VRMMOで神様の使徒、始めました。

一 八重

文字の大きさ
102 / 228
本編

第87話 マヨイは拠点を手に入れる。

しおりを挟む

⚫︎マヨイ

「城壁高っ!テコの倍くらいない?」

「聞いていたけど結構並んでるのね」

 ゲーム6日目、そしてイベント2日目。僕らギルド迷い家のメンバーはイベントから離れて領都エイトを訪れていた。エイトの西門にはイベントに興味がないらしいプレイヤーや商人らしい装いをしたNPCが並んでいる。

「お兄さん、あれは武者返しですか?」

「石垣じゃないけどそうみたいだね」

 エイトの外壁は垂直な壁ではない。下部は緩やかで簡単に登れそうな傾斜が付いている。しかし、上に行くほど反り返りが激しく素で登るのは不可能な造りになっている。こういった構造の石垣のことを武者返しと言って日本では熊本城のそれが有名だ。
 ちなみに外壁の下には10mはないくらいの幅の水堀がある。

「日照権とかどうなってるのかしらね」

「外壁付近は門近くだと兵の詰所、そうでないところは広場になってたよ」

「軍事面ではいいのかもしれないけど……」

「ザ・軍事拠点!って感じの都市なの?」

「厄のこともあるし、テコの北側の山には竜もいる。基本的にモンスターの方が強い世界のようだし、実用性重視の都市になるのは設定上は仕方ないんじゃないかな」

 魔物は基本的に覚醒をもっている。掲示板の設定などの調査をしているらしい物好きなプレイヤーが集まるスレッドによれば、NPCの中で覚醒を持っているというのは職業に就いている者あるいは特殊な資格を持っているという扱いになっているそうだ。そのため大人ならば覚醒を1つ持っていて当たり前なのだとか。
 しかし、同じ位階でも魔物の方が強い場合がほとんどであるらしいことを考えると補正値の面で魔物が優遇されている可能性は高い。そんな魔物と隣り合わせの生活圏ならば軍事に力を注いでいて当然だろう。

「身分証をご提示ください」

「どうぞ」

 しばらくすると順番が回ってきたので僕らは門兵に冒険者登録証を提示する。僕は問題ないけれど組合の依頼をほとんど受けていないらしい藍香は大丈夫だろうか。

「大丈夫よ、テコの組合で確認したもの」

「え、確認なんて出来たの?」

「朝ね。それに組合員以外とのトラブルを問題を起こしていなければ通れるみたいよ」

「組合員同士のトラブルはいいの?」

「組合員以外に迷惑を掛けなければいいみたいね」

「へぇ……」

 僕は組合から信用されている人物のみエイトに入れるのだと思っていたけれど、実際は組合が信用していない人物を弾くための検問のようだ。もちろん登録だけして街に入ろうとする人もいるだろうから基準はそう単純なものではないのかもしれない。
 というか昨日ここで止められてた奴らは組合以外でも問題を起こしてたってことになるのか。

「お待たせしました冒険者登録証をお返しします。ようこそエイトへ」

「そうだ。組合に行きたいのですがどの辺りにありますか?」

「この門をくぐって真っ直ぐ行くと広場があります。広場から北の大通りに入ってすぐ右手側にありますよ」

「ありがとうございます」

 そんなわけで僕らは寄り道せずエイトの組合に向かった。
 街の西通りは商店が立ち並んでいるが空き店舗も数件あったし、テコやアルテラと比較しても住人の往来が少ない。これが厄の影響だけならいずれ回復すると思うけど、他の要因も関わってたりするんだろうか。

「なんていうか、アルテラやテコの組合と比べてると大きい建物ね」

「まー、領都って言うくらいだし……」

 もちろん領主館ほどではないが、エイトの組合が入っている建物はアルテラやテコの組合の建物より2回りは大きかった。内装も傍目には質素だけどところどころに細やかな意匠が施されているのが分かる。

「こんにちは、今日はどのようなご用件でしょうか」

「領主様から建物をいただけると伺っています。あ、これが僕の登録証です」

「ご確認させていただきます。少々お待ちください」

 そう僕に告げるなり受付嬢はバックヤードの方へ走って行った。
 彼女も正規の職員ではないってパターンだろうか。
 しばらくすると厳ついオッサンを連れて戻ってきた。

「おめぇが英雄様か。俺はエイト領組合支部の統括を任されているドーズだ。よろしくな、そちらのお嬢さん方は?」

「私は彼のの「「ちょっ」」……冗談よ。彼が立ち上げたギルドのサブマスターのアイよ。この2人はギルドメンバーね」

「クレアといいます」

「まさ……アカトキです」

「おう。早速だが英雄様に贈る予定の建物まで案内しよう。それとこれが土地の権利書と建物の資料だ」

 土地の権利書を渡されるだけだと思っていたけれど、親切なことに案内してくれるらしい。渡された資料によると元はウォルターが使っていた邸宅兼工房のようだ。結婚した際に住居を現在の領主館に移したらしく、現在は使われていないと道中でドーズさんが説明してくれた。
 大賢者の工房として使われていただけあって1階に広い加工施設が存在している。あと単純に部屋が多い。

「ここだ」

「「「「……………………」」」」

 その建物は質実剛健を絵に描いたような木造3階建ての邸宅だった。僕も藍香も派手なものは好まないし、クレアちゃんも特に不満はなさそうだ。暁は領主の元邸宅と聞いて煌びやかな豪邸を想像していたのか少し拍子抜けしたような表情をしている。
 ただ僕の想像と違ったのは……

「敷地、デカすぎじゃありません?」

「ウォルター様が空間魔法で敷地と建物の内部を拡張なさったらしい。ちなみに掃除は付与魔法だかの効果で自動化されてるって話だ」

「これ、普通に購入するといくらになるのかしらね……」

「安く見積もって10Rってところだな。そのせいで買い手がいなくて不良債権になってたんだよ」

「へ、へぇ……」

「ここをギルドホームに指定するようなら後で組合に届け出てくれ。ギルドホームなら土地や建物に掛かる税金が免除されるからな」

「今すぐ行きます」

 10億もする建物の税金なんて払えるかボケ!と言いたい。
 あとギルドホームに税金が掛からないのはウォルターによる組合優遇政策の一環らしい。ただ組合との協定で税金を安くする代わりに犯罪を犯した場合の罰則は一般人よりは厳しくなっているそうだ。全く法律や法令などを知らないというのも後々で問題になりそうなので詳しく教えて欲しいとドーズさんに言ったところ、後で法律関係の注意事項を資料にして貰えることになった。

「アイたち3人は先に建物の中を見ててくれ」

「……そうね。ちょっと予想以上に大きい何が何処にあるか確認しておくわ」

「よろしく」

 そして僕は組合でウォルターから貰った建物をギルドホームに指定するための書類にサインを済ませ、法律や法令に関する分厚い資料を受け取った直後だった。

『お兄ちゃん、どうしよう……』

『どうした?』

『迷子になっちゃった……』

 どうやらギルドホームの内部は入り組んだ迷路のような構造になっていたらしい。その直後に聞いた藍香の話では色々と抜け道らしき通路もあったようだ。ちなみにクレアちゃんは加工施設を見て大はしゃぎしているとか。

「まさかと思うけど領主館と繋がってたりしないよな……」

 とりあえず藍香に連絡して暁を救助するとしよう。


───────────────
お読みいただきありがとうございます。
貴族の邸宅といえば隠し通路や隠し部屋ですよね!
しおりを挟む
感想 576

あなたにおすすめの小説

癒し目的で始めたVRMMO、なぜか最強になっていた。

branche_noir
SF
<カクヨムSFジャンル週間1位> <カクヨム週間総合ランキング最高3位> <小説家になろうVRゲーム日間・週間1位> 現実に疲れたサラリーマン・ユウが始めたのは、超自由度の高いVRMMO《Everdawn Online》。 目的は“癒し”ただそれだけ。焚き火をし、魚を焼き、草の上で昼寝する。 モンスター討伐? レベル上げ? 知らん。俺はキャンプがしたいんだ。 ところが偶然懐いた“仔竜ルゥ”との出会いが、運命を変える。 テイムスキルなし、戦闘ログ0。それでもルゥは俺から離れない。 そして気づけば、森で焚き火してただけの俺が―― 「魔物の軍勢を率いた魔王」と呼ばれていた……!? 癒し系VRMMO生活、誤認されながら進行中! 本人その気なし、でも周囲は大騒ぎ! ▶モフモフと焚き火と、ちょっとの冒険。 ▶のんびり系異色VRMMOファンタジー、ここに開幕! カクヨムで先行配信してます!

ネグレクトされていた四歳の末娘は、前世の経理知識で実家の横領を見抜き追放されました。これからはもふもふ聖獣と美食巡りの旅に出ます。

旅する書斎(☆ほしい)
ファンタジー
アークライト子爵家の四歳の末娘リリアは、家族から存在しないものとして扱われていた。食事は厨房の残飯、衣服は兄姉のお下がりを更に継ぎ接ぎしたもの。冷たい床で眠る日々の中、彼女は高熱を出したことをきっかけに前世の記憶を取り戻す。 前世の彼女は、ブラック企業で過労死した経理担当のOLだった。 ある日、父の書斎に忍び込んだリリアは、ずさんな管理の家計簿を発見する。前世の知識でそれを読み解くと、父による悪質な横領と、家の財産がすでに破綻寸前であることが判明した。 「この家は、もうすぐ潰れます」 家族会議の場で、リリアはたった四歳とは思えぬ明瞭な口調で破産の事実を突きつける。激昂した父に「疫病神め!」と罵られ家を追い出されたリリアだったが、それは彼女の望むところだった。 手切れ金代わりの銅貨数枚を握りしめ、自由を手に入れたリリア。これからは誰にも縛られず、前世で夢見た美味しいものをたくさん食べる生活を目指す。

異世界召喚でクラスの勇者達よりも強い俺は無能として追放処刑されたので自由に旅をします

Dakurai
ファンタジー
クラスで授業していた不動無限は突如と教室が光に包み込まれ気がつくと異世界に召喚されてしまった。神による儀式でとある神によってのスキルを得たがスキルが強すぎてスキル無しと勘違いされ更にはクラスメイトと王女による思惑で追放処刑に会ってしまうしかし最強スキルと聖獣のカワウソによって難を逃れと思ったらクラスの女子中野蒼花がついてきた。 相棒のカワウソとクラスの中野蒼花そして異世界の仲間と共にこの世界を自由に旅をします。 現在、第四章フェレスト王国ドワーフ編

異世界転生した俺は、産まれながらに最強だった。

桜花龍炎舞
ファンタジー
主人公ミツルはある日、不慮の事故にあい死んでしまった。 だが目がさめると見知らぬ美形の男と見知らぬ美女が目の前にいて、ミツル自身の身体も見知らぬ美形の子供に変わっていた。 そして更に、恐らく転生したであろうこの場所は剣や魔法が行き交うゲームの世界とも思える異世界だったのである。 異世界転生 × 最強 × ギャグ × 仲間。 チートすぎる俺が、神様より自由に世界をぶっ壊す!? “真面目な展開ゼロ”の爽快異世界バカ旅、始動!

あなたは異世界に行ったら何をします?~良いことしてポイント稼いで気ままに生きていこう~

深楽朱夜
ファンタジー
13人の神がいる異世界《アタラクシア》にこの世界を治癒する為の魔術、異界人召喚によって呼ばれた主人公 じゃ、この世界を治せばいいの?そうじゃない、この魔法そのものが治療なので後は好きに生きていって下さい …この世界でも生きていける術は用意している 責任はとります、《アタラクシア》に来てくれてありがとう という訳で異世界暮らし始めちゃいます? ※誤字 脱字 矛盾 作者承知の上です 寛容な心で読んで頂けると幸いです ※表紙イラストはAIイラスト自動作成で作っています

【完結】兄の事を皆が期待していたので僕は離れます

まりぃべる
ファンタジー
一つ年上の兄は、国の為にと言われて意気揚々と村を離れた。お伽話にある、奇跡の聖人だと幼き頃より誰からも言われていた為、それは必然だと。 貧しい村で育った弟は、小さな頃より家の事を兄の分までせねばならず、兄は素晴らしい人物で対して自分は凡人であると思い込まされ、自分は必要ないのだからと弟は村を離れる事にした。 そんな弟が、自分を必要としてくれる人に会い、幸せを掴むお話。 ☆まりぃべるの世界観です。緩い設定で、現実世界とは違う部分も多々ありますがそこをあえて楽しんでいただけると幸いです。 ☆現実世界にも同じような名前、地名、言葉などがありますが、関係ありません。

異世界転生目立ちたく無いから冒険者を目指します

桂崇
ファンタジー
小さな町で酒場の手伝いをする母親と2人で住む少年イールスに転生覚醒する、チートする方法も無く、母親の死により、実の父親の家に引き取られる。イールスは、冒険者になろうと目指すが、周囲はその才能を惜しんでいる

【完結】VRMMOでチュートリアルを2回やった生産職のボクは最強になりました

鳥山正人
ファンタジー
フルダイブ型VRMMOゲームの『スペードのクイーン』のオープンベータ版が終わり、正式リリースされる事になったので早速やってみたら、いきなりのサーバーダウン。 だけどボクだけ知らずにそのままチュートリアルをやっていた。 チュートリアルが終わってさぁ冒険の始まり。と思ったらもう一度チュートリアルから開始。 2度目のチュートリアルでも同じようにクリアしたら隠し要素を発見。 そこから怒涛の快進撃で最強になりました。 鍛冶、錬金で主人公がまったり最強になるお話です。 ※この作品は「DADAN WEB小説コンテスト」1次選考通過した【第1章完結】デスペナのないVRMMOで〜をブラッシュアップして、続きの物語を描いた作品です。 その事を理解していただきお読みいただければ幸いです。 ─────── 自筆です。 アルファポリス、第18回ファンタジー小説大賞、奨励賞受賞

処理中です...