貴方は俺を愛せない

和泉奏

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ほっとけーき

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***




「や、…やっと、ここまでこれた…」


ぷつぷつ、とフライパンの上で焼かれて、ちっちゃい穴っぽいのができてる黄色の半生の液体。
嗅ごうと意識するまでもなく、良い匂いが部屋中に充満している。

ふーっと息を吐いて、額の汗を腕の服で拭った。


「っが…っ、!!あぬ゛ッ、?!!」


間違えて、手に持っている平べったい黒いやつ(名前はわからないけど、生地ひっくりかえすのに使ってる)が汗をぬぐった拍子になんでか首にあたって熱さに苦しみもだえた。

と、「ぎゃあっ!…っ、」ゴンッ、「~~~っ゛、?!!~~~っ、!!」熱いのを今更よけようとして足がもつれて、後ろの方に倒れて床に頭が直撃して声を出せないほど痛みに死んだ。


「……は、――っ、は…っ、しんだぞ、今いっかいしんだ……うう…」


さんざんな目にあった。

数分してようやくなんとかかろうじで生き返ったけど、床で横になっているオレの周囲の惨状には顔を向けたくない。

今自分が倒れている背中は、ぎりぎり汚れずに済んでいた。

…でも、…ちら、と薄目で見なくてもわかる。

数センチ先には、……散らばった大量の粉、生クリームと混ざった液体、真っ白な牛乳、ぺしゃんと落ちている生卵と殻…等々、汚しつくした海でもここにあるのかと言いたいレベルで目も当てられない状況になっている。


「……さっくんと前に作った時は、簡単だったのに……」


(…なぜこうなった)


泣きたい。

ただでさえいつも抱き上げられて移動してるから、歩くだけでもへろへろだ。
なのに、こうやってお菓子を作っていれば全身の筋肉を無理に動かしてるせいでおかしくなりそうだった。

ほんとうは、キッチンでオレが何かすること自体禁止されている。

たぶん今みたいに床や机をめちゃくちゃにすることも予想済だっただろうし、火やお湯、他にも危ないものがたくさんあるから、入っちゃだめって言われてた。

……それでも、今日はさっくんが外に出かけている間に、なんでもいいからどうしてもつくりたくて、……やってしまっていた。

色々な棚の中をあさってたら、『あのホットケーキがすぐ作れる!』という素晴らしい文字が目に入って、これだ!ってなった。

その袋の後ろに書かれているレシピを見て、しかもさっくんと一度作ったことあるし、これなら簡単にできるぞ!と未来に希望を夢見て意気込んだのは遥か昔のことだ。既に白旗をあげたかった。


でも、

「…さっくんに、オレも何かしないと……」


もし望んでいいのなら、ほんのちょっとでも元気になってほしい。

こんなことでさっくんのためになるのかわからないけど、オレならお菓子を食べればふわーってなって、機嫌がよくなるから。

あまいものを食べれば、喜んでくれるだろうか。
美味しいって笑って、幸せを感じてくれるだろうか。

……オレのことを、少しでも許してくれるだろうか。

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