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本編
第104話 マヨイは謝罪する。
しおりを挟む⚫︎マヨイ
織姫が勢いよく組合の方角へと駆けていった後、僕はレベリングするためにイベントエリアにやってきた。藍香たちと20回近く来ているけど完全なソロでの挑戦は初めてなので少し新鮮だ。
「(飛行)」
まずは飛行技能を使って空から経験値を探す。難易度は3を選んだので出現してくるモンスターの位階は40未満のはずだ。今の僕のステータスなら何が出てきても魔力弾1発で倒せる。絨毯爆撃で一気に経験値を稼ぐ作戦だ。
「うわっ……風の影響モロに受けるのか」
高度を上げると思っていたよりも風の影響を強く受けることが分かった。空から地表にいる相手を一方的に打ち据えるだけなら特に問題はないけれど、僕と同じように飛べる相手と空中戦をするのなら無視は出来ない。
「っと……(魔力弾×3000)」
体勢を整えてから魔力弾を放つ。すると着弾を確認してから少し遅れて轟音が鳴り響いた。光と音の速度の違いで発生する現象なのだけど、僕の魔力弾の色が地味なので花火のような華やかさはない。
しばらくして着弾した際に生じた土煙が晴れると地表には無数のクレーターができていた。ただ地上で魔力弾を広範囲にばら撒くとクレーターは扇状に広がっていたが、今はほぼ円に近い状態で広がっている。やはり空から攻撃した方が広範囲を満遍なく攻撃できるようだ。
「さて位階は……お、39にまで上がってる」
更にアイテムの入手履歴を確認すると今の攻撃で67体のモンスターを倒したらしい。これ以上この難易度で狩りをしても位階は上がらないだろうし、一度イベントエリアから出て今度は難易度8くらいでレベリングしよう。
…………………………………
……………………………
………………………
それから調子に乗ってレベリングをしていた僕は現在、アルテラの北門──の石畳の上──で正座しながら項垂れていた。目の前には藍香、暁、クレアちゃんの3人が不機嫌そうな表情で僕を見下ろしている。
『はぁ……マヨイ、何で正座させてるか分かる?』
心底呆れたかのような藍香の溜息混じりの詰問。
いや、それも当然だろう。
なぜなら──
『レベリングに夢中になって1人だけ位階が90を超えたからです……』
『私やアカトキたちに寄生プレイでもさせる気でいたのかしら?』
「な、そ、そんな訳ないだろ!」
思わずギルドコールではなく素で声を上げてしまったけれど、そんなつもりは僕にはなかった。もちろん、一緒にレベリングする約束をしていたのに僕だけレベリングしていたのは良くない。せめて一言でもギルドチャットで連絡するべきだったと思う。
『まぁ……レベリングしたい気持ちも分かるわ。でも、さすがに97まで上げるのはやりすぎじゃないかしら』
『そうだね。一言でも連絡を入れるべきだった。ごめんなさい』
『とりあえず明日の朝のレベリングはマヨイ以外の私たちだけでやるわよ。いくらパワーレベリングしても問題ないくらいにプレイヤースキルがあるとは言っても進化したてのアバターには早めに慣れておきたいもの』
『分かった。クレアちゃんは見た目が変わってるから進化してるのは一目見て分かるけど、アイも進化したの?』
クレアちゃんは以前よりアバターの身長が一回り小さくなっていた。背負っている弓の大きさは当然変わっていないので実際の変化以上に小柄になったように感じられる。
『私は精霊に進化したわよ。たぶんマヨイもそうでしょ?』
『そうだよ。やっぱり刺青タイプだと見た目から判別するのは難しいね』
『それを言ったらマヨイもよ。精霊について知らなければ人間にしか見えないもの』
危惧してはいたけれど、やはり藍香と戦うことになれば空中戦は避けられないようだ。今後は空中での姿勢を制御することだけではなく、相手の姿勢を崩すなどの手札も必要になるかもしれない。
『お兄さん!』
『ん、どうしたの?』
『お兄さんのおかげでドワーフのユニーク種になれました!ありがとうございます!』
『ん??ユニーク?』
『はい!アタビスティック・ドワーフになりました』
クレアちゃんの説明によるとアタビスティックというのは"原始的な"とか"先祖返り"という意味の単語らしい。
その特徴はハイドワーフの完全上位互換だ。ステータスの補正だけでもプラス補正がハイドワーフの2倍、そしてハイドワーフにあったステータスのマイナス補正がない。そして進化したことが原因かは分からないけれど、アバターの再設定が終わった直後に頭のおかしい技能を習得していた。
『いや、これはクレアちゃんと相性良すぎでしょ……』
名前:天衣無縫
分類:支援 特殊
説明:無為自然の極地に到達した者のみ習得できる技能。
所有者によって効果が異なる。
効果:技能を使用せずに製作した装備の性能向上
与ダメージX%上昇[変動値は相手の体力割合に比例する]
与ダメージX%上昇[変動値は距離に比例する]
『やっぱり天衣無縫は習得した人に都合の良い効果になるみたいね』
『ってことはアイも持ってるの?』
『私もあるよ!』
どうやら僕以外の全員が天衣無縫という頭のおかしな技能を手に入れていたらしい。しかし、藍香も暁も天衣無縫ほ習得方法は分からないそうだ。ちょっと残念。
『ねぇ……そろそろ周りの目が痛くなってきたから立っていい?』
『そうね。私も報告したいことがあるし、人目の少ない場所に移動しましょう』
こうして僕らは藍香の行きつけ(?)の酒場まで案内され、織姫が言っていたプロゲーマーとの決闘に関する話を聞かされた。それを聞かされた上で僕が思ったのは1つだけだ。
「ねぇ……これ僕、不完全燃焼なんだけど?」
「もし次があれば私が自重するから……」
「不完全燃焼なんだけど?」
「え、えっと……」
「不完全燃焼なんだけど?」
「何か策を練るから許してちょうだい……」
「いや、ごめん。わがままだよね。僕はアイみたいに能動的に動いてたわけじゃないし、今は我慢するさ」
「そう……分かったわ」
それにアイの話を聞きながらオリオンにフレンドコールで確認したところシブンギはログアウトしているそうだ。今から死体蹴りすることは難しいだろう。
「さて、僕はアルテラの街を改めて散策しようかな」
「兄さん、夕飯の時間!」
「え、あ、本当だ」
メニューから時間を確認すると普段の夕飯の時間はすでに過ぎていた。暁に時間を教えられるのは何か釈然としないけど、たまにはこういうこともあるだろう。
「ごめん、そういうことだから落ちるね」
「私もお夕飯食べて来ます!」
「それじゃマヨイ以外は2時間後にここに集合しましょう。さすがに今のマヨイの位階を目指すなら明日の午前中だけだと厳しわ」
「「はーい」」
こうして夕飯の時間になってもゲームをしていた僕と暁を待ち受けていたのは冷めた夕飯と笑顔で怒る母さんだった。ゲームをすることには寛容な母さんでも不摂生な行動には煩い。そこら辺はやっぱり意識の差なんだろう。
「不摂生な生活を送っていれば注意力が落ちるし、注意力が落ちれば自然とケアレスミスも増えるわよね。そんな状態でゲームして何が楽しいのかしら」
「……ごめんなさい」
「ダメよ。もっと反省しなさい」
それから母さんの小言は父さんが帰ってくる1時間後まで続いた。その時には完全に精魂尽き果ててしまっていた僕にゲームをする気力は残っておらず、そのまま風呂に入って歯磨きしてからベッドで気絶するように眠りについた。
───────────────
お読みいただきありがとうございます。
次回は掲示板回の予定です。
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自筆です。
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