VRMMOで神様の使徒、始めました。

一 八重

文字の大きさ
158 / 228
本編

第144話 マヨイは訓練する。

しおりを挟む

⚫︎クレア

 迷子になっていた2人と合流した私たちは"不忍の森"というダンジョンに向かう前に組合までやって来ました。組合のエントランスまで行くと立ち話をしていた人たちがこちらを見てきました。

「うっわ……」

 その視線の中でも特に不躾な視線を向けてくる人がいました。
 それは紫色の長髪を雑に束ねた男の人です。整った顔からは精巧な人形みたいな印象を受けます。プレイヤー名はタイタンさん。素質や覚醒は私たちと同じように非公開にしているけど、位階は67とかなり高めです。所属ギルドの欄には朱桜會と書かれていました。

『気分は良くないだろうけど絡んで来なければ無視しようね』

『えぇ……』

『居心地が悪いのは確かだけど視線だけじゃ通報しようがないだろ?』

 確かにお兄さんの言う通りですけど、見知らぬ人からエッチい視線を向けられるのはなんか気持ち悪いです。

「それじゃ私と織姫は受付に行ってくるから」

「うん、ここで待ってる」

「あ、先輩。資料ってお金払うんですか?」

「1回目はタダみたいだよ」

「なら私も貰ってきます!」

 そう言って私はアカちゃんたちと受付に向かいました。


…………………………………


……………………………


………………………


 受付で資料を受け取った私たちがエントランスに戻ると、そこにお兄さんの姿はありませんでした。

「……あー、たぶん兄さんなら訓練場にいるんじゃない?」

「「え?」」

「さっき私たちをガン見してきたキモい奴がいないじゃん。きっと兄さんだけになったところで絡まれたんじゃないかな。それで兄さんに禁句を言っちゃったんだよ……」

「え、先輩に禁句?」

 どうやら織姫ちゃんはお兄さんが身長や容姿について言及されることを嫌っているのを知らないみたいです。

「織姫ちゃん、お兄さんは身長や容姿のことを言われるのが嫌なんだよ」

「そうなの?」

「うん」

「クレアの言う通り兄さんにそれは禁句だど……ねぇそこの人!」

 アカちゃんは何か腑に落ちない点があったみたい。
 エントランスにいた男の人に話し掛けて行きました。

「なんだ?」

「さっき私たちと一緒にいたプレイヤーを探してるんだけど、これくらいの身長で燻んだ銀髪のプレイヤーを見なかった?」

「そいつならタイタンの野郎と一緒に訓練場まで行ったぞ」

「何か言い争いでもしたのかな?」

 そう言ってアカちゃんは男の人に近づきながら質問しました。
 男の人の視線はアカちゃんのおっきな胸に釘付けです。

「あ、あぁ……タイタンって確かに強いんだけど口が悪くてな。君たちの仲間に『そんな上等な装備をどこで手に入れた!』って絡んでたよ。その後、一言二言くらい会話したらタイタンが『チートを使ったから言えないんだろ!』って大きな声で怒鳴ったんだ」

 私の作った装備のせいで喧嘩になっちゃったみたいです。
 お兄さんに迷惑掛けちゃいました……

「それで情報を盾にして決闘を吹っ掛けたのかな?」

「その通りだ。よく分かったな」

「お兄ちゃんの妹だもん」

 そう言ってアカちゃんはドヤ顔しました。かわいい。
 でも胸を突き出したせいで男の人にガン見されてるよ?

「……あ、やっぱり男なんだな」

「パーソナルに書いてあるじゃん」

「あー、知らないのか。パーソナルの性別欄は自由設定だから男でも女に寄せたアバターを使ってる奴は性別欄に女って書いてるぞ」

「え、マジ?」

「マジマジ。だから性別欄に女って書かれてても見てくれが女なら"男性ロールプレイをしてる女"って思われることもあるのさ」

「「「へぇ……」」」

 知りませんでした。女の人にアバターを寄せて何が面白いのか分かりませんけど、世の中には色々な人がいるんですね。

「と、とりあえず先輩のところに行こ?」

「ありがとうございました」

「いや、気にすんなって(眼福だったからな)」

「あ、露骨な視線はやめた方がいいよ。モテないから」

 そう言い残してアカちゃんと一緒に小走りで駆け出しました。
 ……でもエイトの組合に初めて来たのにアカちゃんは訓練場までの道を知ってるのかな?




⚫︎マヨイ

 僕は今、ストレスを発散している。

「て、てめぇ……」

「いやぁ……貫頭衣かんとういで武器を持っていない相手に攻撃を当てられもしないなんて本当にトッププレイヤーなんですかー?」

 クレアが作ってくれた装備をチート呼ばわりした上、アンティルールでの決闘を吹っ掛けてきた目の前の屑は決闘開始から僕に攻撃を掠らせることも出来ていない。
 ちなみにアンティルールとは互いにお金や装備、アイテムなどを賭けた勝負のことだ。これまで僕がしてきた決闘の中だと鳥野との決闘でアンティルールが適用されていた。

「ちっ……避けてんじゃねぇよ!」

「いやー、でアバターを制動させる訓練には緊張感のある決闘が1番だね」

 モーターが壊れて回転速度が遅くなったレトロな扇風機のプロペラのように目の前の男が持った剣は空気を斬り続けている。
 そもそも初対面の僕に対して「そんな上等な装備を何処で手に入れた!」と恫喝じみた質問をしてきたのだ。その時点で彼をエイトに入れることを許可した組合の評価が穴だらけであったことは明白なんだけど……まぁいいとしよう。

「ちくしょうめぇぇぇええ!!」

「扇風機にしては温い風しか送られてこないんですけどー?もっと頑張ってくれませんかー?」

 僕としては変異種から装備がドロップすることくらい教えても構わないと思っていたので「教えてもいいけど対価として何が出せるの?」と聞いたのだ。そうしたら彼は「フレンドになってやるよ」とか世迷言をドヤ顔で言い放った。

「ふざけんな!チート野郎!」

「あー、はいはい。待っててあげるから通報でもすればー?」

 もちろん交渉は決裂だ……っと視界の端に暁たちが映った。
 思っていたより時間を掛けすぎていたらしい。

「ぐふぅっ」


──パァァァンッッ


[決闘に勝利しました]


 ダンジョンに行く前にやらなきゃならないことが出来たので暁たちと今後の予定について話し合う必要がある。僕は腹パン1発でタイタンから彼が賭けていた装備以外の全財産を貰って暁たちのところに向かった。


───────────────
お読みいただきありがとう。
雉も鳴かねば撃たれまいに……南無

腹部破裂によってタイ/タンになってそうですけどデュラハン(頭は破裂)とどっちがマシなんですかね。

※ジャスティの容姿に関して
髪色は青で固定でした(覚醒関連の設定ド忘れ)
今夜まで募集していますので感想お待ちしてます。
しおりを挟む
感想 576

あなたにおすすめの小説

魔王を倒した勇者を迫害した人間様方の末路はなかなか悲惨なようです。

カモミール
ファンタジー
勇者ロキは長い冒険の末魔王を討伐する。 だが、人間の王エスカダルはそんな英雄であるロキをなぜか認めず、 ロキに身の覚えのない罪をなすりつけて投獄してしまう。 国民たちもその罪を信じ勇者を迫害した。 そして、処刑場される間際、勇者は驚きの発言をするのだった。

治療院の聖者様 ~パーティーを追放されたけど、俺は治療院の仕事で忙しいので今さら戻ってこいと言われてももう遅いです~

大山 たろう
ファンタジー
「ロード、君はこのパーティーに相応しくない」  唐突に主人公:ロードはパーティーを追放された。  そして生計を立てるために、ロードは治療院で働くことになった。 「なんで無詠唱でそれだけの回復ができるの!」 「これぐらいできないと怒鳴られましたから......」  一方、ロードが追放されたパーティーは、だんだんと崩壊していくのだった。  これは、一人の少年が幸せを送り、幸せを探す話である。 ※小説家になろう様でも連載しております。 2021/02/12日、完結しました。

(完結)醜くなった花嫁の末路「どうぞ、お笑いください。元旦那様」

音爽(ネソウ)
ファンタジー
容姿が気に入らないと白い結婚を強いられた妻。 本邸から追い出されはしなかったが、夫は離れに愛人を囲い顔さえ見せない。 しかし、3年と待たず離縁が決定する事態に。そして元夫の家は……。 *6月18日HOTランキング入りしました、ありがとうございます。

追放された私の代わりに入った女、三日で国を滅ぼしたらしいですよ?

タマ マコト
ファンタジー
王国直属の宮廷魔導師・セレス・アルトレイン。 白銀の髪に琥珀の瞳を持つ、稀代の天才。 しかし、その才能はあまりに“美しすぎた”。 王妃リディアの嫉妬。 王太子レオンの盲信。 そして、セレスを庇うはずだった上官の沈黙。 「あなたの魔法は冷たい。心がこもっていないわ」 そう言われ、セレスは**『無能』の烙印**を押され、王国から追放される。 彼女はただ一言だけ残した。 「――この国の炎は、三日で尽きるでしょう。」 誰もそれを脅しとは受け取らなかった。 だがそれは、彼女が未来を見通す“預言魔法”の言葉だったのだ。

妻からの手紙~18年の後悔を添えて~

Mio
ファンタジー
妻から手紙が来た。 妻が死んで18年目の今日。 息子の誕生日。 「お誕生日おめでとう、ルカ!愛してるわ。エミリア・シェラード」 息子は…17年前に死んだ。 手紙はもう一通あった。 俺はその手紙を読んで、一生分の後悔をした。 ------------------------------

奥様は聖女♡

喜楽直人
ファンタジー
聖女を裏切った国は崩壊した。そうして国は魔獣が跋扈する魔境と化したのだ。 ある地方都市を襲ったスタンピードから人々を救ったのは一人の冒険者だった。彼女は夫婦者の冒険者であるが、戦うのはいつも彼女だけ。周囲は揶揄い夫を嘲るが、それを追い払うのは妻の役目だった。

薬師だからってポイ捨てされました~異世界の薬師なめんなよ。神様の弟子は無双する~

黄色いひよこ
ファンタジー
薬師のロベルト・シルベスタは偉大な師匠(神様)の教えを終えて自領に戻ろうとした所、異世界勇者召喚に巻き込まれて、周りにいた数人の男女と共に、何処とも知れない世界に落とされた。  ─── からの~数年後 ──── 俺が此処に来て幾日が過ぎただろう。  ここは俺が生まれ育った場所とは全く違う、環境が全然違った世界だった。 「ロブ、申し訳無いがお前、明日から来なくていいから。急な事で済まねえが、俺もちっせえパーティーの長だ。より良きパーティーの運営の為、泣く泣くお前を切らなきゃならなくなった。ただ、俺も薄情な奴じゃねぇつもりだ。今日までの給料に、迷惑料としてちと上乗せして払っておくから、穏便に頼む。断れば上乗せは無しでクビにする」  そう言われて俺に何が言えよう、これで何回目か? まぁ、薬師の扱いなどこんなものかもな。  この世界の薬師は、ただポーションを造るだけの職業。  多岐に亘った薬を作るが、僧侶とは違い瞬時に体を癒す事は出来ない。  普通は……。 異世界勇者巻き込まれ召喚から数年、ロベルトはこの異世界で逞しく生きていた。 勇者?そんな物ロベルトには関係無い。 魔王が居ようが居まいが、世界は変わらず巡っている。 とんでもなく普通じゃないお師匠様に薬師の業を仕込まれた弟子ロベルトの、危難、災難、巻き込まれ痛快世直し異世界道中。 はてさて一体どうなるの? と、言う話。ここに開幕! ● ロベルトの独り言の多い作品です。ご了承お願いします。 ● 世界観はひよこの想像力全開の世界です。

一級魔法使いになれなかったので特級厨師になりました

しおしお
恋愛
魔法学院次席卒業のシャーリー・ドットは、 「一級魔法使いになれなかった」という理由だけで婚約破棄された。 ――だが本当の理由は、ただの“うっかり”。 試験会場を間違え、隣の建物で行われていた 特級厨師試験に合格してしまったのだ。 気づけばシャーリーは、王宮からスカウトされるほどの “超一流料理人”となり、国王の胃袋をがっちり掴む存在に。 一方、学院首席で一級魔法使いとなった ナターシャ・キンスキーは、大活躍しているはずなのに―― 「なんで料理で一番になってるのよ!?  あの女、魔法より料理の方が強くない!?」 すれ違い、逃げ回り、勘違いし続けるナターシャと、 天然すぎて誤解が絶えないシャーリー。 そんな二人が、魔王軍の襲撃、国家危機、王宮騒動を通じて、 少しずつ距離を縮めていく。 魔法で国を守る最強魔術師。 料理で国を救う特級厨師。 ――これは、“敵でもライバルでもない二人”が、 ようやく互いを認め、本当の友情を築いていく物語。 すれ違いコメディ×料理魔法×ダブルヒロイン友情譚! 笑って、癒されて、最後は心が温かくなる王宮ラノベ、開幕です。

処理中です...