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本編
第165話 マヨイは優先順位を考える。
しおりを挟む⚫︎マヨイ
テコの組合で貰った変異種のリスト、その中で最も強いとされる鋼王龍に挑むことにした僕はひとまずアルテラの組合で済ませられる用事を全て終えてからテコに移動することにした。
もっとも用事は全て組合の受付で済ませられるんだけどね。
「おはようございます。ご用件は何でしょうか」
「アイテムの委託販売と転移機能の使用申請です」
「かしこまりました。では査定致しますのであちらの作業台の上に委託販売するアイテムをお出しください」
そこそこ大きな作業台の上に作り溜めていたウーバーヒール・ポーションらを全て手作業の上に並べると受付の奥から呼ばれて来た年配の女性が1本1本手に取って黙々と確認し始めた。鑑定もしくは高位鑑定のような技能を使っているのかな。
「ふむ……雑な製法じゃが、その割に効能は高めじゃな。これならウーバーヒールは1本1万、アンチポイズンは400、アンチカースは500が最低価格というところじゃろ」
「なら全て最低価格で委託販売させてください。それと販売相手に条件を付けることはできますか?」
「可能じゃよ」
「なら僕から委託販売するものはギルド朱桜會とギルドCiTには販売しないでください」
「分かった。それらのギルドに対しての購入制限と使用制限を掛けておいてやろう。手数料として1本につき10R貰うよ」
「ありがとうございます」
手数料を支払って864本全てに購入制限と使用制限を掛けて貰った僕は再び受付に戻った。もちろん転移機能を利用可能にするためだ。しかし、そこで僕は衝撃的な話を聞かされた。
「迷い家様は現在、転移機能をご利用いただけません」
「え」
「転移機能を利用できるのはメンバーが10名を超えているギルドのみとなります」
「10名を超えているってことは最低11人ってことですか?」
「そうなります」
「わかりました。お手数お掛けして申し訳ありません」
「またのご利用お待ちしております」
運営からのお知らせには転移機能の利用について細かなルールは書かれていなかったけど、この仕様は1人だけのギルドやパーティ規模のギルドが乱立するのを防ぐためだろう。
「どしたの?」
「やることが多くて楽しいなぁってね」
「たのしーの?」
「うん。色々と優先順位を考えて行動したいんだ」
まず最優先でやらなければならないのはギルドメンバーの増員だ。他のギルドと比較した時に転移機能を使えないというのは不利過ぎるだろう。ただこれに関しては僕の独断でするのではなく、藍香たちを交えた上で相談しなければならない。
「ククルは鋼王龍って知ってる?」
「こうおーりゅー? しらなーい!」
「そうだよね」
次に優先したいのはスキルファウンダーを手に入れるために必要な揺り籠を作るための素材の確保。すなわち鋼王龍の討伐だ。テコの組合で詳しい情報を手に入れてから挑みたい。
もっとも鋼王龍の素材でククル用の揺り籠が作れるかは微妙なところなので無理なら別の方策を考えなければならないんだけどね。
「あとは闘技場イベントに参加するためにアインって街に行かないといけないのか」
「とおいのー?」
「そこそこ遠いみたいだよ」
掲示板に出ている情報から分かっているのはアインがエイトから徒歩で8時間ほどの距離にある大きな街だということだ。テコと同じように近くの山から採れる鉱物資源を利用した産業が盛んらしい。街の中心部にある闘技場はスポーツや歌舞音曲に使われている多目的施設で、今は古代ローマの剣闘士のような血生臭い催しは行われていないそうだ。
「テコの組合に行って鋼王龍に関する情報を手に入れたらログアウトしようかな」
僕はアルテラの組合を後にしてギルドチャットに転移機能を利用するためにメンバーの追加募集したいこと、掲示板の委託販売スレッドにポーション類を出品したことを書き込みながらアルテラの北門に向かう……その途中で後ろから何者かに服を引っ張られた。
「ん……?」
「みつ、けた!」
振り返ると、そこにいたのは僕と同じくらいの背丈をした灰色の長髪が特徴的な女の子だった。プレイヤー名はカナデ。位階や素質、覚醒や称号などのパーソナルは非公開になっている。
ただ見覚えのある顔だ。暁の友達にこんな子いたかな?
「えっと……どちらさま?」
「わ、私!えっと、わから、ない?」
「…………もしかしてオリオン?」
「(コクッコクッ)」
オリオンの本名は芦屋花奏だ。カナデというプレイヤー名と特徴的な喋り方から何となく察することが出来た。首が取れるんじゃないかと思うくらい勢いよく何度も首を首肯する彼女はまるで飼い主を見つけて喜ぶ犬のようだ。いや、親しくない女の子を犬に例えるのも失礼か。でもピンとくる例えが他にない。
「キャラを作り直すとは聞いていたけど、それが新しいキャラ?」
「そう。でも、ちょっと困ってた。助けて」
「えっと……僕はこれからテコに行く予定なんだけど」
「アンチカース・ポーション、60個売って欲しい」
「あー、今さっき手持ちのアンチカース・ポーションを組合に委託販売しちゃたところだよ」
「!?!?!?」
「とりあえず事情だけ聞かせて貰えないかな?」
キャラを作り直したばかりでアンチカース・ポーションを60個も必要とする理由が気になった僕はひとまず組合のエントランスまで戻ってオリオン改めカナデの話を聞くことにした。
「キャラ、削除したから、呪われた」
カナデの話を翻訳すると「神様から加護を受けたキャラクターが削除した場合、キャラクターを再作成した時に強力な呪いの状態異常を受けた状態からスタートする」ということらしい。
呪いの内容について聞くと
「ステータス1固定と経験値獲得量0倍、あと呪いが解除されるまではデスペナルティなし」
「……え」
「素質や覚醒、技能や称号、そのままだった」
「強くてニューゲーム、ただし呪い付きって感じかな?」
「(コクッ)」
素質や覚醒を引き継げるというのは魅力的かもしれないけど、僕らのような特定の称号や覚醒を持ったプレイヤーはキャラクターを削除してゼロからやり直すということができないということだ。不服そうなカナデの顔を見る限り、カナデも今の状況は不本意なんだろう。
「それアンチカース・ポーションで解除できるの?」
「分からない。でも他に頼れない」
「そっかぁ……」
「お願い……助けて……なんでも言うこと聞くから……」
このまま見捨てるという選択肢もあるけど、ここで助けて恩を売っておくのも悪くないかな。ひとまずアンチカース・ポーションの量産からだ。
「分かったよ。アンチカース・ポーションの材料は手元に少しあるから今から作るよ」
「いい、の?」
「そこ代わりアンチカース・ポーションが効かなくても文句はなしだよ?」
「ぐすっ……わかった」
「どこかいたいのー?」
「猫ちゃん……可愛い……」
僕の帽子の中から顔を出したククルを見てカナデが笑う。
そういえばカナデが笑っている姿を見るのは初めてかも。
「マヨイのペット?」
「テイムしてるモンスターだよ」
「抱かせて?」
「ククル、目の前のお姉さんがククルを抱きたいって。いい?」
「おなまえはー?」
「カナデだよ」
「カナデおねーちゃん!」
「あっ」
名前を聞くなりククルはカナデに飛びついた。
そしてカナデは死んだ。
「はい?」
───────────────
お読みいただきありがとうございます。
何話振りかな……久しぶりの登場ですね。実は少し前にキャラを作り直していたのですが呪いの影響で何も出来ずにアルテラを彷徨ってました。
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