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本編
第52話 マヨイは押し倒される。
しおりを挟む⚫︎マヨイ
「そ、それで相談ってなんですか?」
「木材が足りないって聞いたんだけど本当かな」
「そうなんです!今朝、素材屋さんに買い物に行ったら木材がなかったんです。他のプレイヤーさんに聞いたらアルテラの素材屋さんにも木材はないみたいで……」
たぶん、困っているのは他のプレイヤーだけじゃない。
このゲームは変なところでリアルだからNPCの生活にも影響が出るはずだ。そうなるとNPCとプレイヤーとの間に軋轢が生じる可能性もあるだろう。
「その困ってるプレイヤーって入り口にいた人たち?」
「はい」
「なら、これをあげるよ」
そう言って僕はクレアちゃんにアルテラ大森林で伐採した木材の内、藍香に渡した残りの60本から20本を渡した。残りの40本はNPCに渡るように組合に預けようと思っている。
「こ、こんなに!?お金ないですよ?」
「いいって。代わりと言ってはなんだけど、今度また装備の作成依頼を出すから少し値引きしてくれると嬉しいな」
「任せてください!」
「……採算の取れる範囲で、だからね」
「……そ、そんにゃのとうぜぇんじゃないですか!?」
言えてないよ、言えてないよクレアちゃん。
これは間違いなく採算度外視で割引するつもりだったな。
念のため釘を刺しておいてよかった。
「真宵、お待たせ」
「おかえり。っと、この子がクレアちゃん」
「生徒会長さん!?……あ、ごめんなさい!」
「初めまして、私はアイよ。次から気をつけてね」
藍香は去年まで中学校の生徒会で会長をしていた。
藍香ほど方々に迷惑を掛けた生徒会長は前代未聞だったろう。藍香が生徒会長を引退した時に先生方が流した涙が嬉し涙だったのは間違いない。
現実の個人情報をバラしてしまったクレアちゃんもすぐに気が付いて謝れたので藍香も怒ってはないようだ。これで謝罪がなければ第一印象は最悪だっただろう。
「さて、僕らは訓練場に行くけどクレアちゃんはどうする?」
「私は加工施設を借りてるので作業の続きをします」
「そっか。また素材が手に入ったら連絡したいんだけどフレンド申請を送ってもいいかな?」
「もちろんです!」
これでフレンドは藍香とオリオンさんに続いて3人目だ。
女の子ばっかなのはいつものことだとして諦めよう。
「そういえばアカトキは?」
『アカトキって誰?』
『暁のプレイヤー名』
『なるほど』
「アカちゃんならクラスメイトとレベリングに行ってます」
「そっか、ありがとう。またね」
「はい!」
こうしてクレアちゃんと別れた僕らは訓練場までやってきた。
僕の目的は藍香が"封魔"と"狂乱"の状態異常になって暴れた際に対処することだ。魔力弾で眉間を撃ち抜けばいいので簡単な作業である。
「行くわよ。"狂狼化"」
「魔力弾……って、ちょ」
「~♪」
「は?……狂乱って力任せに暴れるんじゃなかったの!?」
藍香は眉間目掛けて放たれた魔力弾を素手で弾くと僕に抱きついてきた。勢いがあったせいで押し倒された僕を周りにいたプレイヤーたちがチラ見してくる。
「♪」
「ちょっと、離してって」
僕を押し倒した藍香──正確には藍香のアバター──は顔を近づけてきた。このゲームはR18ではないのでキスするようなことはないだろうけど、藍香の形をしているだけの人形にこういう真似をされて無性に腹が立った。
「魔力弾!」
「……」
僕の放った魔力弾が藍香の心臓を撃ち抜く。
さすがに接触状態からの魔力弾には対応できなかったようだ。
訓練場の入り口で蘇生した藍香は顔を耳まで真っ赤にして僕に駆け寄ると胸ぐら掴んで叫んだ。若干、涙声になっている。
「ねぇ、どういうことよ!なんであんなことになるの!?」
「僕の場合は最初から無効化してたから知らないって。それよりアバターの操作権がなくなるってどんな感じなの?」
「恥ずかしくて死にそうよっ!運営にでも問い合わせればいいじゃない!」
「あー、ごめん。ごめんって」
藍香が落ち着くまでの間、運営にメールで問い合わせたところ状態異常"狂乱"によってプレイヤーの操作を離れたアバターは、プレイヤーの感情値というものを参照して行動するそうだ。
掲示板でも話題になっていたカルマ値もそうだけど、ステータスに表示されないステータスが思ったよりも多いらしい。
「落ち着いた?」
「……うん」
「これからどうする?僕は1度ログアウトして昼飯を食べてくるけど」
「私は木材を売り捌くわ」
藍香は少し怒っているようだ。いったい"流星群"の人たちはどういう対応をしたんだろう。まぁ……藍香が"流星群"を叩くつもりなのは間違いなさそうだから少し援護するとしよう。
「それなら40本預けるから木材を必要としているNPCがいたら無料で渡してくれないかな」
「無料?どうして?」
「"流星群"が木材を買い占めたせいでNPCの中から職を失う人が出るかもしれないだろ。そうなれば僕らプレイヤーに対するNPCの態度も悪くなるだろうさ。下手をすればすぐにプレイヤーの利用を拒む店や施設が出てくるよ」
ほら、聞き耳を立ててる野次馬諸君は掲示板が書き込み始めた。
中には「そんなわけないだろ」とか「妄想乙」とかいう声も聞こえてくる。しかし、僕の予想は外れていても問題ない。僕の狙いは木材を買い占めたプレイヤーがいることを周知させることだ。
「分かった。プレイヤーからだって言って配るわ」
「ありがとう。同類に見られたくないからね」
「ふふっ……そうね」
「それと午後はどうしようか」
「午後は私も色々とやるから個別に動きましょうか」
「そうだね」
そうして僕はクレアちゃんとオリオンさんにも一言入れてからログアウトした。オリオンさんとステータスの見せ合う約束をすっぽかす形になってしまったので、午後ログインしたらまた連絡を取ろうと思う。
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お読みいただきありがとうございます。
明日からは4日連続で年末年始の番外編を投稿する予定です。
時系列は本編開始前、受験を控えた中学3年生の宵たちの話となります。
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自筆です。
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