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本編

第167話 ケンゴは距離を置く。

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⚫︎カナデ

「いっちゃった……」

 久しぶりに会ったマヨイは私にとって救いの神さまだった。
 ただ私は彼に対していくつか言わなかったこととがある。今の私はプレイヤーなら誰もが使うことのできるはずの簡易鑑定をはじめとした"ステータスに書かれていない技能"も使うことが出来ない。私が今の状態を確認したのはレオに鑑定して貰ったからだ。言わなかったのは、もし言ってしまった時に「ならレオたちを頼ってね」と見捨てられてしまう可能性が脳裏をよぎったから。
 そんな醜い自分の本性を再確認して落ち込んでいると私を監視しているかのような妙な視線を感じた。しかし、辺りを見渡しても視線の主は見当たらない。

「これから……どうしよう……」

 キャラクターを削除、再作成した今の私のアバターを見て"流星群のオリオン"だと怪しむ人はいるかもしれない。それでも確信を持たれるようなことはないだろう。それくらい前の私オリオン今の私カナデの容姿は違う。

「お、カナデちゃんじゃん。こんにちは」

「おはようございます。レオたちは一緒じゃないんですか?」

 そうして再び考えごとをしていると後ろから声を掛けられた。声の主は私が現在所属している"グローリーGloryハンターズHuntert"というプロゲーミングチームを代表するプロゲーマーのケンゴだった。世界的にも有名な彼の本名は真崎謙吾、つまりはマヨイのお父さんだ。まだゲームを初めてそこまで時間が経っているわけでもないのに彼は色々ととんでもないことをしでかしている。

「レオは他の奴らと一緒にソプラの訓練場に置いて来たよ。まったく、俺みたいなロートルより動けないなんて恥ずかしくないのかね?」

「ロートルは覚醒なしで変異種を倒したりなんかしない」

 ゲームを始めた日にアルテラ大森林でレベリングをするというのは分かるけど、他の皆がログアウトしている時に1人で行動して結果として猪の変異種と遭遇したらしい。そして覚醒を持っていない状態だったというのに猪の変異種を単独で倒したそうだ。

「いや、出来たんだからいいだろ?」

「ダメ。比較されるプロゲーマーが惨めになる」

「つってもなぁ……あんなのに苦労してたらプロゲーマーとして失格だと思うぞ?」

「なら私も失格?」

「ははは、カナデなら出来るだろ?」

「…………突進を避けられるだけの敏捷があれば」

 あの猪の変異種は攻撃パターンが大きく分けて2種類──突進攻撃と踏み付け攻撃──しかないので確かに慣れてしまえば簡単に倒せる。ただそれを初見で看破して対処することが出来るかと聞かれたら難しいと言わざるを得ない。

「呪いの方は何とかなりそうかい?」

「アンチカース・ポーション」

「あー、よ……マヨイが作れるんだったね」

「はい。お願い、しました」

「あの子、あれで意外と面倒見はいいからドンドン頼ってくれていいよ。それで宵が何処にいるか分かる?」

「テコに用事、あるそうです」

「そうか。…………よし、もう2~3体くらい変異種を倒したらウチのメンバーを連れてアインに向かうわ。カナデは一昨日も言った通り自由に行動してくれて構わないからな。なんなら一緒に行くか?」

 そうしてケンゴは少し悩んだ様子を見せた後、また突拍子のないことを言い出した。変異種を倒して経験値を稼ぎながらギルドの設立要件を満たすのが狙いなのは分かるけど、それに付き合わされるメンバーからすれば溜まったもんじゃないだろう。

「ううん、行かない。マヨイ、待ってる」

「なんだカナデもマヨイに惚れてるのか?」

「…………そんなわけない」

「顔を真っ赤にしてまぁ……」

「真っ赤になんてしてない!あとセクハラ!」

「ちょっ!?父親として疑問に思っただけだっての!」

「マヨイに言いつけてやる!」

 私は真崎謙吾を尊敬して。でもグローリー・ハンターズに移籍してからの僅かな時間で尊敬は敬遠に変わった。もちろん今でもゲーマーとしての実力は尊敬しているけど、何でも色恋に繋げようとする中学男子のような発言を繰り返されたことで苦手意識が芽生えてしまったのだ。

「ははは……勘弁してください」

「嫌だ。絶対に言いつける」

 マヨイに言えばきっと彼のお母さんにも話が伝わるだろう。
 真崎謙吾が恐妻家なのはプロゲーマーの界隈では割と有名な話だ。これで少しは反省してくれるといいけど……



⚫︎ケンゴ

 俺はカナデと別れて1人でアルテラ大森林に向かっている。他のメンバーは変異種とは戦わず堅実にレベリングをしたいとのことなので昨日に引き続き今日も俺はソロで行動することになった。

「それにしてオリオ……いや、カナデか。もう少し追い詰めてやらないと潰れちまいそうだな」

 カナデは数日前まで流星群というプロゲーミングチームに所属していた息子と同い年のプロゲーマーだ。才能に関して言えば間違いなく世界最高水準のものをもっているが、何せ息子たちと違って切磋琢磨する相手が同年代にいなかったのは良くなかった。特に歳上や目上の人間と対戦する時に無意識のうちに手加減しているように見えた。
 競い合う相手に対して必要以上にへりくだるような姿勢は今後のためにならないと考えた俺たちは彼女とは距離を置くことにした。おそらく現時点で最も親しい仲間であるレオも俺が説得して距離を置いてもらっている。

「まったく……沙織も無茶を言うよ」

 あの子を宵と藍香ちゃんに勝てるように育てろだなんて。


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お読みいただきありがとうございます。

??「いくらなんでもセクハラはどうかと思うわよ?」

うっかりは遺伝する。
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