない虚しさだけが胸に残った。
歯磨きを終え寝室へと戻る。着替えようとクローゼットに手を伸ばしかけたところでハタと動きを止めた。
今朝は一段と冷える───そう思い立つと薄暗い室内をぐるっと見回した。
団長として一人部屋を与えられたものの、他の騎士団員とそう変わらない部屋の機能は薪を燃やす簡易ストーブはあっても寝る際は切るため現状暖房類を一切入れていない。
ふと窓辺へ足を向け締め切っていたカーテンを開け放ち外を覗けば案の定、夜の間に雪が降り積ったらしい。
外は一面雪化粧に覆われ、前日に見た景色とまるっきり違っていた。
「だからあんな夢を見たのか……」
そんな独り言を漏らしながら眺める景色は意識が遠くなるほど足跡ひとつ無い綺麗な白が視界の果まで続く。その中で決しているはずの無い翡翠様の面影を無意識の内に探していた。
*****
「団長、少々よろしいでしょうか───」
「どうかしたか」
雪だろうと日々の訓練は変わりなく行われる。
団員達の動きに隅々まで目を配り、時に激を飛ばしながら自分も剣を振り体を動かしていると一人の団員が報告にやってきた。
その表情は困り果てたように曇っている。
「本日もラズ様がいらしているのですが……」
「ラズ様が?」
その言葉で今日初めてお決まりの定位置に視線を向ければ、確かに木の陰からこちらを覗くラズ様の姿が居らした。
何故気付かなかったのか───
今朝の夢が尾を引き、意識が散漫になっていた自分に喝を入れ団員の話の続きを促す。
「はい…どうも薄着のようで…見ているこちらが心配になります」
「そうか、報告ご苦労、私が行こう」
「ありがとうございますお願いいたします」
剣を鞘に収め報告してきた団員に礼を伝えると早足でその場を立ち去る。
いつの日からか騎士団の訓練所まで見学に来るようになっていたラズ様。こちらから声をかけることは滅多にせず、満足のいく迄好きにしてもらおうと見て見ぬふりをしていたのだが、この寒空の下長居をしているのはさすがに見過ごせない。
丁度ラズ様の元へ向かい始めたタイミングで白い何かがふわふわと舞い落ちてくる。
雪が再び降ってきた。
「───わぁ、雪」
こちらが近付いてきている事にも気付かない様子で降ってくる雪に手を伸ばし、楽しそうに両手でパシッとキャッチを試みるラズ様。
その姿と笑顔を目にとめた瞬間、動かしていた足は自然と速度を緩め、気付けばとうとう立ち止まって遠目からラズ様を眺めていた。
「───翡翠…様…」
ラズ様だとわかっていたはずなのに、無意識の内に思ってしまった呟きが音となって口から出ていたかどうか、自分でもわからない。
けれど、バッと振り向いたラズ様のきょとんとした表情と目が合うと一瞬でハッと我に返った。
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