180 / 228
本編
第167話 ケンゴは距離を置く。
しおりを挟む⚫︎カナデ
「いっちゃった……」
久しぶりに会ったマヨイは私にとって救いの神さまだった。
ただ私は彼に対していくつか言わなかったこととがある。今の私はプレイヤーなら誰もが使うことのできるはずの簡易鑑定をはじめとした"ステータスに書かれていない技能"も使うことが出来ない。私が今の状態を確認したのはレオに鑑定して貰ったからだ。言わなかったのは、もし言ってしまった時に「ならレオたちを頼ってね」と見捨てられてしまう可能性が脳裏をよぎったから。
そんな醜い自分の本性を再確認して落ち込んでいると私を監視しているかのような妙な視線を感じた。しかし、辺りを見渡しても視線の主は見当たらない。
「これから……どうしよう……」
キャラクターを削除、再作成した今の私のアバターを見て"流星群のオリオン"だと怪しむ人はいるかもしれない。それでも確信を持たれるようなことはないだろう。それくらい前の私と今の私の容姿は違う。
「お、カナデちゃんじゃん。こんにちは」
「おはようございます。レオたちは一緒じゃないんですか?」
そうして再び考えごとをしていると後ろから声を掛けられた。声の主は私が現在所属している"グローリー・ハンターズ"というプロゲーミングチームを代表するプロゲーマーのケンゴだった。世界的にも有名な彼の本名は真崎謙吾、つまりはマヨイのお父さんだ。まだゲームを初めてそこまで時間が経っているわけでもないのに彼は色々ととんでもないことをしでかしている。
「レオは他の奴らと一緒にソプラの訓練場に置いて来たよ。まったく、俺みたいなロートルより動けないなんて恥ずかしくないのかね?」
「ロートルは覚醒なしで変異種を倒したりなんかしない」
ゲームを始めた日にアルテラ大森林でレベリングをするというのは分かるけど、他の皆がログアウトしている時に1人で行動して結果として猪の変異種と遭遇したらしい。そして覚醒を持っていない状態だったというのに猪の変異種を単独で倒したそうだ。
「いや、出来たんだからいいだろ?」
「ダメ。比較されるプロゲーマーが惨めになる」
「つってもなぁ……あんなのに苦労してたらプロゲーマーとして失格だと思うぞ?」
「なら私も失格?」
「ははは、カナデなら出来るだろ?」
「…………突進を避けられるだけの敏捷があれば」
あの猪の変異種は攻撃パターンが大きく分けて2種類──突進攻撃と踏み付け攻撃──しかないので確かに慣れてしまえば簡単に倒せる。ただそれを初見で看破して対処することが出来るかと聞かれたら難しいと言わざるを得ない。
「呪いの方は何とかなりそうかい?」
「アンチカース・ポーション」
「あー、よ……マヨイが作れるんだったね」
「はい。お願い、しました」
「あの子、あれで意外と面倒見はいいからドンドン頼ってくれていいよ。それで宵が何処にいるか分かる?」
「テコに用事、あるそうです」
「そうか。…………よし、もう2~3体くらい変異種を倒したらウチのメンバーを連れてアインに向かうわ。カナデは一昨日も言った通り自由に行動してくれて構わないからな。なんなら一緒に行くか?」
そうしてケンゴは少し悩んだ様子を見せた後、また突拍子のないことを言い出した。変異種を倒して経験値を稼ぎながらギルドの設立要件を満たすのが狙いなのは分かるけど、それに付き合わされるメンバーからすれば溜まったもんじゃないだろう。
「ううん、行かない。マヨイ、待ってる」
「なんだカナデもマヨイに惚れてるのか?」
「…………そんなわけない」
「顔を真っ赤にしてまぁ……」
「真っ赤になんてしてない!あとセクハラ!」
「ちょっ!?父親として疑問に思っただけだっての!」
「マヨイに言いつけてやる!」
私は真崎謙吾を尊敬していた。でもグローリー・ハンターズに移籍してからの僅かな時間で尊敬は敬遠に変わった。もちろん今でもゲーマーとしての実力は尊敬しているけど、何でも色恋に繋げようとする中学男子のような発言を繰り返されたことで苦手意識が芽生えてしまったのだ。
「ははは……勘弁してください」
「嫌だ。絶対に言いつける」
マヨイに言えばきっと彼のお母さんにも話が伝わるだろう。
真崎謙吾が恐妻家なのはプロゲーマーの界隈では割と有名な話だ。これで少しは反省してくれるといいけど……
⚫︎ケンゴ
俺はカナデと別れて1人でアルテラ大森林に向かっている。他のメンバーは変異種とは戦わず堅実にレベリングをしたいとのことなので昨日に引き続き今日も俺はソロで行動することになった。
「それにしてオリオ……いや、カナデか。もう少し追い詰めてやらないと潰れちまいそうだな」
カナデは数日前まで流星群というプロゲーミングチームに所属していた息子と同い年のプロゲーマーだ。才能に関して言えば間違いなく世界最高水準のものをもっているが、何せ息子たちと違って切磋琢磨する相手が同年代にいなかったのは良くなかった。特に歳上や目上の人間と対戦する時に無意識のうちに手加減しているように見えた。
競い合う相手に対して必要以上に遜るような姿勢は今後のためにならないと考えた俺たちは彼女とは距離を置くことにした。おそらく現時点で最も親しい仲間であるレオも俺が説得して距離を置いてもらっている。
「まったく……沙織も無茶を言うよ」
あの子を宵と藍香ちゃんに勝てるように育てろだなんて。
───────────────
お読みいただきありがとうございます。
??「いくらなんでもセクハラはどうかと思うわよ?」
うっかりは遺伝する。
31
あなたにおすすめの小説
癒し目的で始めたVRMMO、なぜか最強になっていた。
branche_noir
SF
<カクヨムSFジャンル週間1位>
<カクヨム週間総合ランキング最高3位>
<小説家になろうVRゲーム日間・週間1位>
現実に疲れたサラリーマン・ユウが始めたのは、超自由度の高いVRMMO《Everdawn Online》。
目的は“癒し”ただそれだけ。焚き火をし、魚を焼き、草の上で昼寝する。
モンスター討伐? レベル上げ? 知らん。俺はキャンプがしたいんだ。
ところが偶然懐いた“仔竜ルゥ”との出会いが、運命を変える。
テイムスキルなし、戦闘ログ0。それでもルゥは俺から離れない。
そして気づけば、森で焚き火してただけの俺が――
「魔物の軍勢を率いた魔王」と呼ばれていた……!?
癒し系VRMMO生活、誤認されながら進行中!
本人その気なし、でも周囲は大騒ぎ!
▶モフモフと焚き火と、ちょっとの冒険。
▶のんびり系異色VRMMOファンタジー、ここに開幕!
カクヨムで先行配信してます!
ネグレクトされていた四歳の末娘は、前世の経理知識で実家の横領を見抜き追放されました。これからはもふもふ聖獣と美食巡りの旅に出ます。
旅する書斎(☆ほしい)
ファンタジー
アークライト子爵家の四歳の末娘リリアは、家族から存在しないものとして扱われていた。食事は厨房の残飯、衣服は兄姉のお下がりを更に継ぎ接ぎしたもの。冷たい床で眠る日々の中、彼女は高熱を出したことをきっかけに前世の記憶を取り戻す。
前世の彼女は、ブラック企業で過労死した経理担当のOLだった。
ある日、父の書斎に忍び込んだリリアは、ずさんな管理の家計簿を発見する。前世の知識でそれを読み解くと、父による悪質な横領と、家の財産がすでに破綻寸前であることが判明した。
「この家は、もうすぐ潰れます」
家族会議の場で、リリアはたった四歳とは思えぬ明瞭な口調で破産の事実を突きつける。激昂した父に「疫病神め!」と罵られ家を追い出されたリリアだったが、それは彼女の望むところだった。
手切れ金代わりの銅貨数枚を握りしめ、自由を手に入れたリリア。これからは誰にも縛られず、前世で夢見た美味しいものをたくさん食べる生活を目指す。
異世界召喚でクラスの勇者達よりも強い俺は無能として追放処刑されたので自由に旅をします
Dakurai
ファンタジー
クラスで授業していた不動無限は突如と教室が光に包み込まれ気がつくと異世界に召喚されてしまった。神による儀式でとある神によってのスキルを得たがスキルが強すぎてスキル無しと勘違いされ更にはクラスメイトと王女による思惑で追放処刑に会ってしまうしかし最強スキルと聖獣のカワウソによって難を逃れと思ったらクラスの女子中野蒼花がついてきた。
相棒のカワウソとクラスの中野蒼花そして異世界の仲間と共にこの世界を自由に旅をします。
現在、第四章フェレスト王国ドワーフ編
異世界転生した俺は、産まれながらに最強だった。
桜花龍炎舞
ファンタジー
主人公ミツルはある日、不慮の事故にあい死んでしまった。
だが目がさめると見知らぬ美形の男と見知らぬ美女が目の前にいて、ミツル自身の身体も見知らぬ美形の子供に変わっていた。
そして更に、恐らく転生したであろうこの場所は剣や魔法が行き交うゲームの世界とも思える異世界だったのである。
異世界転生 × 最強 × ギャグ × 仲間。
チートすぎる俺が、神様より自由に世界をぶっ壊す!?
“真面目な展開ゼロ”の爽快異世界バカ旅、始動!
あなたは異世界に行ったら何をします?~良いことしてポイント稼いで気ままに生きていこう~
深楽朱夜
ファンタジー
13人の神がいる異世界《アタラクシア》にこの世界を治癒する為の魔術、異界人召喚によって呼ばれた主人公
じゃ、この世界を治せばいいの?そうじゃない、この魔法そのものが治療なので後は好きに生きていって下さい
…この世界でも生きていける術は用意している
責任はとります、《アタラクシア》に来てくれてありがとう
という訳で異世界暮らし始めちゃいます?
※誤字 脱字 矛盾 作者承知の上です 寛容な心で読んで頂けると幸いです
※表紙イラストはAIイラスト自動作成で作っています
【完結】兄の事を皆が期待していたので僕は離れます
まりぃべる
ファンタジー
一つ年上の兄は、国の為にと言われて意気揚々と村を離れた。お伽話にある、奇跡の聖人だと幼き頃より誰からも言われていた為、それは必然だと。
貧しい村で育った弟は、小さな頃より家の事を兄の分までせねばならず、兄は素晴らしい人物で対して自分は凡人であると思い込まされ、自分は必要ないのだからと弟は村を離れる事にした。
そんな弟が、自分を必要としてくれる人に会い、幸せを掴むお話。
☆まりぃべるの世界観です。緩い設定で、現実世界とは違う部分も多々ありますがそこをあえて楽しんでいただけると幸いです。
☆現実世界にも同じような名前、地名、言葉などがありますが、関係ありません。
異世界転生目立ちたく無いから冒険者を目指します
桂崇
ファンタジー
小さな町で酒場の手伝いをする母親と2人で住む少年イールスに転生覚醒する、チートする方法も無く、母親の死により、実の父親の家に引き取られる。イールスは、冒険者になろうと目指すが、周囲はその才能を惜しんでいる
【完結】VRMMOでチュートリアルを2回やった生産職のボクは最強になりました
鳥山正人
ファンタジー
フルダイブ型VRMMOゲームの『スペードのクイーン』のオープンベータ版が終わり、正式リリースされる事になったので早速やってみたら、いきなりのサーバーダウン。
だけどボクだけ知らずにそのままチュートリアルをやっていた。
チュートリアルが終わってさぁ冒険の始まり。と思ったらもう一度チュートリアルから開始。
2度目のチュートリアルでも同じようにクリアしたら隠し要素を発見。
そこから怒涛の快進撃で最強になりました。
鍛冶、錬金で主人公がまったり最強になるお話です。
※この作品は「DADAN WEB小説コンテスト」1次選考通過した【第1章完結】デスペナのないVRMMOで〜をブラッシュアップして、続きの物語を描いた作品です。
その事を理解していただきお読みいただければ幸いです。
───────
自筆です。
アルファポリス、第18回ファンタジー小説大賞、奨励賞受賞
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる