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第2章

王の許し(2)

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「騎士様…ですか?」
「あぁ」
 
 
 結局、一度おろした足を再びベッドの上に戻し、しっかり後ろを振り返ったヒナセは既に反対側からベッドを出た王を目で追う。どこからとも無く現れたメイドが王にガウンを羽織らせ、また別のメイドが数人がかりで部屋中のカーテンを開けていく。
 遮断されていた日光が瞬く間に室内を明るく照らし、逆光で光り輝く王の後ろ姿をただぽかんと見つめていた。
 
 
 王が誰か特定の人物と親しくすることを許したのは王妃以来前例の無い事だった。―――しかも、男性。
 かつて不用意にヒナセに関わった男の使用人が即刻王宮をクビになる様を、ヒナセは今まで何度も何度も見てきていた。それは下心があっても、なくても、関係なしに。ヒナセが報告しなかった些細なことでも王は全てを把握し、決して許しはしなかった。
 
 それなのに、何故、アランは許されたのか……
 少なくとも晩餐会の時までは警戒されていたというのに。
 
 
「どう…して…」
「あの者なら、よい」
 
 
 多くは語らない王にこれ以上聞くことは出来ず、わかりました、と小さく頷くヒナセだったが内心、心の底から湧き上がるわくわくを顔に出さないようにするのに必死だった。
 
 今までずっと、王に相手をしてもらえない時は常に一人で過ごしてきたヒナセ。一人には慣れてはいたが、それが寂しくないと言えば嘘になる。
 
 
 ヒナセから話しかけても咎められない人。
 
 
 両手で抑えた口元はにまにまと口角が上がり、気を抜くとむふふっと声がもれてしまいそうになる。
 そんなウキウキした様子が隠しきれていないヒナセをチラッと視界に入れた王は、あからさまにため息をこぼし、一瞬でヒナセの関心を拾い集める。
 
 
「騎士殿にばかり熱を上げて我を二の次にしたら、仕置だな」
「んな!?陛下を二の次になんてありえません!いつだって陛下が一番です!」
 
 
 真剣な表情でそう言うヒナセはおそらく心から言っているのだろうことは王にもわかってはいたが、つい意地悪心が働いた。
 ふいっと顔を逸らし窓の外を眺める。
 
 
「……だといいが」
「そうです!」
 
 
 腰の痛みのことなどすっかり忘れてしまったのか必死な表情で窓際の王の元まで駆け寄るヒナセ。それでも自分の方を見ない王に困り果て、「陛下~」と困った表情で信じて信じてと周りをちょこまか動く姿はまるで雛鳥そのものだった。
 
 チラッと寄越される視線。
 それだけでぱぁっと表情を明るくするヒナセに、王はにやっと笑うと何故か足元を指さす。釣られて指のさす先に目を向けるも、あるのは素足の自分の足だけ。「?」とはてなを浮かべ頭をかたむけるヒナセの首に王の大きな手がそっと添えられ……
 
 
「その時は足に鎖を繋いで監禁するぞ」
「ひぇぇ…っ」
 
 
 それが冗談なのか本気なのか―――少なくとも本気の声のトーンで発せられる言葉にヒナセは震え上がるのだった。
 
 
「はは、冗談だ」
「……ほんとですか」
 
 
 これは信じていないぞ、というじどーっとした目で見つめてくるヒナセに豪快に笑った王は、ぐしゃぐしゃに頭を撫で回す。ものの数秒で頭が鳥の巣状態になったあわれなヒナセにさらに笑いを深めるのだった。
 
 
「まぁ、騎士殿と自由に過ごすといいが、くれぐれも我の機嫌を損ねないよう気をつけろ」
「わかりました」
 
 
 神妙に頷いたヒナセを確認した王はいつもの流れでヒナセの耳にピアスを付けようとベッドチェストへ向かったそこで、片方しかない不完全なピアスに気がつく。
 
 
「ピアス、新しいものを用意しよう今度選びなさい」
「え!ダメです!僕はあれがいいので、探します絶対見つけます!」

 
 普段あまり自分のしたいことを主張したり、ましてや王の提案を拒否してまで譲らないという事が珍しいヒナセの必死な態度。
 
 数秒無言で見つめあったのち、折れたのは王だった。
 
 
「……好きにしなさい。あまり無理はしないように」
「はい!」
 
 
 こうして、今日のヒナセのスケジュール――王宮内ピアス大捜索延長戦が決まった。
 
 
 
 
 
 
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