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彼の愛しい人
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しおりを挟む思春期さながらに通り過ぎざまに食い入るように見てしまったかもしれない。
しかし、……今の僕にはそっちはただの背景でしかなかった。
「……っ、…く、ん、…ッ、…や、…やだ、…や…っ、」
少し前にいる彼が…その部屋の中にいる『誰か』に伸ばした手は、結局届かずにもがくようにしておろされて脱力した。
障子の向こう側では男女が情交を結び、想いを通じあわせているだけに、……余計に報われないつらさを実感させられる。
彼は堪えきれないように目から溢れる涙をこぼし、嗚咽を漏らす口元を手で必死におさえていた。
何度も泣いたのか目の縁や頬に既にその痕跡が残っていて、……泣き声を堪えるために手で塞ぎながら、綺麗な顔からは想像できないような悲痛な泣き方をしている。
「……――、」
黒の着物を身に纏った少年が、部屋の中の二人とどういう関係かは知らない。
澪様と深い関係だったのかもしれないとか、または別の要因がその表情をさせているのかもしれないとか、邪推がよぎったのは一瞬で。
だが、
そうじゃない。
僕にとって今大事なのは、それではなくて
(この少年は、……『何』だ……?)
……こんな感覚になるのは初めてだった。
蒼様に感じた畏怖とは、全然異なる情動。
―――目が 釘付けになる。
泣き声を抑えているその横顔に…薄倖で憫然な表情に、痛ましい姿に、強烈に意識がもっていかれていく。
「っ、ぅ、ゔ……っ、」
「………ぁ、」
数秒……いや、数分ほど経ったかもしれない。
足が地面に張り付き、一瞬を永遠に錯覚する。
それぐらい我を忘れてただひたすらに長く、飽きることなく見つめていた。
喉から振り絞った声に気づくことなく、少年は今にも足がもつれそうな、倒れ込みそうなふらつき方で立ち上がり、走り去ってしまった。
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