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修学旅行
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しおりを挟むずっとそうしていると、蒼も落ち着いてきたらしい。
いつの間にか、背中越しに伝わる震えが止まっていた。
蒼にこんなに長い間抱きしめられたの初めてだな、なんて考えながら、半分上の空で返す。
「まーくん」
「…?うん」
名前を確かめるように、おれの存在を確かめるように、もう一度そう呟く蒼がおかしくてちょっとだけ笑ってしまう。
「…まーくん、いい匂いがする」
「うーん、なんだろう…服の洗剤かな…っていうか、早く風呂入らないと、風邪引くよ」
甘えるような声で蒼はおれの肩に顎を乗せて、後ろから抱きしめたまま、ぽつりとそう小さく言葉を零して。
なんとなく流れで答えてしまってから、いやだめだちがうと首をぶんぶん横に振った。
身体を離せば、何故か名残惜しそうな顔をする蒼の背中を無理矢理押して、やっと風呂に入ってもらうことになったのだった。
「まーくんが先に入って。俺は後でいい」
「いや、ずっと雨に当たってたんだから、蒼が先じゃないとだめ」
頑として譲らない姿勢を見せれば、「一緒に入らない?」とびっくりするような提案を持ち掛けてくる。
その言葉とは裏腹に儚げな表情に、う、と怯みそうになりながらも断れば、酷く寂しそうな顔をしながらもようやく納得してくれた。
お風呂場に向かおうとして、
ふいに、振り返った蒼と目が合う。
「……夢じゃない、…いる。まーくんは、ちゃんとここにいるよな…?」
不安そうに、切羽詰まったような表情をして、頬に触れてくる。
冷たい手のひらが微かに頬を撫でるように動いた。
その綺麗な顔が、何故か痛みを堪えているようにくしゃりと歪む。
濃い黒に染まった髪。
対照的に白く透き通った肌に濡れた跡を残す姿は、今にも泣き出しそうな弱々しい印象を強くした。
「いるよ。いなくなったりしない」
「……っ、」
心臓を鷲掴みにされるような笑みを浮かべて、蒼は安堵したように頷く。
また、抱き締められた。
今度は前から、縋るように抱きすくめられる。
少しでも楽になってほしくて、おれもゆっくりと抱き締め返した。
「…まーくん、ごめん。夜遅いのに」と離れる瞬間に申し訳なさそうに呟かれた声に、いいよと笑った。
――――――――――
風呂に入った後の蒼は、やっぱり少しいつもと違った。
その日は何故かやけに甘えたがり、というか…なんか変だった。
学校で見る冷たい表情は影を潜め、どちらかといえば庇護欲が掻き立てられるような雰囲気だった。
蒼がずぶ濡れだったことによって、ずっと抱きしめられていたおれもぬれてしまったので、風呂に入ろうとすれば、寂しいのか引き留めるように何度もまた抱きしめられたりした。
どうしたの?と聞いても、彼は「何でもない」としか答えなかった。
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