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2【子育て日記】
2-8 忘れ物(6)
しおりを挟む「お待たせしました、さぁ帰りましょう!」
バァンっとノックも無しに社長室へ入ってくる会議を終えた楓真くんに対し、デスクで仕事をしていた楓珠さんの盛大なため息が飛ぶも聞こえないふりに徹するのか総スルーでカーペットで遊ぶ僕と子供たちの元へ一直線に向かってきた。
1時間ぶりに戻ってきた楓真くんに会えて嬉しいのか短い両手を懸命に伸ばす健気な双子を両手それぞれに抱え一気に抱き上げている。
「楓真くん、抱っこひも使う?」
「人多いですし…そうですね、危ないので念の為」
「ん、準備するからちょっと待っててね」
楓真くんの腕に抱かれた二人の頭を優しく撫で、ソファの隅に置いていた荷物と抱っこひもを整えに行く。その間仕事の手を止めた楓珠さんが感慨深そうに楓真くんへ話しかけているのを背中越しに聞いていた。
「我が子は人を大きく成長させるよね」
「父さん…突然何を言ってるの」
「さっきみたいに、少しの移動距離でも子供達のために安全第一を考えられる楓真くんに私は感動したよって事。それが最近の仕事にも少しずつ現れていて、父は嬉しい限りです」
「……どうも」
「これからも期待しているよ」
「だからなんなの突然!」と照れくさそうに怒る楓真くんに、全ての事情を知っている身としてはくすりと笑いながら心の中で「頑張れ」と激を送り、準備できたよと声をかけた。
「それじゃ、つかささん達送り届けたらまた戻るからさっきの会議のまとめはその時に」
抱っこひもで双子を抱き上げた楓真くんと、リュックのみの僕が揃って準備万端お互いをチェックし、楓珠さんへ挨拶をする。
「はいはい孫たちの誘惑に負けないようにちゃんと戻ってくるんだよ」
「う……最善は尽くします」
「必ず戻らせるので安心してください楓珠さん」
「よろしくねつかさくん」
失礼します、と頭を下げながら隣では双子が楓珠さんを見やすいように身体の向きを変えた楓真くん。その腕の中でブンブン手を振る二人のかわいさに「やっぱりその子たちは置いていってくれるかな?」と真顔で言う楓珠さんを無視し「さぁ行きましょう」と我先に社長室を出ていく楓真くんを笑って追いかけた。
「ただいまぁ~」
「おかえりなさい」
誰も居ない家でも必ず「ただいま」と「おかえり」を言う習慣は自然とお互い身についていた。
先に家の中へ入っていき適当に荷物を下ろすと、抱っこひもを下ろす楓真くんを手伝いに行く。
移動中終始二人ともいい子にしてはいたが、窮屈から解放された途端のびぃ~と小さな身体を伸ばす姿がとてもかわいかった。
「お疲れ様、なにか飲んでから行く?」
「いえ、もう行きます」
家に着いてそうそう息付く暇もなく再び玄関へ向かう楓真くんのあとを追いかける。双子たちはもう微動だにせずカーペットで力尽きていた。
「そっか…送ってくれてありがとうね。あと少し頑張って」
「こちらこそ、忘れ物届けて下さりありがとうございました会社で三人に会えたのなんか新鮮でした」
「そうだね、僕ももう少ししたら復帰するから」
「またつかささんと出勤時間を一緒できるの楽しみにしてます」
その時は仕事中もずっと一緒だけどね、とはまだ言えない。
「それじゃ行ってきます」
「行ってらっしゃい」
軽く唇を掠めていくキスを受け止め、以外にも未練なくあっさり出ていく楓真くんを見送った。
と思ったら、すぐに届くスマホのメッセージ。
『もう既に帰りたいです(;ω;)ぴぇん』
ついふはっと笑ってしまい、すぐに頑張れーと応援するゆるいスタンプを送り返す。既読が着いたのを見届けるとスマホをポケットへしまった。
リビングへ戻ると双子が仲良く手を繋ぎ、すやすやと眠っていた。レースカーテンから漏れる暖かな日差しも相まって静かなリビングの穏やかな光景にほっこりしてしまう。
頭の中にはまだ今日やらなくてはいけない家事達を思い浮かべる…が、それら全てを一旦吹き飛ばし、双子の隣に身体を横たえる。
今日一日二人は本当に、いい子達だった。
あと半年もすれば日中はシッターさんに預け仕事復帰する為、この子達と過ごす時間が格段に減ってしまう。寂しい思いをさせて申し訳ないと思いながら、それまでは存分に一緒の時間を過ごしていく。
復帰後は楓真くんは社長で、僕は楓真くん専属の秘書。
「パパ社長になるんだって…すごいねぇかっこいいねぇ、一緒に応援しようね」
あどけない寝顔を眺めながら、とんとん背中やお腹を摩っている内に気付けば一緒に夢の中へと落ちていた。
夢の中では、少し先の…だけど今とかわらない穏やかな未来を見た気がした――。
「忘れ物」-END-
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