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本編
第132話 クレアは狂化する。
しおりを挟む⚫︎マヨイ
「ふぅ……」
僕らが抜け出した数秒後にテコ大鉱脈は壁が崩落したことで完全に埋まってしまった。ダンジョンは別エリア扱いだったおかげか今のところ影響はないように見える。
ただ崩落する可能性のある地下にいつまでもいるのは避けたいので早い内に地上に戻りたいのが本音だ。
「お、お兄さん……」
「っと、ごめんね」
そう言ってクレアちゃんを降ろす。
「助けてくれてありがとうございます」
「それにしても凄い威力だったね」
「えへへ……あ、お兄さんと同じ星に爪痕を刻む者の称号が貰えました!」
星に爪痕を刻む者は環境効果を受けなくなる称号だ。
今のところ実感の薄い効果だけど活躍の場はあるのだろうか。
「おめでとう。そろそろ夕飯の時間になるしダンジョンから出ようか」
「え、もう!?」
その後、僕が空けた天井の穴を通ってダンジョンの外に出ると空模様は夕方のそれだった。ダンジョンのある場所が山の中腹辺りということもあって夕暮れに染まった眼下の景色は反射的にスクリーンショットを撮るくらい美しい。
「綺麗ですね……」
「そうだね」
こうして僕はテコの組合に戻り不要な素材を売却してからログアウトした。クレアちゃんは創作意欲が沸いたらしく、また加工施設を借りて作業するようだ。
…………………………………
……………………………
………………………
「包丁を持ち出して切りかかってきたぁ!?」
ログアウトした直後、母さんから衝撃的な話を聞かされた。
「しかも反射的に飛び掛かったそうよ。暁ったら誰に似たのかしらね……」
「まぁ……父さんでしょ」
「そうね、あの人とそっくりだわ」
まだ父さんたちが学生だった頃、ストーカーに逆恨みされて襲われた母さんを父さんが身を挺して守ったという武勇伝は耳にタコが出来るくらい聞かされた。しかも怪我をしているのに翌日の大会に出場、怪我を感じさせない圧倒的なパフォーマンスで優勝したらしい。
「で、その父さんは?」
「宵たちがやってるVRMMOにGHが参入するとかで会議があるから遅くなるそうよ」
「来月発売するDFSⅡに集中するとか言ってなかった?」
「あの人のことだし両方とも本気でやるんじゃないかしら」
「え、なんで?」
「自分の子どもと同じゲームで真剣に競うのが謙吾さんの夢だったからよ。だからね、いくら先に始めたアドバンテージがあっても油断しちゃダメよ?本気になった謙吾さんさ本当に強いんだから」
「僕と父さんはDFSで何度も対戦してるよ?」
ゲームを始めた頃は雲の上の存在だった父さんに僕らは小学生の頃に何度も負けている。しかし、僕らが動画配信者を引退した頃には対父さんの勝利は8割を超えていたはずだ。持ちキャラの相性もあったので単なる実力差とは言えないけれど、それを抜きで考えても当時の僕は父さんに負ける気はしなかった。
「そうね、あの頃の謙吾さんはみっともなかったわ」
「え」
「負けてヘラヘラ笑ってるような人と結婚したつもりはないもの」
負けず嫌いの権化はそう言って微笑みを浮かべた。確かに僕も藍香が誰かに負けてヘラヘラと笑う姿は見たくない。その誰かが僕であってもだ。そう考えてると当時の母さんも父さんに対して思うところがあったんだろう。
「そろそろ事情聴取も終わった頃かしらね。寺門さんのところまで暁を迎えに行ってくるけど宵も行く?」
「今行ったら間違いなく爺さんぶん殴るからパス」
「なら安心なさい。私が代わりに殴っておくわ」
ちなみに母さんは寺門の爺さんと仲が良い。なんでも母さんが子どもの頃からの付き合いなんだとか。爺さん曰く「蛙の子は蛙ってこった」ということらしい。
「ははは、よろしく」
「それじゃ行ってくるわね」
こうして僕は母さんが爺さんを殴りに行くのを見送った。そして母さんは動揺して夕飯の支度をほとんどしていないようなので今日は僕が適当に作っておこう。
⚫︎クレア
お兄さんと組合の入り口で別れてから借りた加工施設の中で私は悶々としていました。
「まだドキドキしてる……」
原因は分かっています。お姫様抱っこです。
お兄さんの顔があんなに近くにあれば誰だってドキドキします。
『おい、呉。いい加減にしろよ!お前らのせいでクラスの輪が乱れてるの分んねぇのか』
また雑音が聞こえてきました。
面倒くさいからフレンド登録から消してしまいたいです。でもアカちゃんが「そうなったらリアルで凸してくるから今は少し大きな雑音だと思って無視してればいいよ」と言っていたので今日も無視します。
「お兄さん、カッコ良かったなぁ……」
『シカトしてんな、性格ブス!お前が何処にいるのかくらい分かってんだぞ!』
私を抱えながら蜂たちを撃退したお兄さんの横顔は素敵でした。
あの大きな穴から脱出する時した時もそうでしたけど、お兄さんが集中している時の顔は凄くカッコいいんです。それにお兄さんは気がついていないみたいですけど、最近は偶に呼び捨てにしてくれるようになりました。お兄さんに呼び捨てにされると胸があったかくなるんです。
「また呼び捨てにしてくれないかなぁ……」
お兄さんはアイさんやアカちゃんのことを呼び捨てにしているのに私のことは基本ちゃん付けです。織姫ちゃんのことも呼び捨てにしていました。ずるいです。お兄さんが誰かを呼び捨てにするのを聞くたびに壁のようなものを感じます。でも自分からお願いするのは何か違うんです。
「またアイさんに相談しようかな……」
『今から皆んなでそっち行くから待ってろ!逃げたらタダじゃおかねぇからな!』
アイさんは頼れるお姉さんです。私の悩みだってまるで自分が経験したことかのように的確なアドバイスをくれます。でも今は織姫ちゃんの問題で色々と忙しいはずです。もうちょっと私だけで頑張ってみようと思います。
「できた!」
名前:ワレザクロ改
分類:武器 携帯兵器 戦鎚
説明:扱う者によって重さが変わる槌。
持ち手の部分も含めて全て希少金属で出来ている。
効果:攻撃力+X(装備者の筋力の2倍)
巨大化(重量10倍/与ダメージ10倍)
自動回収
狂戦士化
制限:[称号:星に爪痕を刻む者]
「巨大化!」
前は巨大化を使うと凄く重くて振り下ろすので精一杯だったけど、この重さならアカちゃんが剣を振るうようにスムーズに振り回すことができます。
『せっかくギルドに入れてあげるって言ってるのに無視とか酷くない?』
「出来たら短剣が良かったけど接近戦はこれを使おうかな」
加工判定強化の効果はなくなってしまったけど、代わりに自動回収と狂戦士化の効果を付けることに成功しました。自動回収は手元から離れても好きなタイミングで手元に戻すことのできる効果です。投擲技能と凄く相性が良さそうです。
「これは使うの怖いかも……」
狂戦士化は筋力と敏捷のステータスが2倍になる効果です。その代わりに知力と精神力が半分になるデメリットがあります。凄く強い効果だと思うんですけど、ちょっと名前が怖いので使いたくないです。
『さっさと出てこいよ!』
「よし、続きはお夕飯を食べてからにしよっと」
今度はギルドの皆んなで一緒にダンジョンに行きたいな。
そんな想像をしながら私はログアウトしました。
───────────────
お読みいただきありがとうございます。
吊橋効果「恋心を自覚させることが出来ませんでした!」
次回は掲示板回を予定しています。
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自筆です。
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