VRMMOで神様の使徒、始めました。

一 八重

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本編

第26話 マヨイは練習に付き合う。

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「お兄さん!」

「早いね、クレアちゃん。僕が最初だと思ったのに」

 噴水のある広場に到着した僕を見つけてクレアちゃんが駆け寄ってきた。まだ待ち合わせの時間には少し早いのだけど、クレアちゃんは僕より先に来ていたようだ。

「えへへ、我慢できなくてアカちゃんと電話してすぐログインしちゃいました」

「え、ずっと待ってたの?」

「お兄さんから貰った素材の整理や露店の申請もしたからここに着いたのはついさっきです」

「露店って申請が必要なんだね。てっきり適当に風呂敷広げてやるもんだとばかり思ってた。あ、あそこのベンチが空いてるから移動しようか」

 往来の激しい広場と大通りの境で立ち話というのは悪目立ちしてしまうだろう。人の目も気になるし、ベンチ付近の会話は他のプレイヤーには聞こえないようになっているらしい。他のベンチで話ているプレイヤーの声が全く聞こえてこないことからの推測に過ぎないけれど。

「はい!まだ実際に見たことはないですけど、組合で申請しないと兵隊さんに連れてかれちゃうみたいです」

「へぇ……兵隊さん、街の衛士か何かかな?」

「それは分からないです。でも実際に見た人は騎士みたいだったって掲示板に書いてました」

 騎士か衛士か自警団かは分からないけど、組合を通さない露店には何らかのペナルティが下されることだけは分かった。あとで罰則の内容など詳しい情報がないか掲示板を覗いて確認しておいた方が良さそうだ。

「そういえば商人の素質ってメリット少なそうなイメージだけど何ができるの?」

「契約書作成っていうのが作れるスキルを覚えました。約束と約束を破った時の罰を決められるスキルです!」

「それは……」

 詐欺行為が流行りそうだね、と言うのをこらえる。便利そうなスキルを覚えたと喜んでいるクレアちゃんに水を差す必要はないだろう。
 もし契約書作成の噂が広まれば、詐欺行為だけじゃなく様々な悪質行為が横行するだろう。運営の対処次第では商人の素質を持っているだけで詐欺師だと言われてしまう環境になるかもしれない。ここの運営は対応が早いのでそこまでの事態にはならないと思うけど。

「それは?」

「……コミュ力が試されそうなスキルだね」

「そ、そうですね……選ぶスキル間違えちゃったかなぁ……クラスの男の子とは目も合わせられないし、女の子だって初めて会う人は怖いし……」

 クレアちゃんの場合は慌てた時にどもる癖さえ治せばコミュニケーション能力に問題はないだろう。基本的に明るい子だし、仮想ゲームのアバターだけでなく現実リアルの容姿も整っている。今のままでも中学男子くらいなら適当に笑顔を向けてお願いするだけで大抵は何とかなるだろう。
 少し前まで中学男子だった僕が言うんだ。間違いない。

「なら練習だと思ってアカトキが来るまで僕とお喋りしてよっか」

「え、は、はい!お願いしみゃしゅ」

 普通に会話できる僕を相手にして意味があるかは分からないけど、落ち込んだ状態からは脱却できたみたいだ。それにしてもVRなのに顔の色が真っ赤になるってどういう仕組みなんだ……?

……………………………………


……………………………


……………………


 それから10分近くクレアちゃんと話して話題も尽きようとした頃、ようやく暁がやってきた。そうは言っても時間は3時6分なので暁が遅かったというより僕らが早すぎただけだ。遅刻には変わりないが。

「兄さん、クレアも、ちょっと早すぎない?」

「遅刻するよりはマシだ。まったく、少しは時間に余裕を持って行動しろよな」

 父さんもそうだけど、暁は少し時間にルーズなところがある。どうせ言っても聞かないだろうけど、一応は注意しておく。

「いいじゃん、少しくらい」

「僕に遅れるなと念を押したのは誰だったかな?」

「うっ」

「お兄さんも、それくらいで……でも時間にルーズなのはアカちゃんの悪いとこだよ」

 仲裁と見せ掛けてトドメを刺した!?
 クレアちゃん、わりと思ったことをストレートに言う時があるよね。

「ごめんって。ほら、早く移動しようよ」

「アルテラ大森林を抜けた先にあるっていうソプラの街を目指すってことでいいの?」

「えっと、それなんですけど……北の草原の更に奥に山が見えますよね。あの麓にテコっていう金属加工で有名な街があるみたいなんです。アカちゃんの装備も作りたいですし、ソプラの街へ行くとクラスメイトと会うかもしれなくて……」

 暁の話を聞く限りではクラスの雰囲気は良さそうなのにクレアちゃんはクラスメイトと会いたくないのか。何か事情があるんだろうけど、友達の兄でしかない僕が口を出すのもお門違いだろう。

「別にクラスメイトからイジメを受けてるとかじゃないの。ちょっと前にクレアに告った身の程知らずがいてさ、クレアはバッサリと断ったんだけど未練たらたらなのよ」

「あー、そいつと会うと気まずくなるから人が多いところは避けたいのか」

 どうしたものか悩んだのを察したわけではないだろうけど、暁が事情を話してくれた。その男子はクラスどころか校内でも有名なイケメンで月に1~2回は告られているほどモテるらしい。ただ性格に難があるのでクラスでは少し浮いているとか。
 暁の話では彼──ミネムラユウジというそうだ──は昼休みの教室で告白したらしく、まるでクレアちゃん振られるとは思ってない様子だったらしい。振られたにも関わらず彼氏面をして何かとクレアちゃんの言動に口を挟んでくるとか。
 たしかにクレアちゃんからすれば会いたくないだろう。

「うちのクラスメイトじゃないけど、いつも彼女面してる人たちとパーティ組んでるみたい。それでもってゲームの腕も平均よりは上手いらしいから調子乗ってるみたいなのよね」

「その人たち、わたし何もしてないのに嫌われてるみたいで、いつも睨んでくるから怖くて……」

 その彼女面しているらしい人らのことは知らないけど、暁とクレアちゃんの話を聞く限りクレアちゃんを睨むのは単なる嫉妬だろう。

「それじゃ北の草原、その更に北を目指すってことで。兄さんもいいよね」

「構わないけど、行くなら早く行こうか」

「どうしてですか?」

「ほら、あそこ」

 僕が視線を向けた先には3人の女性プレイヤーに囲まれた戦士風の男性プレイヤーがいた。その男性を囲む女性プレイヤーの1人が先ほどから僕ら、厳密にはクレアちゃんを何度もチラ見しては睨んでいるのだ。
 男性プレイヤーの名前はユウジ。プレイヤー人口からすれば相当に低い確率ではあるが、状況的に間違いなく問題のストーカー君だろう。

───────────────
お読みいただきありがとうございます。

 待ち合わせもなく知り合いとMMOで会うなんて普通ありえません。しかし、一方的に見つけることは極々稀にあります。
 主にプレイヤー名やコメントなどからバレたりします。私が経験したのは前者でしたが、知らぬ存ぜぬで通しました。皆さんもお気をつけください。
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