式前日に浮気現場を目撃してしまったので花嫁を交代したいと思います

おこめ

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その後の二人はというと……


ブランシュフォール子爵はミリーの家の借金からキャサリンとヒースへの慰謝料、浮気相手の家族への慰謝料、それにヒースの家から援助して貰っていた分まで全てを立て替えた。

『これから家族になるのだ、このくらいは当然だよ。たっぷりと可愛がってやるから安心しなさい』

聞いてもいないのにそんな事を言い、ミリーの頬を撫でる子爵にミリーはぞっとしたような表情をするが子爵は楽しそうに笑うばかり。
失礼な態度をするなと父母に嗜められたが、子爵は気にしていないようだった。

ミリーは暴れないよう拘束され子爵の元へと向かい到着するやいなや逃げる間もなくすぐに婚姻の宣誓書に記名。
子爵自身が何度目かの結婚なので式は挙げず、そのまま邸に軟禁。
子爵はいつも通りに新たな花嫁を気に入ったらしく、暫くは寝室から出られない日々が続く。
『金払いだけは良い』というヒースの言葉通りに子爵はミリーにこれでもかと貢いだ。
好きなドレスも宝石も何もかも強請られるまま買い与え、甘やかしに甘やかされたミリーは次第に傲慢になっていった。

(アイツは気持ち悪いけど、こんな生活を与えてくれるなら悪くないわね。どうせやる事なんてみんな一緒だし。ふふ、さすがのキャスだってこんな贅沢はしていなかったわ!こんなに綺麗なドレスも大きな宝石もあの子は持っていない!やっと私はキャスよりも上になれたんだ!)

私だけは今までの女と違う。
子爵にとって、私はきっと極上の女に違いない。
だからこんなに色々与えてくれるんだ。
子爵は私に夢中。
だから私は他の女と同じようにはならない。
そうだその内キャスにこの贅沢な暮らしを自慢しに行ってやろう。

そんな高揚感でいっぱいになった所で少しずつ子爵が本性を見せ始める。
子爵には口にするのも憚られる趣味があったようで、いつもこうして最初は花嫁をぐずぐずに甘やかしそれに慣れた所で一気にそれを突き付けるらしい。
さすがのミリーも堪えられず何度も逃げ出そうとするが、贅沢が染み付いてしまった心がそれを止める。

(逃げたら二度とこんな贅沢は出来ない。せっかく、せっかくキャスよりも上に行けたのに……!)

今更与えられた贅沢を捨てる事は叶わず、子爵がミリーに飽きて放置しても妻の座にしがみ付き続けようとしたが、子爵がまた他の若い女に手を出し始めミリーの贅沢な生活は突如強制的に終わりを迎えた。
与えられた金品を持ち出す事は許されず、着の身着のまま無一文で放り出されたミリーのその後を知る者はいない。



次にオリオンだが、彼には婚約破棄の慰謝料としてかなりの金額が請求された。

「キャスに会わせてくれ!もう絶対に浮気なんてしない!キャスと結婚したいんだ、キャスしかいないんだ!」

暫くは何度も何度もそうしつこく叫んでいたオリオン。
だが叫ぶ事に疲れ、処遇が決まるまで邸の一室に閉じ込められたオリオンはとある計画を立てた。

(そうだ、既成事実さえあれば……!)

例え婚約を破棄されたとしても既成事実さえあればキャサリンは自分と結婚するしかないのではないか。
あれだけ身持ちの固いキャサリンの事だ、純潔を散らしさえすればきっと自分だけのものにならなければと諦めるに違いない。

そう思い、キャサリンを襲おうとした。
もちろん一人では抜け出す事など出来ないので協力者を探した。
幸い監視に付いている一人と少し話してみれば容易に懐に取り込めた。

(ふふ、待っていろよキャス。すぐに俺に夢中にさせてやる)

協力者の助けで部屋を抜け出し裏口に差し掛かった所で……

「捕まえろ」
「!?!?!?」

オリオンはあっさりと確保された。

「まさかとは思ったが、本当にこんな計画を実行しようとするとはな」
「っ、貴方は……!」

そこへやってきたのはキャサリンの父。
とある筋からオリオンが密かにキャサリンを襲う計画を立てていると聞きつけそれを阻止しにしたようだ。
傍にはヒースもいて、どちらも怒りを露わにしている。

「何故だ!?俺の計画は完璧だったはずなのに……!」

キャサリンが邸に一人になる日、時間を狙ったはずだ。
そもそもキャサリンの父は今日出掛ける予定だったはずだ。
なのに何故……!?

答えは簡単、協力者だと思っていた男がキャサリンの父の息のかかった人間だっただけ。
幼い頃からキャサリンの家に仕えていたこの男はキャサリンの父に心酔しており、当然その娘であるキャサリンにも心酔している。
お嬢様に害をなそうとする奴許すまじ、とその場で八つ裂きにしてしまいそうな気持ちを堪え、より罪が重くなるよう協力者のフリをして誘き寄せたという訳だ。

「大人しく慰謝料さえ払えば良かったものを……!」
「ちが、違うんです、これはその……!」
「ちょうど良い、その腐った根性を鍛え直してやろう」
「………………え?」

元々許していなかったが、更に許さんとキャサリンの父は護衛達を連れ鍛え直すという名目でオリオンをぼこぼこに致してしまったらしい。
怪我をさせられたと訴えたらしいが、あくまで鍛錬の中での怪我という事で自警団も取り合わず。

「何て恥知らずなの!!!婚前の浮気ばかりか、キャスを襲おうとするだなんて……!!」
「この馬鹿息子!いや、もうお前なんぞは息子でもなんでもない!」
「そんな、待って!俺は一人息子だぞ!?良いのかそんな事言って!」
「お前みたいな息子はいない方がマシだ!」

という訳でオリオンの実家は諸々援助しないと公言。
家名に泥を塗ったと勘当され、今までまともに働いた事のないオリオンは郊外の現場へと送られ朝から晩まで食事もままならないほど身を粉にして働くはめになり、微々たる稼ぎはほとんど慰謝料として消え、酒にも女にも縁のない生活を余儀なくされているようだ。
どちらにせよもう二度とキャサリンには会えず一人寂しく生涯を終える事になるだろう。















そして私達はというと。

「ヒース、ありがとう。ヒースのおかげであんな浮気者と結婚しなくて済んだわ!」

全てが終わった式場でヒースに心からのお礼を告げた。

嬉しい。
こんなに上手く事が運ぶなんて。
浮気現場を見た時は本当に絶望感しかなかったけれど、色々と吹っ切れた今はあんな男と結婚しなくて良かったという爽快感しかない。

「どういたしまして」
「これでヒースも好きな人と一緒になれそう?」
「そうなると良いな」

嬉しそうに笑うヒース。
本当にその『好きな人』の事が好きなんだとよくわかる笑みだ。

そんな風に想ってもらえるのが羨ましい。

「私、応援するわ!ヒースは良い男だもの、絶対上手くいくと思うけど!」
「本当?」
「うん!」
「じゃあお願いしようかな」

ちょんと指先をつつかれ顔を覗き込まれ、いつになく近い距離にどきりとすると……

「俺と、好きな人の」
「!」

ヒースは自分と私とを交互に指差した。

え?え?
それって?

信じられない思いでヒースの目を見つめ返す。
からかっている訳ではなさそうだ。
どう見ても真剣で嘘を吐いているようにも見えない。

何よりヒースはそんな嘘を吐くような人じゃない。

「ずっと好きだったんだ」
「!!!」
「『応援』してくれるんだよな?」

突然の爆弾に頭が大混乱。

待って、どういう事?
ヒースの好きな人って私なの?
どうして?
ずっとっていつから?
私のどこが?

「ふっ、まあそれはおいおい少しずつ伝えていくよ」

頭の中でぐるぐると巡る疑問に気付いたヒースがくすりと笑い答えてくれる。

ヒースはいつも優しくて、私が困っているといつもすぐに気付いて一緒に解決してくれて、頼りになって、一緒にいると凄く居心地が良い。
今回の結婚だってヒースがいなければどうにもならなかった。
嫌だ嫌だと思いながらも泣く泣く結婚するか、はたまた無計画に逃げて路頭に迷うかのどちらかだっただろう。
見た目だって悪くないし、私の周りでもヒースを気になっている子はたくさんいた。
浮いた話のひとつもないままミリーと婚約した時は周りから悲鳴があがったものだ。

そんなヒースが私を、だなんて。

理解はした。
理解はしたけれどわからない。
まさか自分だとは思っていなかったし、婚約破棄したばかりですぐに誰かとどうこうなるつもりはなかったけれど……

「が、頑張る、わね」
「うん、頑張って」

私の返事にまたも嬉しそうに笑うヒースを見て、ミリーに対して思った事を思い出す。

『ヒースと結婚したら穏やかで楽しい毎日が待っている』

私がヒースとそんな毎日を送るのは、もしかしたらそう遠くない未来なのかもしれない。






終わり
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