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修学旅行
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しおりを挟む…と、そこまで考えて、決意する。
ふっと息を吸った。
視線を逸らして、緊張で声が少し上擦る。
「………あお、い」
ああ、やっぱり、なんか変だ。恥ずかしい、かも。
そう呟けば、蒼くんが嬉しそうに頬を緩めて、顔を綻ばせる。
その表情で、本当に喜んでるんだなと分かって、余計になんか恥ずかしい。
「…うん。もっと呼んで」
その声に、応えるようにもう一度、呟く。
今度は、はっきりと。
「…蒼」
うわあ意外に呼んでみると普通に呼べるものなんだな、と異常に感動して自分を褒めた。
えらい。ちゃんと呼べた。
おおすごいと自分を褒めていると、蒼くんから何の反応もないことに気づく。
「……」
「…蒼?」
何故か黙って、そっぽを向いてしまった蒼く…、蒼をのぞき込もうとすると、また顔を背けられる。
思わず君づけしそうなのを堪えてさすがに眠たいのが限界になってきたなあと目をこすりながらも、その反応が気になって床に手をつく。
こっそりと蒼の前に移動した。
「…なんで、」
その顔を見て、予想もしなかった表情を浮かべていることを知って驚く。
それは、嫌悪の表情でもなく。
それは、照れた表情でもなく。
思わず、頬に手を伸ばす。
「…なんで、そんなに泣きそうな顔してるの?」
今にも泣きそうなのを堪えているような、そんな痛みを滲ませた表情に。
ぎゅうううと胸が締め付けられる。
見てるだけで胸が苦しくなって、つられて眼球が熱くなって、涙腺が緩む。
これがその酔ってるっていうやつのせいなのか、やけに感情が表に出やすい気がする。
どうしてそんな顔をするんだろう。
わからない。何が彼にその感情を抱かせたのか、おれにはわからない。
一瞬知らないうちにおれが傷つけてしまったのかと思ったけど、そういう感じでもない。
でも、名前を呼んだだけでそんな表情は浮かべないだろうし。
……おれには蒼の過去も、今まであったことも、……わからないけど、
もしかして。
「…(ああ、何か辛いことが蒼にはいっぱいあったのかな)」
もしかしたら、蒼にはいっぱい嫌なことがあって、それに苦しんでたりするのかもしれない。
普段全く弱音なんて吐かないから、蒼は多分辛いこともため込んじゃうんだろうな。
ふとそんなことを考えて、その背に腕を回して優しく抱きしめる。
「よしよし」と声に出しながら、少しでも彼にとって嫌なことが1つでもなくなればいいなと思った。
――――――
それは、彼のための祈り。
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