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1【運命との出会い】
1-3 出会い(3)
しおりを挟む「父さん、俺、つかささんと結婚する」
「あのね、楓真くん。そういう事には順序ってものが――とにかく、一旦社長室行くよ」
瞬時に周りの状況を確認した楓珠さんは、やれやれとため息を吐きエレベーターを呼ぶべくボタンを押そうとする。そんな社長の動きに秘書としていち早く反応し手を伸ばそうとするが、腰の腕に動きを阻まれた。
「あ、あの、手…離していただきたいのですが」
「ん?」
頭一個分ほど上にある小さな顔に視線を向けつつ声をかけると予想以上に至近距離で目が合い咄嗟に逸らしてしまう。
さっきから心臓がバクバク鳴って落ち着かない。フェロモンを感じる事はできないが、この人独自の匂いなのか、とてもいい匂いがする。
だけどそれ以上に、αとの接触が――怖い。
そんな僕の状態を察知してくれたのか、つかさくん、と呼ぶ優しい声。
「こっちおいで」
ちょいちょいと手招きしながら微笑みかけてくれる慣れた存在に安堵の息が漏れていたことに自分では気づかず、そんな僕をじっと見つめる楓真さんの視線にも気づかないほど、全く余裕がなかった。
やってきたエレベーターに乗り込む楓珠さんのすぐ後を追い、ボタン前をキープする。
続いて乗ってきた楓真さんがチラリと僕を見るが、さりげなく楓珠さんが間に割り込み視線をさえぎってくださった。
3人乗り込んだエレベーターは定員まで全然余裕があるもののこの空間に入り込もうなど思う社員は居るはずもなく、そっと閉めるボタンを押すと静かに上昇を始めた。
沈黙が、痛い。
社長室は15階にあり、到着まで1分は要する。その間誰も口を開かず、ウィーンというモータ音だけが狭い空間に響いた。
早くつけ、早くつけ、と強く念じつつ階数表示だけを一点見つめる僕の背中に突き刺さる視線。
13――14――
結局、最後まで言葉をかけられることなく目的階へ到着したことを告げるチーンという音ともに扉は開き、閉ざされた空間の重い空気が外へ流出した。
「つかさくん、また呼ぶから一旦秘書室待機で仕事してて」
「わかりました」
「楓真くんは私と一緒に来なさい」
「……はい」
楓珠さんの言葉に不満いっぱいの声で返事をする楓真さんの切り替えは早く、またねつかささんと微笑みを向けられ、咄嗟に会釈で返す。
奥の社長室へ消えていく2人を見送り、やっと1人になれた瞬間、詰めていた息を吐き出すように大きなため息がフロアにむなしく響いた。
*****
「おはようございます」
社長室と同じフロアに位置する秘書室は、随行秘書2名とサポート秘書2名の合計4名が配属された部署だ。挨拶と共に部屋へ入ると、待ってましたと言わんばかりに後輩である花野井千佳くんが駆け寄ってきては腕にまとわりついてくる。
「せんぱぁい聞きましたよ!?社長と社長の息子さん両手に花で修羅場だったって!」
「おはよう花野井くん、そんな事ないよ」
おはようございまぁすと元気よく挨拶を返す彼は身長も容姿もかわいい愛されキャラ。金持ちイケメンと付き合って玉の輿に乗りたいと声を大に主張する彼のイケメンレーダーは今回も例外なく反応していた。
「やっぱり、さすがあの社長の息子さんだけあって圧倒的αでイケメンみたいですね!そんなハイスペックなら年下なんて全然気にならない!お近付きになりたい~」
「安心しろ、お前じゃ相手にされないから。橘さんおはようございます」
「おはよう、瀧川くん」
「たっきー酷い!」
仕事しろ、と花野井くんを連れて行ってくれる彼は瀧川進くん。花野井くんの同期で、容姿も性格も全くの真逆の彼らはとてもいいバランスで頼りになる後輩たち。
「御門ジュニア戻ってきたんだな、久々に見たら若い頃の楓珠そっくりでクローンかと思ったわ」
「水嶋さん、おはようございます」
おはようさん、と自分の席からヒラヒラ手を振る彼、水嶋知弦さんがこの秘書室のトップ。今は僕がメインで社長に着いているが、その前に担当していたのが水嶋さんだ。
彼と社長は学生時代からのご友人だそうで、公私共に信頼のおけるパートナーだと伺える。
「社長から楓真さんの社内案内を頼まれているので、また連絡があったら行ってきます」
「はいよ」
「え~いいなそれ僕が行きたいです~」
「お前はさっさとこの資料まとめろ今日の会議で使うんだから急げよ」
「たっきー嫌い…」
「花、誤字脱字気をつけろよ~」
「ボスも嫌いぃ~~」
席に着き準備しながらつられてクスクス笑ってしまう。気づけばいつの間にかさっきまでの緊張が嘘みたいに肩の力がぬけていた。
花野井くんの元気はいつもこの秘書室を明るくする。
僕以外全員βの彼らにはΩ故の事情で迷惑をかけてしまう事が多いのに、嫌な顔ひとつせず助けられてばかりだ。だから僕も、できる事は何でもする。
「花野井くん、誤字脱字チェックするからできたら見せてね手伝うよ」
「せんぱぁ~~い!好きっ」
つい一瞬前までシュンとしていたのが嘘のように、満面の笑みを携えた花野井くんの元気な声が部屋の外まで響き渡っていた。
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