【本編完結】今日も推しに辿り着く前に嫉妬が激しい番に連れ戻されます

カニ蒲鉾

文字の大きさ
131 / 140
SS・IF・パロディー

【SS】雪の日の思い出sideラルド(1)

しおりを挟む

 
 
 灰色の空からふわふわと降ってくる白い結晶。
 
 それを楽しそうに受け止めるその人の笑顔は、いつの時代も変わらず眩しいほどにキラキラ輝いていて、見ているこちらが自然と笑顔になる、とても幻想的な光景だった───
 
 
 
 
 
 ◆◇◆◇◆
 
 
 
 騎士団の朝は早い。
 
 団長となりその時間に起きる必要はなくなってからも、長年身に付いた正確な体内時計は決まった時間にきっちりと目覚めさせた。
 冬の早朝、カーテンが閉まった室内はまだ薄暗い。上半身を起き上がらせ寝起き特有の気だるさをそこで霧散させる。無意識に出るため息をもらしながらやっとの事でベッドから立ち上がると顔を洗いに洗面所へと向かった。
 
 
 顔を冷水で濡らし、歯磨きをしながらぼぉっと見つめる鏡。そこに映るのは、間違いなく今の時代を生きているラルドの顔だった。
 
 久々に懐かしい夢を見た。
 
 雪の中楽しそうにはしゃぐ翡翠様を見守る夢───
 
 最近では起きても鮮明に覚えているほどの前世の夢を見ることは稀になっていたが、今朝の夢は今でもはっきり覚えており、そんな久々の感覚に目覚めた瞬間記憶が混乱した。
 
 
 今の自分はラルドなのか、蒼唯なのか…
 翡翠様と見た雪の光景は現実だったのか、夢だったのか…
 
 
 そして、瞬時に夢だと理解した途端やるせない虚しさだけが胸に残った。
 
 

 
 歯磨きを終え寝室へと戻る。着替えようとクローゼットに手を伸ばしかけたところでハタと動きを止めた。
 
 今朝は一段と冷える───そう思い立つと薄暗い室内をぐるっと見回した。
 
 団長として一人部屋を与えられたものの、他の騎士団員とそう変わらない部屋の機能は薪を燃やす簡易ストーブはあっても寝る際は切るため現状暖房類を一切入れていない。
 ふと窓辺へ足を向け締め切っていたカーテンを開け放ち外を覗けば案の定、夜の間に雪が降り積ったらしい。
 
 外は一面雪化粧に覆われ、前日に見た景色とまるっきり違っていた。
 

「だからあんな夢を見たのか……」
 
 
 そんな独り言を漏らしながら眺める景色は意識が遠くなるほど足跡ひとつ無い綺麗な白が視界の果まで続く。その中で決しているはずの無い翡翠様の面影を無意識の内に探していた。
 
 
 
 
 *****
 
 
「団長、少々よろしいでしょうか───」
「どうかしたか」
 
 
 雪だろうと日々の訓練は変わりなく行われる。
 団員達の動きに隅々まで目を配り、時に激を飛ばしながら自分も剣を振り体を動かしていると一人の団員が報告にやってきた。
 
 その表情は困り果てたように曇っている。
 
 
「本日もラズ様がいらしているのですが……」
「ラズ様が?」
 
 
 その言葉で今日初めてお決まりの定位置に視線を向ければ、確かに木の陰からこちらを覗くラズ様の姿が居らした。
 何故気付かなかったのか───
 今朝の夢が尾を引き、意識が散漫になっていた自分に喝を入れ団員の話の続きを促す。
 
 
「はい…どうも薄着のようで…見ているこちらが心配になります」
「そうか、報告ご苦労、私が行こう」
「ありがとうございますお願いいたします」
 
 
 剣を鞘に収め報告してきた団員に礼を伝えると早足でその場を立ち去る。
 
 いつの日からか騎士団の訓練所まで見学に来るようになっていたラズ様。こちらから声をかけることは滅多にせず、満足のいく迄好きにしてもらおうと見て見ぬふりをしていたのだが、この寒空の下長居をしているのはさすがに見過ごせない。
 
 丁度ラズ様の元へ向かい始めたタイミングで白い何かがふわふわと舞い落ちてくる。
 
 雪が再び降ってきた。
 
 
 
「───わぁ、雪」
 
 
 
 こちらが近付いてきている事にも気付かない様子で降ってくる雪に手を伸ばし、楽しそうに両手でパシッとキャッチを試みるラズ様。
 
 その姿と笑顔を目にとめた瞬間、動かしていた足は自然と速度を緩め、気付けばとうとう立ち止まって遠目からラズ様を眺めていた。
 
 
「───翡翠…様…」
 
 
 ラズ様だとわかっていたはずなのに、無意識の内に思ってしまった呟きが音となって口から出ていたかどうか、自分でもわからない。
 けれど、バッと振り向いたラズ様のきょとんとした表情と目が合うと一瞬でハッと我に返った。
 
 
しおりを挟む
感想 43

あなたにおすすめの小説

やっと退場できるはずだったβの悪役令息。ワンナイトしたらΩになりました。

毒島醜女
BL
目が覚めると、妻であるヒロインを虐げた挙句に彼女の運命の番である皇帝に断罪される最低最低なモラハラDV常習犯の悪役夫、イライ・ロザリンドに転生した。 そんな最期は絶対に避けたいイライはヒーローとヒロインの仲を結ばせつつ、ヒロインと円満に別れる為に策を練った。 彼の努力は実り、主人公たちは結ばれ、イライはお役御免となった。 「これでやっと安心して退場できる」 これまでの自分の努力を労うように酒場で飲んでいたイライは、いい薫りを漂わせる男と意気投合し、彼と一夜を共にしてしまう。 目が覚めると罪悪感に襲われ、すぐさま宿を去っていく。 「これじゃあ原作のイライと変わらないじゃん!」 その後体調不良を訴え、医師に診てもらうととんでもない事を言われたのだった。 「あなた……Ωになっていますよ」 「へ?」 そしてワンナイトをした男がまさかの国の英雄で、まさかまさか求愛し公開プロポーズまでして来て―― オメガバースの世界で運命に導かれる、強引な俺様α×頑張り屋な元悪役令息の元βのΩのラブストーリー。

番解除した僕等の末路【完結済・短編】

藍生らぱん
BL
都市伝説だと思っていた「運命の番」に出逢った。 番になって数日後、「番解除」された事を悟った。 「番解除」されたΩは、二度と他のαと番になることができない。 けれど余命宣告を受けていた僕にとっては都合が良かった。

運命じゃない人

万里
BL
旭は、7年間連れ添った相手から突然別れを告げられる。「運命の番に出会ったんだ」と語る彼の言葉は、旭の心を深く傷つけた。積み重ねた日々も未来の約束も、その一言で崩れ去り、番を解消される。残された部屋には彼の痕跡はなく、孤独と喪失感だけが残った。 理解しようと努めるも、涙は止まらず、食事も眠りもままならない。やがて「番に捨てられたΩは死ぬ」という言葉が頭を支配し、旭は絶望の中で自らの手首を切る。意識が遠のき、次に目覚めたのは病院のベッドの上だった。

【完結】愛されたかった僕の人生

Kanade
BL
✯オメガバース 〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜 お見合いから一年半の交際を経て、結婚(番婚)をして3年。 今日も《夫》は帰らない。 《夫》には僕以外の『番』がいる。 ねぇ、どうしてなの? 一目惚れだって言ったじゃない。 愛してるって言ってくれたじゃないか。 ねぇ、僕はもう要らないの…? 独りで過ごす『発情期』は辛いよ…。

流れる星、どうかお願い

ハル
BL
羽水 結弦(うすい ゆずる) オメガで高校中退の彼は国内の財閥の一つ、羽水本家の次男、羽水要と番になって約8年 高層マンションに住み、気兼ねなくスーパーで買い物をして好きな料理を食べられる。同じ性の人からすれば恵まれた生活をしている彼 そんな彼が夜、空を眺めて流れ星に祈る願いはただ一つ ”要が幸せになりますように” オメガバースの世界を舞台にしたアルファ×オメガ 王道な関係の二人が織りなすラブストーリーをお楽しみに! 一応、更新していきますが、修正が入ることは多いので ちょっと読みづらくなったら申し訳ないですが お付き合いください!

上手に啼いて

紺色橙
BL
■聡は10歳の初めての発情期の際、大輝に噛まれ番となった。それ以来関係を継続しているが、愛ではなく都合と情で続いている現状はそろそろ終わりが見えていた。 ■注意*独自オメガバース設定。■『それは愛か本能か』と同じ世界設定です。関係は一切なし。

【完結済】極上アルファを嵌めた俺の話

降魔 鬼灯
BL
 ピアニスト志望の悠理は子供の頃、仲の良かったアルファの東郷司にコンクールで敗北した。  両親を早くに亡くしその借金の返済が迫っている悠理にとって未成年最後のこのコンクールの賞金を得る事がラストチャンスだった。  しかし、司に敗北した悠理ははオメガ専用の娼館にいくより他なくなってしまう。  コンサート入賞者を招いたパーティーで司に想い人がいることを知った悠理は地味な自分がオメガだとバレていない事を利用して司を嵌めて慰謝料を奪おうと計画するが……。  

そんなに義妹が大事なら、番は解消してあげます。さようなら。

雪葉
恋愛
貧しい子爵家の娘であるセルマは、ある日突然王国の使者から「あなたは我が国の竜人の番だ」と宣言され、竜人族の住まう国、ズーグへと連れて行かれることになる。しかし、連れて行かれた先でのセルマの扱いは散々なものだった。番であるはずのウィルフレッドには既に好きな相手がおり、終始冷たい態度を取られるのだ。セルマはそれでも頑張って彼と仲良くなろうとしたが、何もかもを否定されて終わってしまった。 その内、セルマはウィルフレッドとの番解消を考えるようになる。しかし、「竜人族からしか番関係は解消できない」と言われ、また絶望の中に叩き落とされそうになったその時──、セルマの前に、一人の手が差し伸べられるのであった。 *相手を大事にしなければ、そりゃあ見捨てられてもしょうがないよね。っていう当然の話。

処理中です...