妹に婚約者を奪われました

おこめ

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妹に婚約者を奪われました

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(ああ、愉快だわ)

妹は気付いていない。
この婚約破棄を私が待ち望んでいた事を。

(なんて御し易いのかしらこの子ったら)

全ては私の、私達の計画の内。

妹は気付いていない。
婚約者の、元婚約者の彼がずっと妹を狙っていた事を。
私達が学園で出会うよりも前から、目を付けられていた事を。
彼の部屋におびただしい数の妹の写真がある事を。
妹が常々気味悪がっていたラブレターの山。
それとは別に送られてくる、一緒にいた男は誰だ、他の男と話すな、その服装は肌が露出しすぎている、笑顔を振りまくななどなどの一言のメモ達、その送り主が彼であると。
出掛けるたびに後を付けられている気がする、見られている気がすると言っていたその視線の持ち主が彼であると。

妹だけではない、周りの誰も彼の本性には気付いていない。
王子様なのは見た目だけで、中身はとんだ獣だというのに誰も彼もそれに気付かないのだから彼の猫被りも大したものだ。

そんな彼の本性に私が気付いたのはただの偶然。
たまたま、彼が手にしていた便箋と妹に届けられた手紙が同じだっただけ。
確信はなかったが、カマをかけてみた。

「貴方、妹が好きなんでしょう?」

私のセリフに彼はニヤリと笑う。
見目の爽やかさを吹き飛ばす気味の悪い笑みは一瞬で引っ込められたが、あれがきっと彼の本性なのだろう。
私の勘は当たっていた。

私に気付かれても彼は特に態度を変える事はなかった。
ああ、気付かれてしまったかと一つ頷いただけ。
彼の中で彼の行動は純粋な好意から行っているもので、妹がそれを気味悪がっているなど、ましてや視界にも入れたくない程怖がり怯え震えているなど想像も出来ないのだろう。
彼は妹が恥ずかしがって素直になれないのだと思い込んでいる。

だから私はそれを利用しようと思った。

「貴方、私と婚約しない?」
「何故君と?僕は君の妹が好きなんだぞ?」
「だからこそよ」
「どういう事だ?」
「今のままでは妹はいつまで経っても素直になれずに貴方を拒否したままになってしまうわ」
「!」
「だから妹が素直になれるように、貴方に縋るように手を打つの」
「それが貴女との婚約である必要は?」
「あら、こんな事に他のお嬢さんを巻き込めないでしょう?」

彼の気持ちも知っていて、尚且つ妹の気持ちも知っている。
その上で婚約を破棄したとしても訴える事のない人間。
妹の為に身を引いたとあれば私の評判が下がりきる事はない。
妹想いの姉を演じ、あくまでも妹の為、妹にはこれくらいの荒療治が必要だと、妹には貴方しかいないのだからと吹き込み、彼をその気にされていく。

「だが、君は本当にそれで良いのかい?」
「可愛い妹の為だもの、もちろんよ。それに、恋愛にはスパイスが必要でしょう?」
「君がそのスパイスになってくれる、と?」
「ええ」

美味い餌に食い付いたのはその直後。
口裏を合わせていた為に彼との婚約はとんとん拍子に進み、案の定、婚約が内定してから妹がわかりやすく彼に近付き始めた。
その時の彼の表情といったらもう幸せそうで幸せそうで。

この婚約破棄ももちろん事前に彼と打ち合わせ済みだ。
我が家はともかく何故彼の両親が手放しで歓迎してくれたのか、妹は深く考えなかったのだろう。
そんなの決まってる、予め私が訪問して事情を説明しておいたからだ。
どうか私を哀れと思うのなら妹を受け入れて下さいと、深く頭を下げたのはつい先日の事。

「実は私、ずっと二人の気持ちには気付いていたの。だから嬉しいわ」

身を引くという言葉の次に紡いだそれに妹は更に困惑している。

「二人とも、幸せになってね」
「ありがとう、君ならそう言ってくれると思っていたよ」
「……お姉様?」
「なあに?」
「……いえ、何でもないわ」

何かを訊ねようとして口を噤む妹ににっこりと微笑む。

ああ、楽しみだわ。
妹は彼を愛してなんかいない。
ただ私の婚約者だったから奪いたかっただけ。
奪って、私が泣くのを見て楽しみ、すぐに捨てるつもりだったのだろうけれども、そんなにうまい話が転がっているはずはない。

これから彼は妹を連れてあの部屋へ向かうだろう。
妹の写真と私物で埋もれた狂気のあの部屋へ。
その時に彼女が彼の正体に気付き泣いて叫んでももう遅い。

ああ、そうそう。
彼の部屋で見つけてしまったのだけれど、彼、ほんの少し嗜虐的な趣味があるようね。
マインドコントロールの本に加え、とても口には出せないいかがわしく更に痛々しい本もたくさんあって、その全ての情熱を妹に注ぎたいとうっとりとした瞳で語っていたのよね。

(ふふ、どんな反応してくれるのかしら)

愛してもいない、むしろ嫌悪している相手に蹂躙される妹を想像すると笑みが止まらない。
物を奪われたくらいで、人を奪われたくらいでと言われるかもしれないが、毎度毎度大切な物を奪われていくのにはもう我慢の限界だったのだ。

これでもう妹は私の物を奪えない。
だってもう彼を見る事しか許されないのだから、私を構っている余裕などないはず。
妹が逃げたいと願い、両親が妹を取り返そうとしても、彼の家から莫大な結納金を納められてる上にあちらの方が立場は上なので無理矢理連れ戻す事も出来ない。
そもそも、妹はもう個人的に外の世界と連絡を取る事など出来ないだろう。

でも悪い話ではない。
だって彼は見た目だけなら王子様のように整っているし、家柄も申し分ない。
それに何より妹を心から愛しているのだから。
妹が彼を受け入れられるのであれば、妹は幸せになれるはずだ。

(まあ、あの子が受け入れられるはずなんてないけど)

だって彼女には別に好きな相手がいるのだから。
「やっぱりお姉様に申し訳ないわ」と言って相手の同情を誘いつつ逃げ出すつもりだったのだろうが、今度ばかりは相手が悪い。
そもそも好きな相手がいながら私の婚約者に手を出したのだから自業自得である。
その「好きな相手」とはまだどうにもなっていなかったから助けを期待も出来ない。

この目で妹の反応を見れないのが残念だけど、仕方がないわね。

「大丈夫、もうあなたを傷付ける人はいないわ」

あの時捨てられていたぼろぼろのテディベア。
今は綺麗に手直しをして目の前に大切に飾られているそれを目の高さにまで抱き上げ目を合わせると、真新しいペリドットが嬉しそうにきらりと光った気がした。





終わり
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