【本編完結】欠陥Ωのシンデレラストーリー

カニ蒲鉾

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1【運命との出会い】

1-2 出会い(2)

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「――それでね、ウチの楓真くん。今後住む所は探すみたいなんだけど落ち着くまではしばらく我が家に居るんだって。だからさ、この機会につかさくんも戻っておいでよ、毎朝早くからおじさんのお迎えは大変でしょ」


 楓珠さんは何かある度にうちに戻っておいでと言ってくださる。その優しさにありがたく思いながらも僕ももういい歳だ、いつまでも甘える訳にはいかない、と自分に言い聞かせていた。


「全然大変なんてこと……それに本当に久しぶりの親子水入らずじゃないですか、僕なんかお邪魔できません」
「こら、お邪魔なんて寂しい事言わないの。楓真くんもつかさくんも私の大切な息子なんだから」
「ですが……」
「いつでも頼っていいんだからね。そうだ、今夜久しぶりにディナーしよう。息子も一緒に」
 
 
 楓珠さんは本当の家族の中になんの迷いもなく僕を呼んでくださる。出会った時から変わらない楓珠さんから与えられる愛情を嬉しく受け止め、ぜひ、楽しみにしています。と今夜の約束を結んだところで木村さんの運転する車は静かに建物のロータリーへと入っていく。

 
 大手IT企業――御門ホールディングス

 
 毎年就職希望倍率は最高値を更新し続け、業績もうなぎ登り。
 先祖代々続く歴史ある会社を若くから受け継いだ楓珠さんはそのカリスマ性からさらに時代のニーズをうまく取り入れ大きく発展させてきた。大学も出ていない自分が就職できているのは奇跡としか言えない今最も注目を浴びている業界トップクラスの企業だった。
 
 
「それじゃ、本日もお仕事頑張りましょうかね~」
 
 
 よっこらせ、なんて顔に似合わないつぶやきと共にいち早く扉を開け車外に出てしまう。
 
 
「はいどうぞつかさくん。頭ぶつけないように気をつけてね」
「社長…これは僕――私の仕事なのに…」
「いいのいいの好きでやってる事だから」
 
 
 いち秘書の為に社長自ら扉を開けるだけでなく、わざわざ頭上の車枠を手でガードしてくださるスマートさは何度受けても慣れない。
 差し出される手に甘えながらも一歩会社の敷地内に足を踏み落とせばここからは仕事モード。柔らかい表情はそのままに、纏う雰囲気がガラッと変わるさまを間近で見ていれば自然と気持ちが引き締まる。
 
 
「行ってらっしゃいませ社長、橘くん」
 

 丁寧に腰を折る木村さんの見送りに会釈で答え、颯爽と歩く社長の一歩後ろを影のように付き従う。正面玄関から社員証を通して受付ロビーを抜ける間、すれ違う社員全員が社長への挨拶を欠かさない。
 その反面、高卒のくせに、媚び売りΩ、社長のお気に入り――言葉には出さない無言の視線がじっとりまとわりつく居心地の悪い空間の中でがむしゃらに目の前の背中だけを見つめて着いて行く。誰になんと言われようが気にしない。直接楓珠さんにもういらない、と言われるまでは、このポストから退くつもりは微塵もなかった。
 
 
「そうだつかさくん、午前中は特に急ぎの案件は無かったよね?」
「そう…ですね、問題ないかと」
「よかった、実はさっき伝え忘れてたんだけれど、今日から息子もウチで働くから後で社内を案内してあげて。しばらくは私の下につかせて学ばせるつもり」
「――わかりました」

 
 急なことに多少驚きつつも、すぐさま脳内でスケジュールを組み込む。
 楓珠さんの実の息子さん…間違いなくαなんだろう……念の為、追加で抑制剤を――

 会う事になるのは早くとも夜だと思っていたものだから、心の準備が追いついていなかった。

 
 
「朝も私たちと一緒に行こうって誘ったんだけどね、色々見ながら自分で運転したいって先に出てっちゃって…もう着いてる頃じゃ――」
 
 
「父さん」
 
 
 社内では到底聞き慣れない呼称が聞こえたかと思えば、カツカツとこちらに近づいてくる革靴の規則正しい足音が異常なほど大きくエレベーターホールに鳴り響く。
 
 
「あ、噂をすれば。楓真くん」
 
 
 楓珠さんの視線を追って後ろを振り返れば、
 
 何かを発見したかのように目を大きく見開いた見知らぬイケメンと視線がぶつかり合う。
 
 推定190はあるだろうすらっと伸びた高身長にフィットしたダークスーツを綺麗に着こなし、柔らかそうな黒髪をお洒落に撫で付け整った顔を引き立たせるその人は、楓珠さんと同様ピラミッドの頂点αという威厳と風格に満ち溢れている。
 突然現れた謎の美男子に誰もが目を奪われ足を止める状況で、僕も彼から目が離せなかった。
 
 
 一瞬、本当に一瞬、何かがザワりと揺れ動いた気がした――。
 
 
「見付けた、俺の運命――」
 
「え、」
 
 
 彼のせいで止まったこの時間を再び動かすのもまた彼で、驚愕の表情から一変、今にも泣き出しそうな表情を見せたかと思えば残りの距離を一気に詰めるべくその長い脚を最大限生かし、まさしくゼロ距離を体現するかのように、気付いた時には彼の腕の中に閉じ込められていた。
 
 
「見付けた……見付けた!やっと会えたっ」
「ちょ、え、何――」
 
 
 あまりにも予想外で急なことにすぐさま行動ができず、上手く働かない頭は言葉にならない言葉を吐き出すことしかできない。
 それは一番そばで見ていた楓珠さんも同様で
 
 
「楓真くん!?こら、つかさくん困ってるから一旦離しなさい」
「つかささんって言うんですか?俺の運命は名前まで素敵だ」
「楓真くん~~…」

 
 あちゃーと顔を覆う楓珠さんを横目に、笑顔が眩しいイケメンが宝物を扱うかのように今一度つかささん、と僕の名前を呼ぶのをどこか他人事のように見つめてしまう。
 
 
 運命――

 一目見ればお互いだけがわかるこの世のどこかに存在すると言われる唯一無二の魂の番。
 この人は僕をそう呼ぶけれど、僕は何も感じない……このポンコツな身体はこの瞬間も一切フェロモンを感じ取ることができない。
 
 Ωとしての無能さを突き付けられているなんてつゆにも思わない彼の盛り上がりは一人でに最高潮まで登っていく。
 今一度ギュッと強く抱きしめられたかと思えば抱擁は解かれ、そのまま腰を抱かれて楓珠さんと向き合う形へ。
 
 
 そして、冒頭へと繋がっていく。




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