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第2章
変わる態度(1)
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「団長団長!なんか、昨日とまるで俺らへの扱いが違くないですか…?」
「今朝なんて給仕のメイドさんが笑いかけてくれました」
「……気のせいだ」
訪問二日目。
昨晩起きた王の食事へ混ぜられた毒混入事件など何事も無かったかのように表面上は通常通り朝から稼働する王宮内。たとえ給仕する人員が変わってようが異国民のアラン達には知り得ない事だった。
そんな事からアラン一行も当初のスケジュール通り、隣国の情勢を視察する目的で朝から城下町へ繰り出すため行動していた。
下手に目立たないよう市民に紛れる軽装で準備をしたルイカイの二人を伴い、城から一歩外に出た途端、揃って口を開き迫ってくる双子の勢いにやっぱりか…とついため息をもらしてしまう。元々昨夜の事も聞きたくてうずうずしていたのだろう。背後左右からアランの肩に顎を乗せ興味津々の目でまとわりついてくる二人を中々振り払うことができなかった。
晩餐会で起きた事件の後、廊下の途中で二人を無理やり戻らせたものの、結局アランも自分に宛てがわれた部屋に戻ったあとその日は二人と会うことなく夜を越し、何事もなく今朝を迎えた。
朝一番顔を合わせた際の二人の表情で心配させた事は重々察したが、ことがことで二人に詳しく話せる訳もなく、城内いつなんどき何処に人の目もあるかわからない事から、当たり障りのない会話しか許さなかった。
そんな所に王の従者による懇切丁寧な態度。
正直アランも従者から告げられた言葉には驚きだったが、双子の我慢は限界を突破したらしい。
それは三人へ用意された朝食を頂いたあとのこと。
そそくさやってきた王の側近らしき壮年の従者は簡単に挨拶を述べると、すぐに自分の役目を果たしていく。
『王からの言伝です。騎士団長殿が伴う場合に限り、王宮内及び国内何処へでも立ち入りを許可する、との事です。これは大変異例ですが、王は多少の事は目を瞑られるそうです。その代わり、あの件は頼んだと。
王からのお言葉は以上です』
口を挟む余地もなく淡々と言われ、とりあえず頷くと、続けて本日の視察に案内の者は必要か問われる。ダメ元で自分達だけでと答えてみると、いとも簡単に了承を得たうえに監視の者も一切付けず正真正銘アラン達のみでの行動を許された。
晩餐会で向けられた敵意剥き出しな態度からは有り得ない、180度違う待遇に事情を知らない双子は呆気にとられ開いた口が塞がらないをまさに表情で表現していた。
あわよくばと隠しておいたアランの切り札――亡き王妃オリビアの一番近しい親族という事実がこんなにも王の信頼を得る材料になるとは、思ってもみなかった。
「ほんと昨晩、団長は何を見て何を知って何をしてきたんすかねぇ」
「ルイ、団長にも僕達に言えないことがあるさ。機密事項ってやつ」
「ちぇっ」
いまだアランの肩に顎を乗せたままぶーと頬を膨らませるルイに、反対側の肩からわざわざアランの前を通るようにして腕をのばし弟の頬をつつくカイ。
じとーっとした二人の視線を最も間近から受け止め、はぁ…とため息を吐いたアランは両肩に乗った頭を同時にガシガシ撫で、容赦なくバリッと引き剥がした。
「その通り、機密事項。二人に言えることは無し」
「「えぇぇ~」」
「わかったらスタスタ歩け」
まとわりつく二人をなんとか剥がすことに成功したアランは気を取り直し、まだ先にある城門を目指す。そんな折、ふと両脇にある綺麗に整備されたなんともないただの低木のある一部がガサゴソ動く気配に何故か強い既視感を覚えた。
ピタリと足を止め、まさかな、と思いながらもそちらに目をこらすアラン。「団長?」と後ろからかけられる呼びかけを無視し、気付いた時には足が茂みへ向かっていた。
膝丈の低木を覗き込んだ向こう側。
そこには、まさかと思いながらもアランが予想した通り、昨日庭園で出会った時と同じ、地面に膝をつき何かを探す雛鳥がいた。
途端頭をよぎるのは顔を赤らめ淫らに乱れる姿。
「―――っ」
そんな姿を日の光あたるこんな時間に想像してしまいあまりの申し訳なさに即行頭から消し去る努力をする。騎士にあるまじき邪な気持ちを落ち着かせるべく一旦深呼吸をし、改めて雛鳥に目を向け様子を観察した。
昨日同様、探すのに必死でこちらの存在にはまったく気づかない。
雛鳥が何を探しているのか、わかっていた。
―――わかってはいたが、アランはあえてこう声をかけた。
「なにかお探しですか?」
「ぴゃっ!?」
同じ言葉で同じリアクション。
二人でゆっくり会話のできる二度目ましての再会だった。
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