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本編
第159話 マヨイは要求する。
しおりを挟む⚫︎マヨイ
「ちょ、ちょっと待っ「ZAP」──」
突発的に始まった前哨戦。ミケ猫ジェロニモス(と他数名)の次は止めに入ろうとしたリエルだ。何故なら、ここにいるプレイヤーの中では僕の次くらいにステータスが高く、朱桜會のギルドマスターということもあって彼女を倒せば間違いなく相手方の士気を挫くことが出来ると判断したからだ。
「訓練場からで「ZAP」」
次に倒したのはナカミアという名前の女性プレイヤー。言い終わる前に近くにいたプレイヤーごと吹き飛ばしたけど、確かに訓練場から出れば決闘開始前に僕に殺されることはなくなる。
「ZAP、ZAP、ZAP」
この訓練場で殺されたプレイヤーは訓練場の出入り口近くにあるリスポーンエリアで復活したようだ。リスポーン場所は選べるはずなので訓練場でリスポーンするなんてリスキルしてくれと言っているようなものだ。ここで3回倒してしまえば決闘本番を待たずに僕の勝ちが確定するので決闘後の面倒な交渉を省くためにも彼らには3回死んでもらおう。
「お、俺らは関係ないぞ!」
「ZAP」
知らないよ。こっち見て録画してた時点で君も敵だ。
「リスキルなんて汚ねぇぞ!」
「ZAP」
だからどうした。先に手を出したのは朱桜會サイドだ。
僕は敵対した相手には容赦できない。
「ありがとうございます!」
「死ね」
やめろ。気持ち悪い笑顔で突っ込んでくんな。
「もうやめてぇぇぇええ!!!」
「ZAP」
ギルド対ギルドの決闘で不戦勝っていうのも格好付かないけど、これは君の仲間が選択した結果だ。甘んじて受け入れろ。
「ZAP」
「はっ、来るのわかってればよゆ──」
「ZAP、ZAP、ZAP」
意外にミケ猫ジェロニモスには1発だけ防がれてされてしまったけど、そのドヤ顔が癪に触ったので複数発撃ち込んでやった。結果だけみれば他のプレイヤーと大差ない。
「こんな理不尽なことあるっ!?」
「ZAP」
そうこうしている内に僕以外の訓練場にいたプレイヤーはリスポーンエリアにすし詰め状態になった。おかげで細かな照準を定めずともリスキルが出来て楽でいい。
「ZAP、ZAP、ZAP」
復活したプレイヤーの多くが僕に向かって状態異常やステータスを低下させる魔術を使ってくるんだけど、そもそも僕に状態異常は効かないし、僕に対するステータスを低下させる効果は全て増加に反転する。
「ZAP、ZAP……ふぅ……これで終わりかな」
こうして5分ほど魔力弾を撃ち続けた僕は朱桜會と朱桜會の協力者らしきプレイヤーのほぼ全員を3回殺してログインが8時間禁止されるデスペナルティを与えた。どうやらリスポーン地点が訓練場に固定されているらしい。僕としてはラッキーだったけど、念のために運営に連絡を入れておこうかな。
…………………………………
……………………………
………………………
決闘開始直前に訓練場に現れたのは支部長であるギュンターだった。おそらく彼は今回の決闘の審判というか見届け人なんだろう。彼は無数のクレーターができた訓練場の惨状に驚き、次に朱桜會のメンバーと思しき人物がいないことで僕が関わっていることに気付いたらしい。すぐに僕に事情を説明するよう求めて来た。
「その小競り合いで訓練場に大量のクレーターが出来て防護壁がズタボロになったと?」
「……はい」
「小競り合いで相手を全滅させてしまったが、それは相手が想定以上に弱かったからで故意ではないと言いたいのか?」
「あー、そこは微妙かな。少なくとも僕に攻撃を仕掛けて来た奴は潰すつもりだったよ」
「訓練場から逃げ出した者はいるか」
「僕もそこまで鬼じゃないよ。僕に向かって来なかった奴は見逃したさ」
「部下が見た様子では出入り口に陣取っていたようだが?」
「生憎と僕に向かって来た奴らが僕へ攻撃を仕掛けようとしていたのか、それとも訓練場から退避しようとしたのかは判別が難しくてね」
「その結果が……あれか」
「あれだね」
そう言って僕とギュンターはリスポーンエリアの端で震えているプレイヤーに視線を向けた。さすがに不戦勝というのは申し訳ないのでリエルだけは2回しか殺さなかったのだ。
「はぁ……しかし、もう予定時刻を過ぎてしまったぞ。朱桜會側は彼女だけか?」
「ここに残っているのは彼女だけだね」
僕は野次馬も含めて80人近くのプレイヤーがいたにも関わらず単調なステータスのゴリ押しに蹂躙されるがままだったことに若干の虚しさを覚えていた。たぶん1人か2人くらい僕の知らない技能を使って反撃するなり逃げるなりすると期待してたのかな。
「会話ができるような状態には見えないが……」
そう言いながらギュンターは自失状態にあるようにしか見えないリエルに話をしに行った。プレイヤーに対する精神的な負荷が大きくなると強制的にログアウトされる仕組みなのでリエルは今のところ(ギリギリな気がするけど)大丈夫なんだろう。
しばらくするとギュンターはリエルを連れて戻って来た。
「マヨイ。朱桜會は決闘を棄権するそうだ。不戦勝という扱いにはなるが勝ちは勝ちだからな、朱桜會に対する要求を改めて聞こう」
「……まず朱桜會はギルド名の変更をしないこと」
「ほぇ?」
予想していなかった要求だったのかリエルが変な声を出した。
ちょっと面白い。
「次に現時点で朱桜會に所属しているメンバーの追放・脱退・移籍の原則禁止。ギルドの解散も原則禁止。相応の理由がある場合は組合に届け出て認可を貰ってください」
「こっちの仕事をあんまり増やさないで欲しいんだが」
「組合が僕の装備の概算を朱桜會側に漏らしたことについて追求してもいいんですよ?」
「分かった。任せてくれ。ただ永続的な制限は組合のルールに反するから期限を決めてくれないか」
永続的な禁止は組合のルールに抵触するようなので期限を1年間とした。そして実はキャラクターを削除するには所属なしの状態である必要がある。つまり朱桜會のメンバーは1年間キャラクターの削除を禁止されたのだ。脱退して逃げるとか許さないから。
「そして3つ目は今後1年間、朱桜會は組合を仲介しない取引・依頼・交渉を行わないこと。それに違反した場合、組合は相手側を含めて相応の違反金を課してください。違反金の金額については組合が決めて貰えると助かります」
「いいだろう」
これは朱桜會とPiCとの癒着を制限するための要求だ。もっとも交渉相手が朱桜會でなくなるだけでPiCは今後も市場操作をしようとするんだろうけどね。
ちなみに朱桜會から組合に支払うことになる仲介料は本来のものよりも少し高額になる。その割増分や違反金の一部が今回の迷惑料ということで迷い家に入ってくることになっている。
「4つ目は今回の発端となった朱桜會のメンバーからの正式な謝罪ですね。これが1週間以内になかった場合、朱桜會から任意のモノを迷い家が貰い受けます。安心して下さい、個人の所持金や装備を要求することはしません」
個人的には謝罪して貰いたい気持ちはまだあるけど、この場に居なかった時点で半ば諦めてるんだ。それなら欲しいものを手に入れる方向に舵を切ってもいいよね。
「そして……これらの内容が書かれた張り紙を近隣の組合に張り出してもらえませんか。それと組合は現時点でログインしているリエル以外の朱桜會に所属している全てのメンバーに非公開不可の不名誉称号を与えてください」
「………….どこで気がついた?」
「あ、やっぱりそうなんですね」
「カマかけられたってことか」
「はい。すいません」
「ちっ……希望は叶えてやるから言わないでくれよ?」
「信用できない人に教えたりなんかしませんよ」
「?」
僕とギュンターのやりとりが理解できなかったらしいリエルの頭の上には大きな疑問符が浮かんでいたけど分からないならそれでいいんじゃないかな。
「それじゃ今日はありがとうございました」
「ああ、これからは穏便に済ましてくれよ」
こうして迷い家と朱桜會との間で起こった一連のトラブルは一旦の収束となった……はずだ。
───────────────
お読みいただきありがとうございます。
マヨイは何に気づいたんでしょうね。
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