57 / 58
第3章
負の根源(9)
しおりを挟む「やけにヒナセへの視線が執着的だと思ってはいたが…まさかオリビアの時からだったとは……。お前は、我の無能さ不甲斐なさをとことんまで露呈してくれる」
フッと自嘲気味に笑うその笑みの中に潜んだ怒りは男に対するそれなのか、はたまた自分に対するものなのか――次の瞬間、瞬きと共にガラッと変わる王の表情は温度を感じさせない能面のようだった。
そんな王の怒りがふつふつと膨れ上がるのと比例するように男の笑みも深まっていく。
「あなたが大切にすればする程、私の欲は大きく膨れ上がりました。オリビア様も、ヒナセ様も、あなたが愛したから――」
「違う」
今まで黙って二人のやり取りを様子見していたアランだったが、この男の発言には口を挟むのを我慢できなかった。
全員の視線が一斉にアランへと集まる。
「それは、違う。姉上が亡くなられたのもヒナセが今こうして苦しんでいる事も全てお前の独りよがりな欲が招いた最悪な結果だ。罪を擦り付けるな」
アランの鋭い言葉が男に突き刺さる。
それは同時に王にも響いていた。
「……そうだな、あるとすれば愚かにもお前をそばに置き続けたことが我の罪だ」
「少なくとも姉上は陛下を恨みはしません、絶対に。そんなお方では無い事を陛下が一番わかっているはずです」
「……あぁ」
閉じた瞳の裏でオリビアを思い出しているのか、王の返事は小さく揺れていた。
「そして、ヒナセには――必ず助け、本人に尋ねましょう」
王が静かに頷くのを見届けたと同時に、突如騒々しい足音がこちらへ迫ってくる気配を察知し咄嗟にアラン含め騎士三人が腰の剣へ手を伸ばし構えると、ドタドタ寝室へ突入してくる衛兵数名が姿を現した。
臨戦態勢のアラン達、血を吐き倒れるヒナセ、そばに立つ王、項垂れる王の従者、一瞬見回しただけでも情報量の多い室内の様子に驚きつつすぐさま王へ敬礼する様子はどうやら敵の息がかかっていない純粋な衛兵らしく、アラン達もその警戒を緩めた。
キビキビと動く衛兵は自分達の仕事を果たすべく既に力無く項垂れた男を捕縛していく。続いてやってきた医師数名がこの中で一番重症だと判断できるヒナセに駆け寄りすぐさま脈拍や状態を確認していた。
そして―――
「陛下!?いままで一体どちらへ…!毒で倒れられたと聞かされたのに私の元へ運ばれてこずあまつさえ行方知らずになられてこの数日間私がどれだけ心配したことか…!あぁぁっそんなおやつれになられて…いつまでもお立ちにならず、こちらへ腰掛けてください!」
最後にやってきた恰幅の良い年老いた王の主治医が凄まじい形相で涙を浮かべながら王へ駆け寄ると、体の隅から隅まで確認していく。そんな主治医の勢いに慣れているのか鬱陶しそうな表情を隠さない王はしっし、とあしらいながらヒナセの方へ視線を向けた。
「我はよいから、ヒナセを頼む」
「雛鳥様?――ひぃ!!なんですか!?どういう状況ですか!?」
いままで視界に入っていなかったらしいヒナセを目に留めると、一気に顔を真っ青に染め飛ぶ勢いで駆け寄っていく。
「先生、呼吸脈拍ともに微弱です」
「こんな血塗れたシーツでは衛生的によろしくありません!いますぐ移動させましょう」
先に様子を見ていた医師の報告を受けた主治医は、いけませんいけません!とどこに運ばせるかを考え出す。すぐにあてを見つけることができたものの、問題は、どうやってヒナセを運ぶか。
この城内に王の見ている目の前でヒナセを抱き運ぶ勇気のある物はいない。
それはいつも王の役目。
だが、今の王の状態ではそれは到底難しいと誰もが感じていた。
「アラン」
「はい、陛下」
そこで不意に名前を呼ばれるアランに全員の視線が一斉に集まる。
王が名前を呼んでいる。
「ヒナセを運んでやってくれるか」
「……勿論です」
「「「!!」」」
王が他人に愛鳥を任せている。
そんな前代未聞な状況に、長年王宮で過ごしてきた者はみな、アランが慎重に大切そうにヒナセを抱き抱えるその動作を一分一秒目をそらすことなく凝視していた。
30
あなたにおすすめの小説
伝説のS級おじさん、俺の「匂い」がないと発狂して国を滅ぼすらしいい
マンスーン
BL
ギルドの事務職員・三上薫は、ある日、ギルドロビーで発作を起こしかけていた英雄ガルド・ベルンシュタインから抱きしめられ、首筋を猛烈に吸引。「見つけた……俺の酸素……!」と叫び、離れなくなってしまう。
最強おじさん(変態)×ギルドの事務職員(平凡)
世界観が現代日本、異世界ごちゃ混ぜ設定になっております。
目が覚めたら宿敵の伴侶になっていた
木村木下
BL
日本の大学に通う俺はある日突然異世界で目覚め、思い出した。
自分が本来、この世界で生きていた妖精、フォランだということを。
しかし目覚めたフォランはなぜか自分の肉体ではなく、シルヴァ・サリオンという青年の体に入っていた。その上、シルヴァはフォランの宿敵である大英雄ユエ・オーレルの『望まれない伴侶』だった。
ユエ×フォラン
(ムーンライトノベルズ/全年齢版をカクヨムでも投稿しています)
帝に囲われていることなど知らない俺は今日も一人草を刈る。
志子
BL
ノリと勢いで書いたBL転生中華ファンタジー。
美形×平凡。
乱文失礼します。誤字脱字あったらすみません。
崖から落ちて顔に大傷を負い高熱で三日三晩魘された俺は前世を思い出した。どうやら農村の子どもに転生したようだ。
転生小説のようにチート能力で無双したり、前世の知識を使ってバンバン改革を起こしたり……なんてことはない。
そんな平々凡々の俺は今、帝の花園と呼ばれる後宮で下っ端として働いてる。
え? 男の俺が後宮に? って思ったろ? 実はこの後宮、ちょーーと変わっていて…‥。
悪役の僕 何故か愛される
いもち
BL
BLゲーム『恋と魔法と君と』に登場する悪役 セイン・ゴースティ
王子の魔力暴走によって火傷を負った直後に自身が悪役であったことを思い出す。
悪役にならないよう、攻略対象の王子や義弟に近寄らないようにしていたが、逆に構われてしまう。
そしてついにゲーム本編に突入してしまうが、主人公や他の攻略対象の様子もおかしくて…
ファンタジーラブコメBL
シリアスはほとんどないです
不定期更新
【完結】それ以上近づかないでください。
ぽぽ
BL
「誰がお前のことなんか好きになると思うの?」
地味で冴えない小鳥遊凪は、ずっと憧れていた蓮見馨に勢いで告白してしまう。
するとまさかのOK。夢みたいな日々が始まった……はずだった。
だけど、ある出来事をきっかけに二人の関係はあっけなく終わる。
過去を忘れるために転校した凪は、もう二度と馨と会うことはないと思っていた。
ところが、ひょんなことから再会してしまう。
しかも、久しぶりに会った馨はどこか様子が違っていた。
「今度は、もう離さないから」
「お願いだから、僕にもう近づかないで…」
【完結】王子様たちに狙われています。本気出せばいつでも美しくなれるらしいですが、どうでもいいじゃないですか。
竜鳴躍
BL
同性でも子を成せるようになった世界。ソルト=ペッパーは公爵家の3男で、王宮務めの文官だ。他の兄弟はそれなりに高級官吏になっているが、ソルトは昔からこまごまとした仕事が好きで、下級貴族に混じって働いている。机で物を書いたり、何かを作ったり、仕事や趣味に没頭するあまり、物心がついてからは身だしなみもおざなりになった。だが、本当はソルトはものすごく美しかったのだ。
自分に無頓着な美人と彼に恋する王子と騎士の話。
番外編はおまけです。
特に番外編2はある意味蛇足です。
【運命】に捨てられ捨てたΩ
あまやどり
BL
「拓海さん、ごめんなさい」
秀也は白磁の肌を青く染め、瞼に陰影をつけている。
「お前が決めたことだろう、こっちはそれに従うさ」
秀也の安堵する声を聞きたくなく、逃げるように拓海は音を立ててカップを置いた。
【運命】に翻弄された両親を持ち、【運命】なんて言葉を信じなくなった医大生の拓海。大学で入学式が行われた日、「一目惚れしました」と眉目秀麗、頭脳明晰なインテリ眼鏡風な新入生、秀也に突然告白された。
なんと、彼は有名な大病院の院長の一人息子でαだった。
右往左往ありながらも番を前提に恋人となった二人。卒業後、二人の前に、秀也の幼馴染で元婚約者であるαの女が突然現れて……。
前から拓海を狙っていた先輩は傷ついた拓海を慰め、ここぞとばかりに自分と同居することを提案する。
※オメガバース独自解釈です。合わない人は危険です。
縦読みを推奨します。
幼馴染がいじめるのは俺だ!
むすめっすめ
BL
幼馴染が俺の事いじめてたのは、好きな子いじめちゃうやつだと思ってたのに...
「好きな奴に言われたんだ...幼馴染いじめるのとかガキみてーだって...」
「はっ...ぁ??」
好きな奴って俺じゃないの___!?
ただのいじめっ子×勘違いいじめられっ子
ーーーーーー
主人公 いじめられっ子
小鳥遊洸人
タカナシ ヒロト
小学生の頃から幼馴染の神宮寺 千透星にいじめられている。
姉の助言(?)から千透星が自分のこといじめるのは小学生特有の“好きな子いじめちゃうヤツ“だと思い込むようになり、そんな千透星を、可愛いじゃん...?と思っていた。
高校で初めて千透星に好きな人が出来たことを知ったことから、
脳破壊。
千透星への恋心を自覚する。
幼馴染 いじめっ子
神宮寺 千透星
ジングウジ チトセ
小学生の頃から幼馴染の小鳥遊 洸人をいじめている。
美形であり、陰キャの洸人とは違い周りに人が集まりやすい。(洸人は千透星がわざと自分の周りに集まらないように牽制していると勘違いしている)
転校生の須藤千尋が初恋である
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる