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第2章
見守る視線
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「陛下、よろしいのですか?」
午前中に予定されている公務へ取り掛かるまでの少しの空き時間、窓辺に立ちその下に見える光景を眺めていると背後からかけられる従者の声。
主語のない質問は、王が何を眺めているかわかっていての問いかけだった。
「……よい。暫くはあの騎士のそばでなら自由にさせる。いままでが我のワガママで繋ぎ止めすぎた」
政治から戦まで多岐にわたり多忙な王が四六時中そばにいてやれる訳では無いというのに、第三者にヒナセの心が動き、ある日突然飛び立って行く可能性を恐れ接点すら持たせなかったこの十数年―――
突如現れたアランは特別だった。
亡き王妃、オリビアの血をわけた実の弟。王にとっても義弟にあたるのだ。
いつの日か陛下にも会わせたい、と言っていたオリビアの言葉が今でも脳裏に浮かぶ。
初めはヒナセに変な虫が付くことを厭い、現実を見せ関わりを途絶えさせる思惑で寝室へ通した。ただそれだけだった。
しかし、そうとわかった途端、中身も外見も、オリビアと共通している箇所が多くあると感じ、「あぁ、この者は本当にそうなのだ」と胸にすとんと落ちた。
自分の信念にまっすぐで誠実な心を持った人物――王がオリビアに惚れた理由そのもの。
おそらくヒナセも無意識のうちにアランの中にあるオリビアの影を感じ取っているのだろう。
今も窓の下を見れば、アランとその部下二人に囲まれ戸惑いながらもこの長年王が見ることのなかったヒナセの無邪気な笑みが引き出されている。
「……ふ」
「陛下?」
自然と洩れ出ていた笑みを窓の外から視線を外すことで引っ込ませ、淡々と従者に命をくだす。
「ただし遠くから警護は付けろ。監視ではない。あくまでも保護のため、ヒナセに危険がないよう見守りなさい」
「承知いたしました」
即命令を各所に伝えに行くため、速やかに退室した従者の気配が遠ざかっていくのを感じながら再び窓の外に目を向ければ丁度、双子に手を引かれそのまま城門まで向かうヒナセが見て取れる。
今までなら確実に問答無用で連れ戻していた。
それを黙って見送る日が来るとは……もしオリビアが今この瞬間隣に居て共にこの光景を眺めていたのなら、「我が子の巣立ちを泣く泣く見送る父ですね」と笑ってそばに寄り添っていたのだろう。
そんならしくもないことを考えていると、不意に後ろを振り返ったアランが視線をあげ、こちらを見上げている事に気が付く。
丁寧に腰を折る姿に無言で手を挙げ送り出した。
ヒナセを頼む、と。
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