妹に婚約者を奪われました

おこめ

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妹に婚約者を奪われました

妹視点

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※直接的な描写はありませんが、無理矢理な表現がさらっとありますのでご注意下さい







小さい頃からずっとお姉様の物は私の物だった。
お姉様が持っている物は何でも私の物になった。
私が持っていない物をお姉様が持っているなんてありえないし、お姉様が私より良い物を持っているのもありえない。
お父様もお母様もお姉様より私の方が大事だから、私が強請れば何でも叶えてくれた。

それを確信したのはいつだったか。
覚えているのは、お姉様の誕生日におばあさまが与えたテディベアを貰った時。
お姉様は絶対に嫌、この子は渡せない、私が貰ったプレゼントなのにと涙を流して抵抗していたけれど、お母様が代わりに私の腕に抱かせてくれた。
姉なのだから我慢しなさいと言いながら。

(ふふ、その瞬間のお姉様の顔ったら)

今でも思い出せる、ショックと悲しみとやるせなさと戸惑いが混ざった複雑そうな表情。
思い出すと凄く気分が良くて堪らない。
やっぱり私が一番なんだ。
お姉様がどんなに大事にしていても、私が望めば手に入れられるんだ。
多分この時が最初だったと思う。

それから何年も、私はお姉様の物を手に入れてきた。
お洋服も髪飾りもアクセサリーはもちろん、お気に入りの侍女も初恋の人も友人も何もかも。

(次は何を貰おうかしら)

まだ数点、お姉様のアクセサリーが残っているけれどあれも一つ残らず貰ってしまおうかしら。
お姉様の持ち物が少なくなってきたから仕方なく私の物を分けてあげたけど、お姉様には似合わないのよねえ。
やっぱり返してもらおうかしら。

順風満帆な私の人生に影がさしたのは学園に入学した後。

「……まただわ」

机の中に入っていた手紙。
恐る恐る中身を確認すると……

『今日はいつもより5分遅かったね』

そこにはいつも通り、どこで見ていたのか気色の悪い文章が書かれていた。

(気持ち悪い)

この短い手紙が届けられ始めたのは入学してから程なくして。
一言二言と短い時もあれば、便箋数枚に及ぶ事もある。
内容は私に関する事。

『シャンプーを変えたのかな?違う香りだったけれど、君には前の方が似合っていたよ』
『髪の毛を揃えたんだね。似合っているよ』
『あの男は誰なのかな?』
『君にあの男は相応しくないよ』
『早く君を抱き締めたい』
『この前店の前で君を見かけたよ』
『調子が良くなさそうだね。貧血に効く薬をあげるね』
『君を僕だけのものにしたい』

などなど普段の生活から私の身体の変化、周りの人間関係まで全てを網羅されていてすごく気持ちが悪い。

(何なのよこいつ!良い加減にしてよね!)

手紙は毎回ぐしゃぐしゃにして捨てているが、数時間後にはまた届いている。
どこにいても何をしていても時間も場所も関係なしに届けられる手紙に気持ち悪さを感じない訳がない。
どう考えても私を監視しているとしか思えないけれど、誰が犯人なのかはさっぱりわからない。
無駄に周りに侍っている人達に聞いても差出人は不明のまま。
本当に使えないんだから。
やっぱり元々お姉様の傍にいたような人達はダメね。

恒例となった手紙を今日も握り潰し、使えないと思いつつもお姉様から奪った友人達と過ごしていたある日の事。

「お姉様が、婚約!?」

突然の報告に驚いた。
ありえない、ありえないありえないありえないありえない。
私より先に婚約した事もだけど、その相手が更にありえない!

(どうしてあんなに素敵な人が……!?)

お姉様の婚約者は金髪碧眼のまるで絵画から飛び出してきた王子様のような美しい人。
あんなに素敵な人がお姉様の婚約者だなんて、ありえない。
もったいないわ。
ああいう人は私にこそぴったりのはずなのに。

(……そうだ)

そうよ、また奪っちゃえば良いじゃない。
私が頼めば、私の手にかかれば例え婚約者だとしてもお姉様から奪うのなんて容易いわ。

そう考えた私はすぐに行動に出た。
結論から言うと、婚約者を落とすのは簡単過ぎる程簡単だった。

「お姉様が羨ましいわ、こんなに素敵な方が婚約者だなんて」

二人きりになれるタイミングを計り、そう言って擦り寄ると彼も満更でもなさそうな顔をして微笑んで、それからはトントン拍子に事が進んだ。
手に入れて、お姉様との婚約を破棄させてしまえばこちらのもの。
最近は私に奪われるのに慣れて諦めてはいるけれど、さすがに婚約者ともなれば抵抗するわよね?
そうしたら『やっぱりお姉様に申し訳ないわ』とでも泣いて訴えればどうにでもなるはず。
私だって本当にこの婚約者と結婚するつもりなんてない。
奪ってお姉様の悔しそうなやるせない表情を見られれば満足だもの。

(私には『彼』がいるしね)

『彼』はお姉様と同い年の若き当主。
婚約者の彼なんて目ではない。
艶やかな黒髪も彫刻のように整った顔立ちも鍛えられた身体も優秀な頭脳も騎士団に入れる程の武力もありあまる財力も、どれを取っても私に相応しい。
婚約者も物語や絵画に出てくるような王子様だけど、彼はそんな婚約者すら霞んでしまう存在だ。
自分に群がる女性達には興味を示さず、そっけない態度ばかりの彼。
そんな冷たい彼とて愛しい女にはその視線も緩むはず。
普段鋭い瞳が自分を見る時だけふわりと緩むのを見るのはきっととてつもない優越感だろう。
とはいえライバルは多いのだからもっとアプローチしなければ。
今の所連敗続きだけど、きっと彼も満更ではないはず。

(ふふ、早いところお姉様の悔しそうな顔を拝んで本命に力を入れないとね)

思惑通りに婚約者と寄り添い、お姉様へと報告する。
何もかもが順調だと、そう思えたのはそこまでだった。

「わかったわ、私は喜んで身を引くわ」
「……え?」

傷付き、涙を流し、婚約者にまで手を出すのかと喚くはずのお姉様は微笑みながらそう言った。

「二人とも、幸せになってね」
「ありがとう、君ならそう言ってくれると思っていたよ」

おまけに二人で示し合わせたかのようなセリフ達。
どういうこと?
どうなっているの?

「……お姉様?」
「なあに?」
「……いえ、何でもないわ」

あまりにもにっこりと微笑むものだから私はつい口を噤んでしまった。

待って、どうして、このままではまずいわ。
このままでは本当にこの人と婚約しなければならなくなってしまう。
そんなの嫌よ、私が本当に婚約したいのはこの人じゃない。
ただお姉様から奪いたかっただけよ。
本気で好きなはずないじゃない。

そう思うけれど私を置いて話は進んでいってしまう。
嫌よ、待って、待って。
待ってったら!

必死に訴えたけれど、さすがに今回ばかりは父も母も私の我儘を聞いてくれなかった。
もう互いの両親への挨拶も済んでいるし、おまけに両親は婚約者の家から多額の援助を受けてしまっていたので、今更中止には出来ないと逆に説得される始末。
そもそも私が婚約者を好きになってしまってお姉様から奪ったという体なので嫌だと言ってもただのマリッジブルーだと解釈された。
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