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学校
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しおりを挟む熱い頬を包むように撫でられる感触が酷く心地良くて、少しだけくすぐったい。
「相変わらず、俺を妬かせるのがお上手ですね」
「…やか、せる…?オレが、…?」
気持ち良さと熱を帯びる顔のどうしたらいいかわからない感覚に耐えつつ、目が笑っていないさっくんの酷く暗い表情に視線を奪われる。
「尻軽で有名な男性とあんな風に近くで見つめあって、御顔を、お身体を近づけられて、…どうなさるおつもりだったのですか?」
床にへたりこんでいるオレに視線を合わせるように目の前に膝をついている彼の口から零された、”やかせる”という未だに変換できない台詞が脳内でぐわんぐわんと回る。
「別に、あれは、」
「…それも、自身に好意を寄せているとわかっている相手に、です」
微かに苛立ちを含んだ目に見つめられ…、違う、と今度は時間を置かずに言葉を返した。
「吉野は、別にオレのことなんか好きじゃ」
それに、吉野は見た目はちょっと軽そうだけど、尻軽なんかじゃないし。
むしろ、よく狙われてるのはさっくんの方だ、と言いかけて口を噤む。
「夏空様に淫らに誘われていると勘違いして、あの男が今後無理やり行為に及んで来たらどうなさるおつもりだったのですか」
「そ、そんなことするわけないだろ…っ、」
吉野とそういう関係になるつもりは更々ないし、そもそも、あいつから言ってきたことだ。
どうせ軽い冗談のつもりだったんだろう。
「貴方の想像以上に、人間は汚いんですよ」
「夏空様は大変無垢でいらっしゃるのでご存じないかもしれませんが」と呟き、若干の嫌味を声に滲ませて瞼を軽く伏せるさっくんに、…もう一度口から出かかった否定を飲み込む。
なんで、そうなるんだ。
(…オレのことを好きになる人なんかいないのに、)
オレがちょっと他の男を抱き締めようとしたくらいで嫉妬した、とか言ってるけど、でもさ、…さっくんの方こそ、どうなんだよ。
自分のことを本気で好きな桃井と、…セックスまで、したんだぞ。
オレがどんだけ妬いたかとか思わないのか。
…それ以上の行為を、さっくんは易々としたんだってことを、どうして何とも思わなかったんだ。
段々キスの余韻で麻痺していた脳が現実に戻ってくる。
「……嫉妬なんか、しないだろ」
こみ上げる熱い感情の波を必死に抑えながら、喉を震わす。
キスの余韻で熱かった唇も、今は冷え切っていた。
「さっくんは、オレを『好き』じゃ、ないんだから」
これがオレにできる精一杯の反抗だった。
…できるなら、好きって言ってほしい。
今でも、そう思う。
あの日、否定されたことは全部嘘だったと言ってくれるんじゃないかと、こうして問いかけるたびに期待する。
けど、
「…そうですね」
彼は、やはり訂正しない。
どれだけ縋っても、今日も肯定の返事は返されない。
「だって、貴方も気持ち良いことが好きなだけ、ですから」
同じ、否定の音に何度目か胸が抉れる。
けれど、そう呟いたさっくんは
…寂しそうに、酷く陰惨とした笑みを零していて
前回とは少し違う雰囲気に、目を見張る。
…と、立ち上がって、オレの頭を優しく撫でた。
「無防備な夏空様もとても御綺麗ですが、」
「……?」
「…もう少し、警戒心をもってください」
後付けのようにその言葉だけを残し、立ち去ってしまう。
階段の方に消えたのを呆然と見送って
床に座り込んだ状態のまま、しばらく動けなかった。
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