【本編完結】欠陥Ωのマタニティストーリー

カニ蒲鉾

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1【妊娠】

1-3 予兆(3)

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「つかさくん眠い?」
 
 
 それは昼食を楓珠さんに付き添い外でとった帰りの車の中での楓珠さんの一言。
 いきなり意識が覚醒するような引っ張られる感覚に知らぬ間にうつらうつら舟を漕いでしまっていたのだと遅れて気がついた。
 
 
「っ!す、すみませ…っ」
「はは、いいよいいよつかさくんにしては珍しいなって思っただけ。私もご飯食べておなかいっぱいになると眠くなっちゃうもの。会社に着くまで寝てていいよ。肩使う?」
 
 
 そう楓珠さんはおどけて言ってくださるが、昼休憩といえど社長に付き従っている時は業務の一環。寝るなんて論外だった。何度も謝り小さく顔をぺちぺち叩いていると横から伸びてきた手が頬に触れてくる。
 
 
「んー…なんだかちょっと体温高いね…眠たいからかな…体調悪いとことかない?」
「何ともないです!本当にすみません…っ」
 
 
 僕の返事に納得したのかすぐに離れていく手。
 今となっては懐かしい楓珠さんの温かい手に昔はよく頭を撫でてもらっていた。
 
 御歳44歳となった楓珠さんとの出会いは楓真くんとの出会いよりももっと昔の事。
 7歳の時事故で両親を亡くし、身寄りのない僕はそのまま孤児院へ身を置くこととなった。そこで過ごした10年間は、院長からの露骨な性的虐待で辛くおぞましい記憶しかない。17歳で初めて迎えた発情期には院長含め複数人に囲まれ襲われ、長い苦痛の末、全てが終わった頃にはこの世界は絶望しかない――そう全てを諦めた僕は孤児院をふらりと飛び出した。命を絶つつもりで。
 
 そこで偶然出会ったのが楓珠さんだった。
 
 まだ日も登らない非常識な時間帯に、尋常ではない格好と様子の未成年の僕をそのまま楓珠さんが見逃す訳もなく、強制連行の勢いで楓珠さん宅へ保護され、病院へ連れていかれ、とことん優しい楓珠さんの説得でなし崩しにそのまま楓珠さん宅でお世話になることとなった。
 当時楓真くんは一人で海外留学に行っており、奥さんは既に亡くなっていて、大きな邸宅での楓珠さんと僕の二人暮しは、僕が25歳で一人暮らしを始めるまでの約8年間続いた。
 
 そして住む所だけではなく、働き口までも楓珠さんにはお世話になりっぱなしだった。
 楓珠さんが経営する大手IT企業の秘書見習いとして大学にも行っていない19歳のオメガを異例中の異例で雇ってもらい、そのまま今では社長随行秘書として、31歳になった。
 
 楓珠さんと過ごした時間と思い出は、楓真くんとのそれとはまた違った、特別なもの。
 そんな楓珠さんだからなのか、楓真くんと番になってから、他のアルファとふとした瞬間接触してしまうと身体が過剰に避ける傾向にあった。けれど、既に番の奥さんを亡くし他人にフェロモンの影響を及ぼさないアルファである楓珠さんとのさっきのような多少の触れ合いは特に問題なく、むしろ安心をもたらしてくれたりする。
 番の親族だということも関係しているのかなと長年の担当医が興味深そうに言っていた。
 
 
「本当に体調悪いようだったらすぐ言ってね。私にいいづらかったら楓真くんにでもいいから」
「……はい」
 
 
 ありがとうございますと頭を下げ、いそいそ姿勢を正して前を見据える。
 
 実際、体調が悪い…とまではいかないものの、近頃食欲が減ったなとは薄々思っていた。
 お腹が減り何か食べたい、と思ってもいざ食べ物を目の前にすると食べたくなくなってしまう。そんな日があったかと思えば、逆にどうしてもそれが食べたくて仕方ない衝動に駆られる日もある。そんな時は何かしらの理由をつけて楓真くんを連れ出し、その食欲を満たしていた。
 
 
 自分の身体の事なのに、わけがわからない。
 
 
 
 そして極めつけは、
 
 
「っ!?つかささん!?なになになにっ俺なにかしちゃいました!?何でぇ~泣かないでぇ」
「わ、わからな……」
 
 
 情緒がおかしかった。
 
 普通に自宅で楓真くんと夕飯を食べ、ソファに並んでバラエティ番組を見ていた時、全然泣ける場面でも何でもなかったのに、気付けば両目からポロポロと涙が出て止まらなくなっていた。
 おろおろ慌てる楓真くんに両頬を包まれ次から次へと溢れる涙を親指で拭われる。
 
 
「なんか、止まらな…う゛ぅ~~~」
「えぇ~何このつかささん…かわいぃ…おいでおいで」
 
 
 導かれるまま楓真くんの太ももをまたぐように乗り上げ向かい合ってその首筋に顔を寄せる。
 僕を落ち着かせようと流してくれるフェロモンをおなかいっぱい吸い込んで、さらにぎゅっと抱きついた。
 
 
「今日は甘えんぼうつかささんなのねよしよし」
「……もっとぎゅってして」
「~~~っっっ仰せのままに」
 
 
 楓真くんは優しいから、こんなめんどくさい僕でも嫌な顔ひとつせず相手してくれる。それをわかってて甘えてしまう。
 ぎゅっと抱きしめてくれる安心する腕に身を任せ気付けば涙もおさまっていた。それでもしばらくくっついていると、次第にじわじわ湧き出る欲。
 それは、楓真くんも一緒だった。おしりの下に感じる存在感。番となって数年が経っても変わらず僕を欲してくれる、それがなによりも嬉しい。
 
 
「楓真くん……ベット、行こ」
「……いいの?」
「ん」
 
 
 耳元で内緒話をするように交わす言葉のやり取り。
 そのまま自然と唇を重ねながら優しく抱き上げ丁重にベットまで運んでくれる楓真くんに身を任せ、その日も二人でベットへなだれこんだのだった。
 
 
 
 
 
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