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本編
第157話 マヨイは決意する。
しおりを挟む⚫︎マヨイ
「逃げ出したのがタイタンだけじゃないってどういうこと?」
タイタンの場合はギルドチャットが針の筵で居場所がなくなったからだとして、他のギルドメンバーが僕との決闘から逃げる理由が思いつかない。
「クラウンズのチャラ王さんと決闘した動画がアーカイブにあるって聞いてギルドの皆んなで観たんです。そしたら、その、チャラ王さんの手足が切られてて……」
「怖気ついて逃げたってこと?」
無言で頷いたリエルの顔は信じていたものに裏切られて絶望しているようだった。確かに僕もやりすぎたかもしれないけど、だからって逃げ出すのか。
「それを知った他の人も"イベントやるから無理"だって……」
「それで朱桜會側は何人が参加するの?」
いや、さすがに敵方に人数を教えたりはしないか。でも何人か逃げ出したとは言っても朱桜會のギルドメンバーは50人以上いるらしいし30人くらいはいるよね。
「16人です」
教えくれるのか。それにしても少な過ぎる。
「援軍は?」
「いたんですけど……見捨てられちゃい、ました……」
リエルに嘘をついている様子はない。本当に16人で僕と決闘をするみたいだ。しかも援軍も来ない。僕に情報を垂れ流すリエルといい、ギルドの今後を左右する決闘から逃げ出すギルドメンバーといい、こいつら正気か?
「あのさ、普通に考えてギルドの今後を左右する決闘から逃げるとか正気じゃないと思うんだけど」
「……その、前にトラブルを起こしたタイタンさんをイベント参加禁止にしただけで追放しなかった私が全部悪いって……それで……」
ギルドメンバーを追放することに抵抗があるのは分かる。僕だってギルドメンバーの起こしたトラブルには注意こそすれ処罰を軽々に行ったりはしたくない。そんなリエルの優しさを言い訳にして決闘から逃げた朱桜會のメンバーに対して強い不快感を覚えた。
「朱桜會は人数も多いなら僕らみたいな少人数のギルドとは違った苦労があるよね」
「はい、今日は何処に行くかとかで意見が分かれたり……」
「そんなギルドメンバーを一生懸命にまとめてたんだ。リエルは頑張ったよ」
頑張っただけで結果は伴ってないのが悲しいところだけどね。
「頑張った?」
「うん。だって普通なら前もって僕に謝りには来れないよ」
「でもさっき、私が謝ってもダメだって……」
「だってリエルは悪くないだろ?」
僕らのような少人数のギルドなら権限を持っているだけのギルドマスターでも問題はないと思うけど、朱桜會のように人数が多く上昇志向の強いギルドのギルドマスターにはカリスマ性やリーダーシップが求められてしまう。だからリエルが悪かったとすれば大人数を指揮できるようなカリスマ性やリーダーシップを持っていなかったことだ。そういう時は周りがフォローするべきなんだろうけど、聞いている限りではフォローに回ったのはサブマスター含め数人だけのようだ。
「悪く、ないんですか……?」
「悪いのはリエルを裏切って責任を押し付けているギルドメンバーだ」
「私は悪くない……裏切られた……」
「だからめちゃくちゃにしてあげる」
「え」
「それじゃ僕は色々とすることあるから」
リエルとの会話を切り上げた僕が組合の受付で今回の件について詳細なルールを確認しに行くと、僕が質問をする前にギルドの2階にある一室まで案内された。有無を言わせない雰囲気ってああ言うことをいうんだと思う。
「ギュンター様。迷い家のギルドマスターをお連れしました」
「入りたまえ」
「失礼いたします」
その部屋にいたギュンターという人物を見て僕は驚いた。
テコの組合でお世話になったブライトと瓜二つなのだ。
「相互互助組合ドラグゴン王国エイト領アルテラ支部で支部長をしているギュンターだ。初めまして」
「は、初めまして。迷い家のギルドマスターをしているマヨイです」
「君の話は兄弟から色々と聞かされていてね。こうして会う機会を設けることができて嬉しく思うよ」
「ありがとうございます。兄弟というのはテコのブライトさんの」
「弟だよ。ソプラで支部長をしているキーンの兄でもある」
テコのブライトさんが長男、目の前のギュンターさんが次男、ソプラの支部長が三男でキーンさんと言うらしい。ソプラの支部長とはチャラ王の一件の際に顔を合わせた事があるけど名前は知らなかった。兄弟だと言われれば確かに似てる。
「さて、こうして君を呼んだのは1時間後に朱桜會と決闘をすると聞いたからだ。抗争宣言をしたその日に決闘になるというのは珍しいが……まぁいい、本題に入ろう」
そこで言葉を区切ったギュンターは言いたくないことを言わなければならないとでもいうような苦悶の表示を浮かべた。どうやら僕にとっては歓迎できない話題のようだ。
「もし君たち迷い家が朱桜會との決闘に負けた場合、迷い家には解散して貰う」
「……理由は僕がウェルター様から渡されたこの装備ですか」
「そうだ。もちろん君が喧嘩を売られたら買わずにはいられない性分なのは兄弟たちからの話を聞いて知っている。しかし、今回の抗争宣言の結果として君が負ければウォルター様は"人を見る目がない"と他領の領主から嘲笑を浴びてしまうだろう」
この装備のおかげで悪目立ちはしてしまっているけど、あの時に貰った高位鑑定の技能には凄く助けられている。それにギルドホームまで貰った。いくらNPCとはいえ恩のあるウォルターの顔に泥を塗るような真似はしたくないな。
「分かりました。僕が負けたら迷い家は解散します」
「もちろん君が勝てば組合は可能な限り便宜を図ろう。実は朱桜會には少し困っていてね」
「……僕が勝った場合、朱桜會に対して権限の停止や活動の制限は可能ですか?」
「可能だ。もちろん限度はあるぞ?」
「なら────」
僕には負けたら迷い家を解散させるというプレッシャーが掛けられた代わり……とは少し違うけれど、朱桜會に勝利した場合に呑ませる提案について概ね許可を貰うことが出来た。
「それと朱桜會は組合に何をしたんですか?」
「……組合から出している大衆向けクエストが朱桜會によって頻繁に妨害を受けていてね。しかもPiCというギルドとグルになって薬草類の市場操作まで始めたようなんだ。薬草類は一般住民にとっても欠かすことの出来ない回復薬や快癒薬の原料だ。組合として一般住民の生活を脅かす害悪ならば始末したいのだが、残念なことに彼らを組合が始末すれば今度は組合の信用問題になるから軽々に処理できなくてね」
クエストの妨害はおそらく狩場の占拠のことだ。PiCはクレアに対して強引な勧誘を繰り返しているギルドで生産と加工をメインにしているプレイヤーが多い。おそらく朱桜會が独占した素材を直接取引する代わりに色々と便宜を図っているんだろう。
「それなら僕の提案は間接的にPiCへの制裁にもなりますね」
「そうなるな。負けてくれるなよ?」
「大丈夫ですよ」
迷い家の進退が掛かった決闘で手を抜く真似はしない。だから僕は秘匿していた飛行技能と魔力弾を解禁することにした。
「あ、そうだ。あまり見せ物になる気はないんですけど、見学者の扱いってどうなってるんですか?」
「基本的に全て自己責任だな」
「死んでも?」
「もちろん。抗争宣言下での決闘なぞ小規模な戦争と大差ない。そこに首を突っ込んで死ぬ奴らを保護してやるほど組合も慈善組織ではないよ」
なら野次馬もろとも吹き飛ばしてもいいってことか。
これで心置きなく戦えそうだ。
───────────────
お読みいただきありがとうございます。
魔力弾を出し渋っていたマヨイに魔力弾を使わせる理由が欲しかったので戦闘前の準備回が長引いてしまいました。
お気に入り登録人数が1500人を超えました!
ここまで来れたのはひとえに読者様方のおかげです。
これからもよろしくお願いします。
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