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しおりを挟む明日はいよいよ幼い頃に決められた婚約者との結婚式。
婚約者のオリオンはいつでも優しくて私を大事にしてくれている。
親同士が決めた婚約ではあるけれど、二人の時間を過ごす中でこの人となら夫婦としてやっていけるかもしれない。
そう思う程には私も彼が好きだった。
……そう、好きだったのだ。
「ん、もう悪い新郎さんね。結婚式の前日に浮気相手を呼び出すなんて」
「なんて言って、俺から呼び出されるのを待ってたくせに」
膝の上に女を乗せ微笑み合っている婚約者を見るまでは。
意味がわからない。
何故彼の膝の上に女が乗っているの?
肩に腕を回して抱き付いてるの?
キスをして、未だにくっつきそうな距離にいるのも何故?
しかも、その相手は……
(ミリー……)
私の従姉妹だった。
もちろん私と彼が婚約している事は知っているし、私が彼との関係を静かに育んでいたのも知っている。
彼との事も色々相談していたし、親友だと思っていたのに。
何より親友にも婚約者がいる。
ミリーの婚約者は私達の幼馴染の一人で、幼い頃はいつも三人一緒に遊んでいた。
咄嗟に身を隠し、影から様子を伺う私を他所に二人はいちゃついている。
「もう明日にはキャスの旦那様になってしまうのね」
キャスというのは私の事だ。
キャサリンを略してキャス。
仲の良い人はみんなそう呼ぶ。
「そうだな。だからこういう事をするのも最後か」
「式の後も呼んでくれて良いのよ?」
「ははっ、何言ってるんだよ。さすがに式を挙げたら暫くは真面目にしていないとな」
「じゃあその『暫く』が終わったらまた呼んでくれる?」
「そうだな、『暫く』が終わったらな」
「絶対よ?」
「わかってるって」
言いながら彼がミリーにキスをする。
彼の手がミリーのスカートをたくし上げ、手を差し込み、彼女の甘い声が響き……
「……っ」
これ以上は見ていられなくてその場から走り去る。
明日の結婚式に向けて緊張が増してきて、少し落ち着きたくて連絡もせず彼の元へとやってきたのが悪かったのだろうか。
どうせなら驚かせてしまおうと使用人に取り次ぎを頼まなかったのが悪かったのだろうか。
いつものようにテラスに面した部屋にいるだろうと、テラスから顔を出そうとしたのが悪かったのだろうか。
そのどれもが悪かったのだろうか。
彼に会えたかと聞いてくる顔馴染みの使用人は、きっとミリーが来ている事を知らなかったのだろう。
ごめんなさい、用事を思い出したのと取ってつけたような返事で慌てて帰る私をどう思っただろうか。
いけない、私が来た事を言わないで欲しいとお願いしてくるのを忘れてしまった。
でも今から戻ってそれだけ伝えるなんて出来ない。
家に戻る気分にもなれず、幼い頃の秘密基地へとやってきた。
家から程近くにある花屋の裏にある小さな広場だ。
通りの裏にあり、四方を他の建物に囲まれているから人目にも付かず一人になるのにはもってこいの場所なのだ。
嫌な事があるといつもここに来て泣いていた。
(信じられない、信じられない……!まさか、あの二人が……)
裏切られていたなんて思ってもみなかった。
優しい婚約者にいつも悩みを聞いてくれていた親友。
その二人が私の目を盗み逢瀬をしていたなんて。
あんな場面を見たらさすがに何をするつもりかなんてすぐにわかる。
会話からもあれが初めてではないのは明白だ。
(気持ち悪い)
ただただ気持ちが悪い。
それに当たり前だけどショックだ。
涙が止まらない。
ぼろぼろと際限なく溢れてくる。
(私、あんな人と結婚するの?)
式は明日だ。
忙しい準備の合間を縫って会いに行ったのが仇となったが、却って良かったのかもしれない。
(嫌、絶対に嫌!)
浮気するような男なんて冗談じゃない。
しかもよりにもよってミリーとだなんて。
ミリーもミリーよ。
どうして彼と?
ミリーは彼が好きだったの?
いつも話をしていたけれどそんな素振り一度だって見せなかった。
いつも親身になって聞いてくれて、アドバイスもしてくれて、ついでにミリーの婚約者の事も惚気られたりしたのに。
(ミリーはいつもどんな気持ちで話を聞いていたのかしら)
陰で馬鹿にされていたのだろうか。
『貴女の婚約者は私と寝てるのよ』なんて嘲笑っていたのだろうか。
「う、うう……っ」
今まで気付かなかった自分が悔しい。
あんな光景を目にしてしまった今、普通の顔をして結婚など出来るはずがない。
でも私の婚約を決めた両親や、彼の両親はどう思うだろうか。
どちらの両親も私達の結婚を心待ちにしていた。
結婚したくないだなんて言ったらどんなに悲しませてしまうことか。
男なら浮気のひとつやふたつするものだと、我慢しろと言われるだろうか。
結婚する前から他の女にうつつを抜かすような男がこれから先の人生一度や二度の浮気で済むだろうか。
いやそれ以前に他の女に触れた手で触れられると思うと反吐が出る。
でももう式は明日。
どうしよう、どうしたら良いの?
悩む間も涙が止まらず、どうしようばかりがぐるぐると頭の中で繰り返されていると。
「キャス、こんな日にもここにいたのか」
「っ、ヒース」
「!」
頭の上から声がした。
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