36 / 69
2【子育て日記】
2-7 忘れ物(5)
しおりを挟む昼休憩が終わり戻っていく秘書課チームを見送ってから僕たちもお暇しようと楓真くんへ声をかけると、午後の会議が終われば一度抜けることができるから家まで送ると言ってくれる。
でも…と思い楓珠さんへ視線を向ければそうしなさい、と頷き許しが出た。
「じゃあ…お願いしようかな」
「はい!
14時には終わるのでそれまで俺の部屋で――」
「残念だけど息子よ。かわいい孫たちはここが気に入ったみたいだ」
にっこり笑顔で口を挟む楓珠さんの視線の先、ふかふかカーペットに大の字で寝転がる双子は、そう簡単には動きませんと頑なな態度を示していた。ガーンと目を見開きスーツ姿でカーペットに跪き双子へお伺いの視線を向ける楓真くん。
「ふ、ふぅくん、つぅくん…?パパの部屋も居心地いいよ?」
「んーん」
「や」
二人してぷいっと顔を反対側に向けられ本格的にショックを受ける楓真くんに勝ち誇った顔の楓珠さんはわざとらしく肩をポンポンと叩く。そんな自分の父親を悔しそうに睨んだあとノロノロ立ち上がり情けない顔で僕の方へやってくる楓真くんを苦笑しながら自然と腕の中へ導いた。
「つかささん…双子が反抗期です…」
「はいはい、お仕事から戻ったらまた楓真くんの天使になってるよ」
「……」
僕を抱きしめながらチラッと双子を見やると、やはりカーペットに夢中で仕事に行く父親を見向きもしない子供たちに再びショックを受け、キリがないそのやり取りに無理やり楓真くんの背中を押して扉の方へ導いた。
「子供たちとここで待ってるから」
「……早く終わらせます」
「はいはい頑張ってね行ってらっしゃい」
名残惜しそうに出ていく楓真くんを見送り、扉を閉めるといつの間にかソファに腰掛けていた楓珠さんに笑顔で向かいを勧められる。双子をチラッと確認すると手を握り合い二人してぐっすり眠ってしまっていることに笑うとソファへ腰掛けた。
「赤ちゃんは自由気ままだね一瞬で眠ってしまったよ」
「お出かけと、大勢の人に愛想を振舞ってくれたので疲れてしまったんですかね」
「あの子達はすごいね全然人見知りをしないみたいだ」
双子を褒められると僕までも嬉しくなる。
「こうしてつかさくんと二人きりになるのは久しぶりだね」
「いつも楓真くんがそばに居ますもんね」
「ガードの高い旦那だ」
ふふと笑っていると、とても優しい目で見つめられている事に気づく。
「つかさくんには感謝してもしきれないね」
「そんな、それは僕のセリフです」
いきなり何を言い出すのかと驚き全力で否定していると楓珠さんの優しい笑顔で自然と黙らされてしまう。
「私も楓真くんも、つかさくんにはたくさん救われた。寂しい私たちの家族になってくれて、更にはかわいい孫まで…本当に、本当に、大変な事がたくさんあったのに」
「……色々ありましたね。でも、僕はどの瞬間も今の幸せのための乗り越えなきゃ行けない試練だったのかな、って。全部に耐えて今があります。御門の本物の家族になれて、僕は本当に幸せです」
「つかさくん……」
二人の間に沈黙が流れる。
だけど、それは全く嫌じゃない、心地のいい沈黙だった。楓真くん以上に共に過ごしてきた年月がそうさせる、僕のもう一人の父親。
しばらくその沈黙に浸かっていると、再び口を開いたのは楓珠さんだった。
「つかさくんは育休が明けたらまたここで働いてくれるのかな?」
「もちろんです!楓珠さんさえよければ…ですが」
「うんそうだね、その時は私の元じゃなくて――」
え、と驚きで目を見開いてしまう。
それはつまり楓珠さんの専属秘書を外されるという事かと、内心ショックもあり、だけど同時に楓珠さんの決定は絶対だ、と諦め受け入れる気持ちの整理を瞬時につける。
再び目を開けた時、楓珠さんの表情はとても穏やかで今から自分をお払い箱にしようとするとは到底思えなかった。
「つかさくんは復帰後、楓真くんの専属秘書に任命します」
「え……それって…」
「新米ひよっこ社長を支えてあげてね」
ウィンクと共にそう言われ、咄嗟に声をあげなかったことを褒めて欲しい。楓真くんの秘書になれる事も、楓真くんが認められ社長になることも全てが嬉しかった。
「まだこの事は楓真くんには伝えてないから、しばらくは内緒ね。サプライズです」
「ふふ…はい、わかりました」
「今後とも、御門ホールディングスをよろしくお願いいたします」
「こちらこそ、よろしくお願いいたします」
二人して頭を下げ、目が合えば自然と笑いあっていた。
半年後の育休明け、僕は楓真くんの専属秘書として働ける。いつかそうなるといいねと二人で語り合ったいくつもの将来の夢の内の一つ。
早く教えてあげたいな…と思いつつ、その時楓真くんはどんな反応をしてくれるのか、楽しみで仕方なかった。
43
あなたにおすすめの小説
サクラメント300
朝顔
BL
アルファの佐倉は、過去に恋人を傷つけたことで、贖罪のための人生を送ってきた。
ある日不運な偶然が重なって、勤務先のビルのエレベーターに閉じ込められてしまった。
そこで一緒に閉じ込められたアルファの男と仲良くなる。
お互い複雑なバース性であったため、事故のように体を重ねてしまう。
ただの偶然の出会いのように見えたが、それぞれが赦しを求めて生きてきた。
贖罪の人生を選んだ佐倉が、その先に見つける幸せとは……
春らしく桜が思い浮かぶようなお話を目指して、赦しをテーマに書いてみました。
全28話 完結済み
⭐︎規格外フェロモンα×元攻めα
⭐︎主人公受けですが、攻め視点もあり。
※オメガバースの設定をお借りして、オリジナル要素を入れています。
【完結】愛されたかった僕の人生
Kanade
BL
✯オメガバース
〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜
お見合いから一年半の交際を経て、結婚(番婚)をして3年。
今日も《夫》は帰らない。
《夫》には僕以外の『番』がいる。
ねぇ、どうしてなの?
一目惚れだって言ったじゃない。
愛してるって言ってくれたじゃないか。
ねぇ、僕はもう要らないの…?
独りで過ごす『発情期』は辛いよ…。
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
✻改稿版を他サイトにて投稿公開中です。
【完結】エデンの住処
社菘
BL
親の再婚で義兄弟になった弟と、ある日二人で過ちを犯した。
それ以来逃げるように実家を出た椿由利は実家や弟との接触を避けて8年が経ち、モデルとして自立した道を進んでいた。
ある雑誌の専属モデルに抜擢された由利は今をときめく若手の売れっ子カメラマン・YURIと出会い、最悪な過去が蘇る。
『彼』と出会ったことで由利の楽園は脅かされ、地獄へと変わると思ったのだが……。
「兄さん、僕のオメガになって」
由利とYURI、義兄と義弟。
重すぎる義弟の愛に振り回される由利の運命の行く末は――
執着系義弟α×不憫系義兄α
義弟の愛は、楽園にも似た俺の住処になるのだろうか?
◎表紙は装丁cafe様より︎︎𓂃⟡.·
借金のカタで二十歳上の実業家に嫁いだΩ。鳥かごで一年過ごすだけの契約だったのに、氷の帝王と呼ばれた彼に激しく愛され、唯一無二の番になる
水凪しおん
BL
名家の次男として生まれたΩ(オメガ)の青年、藍沢伊織。彼はある日突然、家の負債の肩代わりとして、二十歳も年上のα(アルファ)である実業家、久遠征四郎の屋敷へと送られる。事実上の政略結婚。しかし伊織を待ち受けていたのは、愛のない契約だった。
「一年間、俺の『鳥』としてこの屋敷で静かに暮らせ。そうすれば君の家族は救おう」
過去に愛する番を亡くし心を凍てつかせた「氷の帝王」こと征四郎。伊織はただ美しい置物として鳥かごの中で生きることを強いられる。しかしその瞳の奥に宿る深い孤独に触れるうち、伊織の心には反発とは違う感情が芽生え始める。
ひたむきな優しさは、氷の心を溶かす陽だまりとなるか。
孤独なαと健気なΩが、偽りの契約から真実の愛を見出すまでの、切なくも美しいシンデレラストーリー。
黒とオメガの騎士の子育て〜この子確かに俺とお前にそっくりだけど、産んだ覚えないんですけど!?〜
せるせ
BL
王都の騎士団に所属するオメガのセルジュは、ある日なぜか北の若き辺境伯クロードの城で目が覚めた。
しかも隣で泣いているのは、クロードと同じ目を持つ自分にそっくりな赤ん坊で……?
「お前が産んだ、俺の子供だ」
いや、そんなこと言われても、産んだ記憶もあんなことやこんなことをした記憶も無いんですけど!?
クロードとは元々険悪な仲だったはずなのに、一体どうしてこんなことに?
一途な黒髪アルファの年下辺境伯×金髪オメガの年上騎士
※一応オメガバース設定をお借りしています
売れ残りオメガの従僕なる日々
灰鷹
BL
王弟騎士α(23才)× 地方貴族庶子Ω(18才)
※ 第12回BL大賞では、たくさんの応援をありがとうございました!
ユリウスが暮らすシャマラーン帝国では、平民のオメガは18才になると、宮廷で開かれる選定の儀に参加することが義務付けられている。王族の妾となるオメガを選ぶためのその儀式に参加し、誰にも選ばれずに売れ残ったユリウスは、国王陛下から「第3王弟に謀反の疑いがあるため、身辺を探るように」という密命を受け、オメガ嫌いと噂される第3王弟ラインハルトの従僕になった。
無口で無愛想な彼の優しい一面を知り、任務とは裏腹にラインハルトに惹かれていくユリウスであったが、働き始めて3カ月が過ぎたところで第3王弟殿下が辺境伯令嬢の婿養子になるという噂を聞き、従僕も解雇される。
【完結済】キズモノオメガの幸せの見つけ方~番のいる俺がアイツを愛することなんて許されない~
つきよの
BL
●ハッピーエンド●
「勇利先輩……?」
俺、勇利渉は、真冬に照明と暖房も消されたオフィスで、コートを着たままノートパソコンに向かっていた。
だが、突然背後から名前を呼ばれて後ろを振り向くと、声の主である人物の存在に思わず驚き、心臓が跳ね上がった。
(どうして……)
声が出ないほど驚いたのは、今日はまだ、そこにいるはずのない人物が立っていたからだった。
「東谷……」
俺の目に映し出されたのは、俺が初めて新人研修を担当した後輩、東谷晧だった。
背が高く、ネイビーより少し明るい色の細身スーツ。
落ち着いたブラウンカラーの髪色は、目鼻立ちの整った顔を引き立たせる。
誰もが目を惹くルックスは、最後に会った三年前となんら変わっていなかった。
そう、最後に過ごしたあの夜から、空白の三年間なんてなかったかのように。
番になればラット化を抑えられる
そんな一方的な理由で番にさせられたオメガ
しかし、アルファだと偽って生きていくには
関係を続けることが必要で……
そんな中、心から愛する人と出会うも
自分には噛み痕が……
愛したいのに愛することは許されない
社会人オメガバース
あの日から三年ぶりに会うアイツは…
敬語後輩α × 首元に噛み痕が残るΩ
洗濯日和!!!
松本カナエ
BL
洗濯するオメガバース。BL。
Ωの鈴木高大は、就職に有利になるためにαと番うことにする。大学食堂で出逢ったαの横峯大輔と付き合うことになるが、今までお付き合いなどしたことないから、普通のお付き合い普通の距離感がわからない。
ニコニコ笑って距離を詰めてくる横峯。
ヒート中に俺の部屋においでと誘われ、緊張しながら行くと、寝室に山ができていた。
巣作りしてもらうために洗濯物を溜め込むαと洗濯するΩ。
12話一旦完結からの17話完結。
卒業旅行番外編。
(素敵な表紙はpome様。感謝しかありません)
※大島Q太様のTwitter企画「#溺愛アルファの巣作り」に参加したのを加筆して出します。
※オメガバースの設定には、独自解釈もあるかと思います。何かありましたらご指摘下さい。
※タイトルの後ろに☆ついてるのはRシーンあります。▲ついてるのはオメガハラスメントシーンがあります。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる