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溶けて溶けて溶けて
溶けて溶けて溶けて:5
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「俺もいいと思う」
………ん?幻聴じゃない?
「愛沢くんセンスいいね」
うん、そうだ幻聴じゃない。
僕は心の中でガッツポーズをした。嬉しいという感情より、叩かれずに済んで安心したという感情の方が大きかった。
「でもメイドって言葉が愛沢から出てくるとはな」
「確かに!」
「ま、愛沢も男ってこと」
僕は急激に恥ずかしくなった。頬が紅潮していくのが自分でも分かる。あぁ、やっぱり言わない方が良かった。徐々に体が縮こまっていく。そんな僕のことなんて露知らず、クラスメイトは僕に質問を投げかける。
「愛沢くんが見据えてる完成図ってどんな感じなの?」
完成図…?そんなもの無いに決まってる。その場しのぎで考えた案が通るなんて誰も思わないだろう。
そして何より僕はこれをやりたく無い。裏方ならまだしも、キャストなんてごめんだ。まぁ、僕がキャストに選ばれるはず無いが。でも僕の案だし…いや、やりたく無い。
こんなの堂々巡りだ。だから僕は考えるのをやめた。
回答が返ってこないことにクラスメイトが不安を感じているかなんてこの空気で分かる。でも誰も口を開こうとしない。それを見越した担任が口を開いた。
「おいおい、愛沢に任せすぎだぞ。これじゃあ愛沢の作品になっちまう。皆からも意見出せ~」
静まり返る教室。そこにスッと一本の手が挙がった。
顔を確認する、のと同時に声をあげた。
「はいっ、野崎さん」
僕らしからぬ声だっただろう。でもそう感じたのは僕だけ。誰も何も言わなかった。
「えっと、衣装の件なんですけど…家庭科部で作れそうだな、と。ほら、うちのクラス家庭科部多いですし…」
良かった、と思っている自分がいた。何故そう思っているか分からない。でもなんだか安心したんだ。
「おぉ、マジ?すっげぇ助かる」
クラスが沸いた。
この状況を打開してくれた野崎さんが天女の様に見えた。いや、それは言い過ぎだな。
野崎さんの一言を幕切りかというようにクラスメイトがポツポツと「こんな感じがいい」を呟いていく。
チョークを持つ手を震わせながら、黒板に文字を並べていく。その姿はとてもぎこちなかっただろう。
黒板とチョークが合わさり合ってカツカツと音が鳴る。でもそれはクラスメイトの声に掻き消されて聞こえなくなった。
………ん?幻聴じゃない?
「愛沢くんセンスいいね」
うん、そうだ幻聴じゃない。
僕は心の中でガッツポーズをした。嬉しいという感情より、叩かれずに済んで安心したという感情の方が大きかった。
「でもメイドって言葉が愛沢から出てくるとはな」
「確かに!」
「ま、愛沢も男ってこと」
僕は急激に恥ずかしくなった。頬が紅潮していくのが自分でも分かる。あぁ、やっぱり言わない方が良かった。徐々に体が縮こまっていく。そんな僕のことなんて露知らず、クラスメイトは僕に質問を投げかける。
「愛沢くんが見据えてる完成図ってどんな感じなの?」
完成図…?そんなもの無いに決まってる。その場しのぎで考えた案が通るなんて誰も思わないだろう。
そして何より僕はこれをやりたく無い。裏方ならまだしも、キャストなんてごめんだ。まぁ、僕がキャストに選ばれるはず無いが。でも僕の案だし…いや、やりたく無い。
こんなの堂々巡りだ。だから僕は考えるのをやめた。
回答が返ってこないことにクラスメイトが不安を感じているかなんてこの空気で分かる。でも誰も口を開こうとしない。それを見越した担任が口を開いた。
「おいおい、愛沢に任せすぎだぞ。これじゃあ愛沢の作品になっちまう。皆からも意見出せ~」
静まり返る教室。そこにスッと一本の手が挙がった。
顔を確認する、のと同時に声をあげた。
「はいっ、野崎さん」
僕らしからぬ声だっただろう。でもそう感じたのは僕だけ。誰も何も言わなかった。
「えっと、衣装の件なんですけど…家庭科部で作れそうだな、と。ほら、うちのクラス家庭科部多いですし…」
良かった、と思っている自分がいた。何故そう思っているか分からない。でもなんだか安心したんだ。
「おぉ、マジ?すっげぇ助かる」
クラスが沸いた。
この状況を打開してくれた野崎さんが天女の様に見えた。いや、それは言い過ぎだな。
野崎さんの一言を幕切りかというようにクラスメイトがポツポツと「こんな感じがいい」を呟いていく。
チョークを持つ手を震わせながら、黒板に文字を並べていく。その姿はとてもぎこちなかっただろう。
黒板とチョークが合わさり合ってカツカツと音が鳴る。でもそれはクラスメイトの声に掻き消されて聞こえなくなった。
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